●労務は感情、労務は心理学   パワハラ問題 その1   (H24.10月号)  
~できるだけ不満のたまらない企業文化(社風)醸成のために~

個別労働紛争が増加しています。特に最近では従来から紛争形態として多かった解雇、労働条件の引き下げに割って入る形で、パワーハラスメントが増加しています。パワハラに関しては、セクハラのように確立した法整備もなく、ややもすれば言葉だけが一人歩きして拡大解釈されることがあります。
また、職務と関連性の薄いセクハラは感覚的にも違法行為と認識しやすいですが、パワハラは職務上の教育指導との関連で線引きが難しい面もあります。


本年、パワハラ問題に関し、厚労省から検討を付託されていた円卓会議において、一定の定義や行為類型例が出されました。そこにはこのようになっています。


《職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性(※)を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。  ※上司から部下に行われるものだけでなく、先輩・後輩間や同僚間、さらには部下から上司に対して様々な優位性を背景に行われるものも含まれる。 》



類型                   具体的行為
(1)身体的な攻撃          暴行、傷害
(2)精神的な攻撃          脅迫、名誉毀損、侮辱、ひどい暴言
(3)人間関係からの切り離し    隔離、仲間外し、無視
(4)過大な要求            業務上明らかに不要なことなどを要求
(5)過小な要求            仕事を与えない等
(6)個の侵害             私的なことに過度に立ち入ること
※(1)から(3)は業務の適正な範囲とは認めがたく、(4)から(6)はそのその判断が難しいとされている。


そこで、私の15年にわたる社労士業生活の中で、パワハラによる紛争が起こりにくい企業文化について、考えたいと思います。


1.人事を分けて考える

使用者は人事権を持っています。これは使用者の固有の権利です。この人事権に基づく注意指導とパワハラの境界線が困難な事例もあります。しかしよっぽどフラットな組織を目指しているものでない限り、使用者は人事権の行使である注意指導をためらうべきではありません。要は行使の仕方なのです。

人事とういう言葉を分解すると、生身の「人」とモノである「事」という相対する概念が組み合わさっています。そしてパワハラが起こる局面は、得てして人事のうち、「人」に焦点が当たりすぎていることが多いのです。

例えば、「あんなに早くやれといったのに何で遅れたんや!!」と唸る上司。この主語は何でしょうか?隠れていますが、「お前は!」なのです。場合によってはその後ろに「うすのろっ!」なんてのも、含まれているのでしょう。明らかに、「お前」という、「人」に焦点が当たっています。このように言われた従業員は言い訳に終始したり、その後「そこまで言わなくてもいいじゃないか!」と心では反抗的になるでしょう。

しかしこれを「事」に焦点を当てるとどうなるでしょう。
「あんなに早くやれといったのに、遅れた原因は何だ?」
いかがでしょう。ここでの主語は「遅れた原因」という「事」に焦点が当たっています。相手に考えさせ、今後の改善指導という本来の目的も達成しやすいでしょう。

同じことを注意指導するにしても、言い方次第で随分違うものです。



2.あなたメッセージから自分メッセージへ矢印の向きを変える

上記の例でも分かるとおり、人に焦点があたり過ぎると、当てられた相手は人格攻撃と感じることがあります。指導されたと善意に解釈できません。

このようなとき、使用者の心を分析してみると、心の矢印は鋭く従業員側に向いて攻撃的になっているはずです。すると、その矢印を向けられた従業員は、その矢じりをかわそうとするだけです。そうではなく、従業員自身に自分の心の側へ矢印を向けさせねばなりません。そうして始めて、周りの問題ではなく、自分の問題として捉えるようになるのです。

あなたの言葉は、相手に鋭く矢じりが向いている、「あなたメッセージ」になっていませんか。


 
3.従業員にも大切な家族がいることに思いを致す

使用者から見て、出来の悪い従業員は確かにいます。しかし採用の段階で排除すべきであった人は例外的で、ほとんどの従業員は、いわゆる普通の人達です。

で、その普通の従業員にも懸命に育てたご両親がいます。またその普通の従業員を父親母親として頼りにしている子供たちがいます。家庭に帰ったら普通の子供であり、普通の親御さんなのです。

 一方で、使用者にも当然、親や子供がいるでしょう。その自分の親や子供が、会社でひどい扱いを受けているとしたら、どう感じますか?きっと、そんな会社に自分の大切な子供や親をを通わせるなんて、辛くてできないと思います。

