16年09月01日
生き残りのための残業削減策を考える その2
●これからの労務管理のキーワードは生産性の向上、つまり「脱残業」だ! (H28.9月号)
~生き残りのための残業削減策を考える その2~
前回は、今後の労務管理のキーワードは労働生産性の向上、つまり「脱、残業」であるとお話ししました。長時間労働を押さえ込むために、様々な政策誘導が行われている背景事情もご紹介したところです。
今後、具体的に残業削減対策をシリーズで考えて行きたいと思うのですが、その前に、、、、、、
そもそも「残業」って、それ自体が違法行為であることをご存知でしょうか?
これを理解するには、その前提となる「労働時間」を理解する必要があります。
労働契約を規律する重要な法律に「労働契約法」と「労働基準法」があるのですが、それらの中で「労働者」とか「賃金」とか、重要な概念について定義規定があります。しかし「労働時間」に関しては、非常に重要な概念であるにもかかわらず、実定法上の定義はどこにもありません。つまり「労働時間」とは何かが、法律条文に定められていないのです。
しかし裁判例の蓄積により、一般的には以下のように考えられています。
労働時間とは、
1.使用者の指揮監督下にある時間(待機時間、仮眠時間を含む)
2.使用者の明示または黙示の指示により業務に従事する時間(例えば持ち帰り残業でも黙認していれば労働時間になることがある)
これらの概念は、就業規則や労働契約書でどのように定めようとも、客観的に判断されることとなっています。つまり当事者同士が実作業をしていない待機時間を休憩時間とするなどと合意しても、その待機時間が司法によって「使用者の指揮監督下にある時間」と判断されれば、労働時間になるということです。
残業も当然ながら労働時間であり、この概念に当てはめて判断されます。従って実作業に従事していなくても、指揮監督下にある場合、言い換えれば時間の自由利用が許可されていなければそれを含めて労働時間です。
先ほど、労働基準法には労働時間の定義がないと申しましたが、第32条に以下の重要な条文があります。
(労働時間)
第32条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
2 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。
お分かりでしょうか?つまり明確に残業を禁止する規定になっているのです。しかも違反には「六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金」という刑事罰も担保されているのです(労基法第119条)。
また残業は使用者が自由に命令できるものでもありません。1日の契約は8時間までしかできないので、これを超えて命じるためには、刑事上の手続と民事上の根拠が必要なのです。
刑事上の手続とは、いわゆる「36協定」の締結と労働基準監督署への届出のことです。これを行うことにより、本来、禁止されている残業が、36協定に記載された延長時間の範囲内で可能となるものです。このような効果を免罰効果といい、これにより刑事責任を問われることがなくなります。
また民事上の根拠とは、適切に制定された就業規則に、残業を命ずることのできる根拠規定があるかということです。契約論からすると、1日8時間までしか契約していないはずですので、これを超える労働を命ずるのは、本来、契約違反になるのです。従って超過して労働させる契約上の根拠が必要とわけです。
そして実際に行われた残業には、最低でも25%以上の割増をつけて、残業代支払わなければなりません。
これを図示すると如何のような流れです。
1.就業規則に残業の命令権がある
↓
2.36協定が届出されている
↓
3.残業を命じる叉は許可する
↓
4.割増賃金を支払う
ここで付け加えて重要なのが、3の「残業を命じる叉は許可する」ということです。
ただ世の中には、「だらだら残業」とか「勝手残業」なる現象があります。使用者が特段命じてもいないし、許可もしていないのに、従業員自らが自発的に行っている状態のことです。しかしこれまで申し上げましたように、残業とは本来、刑事罰を課される禁止行為なのですから、いわば被害者にあたる従業員自らが、進んで犯罪行為を受けるなどということは理屈上おかしな話なのです。ここがお分かりでしょうか?
あくまでも残業は使用者の指揮管理下において行われるべきもので、使用者が積極的にコミットして行く必要があるのです。今後、残業削減について考えて行きますが、コミットすべき使用者から良く出てくる「言い訳」がありますので注意してください。
「中小企業だからうちは無理!!」
「うちは●●業だから、無理!!」
「労基法を守っていれば会社が潰れる!!」
これらは禁句にしましょう。中小企業を言い訳にしてしまうと、1%の大企業しかできないことになり、上場するしかなくなります。業種を言い訳にしてしまうと、転業を考えなくていけなくなります。またその法律が嫌なら、国外へ出るか、自ら議員になって法改正でもしない限り仕方のないことですから。
小規模企業の賃金制度、管理職研修を得意としています。
文責 特定社会保険労務士 西村 聡
もっと見る :http://www.nishimura-roumu.com
~生き残りのための残業削減策を考える その2~
前回は、今後の労務管理のキーワードは労働生産性の向上、つまり「脱、残業」であるとお話ししました。長時間労働を押さえ込むために、様々な政策誘導が行われている背景事情もご紹介したところです。
今後、具体的に残業削減対策をシリーズで考えて行きたいと思うのですが、その前に、、、、、、
そもそも「残業」って、それ自体が違法行為であることをご存知でしょうか?
