昭和22年10月社会保険制度調査会が提出した社会保障案から考えてみる。なお、この調査会は健保から労災保険を独立させ、失業保険(雇用保険の前身)創設に寄与した。


≪なお、この制度の確立は経済再建の基本的条件の一つである。≫

「社会保障」の意義は、国家経済のための基本的条件の一つということは多く議論され国民の常識として認知されねばなるまい。

≪この制度は、現在の各種の社会保険を単につぎはぎして統一するものではなく、生活保護制度をも吸収した全国民のための革新的な総合的社会保障制度である。なお、この制度は、最低生活を保障するものであるから、それ以上の生活の維持のためには、これと併せて各種の任意保険や共済施設の利用を極力奨励する。≫

現行の社会保障制度は個々において「一元化」を目ざしつつあるものの未だ不充分である。(「一元化」の青写真は明瞭なものが出されても、その過程の事務負担の混乱が敬遠されているとも考えうる。なお、「一元化」されたとしても、清算等の処理でなく自然経過による処理の場合、数十年は同時併走する。ちなみに、昭和61年実施の「基礎年金制度」はまだ国民に周知されたものとはいいがたい。)また、現行では、最低生活保障である老齢基礎年金と生活保護とは別立てされており、老齢基礎年金は最低生活保障に満たない水準に止まっている。

《この制度は、雇用、貸金、住宅、衛生、医療、教育その他の公共の福祉等に関する政策並びに施設との関係を密接にし、これらの諸政策の拡充強化とならんで、国民生活の保障を確立せんとするものである。≫

経済復興後の社会は「タテ割り」しないと状況管理できなくなったわけだが、そのコントロールも限界点を突破しており、総じて「タテ割り」の弊害も深刻なため、再度一睨できる体制が必要となっている。

≪傷病手当金は、被用者及び自営者に対して支給する。支給期間は、療養の給付を受ける期間とする。但し、自営者については、待期を設け、被用者については、貸金全額を受ける期間は支給しない。無業者である妻がある場合は、手当金を相当額増額する。

現行は自営業者には適用していない。また、要綱は失業給付についても配偶者加算を設けている。

≪老齢年金は、男子満60歳、女子55歳に達した時から支給する。但し職業により、支給開始年齢は適当に考慮する。なお、夫婦とも老齢の場合には、年金額を若干減額し、老齢に達しない無業者である妻がある場合は相当額増額する。≫

「男子満60歳、女子55歳」は当時の労働力年齢で設定したようである。引退して年金で生活を保障するというもの。「但し職業により」はサンプルがないが、年齢が許さない職業については若年令で支給しようとしていたものか。夫婦双方に受給権が発生しているときは減額というのも当時の良識か。(現行の加給年金停止)

《特別の事情がある者に対しては、その事情に応じて適当な生活保障を行う。》

これが生活保護を取り込んだ意味になるが、現状では老齢年金だけが取り残された恰好となっている。というよりも、生活保護が主で、老齢年金を従としたカタチである。このあたりの国民の理解の仕方が不充分なものとなっている。老齢年金だけで無理な者は生活保護を受ければよいという設計という理解でよいのかどうか。

費用概算については正直よくわからないが、戦後直後と異なり、現在ではもう一つの大きな問題がある。後期医療保険の問題から、<国民の代表である国会議員によって>国会で成立した法律が、実施直後から国民の批判に遇い、また<国民の代表である国会議員によって>法律廃止法案
が出ているという痴態である。いかに、国民の信頼を受けずに法律を成立させていたか。医療保険法は具体的直接に影響を与える実効性の高い法律であるが、労働法等はいかに実効性がないか(労働法も同様に適用すれば、同様に混乱する)。いかに、法律と国会と国民との間に溝があるか。
現在、日本の労働状況は戦時中の「労働者供給事業」に戻っており、劣悪な労使関係と労務管理(外国人研修問題から)により、再び国際的な批判と勧告を受けることになった。