07年05月07日
褒めるのがヘタな経営者の方へ〜メッセージカードを活用しよう〜
●褒めるのがヘタな経営者の方へ〜メッセージカードを活用しよう〜
誰でも効果的なマネジメントとして、人を褒めることの効用はどこかで聞いて知っています。特に最近の傾向として、厳しく接して伸びる人は少なく、褒めて伸ばさなければならないことも分かっているつもりです。だが実際問題として、これが案外難しい。褒めると、何か歯の浮いた、心地良くない気持ちを覚えることは多くないでしょうか。褒めると負けだと錯覚していることはないでしょうか。
その原因は経営者と従業員の間の埋めがたい溝(ギャップ)からきているように思います。つまり、経営者にとっての会社とは人生そのものであり、リスクを負ってやっている自負があり、通常、一般の方よりは高い倫理観で行なわれています。それに対して従業員の会社に対する感覚はそれほどではなく、家庭や趣味やその他のものとかなり並立関係にあります。従って元から会社に対する意識にかなりのズレがあるのです。
そのため、経営者から見ると、従業員の会社に対する仕事ぶりはどこかいつも物足りなく映ります。潜在的に「もっとできるはずだ」、「もっとやってくれ」と思っている節があります。ところが従業員の立場から見ると、「自分はそこそこやっている」、「評価さていない」と思っていることが多いのです。これが大きなギャップなのです。でも、このギャップは許容しなけばなりません。こちらの期待に対して60%ならよし、ぐらいの感覚でいないとギャップに苦しむだけです。
ただ、もし褒める必要があるとは感じながらも、なかなか言葉に上手く出して褒められない経営者の方に、メッセージカードを活用することをお勧めします。これは例えば次のように使用します。
ケース1 機転の利いたうまい電話応対をしてくれたが、それを傍らで聞いていただけで、何も褒められなかった・・・・・
後日、給与袋に「○○の日の電話応対は素晴らしかった。助かりました。ありがとう。 社長」と書いたメッセージカードを同封しておく。
ケース2 重要な情報を報告してきたが、それに対して社長が対応しただけで、特に何も言わなかった・・・・
その従業員の机の上に、「○○の一件は○○君の報告のおかげで事なきを得ました。大変評価しています。またこれからも情報があれば、言ってください。 社長」と書いた、メッセージカードを貼っておく。
誰でも効果的なマネジメントとして、人を褒めることの効用はどこかで聞いて知っています。特に最近の傾向として、厳しく接して伸びる人は少なく、褒めて伸ばさなければならないことも分かっているつもりです。だが実際問題として、これが案外難しい。褒めると、何か歯の浮いた、心地良くない気持ちを覚えることは多くないでしょうか。褒めると負けだと錯覚していることはないでしょうか。
その原因は経営者と従業員の間の埋めがたい溝(ギャップ)からきているように思います。つまり、経営者にとっての会社とは人生そのものであり、リスクを負ってやっている自負があり、通常、一般の方よりは高い倫理観で行なわれています。それに対して従業員の会社に対する感覚はそれほどではなく、家庭や趣味やその他のものとかなり並立関係にあります。従って元から会社に対する意識にかなりのズレがあるのです。
そのため、経営者から見ると、従業員の会社に対する仕事ぶりはどこかいつも物足りなく映ります。潜在的に「もっとできるはずだ」、「もっとやってくれ」と思っている節があります。ところが従業員の立場から見ると、「自分はそこそこやっている」、「評価さていない」と思っていることが多いのです。これが大きなギャップなのです。でも、このギャップは許容しなけばなりません。こちらの期待に対して60%ならよし、ぐらいの感覚でいないとギャップに苦しむだけです。
ただ、もし褒める必要があるとは感じながらも、なかなか言葉に上手く出して褒められない経営者の方に、メッセージカードを活用することをお勧めします。これは例えば次のように使用します。
ケース1 機転の利いたうまい電話応対をしてくれたが、それを傍らで聞いていただけで、何も褒められなかった・・・・・