もしそう思えるなら、多少出来が悪くとも、自ずと接し方に人間への配慮が生まれるのではないでしょうか。

文責 特定社会保険労務士 西村 聡
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12年10月05日 | Category: General
Posted by: nishimura
従業員の「出るところへ出る」とは、どういうことなのか
●社内で解決できない労使紛争が、その後どういう経緯を辿るのかイメージしておこう~



 労使紛争が増加しています。よく、クライアント様にそのようなお話をしても自信満々に、「ウチは大丈夫」と安心しておられる経営者もあります。が、多くの事例を拝見する立場から申し上げると、その理屈は「ウチの子に限って!」と言う親の心理に似ています。現実はどこで起こってもおかしくないのです。

 労使紛争を類型化すると、「解雇・退職勧奨など離職に関すること」、「労働条件の引き下げに関すること」、「賃金(残業代)の未払いに関すること」が多くを占めるのですが、最近ではここに「いじめ・嫌がらせ(いわゆるパワーハラスメント)」が増加傾向にあります。
 
 こういったことが起こったとき、当事者同士で解決できなければ、紛争として表面化します。表面化とは簡単に言えば、従業員が「出るところに出る」ということです。揉めても従業員が出るところに出なければ、表面化せず、消えてゆくだけです。では、その「出るところ」とは、どのようなところがあるのでしょうか。その見通しを持っておくことは、紛争を拡大させないためにも重要なことです。



主に従業員が「出るところ」とは以下のコースがあるのです。

1.労働基準監督署への申告コース
2.あっせん申請コース
3.弁護士(裁判所)委託コース
4.合同労組加入コース
5.親族(例外)コース




1.労働基準監督署への申告コース

 労働基準法104条では違反事実を労働者が労基署へ申告する権利を認めており、費用も懸からず、一番多いコースです。対応する労働基準監督官にもよるのですが、会社としても妥当な解決策を模索し易いコースと言えるでしょう。調査を拒否することはできません。

 よく労基署は労働問題全てを管轄しているように勘違いされているケースがありますが、監督官が取り扱う法律は労働基準法、労働安全衛生法、最低賃金法など限られた特別法のみで、トラブルの多い同じ労働問題でも、社会保険や労災に関すること、育児介護やセクハラに関すること、人材派遣や偽装請負に関することなどは対象外です(これらは別の所轄があります)。
 
 また解雇や未払い賃金に関しても、法違反として断定できないこと、例えば解雇紛争で解雇の有効性が争点の場合や、未払い賃金紛争で労働時間の解釈が争点などの場合、これらは民事紛争となり、行政機関である労基署の管轄外となります。

 これらに関する申告の場合は、原則的には他の管轄がある場合はその窓口を紹介され、民事紛争に該当することは次に述べる「あっせん」などの他の解決機関を紹介されることとなります。労基法などに違反事実があると断定されたときは、「是正勧告書」なる行政指導の文書が手交され、一定期日までにその違反状態を自ら是正して報告するという流れで、通常このコースは終了することとなります。

 先ほど妥当な解決が図りやすいと申しましたが、デメリット?としては、行政指導という性格から、場合により画一的に調査され、直接紛争とは関係のない他の事案(安全衛生管理状態など)や他の従業員のことについても、波及する可能性があることが挙げられます。また監督官は司法警察権を有しているため、行政指導に従わない場合は、刑事処分される可能性もあります。




2.あっせん申請コース

 これは労使紛争であっても、前述のように行政指導に馴染まない民事紛争に関することや、裁判所へ行って争う意思まではないが、何らかの行動を起こしたいというような場合に、選択されます。公的に解決を援助するあっせん機関から「あっせん開始通知書」なるものが送られて来るものです。大阪の場合は、大阪労働局・大阪府労働委員会・大阪府社会保険労務士会にその機関があります。弁護士に頼らなくとも本人申請でできるので、よく利用される傾向にあります。

 このあっせんは、参加に強制力はなく、受諾するかどうかは自由です。受諾しなければ即「打ち切り」となります。また開始されても、和解に至らなければ同様に「打ち切り」となります。その後労働者が諦めず、更に次の解決策を選択する可能性もあるので、紛争内容が言いがかりに近いものでなく、互譲の精神で会社にも解決の意思があるなら、受諾して和解することをお勧めします。場合によっては会社から先に「あっせん」をかけ、第三者の下で、解決を図ることもできます。

