07年06月01日

解雇権の濫用

 事案は、「Y会社と組合との間には、新機械の導入に関し意見の対立が見られたが、この間Xは、他の従業員に職場離脱をさせたり、無届集会をしたり、会社役員の入門を阻止したりとの行為が、会社の職場規律を害するものとして使用者により懲戒解雇された。この時、組合委員長や他の組合員も出勤停止、減給、けん責などの処分を受けている。組合は地労委に不当労働行為を申立て、処分撤回の和解が成立したが、この和解には和解の成立の日をもってXが退職する旨の規定が含まれていた。しかし、Xには退職する意思はなかったため、組合は、Xが退職に応じないときは組合から離脱せしめることも止むを得ないと考えて、Xを離籍(除名)処分に付した。Y会社と組合との間には、「会社は組合を脱退し、または除名された者を解雇する。」旨のユニオン・ショップ協定が結ばれており、Y会社は、この協定に基づきXを解雇した。そこで、Xは、雇用関係の存在確認の請求を行ったもの」である。

 これは、日本食塩製造事件であるが、最高裁(最判S50,4,25)は次のように判示した。

1 「使用者の解雇権の行使も、それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効になる」と解するのが相当である。

2 ユニオン・ショップ協定は、労働者が労働組合の組合員たる資格を取得せず又はこれを失った場合に、使用者をして当該労働者との雇用関係を終了させることにより間接的に労働組合の組織の拡大強化を図ろうとする制度であり、このような制度としての正当な機能を果たすものと認められる限りにおいてのみその効力を承認することができるものであるから、「ユニオン・ショップ協定に基づき使用者が労働組合に対し解雇義務を負うのは、当該労働者が正当な理由がないのに労働組合に加入しないために組合員たる資格を取得せず又は労働組合から有効に脱退し若しくは除名されて組合員たる資格を喪失した場合に限定され、除名が無効な場合には、使用者は解雇義務を負わない」ものと解すべきである。

3 そして、労働組合から除名された労働者に対し、ユニオン・ショップ協定に基づく労働組合に対する義務の履行として使用者が行う解雇は、その協定によって使用者に解雇義務が発生している場合に限り、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当なものとして是認することができるのであり、「同除名が無効な場合には、使用者に解雇義務が生じないから、かかる場合には、客観的に合理的な理由を欠き社会的に相当なものとして是認することはできず、他に解雇の合理性を裏付ける特段の事由がない限り、解雇権の濫用として無効である」と言わなければならない。

 要するに、ユニオン・ショップ協定に基づいて使用者が労働者を解雇するには、前提となる労働組合の除名処分が有効でなければならないということです。

 メールによるご相談は、m-sgo@gaia.eonet.ne.jpまでお気軽にどうぞ(無料)。

07年06月01日 | Category: 労働関係
Posted by: marutahoumuj
 事案は、「Y会社は、石油等の輸送・販売を業としているが、Xは、業務上タンクローリーを運転中、追突事故を起こした。そのため、Y会社は、使用者責任に基づき、追突された車両の所有者に対し、車両の損害賠償として約7万円を支払い、また、破損したY会社のタンクローリーの修理費及び修理のための休車期間中の逸失利益として約33万円の損害を被った。そこで、Y会社は、X及びその身元保証人に対し、被害者への損害賠償分の求償とY会社が直接被った損害に対する賠償を請求したもの」である。

 これは、茨石事件であるが、原審は、損害額のうち4分の1を超える部分についての賠償及び求償の請求は信義則上許されないと判断したので、Y会社が上告した。これに対し、最高裁(最判S51,7,8)は、次のように判示した。

1 使用者が、その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により、直接損害を被り又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被った場合には、「使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防もしくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し、右損害の賠償または求償の請求をすることができる」ものと解すべきである。

2 (1)Y会社の、資本金800万円、従業員約50名、業務用車両20台、経費節減のため、右車両につき対人賠償責任保険にのみ加入し、対物賠償責任保険及び車両保険には未加入という事実、(2)Xは、主として小型貨物自動車の運転業務に従事し、タンクローリーには特命により臨時的に乗務するに過ぎず、事故当時、Xは、重油をほぼ満載したタンクローリーを運転して交通の渋滞し始めた国道上を進行中、車間距離不保持及び前方注視不十分等の過失により、急停車した先行車に追突したという事実、(3)事故当時、Xの月給は4万5000円であり、勤務成績は普通以上であったという事実を認定し、「これらの事実関係の下においては、Yがその直接被った損害及び被害者に対する損害賠償義務の履行により被った損害のうち、Xに対して賠償及び求償しうる範囲は、信義則上右損害額の4分の1を限度とすべきであり」として、原審の判断を是認した。