後日、給与袋に「○○の日の電話応対は素晴らしかった。助かりました。ありがとう。 社長」と書いたメッセージカードを同封しておく。
ケース2 重要な情報を報告してきたが、それに対して社長が対応しただけで、特に何も言わなかった・・・・
その従業員の机の上に、「○○の一件は○○君の報告のおかげで事なきを得ました。大変評価しています。またこれからも情報があれば、言ってください。 社長」と書いた、メッセージカードを貼っておく。
07年03月27日
管理職にすると、本当に残業手当は要らないか。
管理職にすると、本当に残業手当は要らないか。
〜労働基準法上の管理監督者〜
一般的に管理職になると、残業手当が全くつかなくなるという取り扱いがよく行われています。会社によって管理職の概念は色々ですが、概ね課長以上としていることが多いようです。この根拠は、労働基準法の第41条に「監督もしくは管理の地位にある者は労働時間、休憩及び休日に関する規定を適用しない」と書かれている所から来ています(深夜手当は対象になります)。しかし此処でいう監督もしくは管理の地位にある者と所謂管理職はイコールではありません。もし労基署の臨検や管理職からの申告があれば、名称ではなく実態によって判断されるからです。特に訴訟になると、名称は全く関係なく、実態そのもので判断されます。その判断基準はおおよそ以下のようなものです。
○職務内容が管理職としてふさわしいか
・・・管理職とは名ばかりで、一般従業員と同じ作業ばかりしているようでは苦しい
(管理職にしたからには明らかに特別の仕事をさせて自覚を持たせ、毎年その職責を
果たしているかどうかを検証すべきです。既得身分ではありませんから)
○一定の責任や権限が与えられているか
・・・人事権があるとか、部下を指揮命令しているとか経営者の一部となっていなければ苦しい
(責任だけではダメ。責任を問うからには裁量が与えられるべきです)
○勤務態様はどうか
・・・ほかの従業員と同じようにタイムカードを押すなど出勤に自由がない状態では苦しい
(元々時間で働く人ではなく、責任と役割と成果で働く人ですから)
○報酬面で格差があるか
・・・明らかに基本給に差があるとかそれなりの役職手当がなければ苦しい
(一般従業員が残業しても逆転しないだけの役職手当を最低でも付ける必要がある
でしょう)
〜労働基準法上の管理監督者〜
一般的に管理職になると、残業手当が全くつかなくなるという取り扱いがよく行われています。会社によって管理職の概念は色々ですが、概ね課長以上としていることが多いようです。この根拠は、労働基準法の第41条に「監督もしくは管理の地位にある者は労働時間、休憩及び休日に関する規定を適用しない」と書かれている所から来ています(深夜手当は対象になります)。しかし此処でいう監督もしくは管理の地位にある者と所謂管理職はイコールではありません。もし労基署の臨検や管理職からの申告があれば、名称ではなく実態によって判断されるからです。特に訴訟になると、名称は全く関係なく、実態そのもので判断されます。その判断基準はおおよそ以下のようなものです。
○職務内容が管理職としてふさわしいか
・・・管理職とは名ばかりで、一般従業員と同じ作業ばかりしているようでは苦しい
(管理職にしたからには明らかに特別の仕事をさせて自覚を持たせ、毎年その職責を
果たしているかどうかを検証すべきです。既得身分ではありませんから)
○一定の責任や権限が与えられているか
・・・人事権があるとか、部下を指揮命令しているとか経営者の一部となっていなければ苦しい
(責任だけではダメ。責任を問うからには裁量が与えられるべきです)
○勤務態様はどうか
・・・ほかの従業員と同じようにタイムカードを押すなど出勤に自由がない状態では苦しい
(元々時間で働く人ではなく、責任と役割と成果で働く人ですから)
○報酬面で格差があるか
・・・明らかに基本給に差があるとかそれなりの役職手当がなければ苦しい
(一般従業員が残業しても逆転しないだけの役職手当を最低でも付ける必要がある
でしょう)
●企業がワーキングプアを作ってはいけない 30万円の給与は経営者の責任である!!
