しのびよる残業代ゼロ 労働に新制度案
毎日新聞 2014年05月23日 東京夕刊【江畑佳明】

《「残業代ゼロ絶対反対!」。安倍晋三首相があいさつをしようとするなり、そんな怒号が会場から飛んだ。自民党の首相として13年ぶりにメーデー中央大会(連合主催)に出席した4月26日のことだ。安倍首相はこの4日前、関係閣僚に「時間でなく、成果で評価される新たな労働時間制度の仕組みを検討してほしい」と指示。以来「残業代がなくなる」と労働者に不安が広がりつつあるのだ。》

『過労死防止法案』が衆議院を通過するなか、真逆の流れも起している。首相の頭ではこの二つは噛み合わないものとしているところが、残念である。

《問題の発端は4月22日。経済財政諮問会議と産業競争力会議の合同会議で、民間議員の長谷川閑史(やすちか)氏(経済同友会代表幹事)から「新たな労働時間制度の創設」が提案された。そして会議の終盤、首相は即、検討するよう命じた。
 この提案には、基本的な考え方として「多様で柔軟な働き方を可能にするために」「労働時間と報酬のリンクを外す」と書かれている。
 そもそも労基法は法定労働時間を「週40時間、1日8時間」と定め、役員や一部の管理職を除いて残業や休日勤務に割増賃金(いわゆる残業代)を支払うことを会社に義務付けている。しかし、長谷川氏の案では(1)高収入・ハイパフォーマー型社員(2)労働時間上限要件型社員−−について、労働時間規制の対象外とするよう提案している。
 資料によると、(1)は主に年収1000万円以上で「高度な職業能力を有する」社員が対象。労働時間配分や職務遂行方法が本人の裁量で決められる。これは第1次安倍政権時代の2007年、「ホワイトカラー・エグゼンプション(除外)」制度として導入が検討された内容とほぼ同じだ。ちなみに当時は、経団連が対象社員を「年収400万円以上」とするよう求め、「一般労働者に拡大する」と批判が殺到。法案提出を断念した。》

まったく素人の浅はかな考えである。
「労働時間」という概念を出しているが、事実上これは報酬そのものよりも、時間外手当の計算などに用いるものであり、「報酬」そのものは各企業の基本設定によるものでしかない。基本給を時間で設定するのは時給、日給者の類である。ちゃんとした経営業務を執行している者による発想ではなく、単なる経営者政治団体で自分の実績を残したいだけの者の発想に近いものがある。
また、自社賃金規定において「時間」あたり幾らという設定をこの長谷川氏の所属する会社はしているとして、その「時間」を外すとすれば、何をもって報酬を設定するのだろうか。「成果」の評価は、裁判に耐えられるものかどうか。客観的と考えられている「時間」でさえも紛争は絶え間なく存在するが、「成果」紛争はさらに数倍の紛争量が期待できるだろう。
そして、「成果と報酬」について国家が介入する以上、国家が公定の報酬認定するところまで踏み込むべきである。かつての社会主義的統制国家体制におけるヤミマーケットが成立するであろうが、それだけの労働政策になる意義がある。公定報酬に違反した企業の経営人事の更迭等を国家が厚生労働省なり何なりに命じるなど必要になってくる。そこまで誰も追及しないのは何故かはわからないが、岸元革新官僚の親族だけに、国家に必要と考えられることは実現しようとするだろう。ただ、素人の持ってくる話には適確に判断処理できるためのシンクタンクぐらいは確保すべきだろう。岸氏は実験できる環境があったことを考えると、長谷川氏の所属する企業を国の特殊用途として提供してもらい、実験体としてデータ収集するのもよい。無論、素人考え通り誰もが満足できるものであればいいが、素人ほど怖いものは無いと昔からよく言うし………。