 要するに、会社が被用者に対して賠償及び求償しうる範囲は、「全額」ではなく、会社の規模や労働条件等に照らして、「損害の公平な分担」という見地から「信義則上相当と認められる限度」、においてしか認められないということです。

 メールによるご相談は、m-sgo@gaia.eonet.ne.jpまでお気軽にどうぞ(無料)。

07年05月31日 | Category: 労働関係
Posted by: marutahoumuj
 労働関係の記事については、難しいという意見が寄せられていますので、事案・判旨ともに分かりやすさを心掛けていきたいと思っています。

 事案は、「反物、毛皮、宝石の販売等を営む会社の新入社員が、一人で宿直中に、窃盗の目的で来訪した元従業員に殺害された事件に関して、新入社員の親が会社に対して損害賠償の請求をしたもの」である。

 これは、川義事件であるが、最高裁(最判S59,4,10)は次のように判示した。

1 雇用契約は、労働者の労務提供と使用者の報酬支払をその基本内容とする双務有償契約であるが、通常の場合、労働者は、使用者の指定した場所に配置され、使用者の供給する設備、器具等を用いて労務の提供を行うものであるから、「使用者は、右の報酬支払義務にとどまらず、労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示の下に労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)を負っている」ものと解するのが相当である。

2 本件の場合、「宿直勤務の場所である本件社屋内に、宿直勤務中に盗賊等が容易に侵入できないような物的設備を施し、かつ、万一盗賊が侵入した場合は盗賊から加えられるかもしれない危害を免れることができるような物的施設を設けるとともに、これら物的施設等を十分に整備することが困難であるときは、宿直員を増員するとか宿直員に対する安全教育を十分に行うなどし、もって右物的施設等と相まって労働者の生命、身体等に危険が及ばないように配慮する義務があった」ものと解すべきである。

3 そして、本件では、右義務の不履行があり、かつ、義務の履行があれば殺害という事故の発生を未然に防止しえたとして因果関係を認め、会社の損害賠償責任を肯定した。

 安全配慮義務違反による損害賠償責任は、労働契約に基づく債務不履行責任でありますから、不法行為に基づく損害賠償責任と異なり、落ち度がないことを債務者たる会社の方で立証しなければならないことに注意しましょう。

 メールによるご相談は、m-sgo@gaia.eonet.ne.jpまでお気軽にどうぞ(無料)。

07年05月30日 | Category: 労働関係
Posted by: marutahoumuj
07年05月29日

懲戒権濫用の基準

 事案は、「Xは、デモに参加し凶器準備集合罪等の嫌疑で現行犯逮捕・勾留され、その間会社を欠勤した。その後、出勤して勝手に従前の職場に割り込んで作業を行い、事情聴取のため労務課への出頭命令も無視し続けたので、Y会社は自宅待機を命じた。しかし、Xは連日入構しようとして、警士とトラブルを繰り返したので、YはXを20日間の第一次出勤停止処分に処した。Xは、その後も入構しようとして警士ともみ合い、週2,3回会社前で抗議のビラの配布を続けたので、YはXを20日間の第二次出勤停止処分に処した。Yは第二次処分満了日に、Xの働く適当な職場がないとして、無期限の自宅待機命令を行ったが、Xは、工場ゲリラと称する17名の者らとともに工場内に入り、ベルトコンベアを停止させたり、警士に打撲傷を与えたりしたので、YはXを懲戒解雇したというもの」である。

 これは、ダイハツ工業事件であるが、1審及び2審は、懲戒権の濫用に当たり無効としたが、最高裁(最判S58,9,16)は、原判決を破棄し、自判した。

1 「使用者の懲戒権の行使は当該具体的状況の下において、それが客観的に合理的理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合に初めて権利の濫用として無効になる」と解するのが相当である。

2 原審が、「第二次出勤停止処分の対象行為は、第一次出勤停止処分の対象行為とその目的、態様等において著しく異なることはなく、その続きに過ぎないから、第二次処分は不当に苛酷な処分であって無効である」としたのに対し、最高裁は、「・・・・・目的、態様等において著しく異なるところはないにしても、より一層激しく悪質なものとなり、警士が負傷するに至っていることと、一次処分を受けたのに何らその態度を改めようとせず、執拗に反発し、ビラ配布という挙に出たこととを併せ考えると、本件第二次出勤停止処分は、必ずしも合理的理由を欠くものではなく、社会通念上相当として是認できないものではないといわなければならず、これを目して権利の濫用であるとすることはできない。」とした。