〜今こそ、中小企業は年功賃金と終身雇用を大切にしよう〜
1.世間情報と中小企業の乖離
(1)もともと関係なかった年功序列と終身雇用
バブル経済が崩壊してから日本的雇用環境の崩壊が叫ばれるようになりました。そこで言われているのは要するに、終身雇用制度と年功序列制度が崩壊したことを指しています。そしてその後の人事管理のトレンドとして、成果主義や年俸制がもてはやされました時期があったのはご存知の通りです。
しかし普段、100人未満の中小企業の労務管理をお手伝いしている実務家の視点で言わせてもらうと、元々このクラスの企業には終身雇用とか年功序列自体が存在していません。その証拠に、労働者名簿を見ると、在籍する社員のほとんどは平成入社組であり、昭和入社の人がいると、「おっ」と思うくらいです。つまりどんなに長くても18年勤続以内ということです。これは次の二つの理由があります。
一つは新卒採用がほとんどなく、在籍者はその大半が中途入社で採用されているという事実です。もう一つは、定年退職がほとんどなく、途中で辞めて行くという事実です。中途で入って中途で辞めてゆくことが多く、新卒で入って定年まで勤め上げるということが皆無に近いのです。つまりもともと中小企業では、新卒で採用した従業員を長期にわたって教育訓練し、昇給や昇格を重ねて定年まで処遇する制度は確立されていないのです。
年功序列についても同様のことが言えます。年功序列というからにはベアはともかく、毎年定期昇給が確保されていなければなりません。毎年上がる基本給のピッチをどうするかとか、何歳で打ち止めにするかとか、賃金カーブをどうするかとか、各企業ごとの政策的判断はあるにしても、年齢の上昇に比例して毎年上がる仕組みが確立されていて、初めて年功序列といえます。それには年齢給や勤続給、職能給という賃金表が存在しなければなりませんが、そもそも中小企業には賃金表自体がなく、またあったとしてもその通りに運用されていないのが実態です。つまり年功序列制度ももともとないのです。
(2)成果主義も年俸制も無縁だった
最近でこそ、その功罪が客観的に語られるようになった成果主義や年俸制も、中小企業ではもともと無縁のものです。成果主義や年俸制もその思想は同じところから発しており、極論すると毎年の給与額を会社の都合に合わせて機動的に調整したい動機から出ています。会社業績が上がれば還元できるし、そうでなければ削減できる。労働条件の不利益変更が困難な我が国の労働慣行の中で、合理的にそれを可能にする魔法の杖のようにもてはやされたわけですが、その結果が芳しくないのは既に周知の事実です。
成果主義や年俸制を導入するには、その前提として各人の仕事に対する成果(結果)が納得性のある仕組みで測定できる査定制度が確立していなければ絵に描いた餅になるわけですが、それがあったはずの大企業でもその運用に苦戦している中で、前提条件すら満たさない中小企業がそもそも運用できるわけがありません。
また良く考えてみると当たり前なのですが、ほとんどの仕事は業績のみで測定できるほど単純ではありません。むしろ結果に現れない様々な人間力(潜在能力、性格、執務態度、努力など)が問われることとなり、ここを無視して評価するなんて有り得ません。例えば経営者の立場で見ると、いくら成績が抜群の営業マンでも周りの和を乱す人を上位評価することはできないはずです。従業員の立場で見ても、成績が良くなくても昨年より伸ばしたその努力のプロセスを見て欲しいと思うでしょう。
成果主義の定義を「正しい考え方のもと、安定的に結果を出せる行動をとって、その結果として実際に成績を上げた人を優遇する仕組み」とでも解すればよかったのですが、ただ「結果がすべて」と言わんばかりに運用しようとしたことが間違いでした。とにかく世間で成果主義とか年俸制とか言葉が踊ったとしても、中小企業はそれに惑わされてはいけないのです。
2.年功賃金の役割は本当に終わったのか
(1)30万円の給与は経営者の責任
結論から申し上げて、むしろ中小企業は年功主義を積極的に導入すべきだと考えています。なぜなら普通の従業員をワーキングプアにすることは、結果的に企業にとっても弊害が大きすぎるからです。雇った責任は企業にあるわけですから、雇った以上は最低食える賃金までには引き上げる責任があると思うのです。そこから先は従業員の能力や業績、役割次第です。次の二つの統計をご覧ください。
(表1)昇給額、昇給率の推移表
http://db2.jil.go.jp/tokei/html/Y07307001.htm