 一般論として、あっせんは非対面方式で行い、法律を杓子定規に適用するのではなく、当事者の合意を最優先しますから、柔軟な解決方法が可能です。通常1日程度の期日で終了し、和解できれば民事上有効な和解契約書を交わします。裁判上の和解とは違いますので、強制執行力はありませんが、通常はその内容が履行されます。金銭解決でまとまること多いでしょう。和解契約書には紛争を蒸し返さない清算条項が入りますので、和解できればその紛争はそこで終了します。

 


3.弁護士(裁判所)委託コース

 上記1,2に比べると会社としては更に要警戒のコースです。通常はいきなり訴状が来るのではなく、「ご通知」などの内容証明郵便が弁護士名で送付されてきます。そして一方的に設定した期日までに、誠意ある対応を会社が取らない場合、訴訟(仮処分や労働審判を含む)を起こして来るものです。

 労働審判とは平成18年に始まった労働紛争に特化した裁判所での解決制度で3回以内の期日で短期間審理し、調停を試み、調停に至らない場合は審判(勝ち負け)が下されるものです。訴状が届いてから2週間程度で弁護士に答弁書を提出してもらう必要があり、会社側は日程的に非常にハードなものになります。

 仮処分とは本訴訟前に、簡易な手続きで仮の措置を取るもので、解雇事案における仮の地位保全が典型的です。仮処分が下れば、その間、賃金も仮に支払い続けなければなりません。
後で、本訴訟で勝っても、返済されること見込みは薄く、かなりのダメージになります。

 本訴訟はテレビドラマ等で少しイメージができますが、概して時間がかかり、地裁で1年程度は覚悟しておいた方がいいでしょう。高裁への控訴、最高裁への上告となると一体いつまでかかるのか予測不能です。裁判でも和解は試みられますが、裁判事務では必ず弁護士(できれば使用者側で労働問題を専門に扱う人)を立てる必要があります。

 本訴訟にしても労働審判にしても裁判所からの呼び出しは無視することができず、会社も弁護士を立てて、主張しなければなりません。そういう意味で受諾が任意のあっせんとは違います。
また裁判所では、法律が厳格に解釈され、あっせんのようなグレーゾーン解決はありません。最終決着は勝つか、負けるかです。和解が成立しても強制執行力があり、これらはあっせんとの大きな違いです。

 このコースは、会社が勝ってもほとんど実利的には無益です。何故なら例えば解雇紛争で勝ったとしても、当初の解雇した意思表示が有効となるだけで、特段何かを得る物ではありません。いわば無駄な時間と労力と費用と、更に精神的負担が浪費されるだけです。まして負ければ相当の痛手を負うことを覚悟しなければなりません。例えば残業未払い事案で負けると、会社にとっては不当に高額な残業代が認定されるだけでなく、付加金(倍返し)や遅延利息なども覚悟しなければなりません。また労働審判は非公開ですが、裁判は公開制であり、実社名で記録が残るため、会社の信用問題にも影響しかねません。




4.合同労組コース

 駆け込む先にもよりますが、会社としては最も警戒すべきコースです。場合によっては、やくざ的な世界へ入り込んでしまうことも有り得ます。合同労組(ユニオンともいう)とは、一人でも加入できる会社外部の労働組合のことです。

 企業内組合の場合は、自分たちの会社のこととして同じベクトルに向けることも可能ですが、会社に帰属意識のない合同労組は、会社と共同歩調で歩める可能性は極めて低く、むしろ何かに付けて揚げ足取りのように介入してくることが予想されます。

 彼らは労働組合法という強烈な法律に守られており、団体交渉の申し込みがあれば拒否することはできません。また組合活動に伴う民事上、刑事上の責任は免責されています。団体交渉の過程で労働基準監督署もよく使いますが、労働委員会という不当労働行為を審査する行政機関も良く使います。不当労働行為とは会社が組合にしてはいけない行為のことです。

 威嚇行為としてビラ撒きや街宣活動に及ぶこともあり、
精神的にかなり追い詰められることにもなりかねません。対立が激しくなると、会社の周りだけでなく、得意先や取引銀行周辺でもやります。役員の自宅周辺でやることもあります(ただこれは違法だが)。

