質問「仕事中、会社の車を傷つけてしまった。修理代を会社から請求されたが、労基法上どうなのか知りたい。」


労基法がどのような法律なのかがよく理解されていない典型例である。
あっせん手続きに備え、各監督署等において相談員を配置しているので詰まる所このような質問も対応できているが、ただ、これは労基法の話ではない。
これはどうみても民民の損害賠償請求事案である。したがって、当事者間で数回交渉してもらい、妥結しないならば、あっせん申請となる。あるいは決裂だとか交渉拒否の場合は、あっせんではなくて、審判など裁判所の事案となる。なお、当事者間の事前交渉が少ないため、まだ全体的な見通しが立たない状態で、交渉の大部分も裁判所でしたいならば民事調停となろう。

労基法上どうなのか?の他に、「法律上」どうなのかという質問もある。これもなかなか困ったものである。民法そしてその解釈としての裁判例まで拡げて「法律」と受取るべきかどうか………。尤も、回答への影響は殆ど無いけれど。

しかしながら、損害賠償の事項について雇用契約書に取り決めてあるとかいうことで、給料から差し引くと言われている、となると、今まで無関係だった労基法が関連づけられてくる。

≪(賠償予定の禁止)
第十六条  使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。

この規定は「違約金の定め」と「損害賠償額の予定」を禁止している。「額」を予定してはいけないということなので、労使で交渉して決めるということになる。
ただし、ここで民事上のことについて触れるならば、どういう風にして車を傷つけたかがポイントになってくる。基本は、仕事中のリスクと利益は会社が負うものなので、労働者側に故意はまず無いとしても相当な不注意が認められるのかどうかにより、賠償額は測られていく。

(賃金の支払)
第二十四条  賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、(略)労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。≫

ここは難しい。額については互いに納得して決まったならまぁ協定通り差し引かれても労基法上問題は無いと考えることができる。そこで労働者側が拒否した場合どうか?
そうなると今度は協定の有効性について考えていく必要もでてくるだろうし、また当事者間で支払い方についてもう少し交渉できないかどうかというアドバイスも出すべきだろう。労基法上ではどうかというのはかなり難しく、無難でない選択となる。監督行政では裁判機能は当然ながら持たされていないため、協定の有効性については見るからに無効だとわかる珍物でない限り有効とするより他はないだろうからである。したがって、それより先は当初の話に戻り、民事的な解決について、当人が自分がどうしたいかの意思を固めて次のステップに移るもしくは移らないという次第となる。