表1は厚生労働省が発表している毎年の1人当たり平均賃上げ額の推移です。かつては1万円以上昇給した時代があって、まるで隔世の感がしますが、景気が上昇傾向にあるとはいえ、充分にその恩恵を享受していない中小企業は、ここ数年の改定率である1%台、額にして2千円から4千円位の昇給額で今後も推移するものと思われます。
表2をご覧ください。(表2)事業所規模別の給与階級別分布(国税庁)
http://www.nta.go.jp/category/toukei/tokei/menu/minkan/h17/pdf/1.pdf
これは国税庁が年末調整のデータを基に出している賃金統計ですが、平成17年分で見ると、100人未満の企業規模で男性の場合、年収300万円から400万円の間で生活している人が最も多く、枠を広げてもその前後の年収に集中していることが分かります。ざくっと言って、400万円が男1人の年収の相場と言えるでしょう。その内賞与の構成比はおおよそ10%程度なので、月収換算だと30万円という数字が相場として出てきます。
現在、都市部の4人家族の最低標準生計費は約25万円ですから、これに税金や社会保険料を逆算してゆくと、奇しくも総額は30万円になるのです。つまり最低子供2人を育てて家族を食わせてゆくには、30万円の給与が必要なのです。この額は経営者の必達目標と認識すべきでしょう。
(2)ワーキングプアによる退職者が会社に与える損失
先ほどワーキングプアは企業に弊害が大きいと申しました。具体的に申しますと、この30万円という食える賃金が約束されないと、能力や成果を問う前に生活できなくて、辞めてゆく現実があるということです。新入社員を1人前にするのに1年かかるとしましょう。つまりこの人が会社に付加価値をもたらしてくれるのは2年目以降ですが、まず給与で年間260万、法定福利費で年間35万円、募集広告が10万円、その他名詞や服装などの雑費や教育する時間と労力を考えると最低350万円は見ておいたほうがいいでしょう。これが全てパアになるのです。 350万円の経常利益を残そうと思ったら、普通7千万円程度の売り上げが必要です。つまり従業員が定着しないことは、1名当たりこれだけの損害が発生しているのです。この現実を考えると、むしろ中小企業は、終身雇用とまではいかなくとも20年以上の勤続者が出るくらいの長期雇用システムを確立したいものです。
(3)若年者に低すぎる昇給額
何も最初から30万円を約束せよと申し上げているのではありません。若者が普通に仕事をしていれば、30万円までは最低でももらえる将来像を提示しておく必要があるのです。これが中小企業の賃金管理の根幹です。それには先述した2,3千円程度の昇給額では駄目です。仮に20歳の若者を20万円で雇ったとして、毎年3,000円づつ昇給して行くと、30万円に到達するのは33年かかります。5,000円づつ昇給しても20年かかるのです。すると40歳を超えても30万円に届くかどうかの給料。これでは結婚できないし、ましてや子供を作ることなんてできません。住宅なんて夢のまた夢です。ますます少子化にも拍車をかけるでしょう。
3.中小企業の基本的な賃金体系の考え方
(1)月給は生活と能力とその他オプションで
中小企業は中小企業らしく、年功を重視しましょう。その為には普通に真面目にやっている従業員には30万円を上限として昇給して行く仕組みをベースで作り、その後は能力の伸長、役割の付加、出した成果に応じて上下に変動する賃金体系を設計すべきと考えます。月例賃金には生計費という至極当たり前で大切な要素を欠いてはいけません。その責任を果たした上で、長期的視点に立った能力育成型、役割付加型、職務重視型のオプションを付けて行けばいいでしょう。能力育成型とは会社が求める職務レベルを従業員に開示し、その能力レベルに到達した者は昇格させて、さらに高い職務能力を求め、能力の減退や劣化があるときは降格する管理手法です。役割付加型は役職者に求められる特別な責任や役割を明示して、その責任を負っている従業員に対して特別加算し、役割を外れたときやその責任を果たしていない場合は削除または減額する管理手法です。また職務重視型は仕事ごとにその難易をランク付けして、より高度または難度の高い仕事をしている従業員には高い給与で報い、平易な仕事しかしていない人は低く抑える管理手法です。どういうオプション付けするかは、経営者の考え方によりますから、何が正解ということはありません。
とにかく月例給与を成果主義でやるなんて、従業員にとっては迷惑千万です。ほとんどの人がホリエホンでも村上ファンドでもありません。普通の生活をしたい人です。普通の人が求めるのは将来への安心と安定です。月給は将来への安心と安定性を持たせなければなりません。これが見えないと頑張る以前の問題になってしまうのです。
(2)成果主義を入れるなら賞与で