 退職後に加入されるよりも、在職中に加入されると、その従業員が辞めない限り、ずっと団体交渉に応じてゆく覚悟が必要で、出口のの見えない遠い道のりになります。団体交渉を弁護士へ委任することは不可能ではありませんが、裁判のように全面的に代理人になってもらってお任せする、というわけにな行かず、会社も相当のお付き合いをして行かねばなりません。

 多少お金がかかっても、最終的に金銭解決できれば良い方でしょう。




5.親族(例外)コース

 これは出るところへ出るというものではありませんが、稀にあるケースです。例えば労災事故に被災した従業員の親族が、会社へ直接交渉してくるものです。登場する人にもよりますが、ルールの無い世界なので、場合によっては非常に困惑する対応をしてくるケースがあります。



いずれにしても見通しを誤るのは危険です。また出るところへ出られる前に手を打てることもたくさんあります。まず、労務の専門家の助言を得るべきです。


文責 特定社会保険労務士 西村 聡
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12年09月05日 | Category: General
Posted by: nishimura
●事業主や役員も加入できる特別(労災)加入制度の落とし穴

~認定されれば非常に頼りになるが、労災が効かない場合もあることに気をつけよう~




 労災保険(正確には労働者災害補償保険という)は、その正式名称がいうように、労働者の業務上又は通勤途上における災害を対象にする保険です。この労働者とは労働基準法に定義される労働者のことで、「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう」とされています。

 この労働者と使用者(いわゆる社長、役員、個人事業主の意味)とは相対する概念であり、使用者は労働者でないため、労災保険の対象にはなりません。しかし中小事業の使用者の中には、経営者としての側面だけでなく、労働者に準じて業務を行うことが多いのが実情です。つまり、製造業なら社長もプレス機を使用して金属加工業務をしたり、小売業なら社長もお店に出てレジ打ちをすることがあるといった具合です。

 このような実情を考慮して、使用者であっても一定の要件の元で、労災保険の保護下に置こうというのが特別加入制度なのです(特別加入にはこれから説明する「中小事業主用」だけでなく、「一人親方用」や「海外派遣用」などがありますが、ここでは割愛します)。



特別加入の概要を簡単に説明します。

1.対象となる中小事業主

労働者数が小売業など50人以下  卸売,サービス業100人以下  製造業,運輸業・建設業など300人以下 の規模の使用者です。

2.加入要件

 ア 1名以上の労働者がおり、労働保険が成立していること。
 イ 労働保険事務組合に労働保険事務処理を委託していること。

この労働保険事務組合とは、厚生労働大臣の認可を受けた民間団体のことで、おもに事業協同組合、商工会議所、社会保険労務士会などがあり、これらの団体と委託契約を結ぶ必要があるものです。


3.保障内容

使用者も労働者とみなして労災保険を適用しますので、給付内容は業務上も通勤上も全く同じです。つまり、療養、休業、障害、遺族、介護などの事由で給付されます。但し、休業しても通常役員報酬は日割りしないため、休業補償を受けることはほとんどないでしょう。

4.保険料

収める保険料は使用者自らが、最低日額3,500円から最高日額20,000円の13段階の間から選択して、日額を365倍した年額にその事業の労災料率を乗じて計算します。
ちなみに日額10,000円を選択した金属加工製造業者の場合は、年間で1名36,500円の保険料です。



 概要は以上の通りですが、ここからが今回の本題です。


 よく電話勧誘等で「社長も労災に入れるようになりました!」とか、誤解を与えるような勧誘をしてくる労働保険事務組合があるようです。また労災が支給されないケースをきちんと説明していないこともあるようです。

例えばこんなケースです。

○社長が通常、労働者が行わない業務(経営業務)遂行中に、被災した場合
  ・・・従業員は現場作業に従事するのみで業務で銀行に行くことはなく、社長が銀行に融資の申し込みに行こうとして交通事故に合った場合などが考えられます。

○従業員を伴わずに、一人で被災した場合
  ・・・業務自体は従業員も行う内容のものであっても、休日に社長が一人で出勤して、プレス加工していたような場合が考えられます。



