事案は、「日産自動車(以下会社という)が、プリンス自工を吸収合併した際、全金プリンス自工支部(以下支部という)は日産労組に統合されたが、一部組合員は支部を存続させたので、二労組が併存することになった。合併後旧プリンス工場に「日産型交替制」と「計画残業」が、会社と日産労組との協定に基づき導入された。会社はこの導入については日産労組とのみ協議し、支部とは何らの協議もしなかった。導入後会社は、製造部門の支部組合員を早番のみの勤務に組み入れ、残業は一切させなかった。また、間接部門でも、支部組合員は残業をさせられなくなった。 ところで、支部は、会社合併後、右の制度導入以前から、日産型交替制については深夜勤務(遅番)に反対し、計画残業についてはこれを強制残業として反対する情宣活動をしていた。その後、支部は残業からの除外を差別と主張した。 その後の団交で、会社は、初めて支部に対し、日産型交替制と計画残業は組み合わされて一体をなすものであるとして、その内容、手当等につき具体的な説明をし、日産労組と同様に支部もこれを受け入れない限り、支部組合員を残業に組み入れることはできない旨述べたが、支部はこれを拒否した。 不当労働行為救済申立事件で東京地労委は、労組法7条3号違反を認め、会社が残業を命ずるに当たって支部組合員であることを理由として他の労働組合員と差別して取扱ってはならない旨を命令した。その再審査申立に対し、中労委は棄却を命令した。この命令の取消請求をしたもの」である。

 これは、日産自動車事件であるが、一審は、支部組合員が残業を命じられなかったのは、支部の自主的判断による拒否の結果であるとして、不当労働行為を否定し、中労委命令を取消した。これに対し、二審は、会社の勤務体制への支部の反対は、会社の残業組入れ拒否の形式的、表面的理由に過ぎないか、ないしはその理由の一部をなすにとどまり主たる動因は反組合的意図にあるとして、一審判決を取消した。

 最高裁(最判S60,4,23)は、次のように判示して、上告を棄却した。

1 併存する組合の一方は使用者との間に一定の労働条件の下で残業することについて協約を締結したが、他方の組合はより有利な労働条件を主張し、右と同一の労働条件の下で残業をすることについて反対の態度をとったため、残業に関して協定締結に至らず、その結果、右後者の組合員が使用者から残業を命ぜられず、前者の組合員との間に残業に関し取扱いに差異を生ずることになったとしても、それは、ひっきょう、使用者と労働組合との間の自由な取引の場において各組合が異なる方針ないし状況判断に基づいて選択した結果が異なるにすぎないから、一般的、抽象的に論ずる限りは不当労働行為の問題は生じない。

2 複数組合併存下においては、使用者に各組合との対応に関して平等取扱い、中立義務が課せられているとしても、各組合の組織力、交渉力に応じた合理的、合目的的な対応をすることが右義務に反するものとみなさるべきではない。

3 合理的、合目的的な取引活動とみられうべき使用者の態度であっても、当該交渉事項については既に当該組合に対する団結権、の否認ないし同組合に対する嫌悪の意図が決定的動機となって行われた行為があり、当該団体交渉がそのような既成事実を維持するために形式的に行われているものと認められる特段の事情がある場合には、右団体交渉の結果としてとられている使用者の行為についても労組法7条3号の不当労働行為が成立する。

 企業内に複数の労働組合が併存する場合、使用者の交渉条件とこれに対する各労働組合の取引の自由が問題となるため、不当労働行為となるか否かの判断は、極めて微妙でありかつ困難となります。以前記事にした日本メール・オーダー事件も参照してください。

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