これを理解するには、その前提となる「労働時間」を理解する必要があります。
労働契約を規律する重要な法律に「労働契約法」と「労働基準法」があるのですが、それらの中で「労働者」とか「賃金」とか、重要な概念について定義規定があります。しかし「労働時間」に関しては、非常に重要な概念であるにもかかわらず、実定法上の定義はどこにもありません。つまり「労働時間」とは何かが、法律条文に定められていないのです。
しかし裁判例の蓄積により、一般的には以下のように考えられています。
労働時間とは、
1.使用者の指揮監督下にある時間(待機時間、仮眠時間を含む)
2.使用者の明示または黙示の指示により業務に従事する時間(例えば持ち帰り残業でも黙認していれば労働時間になることがある)
これらの概念は、就業規則や労働契約書でどのように定めようとも、客観的に判断されることとなっています。つまり当事者同士が実作業をしていない待機時間を休憩時間とするなどと合意しても、その待機時間が司法によって「使用者の指揮監督下にある時間」と判断されれば、労働時間になるということです。
残業も当然ながら労働時間であり、この概念に当てはめて判断されます。従って実作業に従事していなくても、指揮監督下にある場合、言い換えれば時間の自由利用が許可されていなければそれを含めて労働時間です。
先ほど、労働基準法には労働時間の定義がないと申しましたが、第32条に以下の重要な条文があります。
(労働時間)
第32条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
2 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。
お分かりでしょうか?つまり明確に残業を禁止する規定になっているのです。しかも違反には「六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金」という刑事罰も担保されているのです(労基法第119条)。
また残業は使用者が自由に命令できるものでもありません。1日の契約は8時間までしかできないので、これを超えて命じるためには、刑事上の手続と民事上の根拠が必要なのです。
刑事上の手続とは、いわゆる「36協定」の締結と労働基準監督署への届出のことです。これを行うことにより、本来、禁止されている残業が、36協定に記載された延長時間の範囲内で可能となるものです。このような効果を免罰効果といい、これにより刑事責任を問われることがなくなります。
また民事上の根拠とは、適切に制定された就業規則に、残業を命ずることのできる根拠規定があるかということです。契約論からすると、1日8時間までしか契約していないはずですので、これを超える労働を命ずるのは、本来、契約違反になるのです。従って超過して労働させる契約上の根拠が必要とわけです。
そして実際に行われた残業には、最低でも25%以上の割増をつけて、残業代支払わなければなりません。
これを図示すると如何のような流れです。
1.就業規則に残業の命令権がある
↓
2.36協定が届出されている
↓
3.残業を命じる叉は許可する
↓
4.割増賃金を支払う
ここで付け加えて重要なのが、3の「残業を命じる叉は許可する」ということです。
ただ世の中には、「だらだら残業」とか「勝手残業」なる現象があります。使用者が特段命じてもいないし、許可もしていないのに、従業員自らが自発的に行っている状態のことです。しかしこれまで申し上げましたように、残業とは本来、刑事罰を課される禁止行為なのですから、いわば被害者にあたる従業員自らが、進んで犯罪行為を受けるなどということは理屈上おかしな話なのです。ここがお分かりでしょうか?
あくまでも残業は使用者の指揮管理下において行われるべきもので、使用者が積極的にコミットして行く必要があるのです。今後、残業削減について考えて行きますが、コミットすべき使用者から良く出てくる「言い訳」がありますので注意してください。
「中小企業だからうちは無理!!」
「うちは●●業だから、無理!!」
「労基法を守っていれば会社が潰れる!!」
これらは禁句にしましょう。中小企業を言い訳にしてしまうと、1%の大企業しかできないことになり、上場するしかなくなります。業種を言い訳にしてしまうと、転業を考えなくていけなくなります。またその法律が嫌なら、国外へ出るか、自ら議員になって法改正でもしない限り仕方のないことですから。
小規模企業の賃金制度、管理職研修を得意としています。
文責 特定社会保険労務士 西村 聡
もっと見る :http://www.nishimura-roumu.com