 また裁判でも、建設事業主が現場の下見中に死亡した事案で、妻からの遺族補償給付請求が労基署から不支給処分とされたため、最高裁まで訴えたのですが、棄却されています(広島中央労基署長事件 H24.2.24 最高裁)。
【事案】
社長Aは建設事業の労災に特別加入していた。A社長は橋梁建設工事予定地の下見に一人で赴き、その途上で池に転落し死亡した。A社長の会社では時折、従業員がA社長に同行して外出することはあったが、従業員は通常はもっぱら現場作業のみに従事していた。A社長の会社では建設事業の特別加入はしていたが、営業管理業務の労災加入はしていなかった。



 つまり使用者としては普通に仕事をしているつもりでも、その業務が従業員を伴わない業務であったり、経営者としての業務であるとみなされた場合や、またはそもそも複数事業ある中の一部事業しか加入していない場合、、労災が支給されないことがあるのです。


 ただ従業員が通常被災するケースで使用者が被災した場合は、先述の通り従業員と全く同じ給付が受けられ、その内容は民間保険の追随を許さない手厚いものとなっていますので、きちんと理解の上、加入手続きを行えば、非常に心強い保険であることに違いはありません。

ちなみに私は社会保険労務士業として加入しております。

文責 特定社会保険労務士 西村 聡
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12年08月01日 | Category: General
Posted by: nishimura
社会保険料を削減します・・・・ 魔の誘惑???

「社会保険料を削減できます!!」なんて、ダイレクトメールが届くことがあるようです。またそのようなセミナーも行われているようです。
毎年値上がりして行く社会保険料。何で、他人の保険料を会社が負担しなきゃいけないの?
利益に関わらず振替えられるその額の多さに憂鬱になる経営者もいらっしゃることでしょう。何とか削減できるものなら削減したい・・・・・・・。そのような誘惑に駆られるのも無理はありません。

私はそのようなセミナーに参加したことはありませんが、おおよそ話されていることは想像が付きます。恐らくこんな対策だと思われるのです。
①2箇所給与にする
②個人委託契約に切り替える
③賞与を給与と合算で支払う
④4,5,6月の残業代を賞与で先払いする
⑤短時間パートを活用する
⑥派遣労働者を活用する
⑦常勤役員を非常勤にする
⑧4,5,6月の残業を抑制する
⑨昇給は7月に行う
⑩月末退職を避ける


この中で削減効果が絶大なのが①及び②なのですが、これは少し如何わしい。法違反か脱法行為か、違法に限りなく近いグレーゾーンなのです。


①2箇所給与とは如何なるものか

これは1名に対する給与を2箇所以上の複数の法人より支給して、社会保険加入はそのうち1箇所のみで行い、保険料徴収対象となる給与を抑えて保険料を免れようとするものです。例えば今までA社で350,000円の給与を支払っていたとすると、会社負担の社会保険料は55,004円です(大阪の会社、サービス業、40歳以上、労働保険料を含んだ場合)。


しかしこれをA社から192,500円、B社から157,500円、合計350,000円として、そのままA社で社会保険加入とすると、
A社 負担額29,119円、B社 負担額0 となり、つまり1名で25,885円も削減できるのです・・・・・・・・・。


でもちょと待ってください。

社会保障制度は税金とは違い、支払に対するリターンがあることを忘れてはなりません。つまり、目先の削減のためにリスクやデメリットを負うのです。


(デメリットとは)

A 従業員のデメリット


ア.老後の年金額が減る

厚生年金は掛けた保険料に比例して支給額を増額させる仕組みになっていますので、上記の例ではB社の給与は年金額に反映されず、老後の保障が脅かされます。


イ.年金は老齢年金だけではありません。同じ保険料で障害や遺族年金の権利も確保できるのですが、これも同様に減額になります。特に奥さんが老後一人取り残された場合の夫の遺族年金は非常に重要です。

一方で、会社負担額の削減と共に、従業員の手取り額もアップするので、それを個人年金等の積立に回した方がいいというご意見もあることでしょう。しかし、個人年金は有期年金であり、物価変動にも弱く、いつまで生きるか分からないリスクのある長寿社会において、終身年金である公的年金の威力は考慮すべきです。


ウ.離職した場合に失業保険が低くなる

先ほどの例ですと、350,000円の6割ではなく、192,500円の6割しか受給できなくなります。


エ.健康保険、労災保険からの給付も下がる

両制度には傷病手当金、休業補償給付、障害補償給付、遺族補償給付など、給与に応じて支給される保険給付がたくさんあります。例えば一番事例の多い健康保険の傷病手当金。業務外の傷病で休業する場合に給与の約66%を支給してくれるものですが、従業員は欠勤していますから、350,000円の給与が全額止まった中で、保険給付は192,500円の66%(126,600円)しか出ないのです。