もし成果をダイナミックに反映させたのなら、それは賞与で配分しましょう。賞与は賃金の一部ですが、法的に拘束力を受けるお金ではなく、経営者の裁量権が大きく使える武器であり、改まって経営者のメッセージを伝えやすい絶好の意思伝達手段です。会社の経営理念と、今期の経営計画に基づく利益計画から降ろしてくる利益配分という基本スタンスのもと、年功に関係なく短期的な視点で、実際に貢献度の高い従業員にはたくさん支給し、そうでない従業員には少なくするという、経営者の当たり前の感覚を反映させましょう。できればより多くの確認機会を得るために、年3回のボーナスにして(注:4回以上出すと賞与にならない)、現金で支給し、一人づつ面接して経営の意思が伝わっているかを確認しましょう。支給方法は毎期毎年荒い替えです。つまり基本給のように積み上げ式ではなく、入社年数や年齢も関係ありません。新入社員とベテランの逆転もありです。そして次の期は、またリセットされて一から査定します。ですから支給計算方法も基本給に連動させません。
3.まとめ
紙面の都合上、実際のテクニカルな賃金制度設計まではご説明できませんが、要するに基本的な考え方は押さえておいてください。まず
?マスコミ報道に踊らされないこと
?中小企業には年功序列や終身雇用はまだまだ使えるということ
?30万円を支払える会社になること
?月給は生活と教育育成に留意すること
?成果主義はボーナスで行うこと
?昇給昇格評価は長期的な視点で能力開発を行い、賞与評価は短期的視点で利益配分を行うこと
〜今こそ、中小企業は年功賃金と終身雇用を大切にしよう〜
1.世間情報と中小企業の乖離
(1)もともと関係なかった年功序列と終身雇用
バブル経済が崩壊してから日本的雇用環境の崩壊が叫ばれるようになりました。そこで言われているのは要するに、終身雇用制度と年功序列制度が崩壊したことを指しています。そしてその後の人事管理のトレンドとして、成果主義や年俸制がもてはやされました時期があったのはご存知の通りです。
しかし普段、100人未満の中小企業の労務管理をお手伝いしている実務家の視点で言わせてもらうと、元々このクラスの企業には終身雇用とか年功序列自体が存在していません。その証拠に、労働者名簿を見ると、在籍する社員のほとんどは平成入社組であり、昭和入社の人がいると、「おっ」と思うくらいです。つまりどんなに長くても18年勤続以内ということです。これは次の二つの理由があります。
一つは新卒採用がほとんどなく、在籍者はその大半が中途入社で採用されているという事実です。もう一つは、定年退職がほとんどなく、途中で辞めて行くという事実です。中途で入って中途で辞めてゆくことが多く、新卒で入って定年まで勤め上げるということが皆無に近いのです。つまりもともと中小企業では、新卒で採用した従業員を長期にわたって教育訓練し、昇給や昇格を重ねて定年まで処遇する制度は確立されていないのです。
年功序列についても同様のことが言えます。年功序列というからにはベアはともかく、毎年定期昇給が確保されていなければなりません。毎年上がる基本給のピッチをどうするかとか、何歳で打ち止めにするかとか、賃金カーブをどうするかとか、各企業ごとの政策的判断はあるにしても、年齢の上昇に比例して毎年上がる仕組みが確立されていて、初めて年功序列といえます。それには年齢給や勤続給、職能給という賃金表が存在しなければなりませんが、そもそも中小企業には賃金表自体がなく、またあったとしてもその通りに運用されていないのが実態です。つまり年功序列制度ももともとないのです。
(2)成果主義も年俸制も無縁だった
最近でこそ、その功罪が客観的に語られるようになった成果主義や年俸制も、中小企業ではもともと無縁のものです。成果主義や年俸制もその思想は同じところから発しており、極論すると毎年の給与額を会社の都合に合わせて機動的に調整したい動機から出ています。会社業績が上がれば還元できるし、そうでなければ削減できる。労働条件の不利益変更が困難な我が国の労働慣行の中で、合理的にそれを可能にする魔法の杖のようにもてはやされたわけですが、その結果が芳しくないのは既に周知の事実です。
成果主義や年俸制を導入するには、その前提として各人の仕事に対する成果(結果)が納得性のある仕組みで測定できる査定制度が確立していなければ絵に描いた餅になるわけですが、それがあったはずの大企業でもその運用に苦戦している中で、前提条件すら満たさない中小企業がそもそも運用できるわけがありません。