3 また、Xは、自己の主張を貫徹するため執拗かつ過激な実力行使に終始し、警士の負傷、ベルトコンベアの停止等による職場の混乱を再三にわたり招いているのであって、その責任は重大であるとした上で、「Xとしては、自己の立場を訴え、その主張をするにしても、その具体的な手段については企業組織の一員としておのずから守るべき限度があるにもかかわらず、本件懲戒解雇の対象となったXの行為は、その性質、態様に照らして明らかにこの限度を逸脱するものであり、その動機も身勝手なものであって同情の余地は少なく、その結果も決して軽視できないものである。」 そして、「Yが、Xをなお企業内にとどめ置くことは企業秩序を維持し、適切な労務管理を徹底する見地からしてもはや許されないことであり、事ここに至ってはXを企業外に排除するほかないと判断したとしても、やむをえないことというべきであり、これを苛酷な措置であるとして非難することはできない。」

4 以上のようなXの行為の性質、態様、結果及び情状並びにこれに対するYの対応等に照らせば、「YがXに対し本件懲戒解雇に及んだことは、客観的にみても合理的理由に基づくものというべきであり、本件懲戒解雇は社会通念上相当として是認することができ、懲戒権を濫用したものと判断することはできない。」

 結局、懲戒権の行使は、対象行為の性質、態様、結果等と会社の対応等からして、(1)客観的に合理的理由があり、(2)社会通念上相当として是認することができる、のであれば権利の濫用とはならないということです。

 メールによるご相談は、m-sgo@gaia.eonet.ne.jpまでお気軽にどうぞ(無料)。

07年05月29日 | Category: 労働関係
Posted by: marutahoumuj
07年05月26日

懲戒処分の適法性

 事案は、「Y会社は、訴外A.Bが就業時間中に上司に無断で職場を離脱し、就業中の他の労働者に対して、原水爆禁止の署名を求める等の就業規則違反の事実を明確に把握するため、Xに対しても事情聴取を行ったが、Xは反問し、あるいは返答を拒否した。そこで、Yは、Xが右調査に協力しなかったことは、「従業員は上長の指示に従い・・・・・職場の秩序を守り、・・・・・努めなければならない。」と定める就業規則の規定、また、「従業員は秩序を維持するため、会社の諸規則、命令を守らなければならない。」と定める就業規則の規定に該当するとして、Xを懲戒譴責処分に付したもの」である。

 これは富士重工業事件であるが、最高裁(最判S52,12,13)は次のように判示した。

1 企業秩序は、企業の存立と事業の円滑な運営の維持のため必要不可欠のものであり、企業はこの企業秩序を維持確保するため、これに必要な諸事項を規則をもって一般的に定め、あるいは具体的に労働者に指示、命令することができ、また、「企業秩序に違反する行為があった場合には、その違反行為の内容、態様、程度等を明らかにして、乱された企業秩序の回復に必要な業務上の指示、命令を発し、又は違反者に対し制裁として懲戒処分を行うため、事実関係の調査をすることができる」ことは、当然のことといわなければならない。

2 しかしながら、企業が企業秩序違反事件について調査をすることができるということから直ちに、「労働者が、これに対応して、いつ、いかなる場合にも、当然に、企業の行う調査に協力すべき義務を負っているものと解することはできない。」けだし、労働者は、労働契約を締結して企業に雇用されることによって、「企業に対し、労務提供義務を負うとともに、これに付随して、企業秩序遵守義務その他の義務を負うが、企業の一般的な支配に服するものということはできない」からである。

3 この観点すれば、「当該労働者が他の労働者に対する指導、監督ないし企業秩序の維持などを職責とする者であって、右調査に協力することがその職務の内容となっている場合」には、右調査に協力することは労働契約上の基本的義務である労務提供義務の履行そのものであるから、調査に協力すべき義務を負うものといわなければならないが、「右以外の場合」には、調査対象である違反行為の性質、内容、当該労働者の右違反行為見聞の機会と職務執行との関連性、より適切な調査方法の有無等諸般の事情から総合的に判断して、「右調査に協力することが労務提供義務を履行する上で必要かつ合理的であると認められない限り、右調査協力義務を負うことはない」ものと解するのが、相当である。

4 以上を前提に、右調査に協力すべきことがXの職務内容となっていたことは、原審の認定しないところであり、また、Xが右調査に協力することがXの労務提供義務の履行にとって必要かつ合理的であったとはいまだ認めがたいとして、Xには本件調査に協力すべき義務はなく、したがって、右義務のあることを前提としてされた本件懲戒処分は違法無効である、とした。

 要するに、社内調査における協力義務の有無は、(1)調査協力が職務の内容となっているか、(2)調査協力が労務提供義務を履行する上で必要かつ合理的といえるか、という観点から判断しなければならないということです。

 メールによるご相談は、m-sgo@gaia.eonet.ne.jpまでお気軽にどうぞ(無料)。

07年05月26日 | Category: 労働関係
Posted by: marutahoumuj
ページ移動 前へ 1,2, ... ,17,18,19, ... ,20,21 次へ Page 18 of 21