B 会社のデメリット


ア.社会保険の適用は本来複数個所からの給与でも、1箇所で合算して申告するのが正規のルールとなっています。また一度に大量の従業員を降給する場合やその減額幅が大きい場合は、社会保険指導調査の対象となりやすく、遡及して思わぬ出費を強いられる可能性があります。


イ.手取りが増え、中には当面は喜ぶ社員もいるかも知れませんが、いざ自分や家族がデメリットを受けることとなった将来において、思わぬトラブルに発展することも考えておかなければなりません。最近の年金記録確認問題でも、もらっていた給与に対して記録上の等級が低いとして、大問題になっています。


ウ.真っ当な感覚を持った従業員であれば、会社のこのような措置に対してどんな風に感じるでしょうか?不信感やモチベーションの低下を招かないでしょうか?色々なところへ申告、相談に行かないでしょうか?目先の削減に対して失うものはないでしょうか?


真っ当な経営、王道見失わず。誘惑の前にご検討いただきたいものです。


文責 特定社会保険労務士 西村 聡
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12年07月05日 | Category: General
Posted by: nishimura
●「社長時間」と「社員時間」と賃金をリンクさせよう
~社長は2時間は残業して欲しい、社員は8時間で終わりと思っている、このギャップを埋めるために~


 時間外労働をめぐる、いわゆるサービス残業代に関するトラブルが後を絶ちません。これには様々な原因がありますが、その一つに「社長時間」と「社員時間」がそもそも最初から違うということがあります。その誤解があるまま雇用しているという事実があるのです。たとえばこういうことです。

社長の感覚  「うちの会社では1日2時間くらいの残業は当たり前。最低でも月200時間は働いてくれないと、仕事が回らない。給料28万円はそれらを含んでいる」

社員の感覚  「うちの会社は1日8時間労働の会社。それを超えると全て残業で、28万円とは別に、残業代がもらえる」


こういう意識の場合、出るところへ出て紛争になれば、分は社員にあります。でも社長のその感覚も、分からないでもありません。ではこの意識ギャップを埋めるにはどうすればいいでしょうか?




もし、社長が給与設定する頭の中に最初から一定の残業が前提となっているなら、給与をその感覚に合わせて支給しましょう。具体的にはこうです。

前提条件  月所定平均170時間の会社  給与を総額28万円で支給(手当なし)
        月30時間の残業があらかじめ含まれているとした場合

計算式  まず28万円のうち、30時間分の残業代がいくらかを計算します。

1)30時間×1.25=37.5時間
2)28万円÷(170時間+37.5時間)=@1349.39(この単価が正社員として適正か検討を要します)
3)@1349.39×170時間=229,397
4)@1349.39×1.25×30時間=50,603円    3)+4)=28万円     


つまりこの場合、A 基本給229,397円  定額時間外手当(30時間分)50,603円  合計28万円
または、     B 基本給28万円(基本部分229,397円 定額時間外30時間分50,603円)    となるのです。

これを雇用契約時、または給与改定時にきちんと説明して雇用契約書を交わします。こうすることで、社長が「28万円には残業も入っている!!」とする感覚に近付けることができ、かつ30時間まではサービス残業代の問題も発生しません。そして実際の残業が30時間に満たないケースでも減額はしません。


ただこれをきちんと行うには以下がポイントとなります。

1 定額時間外手当と実際の残業代との比較が可能である(上記ケースでは30時間を境として比較可能)
2 労働契約書(賃金規程)上の定めが必要
3 固定額で足りない部分の精算の定めが必要(上記ケースでは実際の残業が30時間を超えた場合)
4 実際の残業の計算式の分子に当該手当が入っていない(上記ケースでは定額時間外手当のこと)
5 雇用契約書(賃金規程)の名称と給与明細の名称とが合致している(上記ケースでは定額時間外手当という名称)
6 社員に一人ひとりきちんと説明する(できれば個別同意をもらう)

今まで在籍の社員には経過的に行うとしても、今後採用する社員の給与はこのようになされては如何でしょうか?

文責 特定社会保険労務士 西村 聡
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12年06月05日 | Category: General
Posted by: nishimura
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