また良く考えてみると当たり前なのですが、ほとんどの仕事は業績のみで測定できるほど単純ではありません。むしろ結果に現れない様々な人間力(潜在能力、性格、執務態度、努力など)が問われることとなり、ここを無視して評価するなんて有り得ません。例えば経営者の立場で見ると、いくら成績が抜群の営業マンでも周りの和を乱す人を上位評価することはできないはずです。従業員の立場で見ても、成績が良くなくても昨年より伸ばしたその努力のプロセスを見て欲しいと思うでしょう。
成果主義の定義を「正しい考え方のもと、安定的に結果を出せる行動をとって、その結果として実際に成績を上げた人を優遇する仕組み」とでも解すればよかったのですが、ただ「結果がすべて」と言わんばかりに運用しようとしたことが間違いでした。とにかく世間で成果主義とか年俸制とか言葉が踊ったとしても、中小企業はそれに惑わされてはいけないのです。
2.年功賃金の役割は本当に終わったのか
(1)30万円の給与は経営者の責任
結論から申し上げて、むしろ中小企業は年功主義を積極的に導入すべきだと考えています。なぜなら普通の従業員をワーキングプアにすることは、結果的に企業にとっても弊害が大きすぎるからです。雇った責任は企業にあるわけですから、雇った以上は最低食える賃金までには引き上げる責任があると思うのです。そこから先は従業員の能力や業績、役割次第です。次の二つの統計をご覧ください。
(表1)昇給額、昇給率の推移表
http://db2.jil.go.jp/tokei/html/Y07307001.htm
表1は厚生労働省が発表している毎年の1人当たり平均賃上げ額の推移です。かつては1万円以上昇給した時代があって、まるで隔世の感がしますが、景気が上昇傾向にあるとはいえ、充分にその恩恵を享受していない中小企業は、ここ数年の改定率である1%台、額にして2千円から4千円位の昇給額で今後も推移するものと思われます。
表2をご覧ください。(表2)事業所規模別の給与階級別分布(国税庁)
http://www.nta.go.jp/category/toukei/tokei/menu/minkan/h17/pdf/1.pdf
これは国税庁が年末調整のデータを基に出している賃金統計ですが、平成17年分で見ると、100人未満の企業規模で男性の場合、年収300万円から400万円の間で生活している人が最も多く、枠を広げてもその前後の年収に集中していることが分かります。ざくっと言って、400万円が男1人の年収の相場と言えるでしょう。その内賞与の構成比はおおよそ10%程度なので、月収換算だと30万円という数字が相場として出てきます。
現在、都市部の4人家族の最低標準生計費は約25万円ですから、これに税金や社会保険料を逆算してゆくと、奇しくも総額は30万円になるのです。つまり最低子供2人を育てて家族を食わせてゆくには、30万円の給与が必要なのです。この額は経営者の必達目標と認識すべきでしょう。
(2)ワーキングプアによる退職者が会社に与える損失
先ほどワーキングプアは企業に弊害が大きいと申しました。具体的に申しますと、この30万円という食える賃金が約束されないと、能力や成果を問う前に生活できなくて、辞めてゆく現実があるということです。新入社員を1人前にするのに1年かかるとしましょう。つまりこの人が会社に付加価値をもたらしてくれるのは2年目以降ですが、まず給与で年間260万、法定福利費で年間35万円、募集広告が10万円、その他名詞や服装などの雑費や教育する時間と労力を考えると最低350万円は見ておいたほうがいいでしょう。これが全てパアになるのです。 350万円の経常利益を残そうと思ったら、普通7千万円程度の売り上げが必要です。つまり従業員が定着しないことは、1名当たりこれだけの損害が発生しているのです。この現実を考えると、むしろ中小企業は、終身雇用とまではいかなくとも20年以上の勤続者が出るくらいの長期雇用システムを確立したいものです。
(3)若年者に低すぎる昇給額
何も最初から30万円を約束せよと申し上げているのではありません。若者が普通に仕事をしていれば、30万円までは最低でももらえる将来像を提示しておく必要があるのです。これが中小企業の賃金管理の根幹です。それには先述した2,3千円程度の昇給額では駄目です。仮に20歳の若者を20万円で雇ったとして、毎年3,000円づつ昇給して行くと、30万円に到達するのは33年かかります。5,000円づつ昇給しても20年かかるのです。すると40歳を超えても30万円に届くかどうかの給料。これでは結婚できないし、ましてや子供を作ることなんてできません。住宅なんて夢のまた夢です。ますます少子化にも拍車をかけるでしょう。
3.中小企業の基本的な賃金体系の考え方
(1)月給は生活と能力とその他オプションで
