労働事件をよくする弁護士と社労士の交流が繁くなっていることは前に述べたとおりである。愚痴を聞かされるのには閉口するが、紛争手続きの実務や情勢について聞くのは新鮮な事柄が多い。弁護士にとっては垢のついた内容ではあろうが、労務管理の限界などと繋げれば辻褄が大体合ってくるものである。

この両者が交わることによって感じたことがある。

1、弁護士が労使どちら側でもない職務に従事する社労士をみて羨ましがっている点。
尤も、弁護士でも社労士として登録すればそのようにすぐなれるのであるが、それはそれとして、この見方について社労士からは、どちら側でもないが、経験が浅ければ会社の言いなりになってしまう者が多いという点がある。だからこそ、紛争解決を経験することによって、私法解決の考えをみっちり身に着ける必要に迫られているのである。
なお、弁護士は裁判官がいない日常での解決にはあまり関心が向いていない。若干、和解に積極的な者もいるが、たいていそこまでの余力も限られているようである。

2、紛争事案における弁護士と社労士の住み分けについて。
弁護士の多くが誤解しているのは、社労士に公的な紛争処理の実力があると考えていることである。無論、関与先に生じた紛争はたいてい解決できるが、それは法を基にしたものではない。労使間の信頼の貸し借りのような解決となる。したがって、あっせんの次以降の裁判所を利用した制度については弁護士にスイッチするという住み分け。
しかしこの考えは否定されている。否定されたのは思考の経路である。
まず、社労士法において、あっせん代理業務から個別紛争解決業務に改正された。そして特定社会保険労務士は労働相談技術の習得が必修とされた。その上で、特定社会保険労務士としてできることとできないことの研修を受け、訴訟代理を含め法律事務の制約を受けているのである。したがって、法律事務は無論知っておかねばならない。しかし、できない業務であるから、そこでスムーズに交流のある弁護士を紹介するのである。
そもそも労働相談をまともにできない社労士に、弁護士を紹介してもらうことはほとんど無い。信頼関係が傷ついているからである。その程度の社労士が紹介する弁護士に対しても無論眉唾モノでの初対面となり、後々依頼人トラブルへと発展しかねない要素をもつ。
社労士に自己の営業の先鋒を頼む考えを抱く弁護士がいないとは思えないが、半分以上は、それぞれ独立する経営体であり、同業者という関係でしかないのである。しかも弁護士法では弁護士が他者と貸し借りをもつ関係をよしとしていないのである。
よって、特定社会保険労務士は労働相談技術を身につけ、相談者に信用を得た後に、できない業務については弁護士を紹介するということになる。解決手順、解決手段の見極めなどろくに労働相談ができない社労士が多すぎるので、述べたまでである。もちろん、それはなかなか身につくものではないが、相談においてどのような債務を負っているかを認識すべきである。
(なお、こうしたことが言えるようになったのは既に上記の課題をある程度クリアもしくはクリアする体制が備わってきたいう見解だからである。誤解無きよう。)