中小企業は中小企業らしく、年功を重視しましょう。その為には普通に真面目にやっている従業員には30万円を上限として昇給して行く仕組みをベースで作り、その後は能力の伸長、役割の付加、出した成果に応じて上下に変動する賃金体系を設計すべきと考えます。月例賃金には生計費という至極当たり前で大切な要素を欠いてはいけません。その責任を果たした上で、長期的視点に立った能力育成型、役割付加型、職務重視型のオプションを付けて行けばいいでしょう。能力育成型とは会社が求める職務レベルを従業員に開示し、その能力レベルに到達した者は昇格させて、さらに高い職務能力を求め、能力の減退や劣化があるときは降格する管理手法です。役割付加型は役職者に求められる特別な責任や役割を明示して、その責任を負っている従業員に対して特別加算し、役割を外れたときやその責任を果たしていない場合は削除または減額する管理手法です。また職務重視型は仕事ごとにその難易をランク付けして、より高度または難度の高い仕事をしている従業員には高い給与で報い、平易な仕事しかしていない人は低く抑える管理手法です。どういうオプション付けするかは、経営者の考え方によりますから、何が正解ということはありません。
とにかく月例給与を成果主義でやるなんて、従業員にとっては迷惑千万です。ほとんどの人がホリエホンでも村上ファンドでもありません。普通の生活をしたい人です。普通の人が求めるのは将来への安心と安定です。月給は将来への安心と安定性を持たせなければなりません。これが見えないと頑張る以前の問題になってしまうのです。
(2)成果主義を入れるなら賞与で
もし成果をダイナミックに反映させたのなら、それは賞与で配分しましょう。賞与は賃金の一部ですが、法的に拘束力を受けるお金ではなく、経営者の裁量権が大きく使える武器であり、改まって経営者のメッセージを伝えやすい絶好の意思伝達手段です。会社の経営理念と、今期の経営計画に基づく利益計画から降ろしてくる利益配分という基本スタンスのもと、年功に関係なく短期的な視点で、実際に貢献度の高い従業員にはたくさん支給し、そうでない従業員には少なくするという、経営者の当たり前の感覚を反映させましょう。できればより多くの確認機会を得るために、年3回のボーナスにして(注:4回以上出すと賞与にならない)、現金で支給し、一人づつ面接して経営の意思が伝わっているかを確認しましょう。支給方法は毎期毎年荒い替えです。つまり基本給のように積み上げ式ではなく、入社年数や年齢も関係ありません。新入社員とベテランの逆転もありです。そして次の期は、またリセットされて一から査定します。ですから支給計算方法も基本給に連動させません。
3.まとめ
紙面の都合上、実際のテクニカルな賃金制度設計まではご説明できませんが、要するに基本的な考え方は押さえておいてください。まず
?マスコミ報道に踊らされないこと
?中小企業には年功序列や終身雇用はまだまだ使えるということ
?30万円を支払える会社になること
?月給は生活と教育育成に留意すること
?成果主義はボーナスで行うこと
?昇給昇格評価は長期的な視点で能力開発を行い、賞与評価は短期的視点で利益配分を行うこと
07年01月30日
●お天道様はきっと見ている・・・ だから、まっとうな会社でいよう!
〜小さくても誇りを持てる会社の方がずっといい〜
●お天道様はきっと見ている・・・ だから、まっとうな会社でいよう!
こんな会社があるとしよう。A社は売上、経常利益とも大幅に伸びており、従業員数、会社規模も中小企業にしてはかなり大きいほうだ。社長は会社の利益を上げることに一所懸命で、そのためなら多少の無茶は厭わない。だから遵法意識は決して高くなく、ばれなきゃ得なことを選択してもいいと考えている。我が社の利益第一主義で、その思想の中には社会や従業員に対する意識はあまりない。ワンマン的で強烈なリーダーシップを持っており、黒いものも白いと言い切る妙な強さを維持している。しかし従業員のモチベーションは低く、永年勤めてくれる者はなく、他にいい会社が見つかればいつでも転職したいと思っている。
一方、B社はそんなに急成長はしていない。安定成長であるが、ときどき赤字すれすれの決算になることもある。規模もそこそこな程度で、決して外観上は立派なものではない。しかし社長は決して無茶はしない。決められたルールの中できちんと利益を上げられればそれでよく、ウチの会社を通してお客さんや従業員が幸せになり、その上で会社が成長できればと考えている。
これらは少し極端な例ですが、バブル崩壊以降の厳しい経済環境の中で、余裕を失った経営者の中に、A社のようなタイプの方が多くなったような気がします。倫理感や規範意識の低さを憂慮するものです。経営者がどのような経営理念や人生観、人間観を持って経営を行なおうとそれはもちろん自由なのですが、まっとうな会社であるべきだと思うのです。
「まっとう」という言葉を辞書で引くと、まとも、ちゃんとしている、真面目などの意味が出てきますが、私はもっと広い意味でこの「まっとう」という言葉を捉えています。いい響きの言葉だと思いませんか? 今は死語になりつつありますが、お天道様はきっと見ていると信じたい。まっとうな生き方をしてる人には、ちゃんとお天道様が付いていると。
ではまっとうな会社とはどのようなものでしょうか。私が思うに、まず決められたルールの中で努力することです。ルールを破って良い結果が出ても、それはむなしい。そして会社が生み出す製品やサービスが社会に役立っていること。小さくとも世の中に貢献している誇りです。お金をもらって、お客さんが不幸になるなんてあり得ない。さらにそこで働く従業員が会社を通じて自己実現し、物心両面で幸せな暮らしを送ってくれることです。もし初詣で神に祈るとしたら、自分や会社のことだけではなく、従業員の幸せも一緒に祈りたい。その上で、必ず利益を出し、税や保険料をきちんと納めること。株主へ還元するのは最後です。
まっとうな会社とは、数字や外観ではありません。お客さんに対して、従業員に対して、社会に対して誇りをもって、ウチの会社を語れることだと思うのです。品格のない会社に誇りは持てません。小さくても誇りを持てる会社の方がずっといい。お天道様はきっと見ている・・・ だから、まっとうな会社でいよう!
●お天道様はきっと見ている・・・ だから、まっとうな会社でいよう!
こんな会社があるとしよう。A社は売上、経常利益とも大幅に伸びており、従業員数、会社規模も中小企業にしてはかなり大きいほうだ。社長は会社の利益を上げることに一所懸命で、そのためなら多少の無茶は厭わない。だから遵法意識は決して高くなく、ばれなきゃ得なことを選択してもいいと考えている。我が社の利益第一主義で、その思想の中には社会や従業員に対する意識はあまりない。ワンマン的で強烈なリーダーシップを持っており、黒いものも白いと言い切る妙な強さを維持している。しかし従業員のモチベーションは低く、永年勤めてくれる者はなく、他にいい会社が見つかればいつでも転職したいと思っている。
一方、B社はそんなに急成長はしていない。安定成長であるが、ときどき赤字すれすれの決算になることもある。規模もそこそこな程度で、決して外観上は立派なものではない。しかし社長は決して無茶はしない。決められたルールの中できちんと利益を上げられればそれでよく、ウチの会社を通してお客さんや従業員が幸せになり、その上で会社が成長できればと考えている。
これらは少し極端な例ですが、バブル崩壊以降の厳しい経済環境の中で、余裕を失った経営者の中に、A社のようなタイプの方が多くなったような気がします。倫理感や規範意識の低さを憂慮するものです。経営者がどのような経営理念や人生観、人間観を持って経営を行なおうとそれはもちろん自由なのですが、まっとうな会社であるべきだと思うのです。
「まっとう」という言葉を辞書で引くと、まとも、ちゃんとしている、真面目などの意味が出てきますが、私はもっと広い意味でこの「まっとう」という言葉を捉えています。いい響きの言葉だと思いませんか? 今は死語になりつつありますが、お天道様はきっと見ていると信じたい。まっとうな生き方をしてる人には、ちゃんとお天道様が付いていると。
ではまっとうな会社とはどのようなものでしょうか。私が思うに、まず決められたルールの中で努力することです。ルールを破って良い結果が出ても、それはむなしい。そして会社が生み出す製品やサービスが社会に役立っていること。小さくとも世の中に貢献している誇りです。お金をもらって、お客さんが不幸になるなんてあり得ない。さらにそこで働く従業員が会社を通じて自己実現し、物心両面で幸せな暮らしを送ってくれることです。もし初詣で神に祈るとしたら、自分や会社のことだけではなく、従業員の幸せも一緒に祈りたい。その上で、必ず利益を出し、税や保険料をきちんと納めること。株主へ還元するのは最後です。
まっとうな会社とは、数字や外観ではありません。お客さんに対して、従業員に対して、社会に対して誇りをもって、ウチの会社を語れることだと思うのです。品格のない会社に誇りは持てません。小さくても誇りを持てる会社の方がずっといい。お天道様はきっと見ている・・・ だから、まっとうな会社でいよう!
06年11月29日
プロフィール
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士業種:社会保険労務士
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