事案は、「観光バスの副運転手が、誘導のため下車しようとしたときに、同僚運転手が前進発進したため、そのバスに着地していた左足を轢過され、その結果生じた逸失利益と慰謝料を、民法715条1項の使用者責任を根拠に、損害賠償として請求したもの」である。

 これは、東都観光バス事件であるが、控訴審が、逸失利益については棄却し、慰謝料については200万円を認定した上、原告に過失ありとして過失相殺をし、かつ労災保険に基づく障害補償一時金および使用者等からの弁償金についても過失相殺の対象とし、先の慰謝料から控除したのに対し、最高裁(最判S58、4、19)は、次のように判示して、破棄差戻した。

 「労働者に対する災害補償は、労働者の被った財産上の損害の填補のためにのみされるものであって、精神上の損害の填補の目的をも含むものではない」から、・・・・・・・・・・前記上告人が受領した「労災保険による障害補償一時金及び休業補償金のごときは、上告人の財産上の損害の賠償請求権にのみ充てられるべき筋合のものであって、上告人の慰謝料請求権には及ばない」ものというべきであり、従って上告人が右補償金を受領したからといってその全部ないし一部を上告人の被った精神上の損害を填補すべきものとして認められた慰謝料から控除することは許されない。

 このように、わが国の最高裁判例は、労災保険法に基づく給付を、財産上の損害の填補であり、精神上の損害を含まないものと解していますから、慰謝料と労災保険法を調整するのは誤りなのです。ただ、「慰謝料」は、財産的損害を除く純粋な精神的損害のみを含んでいることが前提ですから、注意が必要です。

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07年06月18日 | Category: 労働関係
Posted by: marutahoumuj
 事案は、「Y会社の就業規則には、女子従業員は毎月生理休暇を必要日数だけとることができ、そのうち年間24日を有給とすると定められていた。Y会社はこれを、Xら及びXら所属の労働組合の同意を得ないままで、女子従業員は毎月生理休暇を必要日数だけとることができ、そのうち月2日を限度とし、1日につき基本給1日分の68%を補償するという規定に変更した。Xらは、Yに対し、右の新規定の下で生理休暇の取得により減額された賃金の支払を請求したもの」である。

 これは、タケダシステム事件であるが、最高裁(最判S58,11,25)は、次のように判示して、Xらの請求を認容した原審を破棄し、差し戻した。

1 新たな就業規則の作成または変更によって、労働者の既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは原則として許されないが、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由としてその適用を拒むことは許されないと解すべきことは、当裁判所の判例とするところであって、今これを変更する必要をみない。

2 したがって、本件就業規則の変更がXらにとって不利益なものであるにしても、右変更が合理的なものであれば、Xらにおいて、これに同意しないことを理由として、その適用を拒むことは許されないというべきである。そして、右変更が合理的なものであるか否かを判断するに当たっては、変更の内容及び必要性の両面からの考察が要求され、右変更により従業員の被る不利益の程度、右変更との関連の下に行われた賃金の改善状況のほか、Y主張のように、旧規定の下において有給生理休暇の取得について濫用があり、社内規律の保持及び従業員の公平な処遇のため右変更が必要であったか否かを検討し、更には労働組合との交渉の経過、他の従業員の対応、関連会社の取扱い、我が国社会における生理休暇制度の一般的状況等の諸事情を総合勘案する必要がある。

3 原審が、長期的に実質賃金の低下を生ずるような就業規則の変更はそもそも許されないとの見解の下に、本件の変更が合理的なものか否かに触れることなく、それはXらに対し効力を生じないと速断したのは、就業規則に関する法令の解釈適用を誤ったものである。

 前にも述べましたが、就業規則の変更には、労働組合等の意見を聞く必要はありますが、同意までは要求されません。ただし、それが「合理的」なものでなければなりません。

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07年06月16日 | Category: 労働関係
Posted by: marutahoumuj
 事案は、「郵政省と全逓との労働協約によって、計画年休制度が定められ、前年度及び前々年度で未取得の年休について、年度当初に労使間で話合い労働者の希望の月日を所属長が決定することになっている。Xらは高知郵便局集配課(局長Y)に勤務し、昭和46年度当初において、X1は6月26日、X2は6月24日が計画休暇付与予定日と決定されたが、集配課長はX1に対しては6月24日に、X2に対しては23日にそれぞれ休暇予定日を変更する旨通知した。しかし、X1とX2はいずれも予定日に欠勤したため、Yは2名を戒告処分としたもの」である。

 これは、高知郵便局事件であるが、最高裁(最判S58,9,30)は、時季変更権の行使を適法とし、処分も有効とした原判決を破棄し、差戻した。

1 年休と協約による協定年休について                                                      上告人ら及び被上告人の双方共に、休暇付与計画の変更が許されるのは、右計画を実施することが法39条3項但書き(現同条4項但書き)にいう「事業の正常な運営を妨げる場合」に限られるとの解釈を採っていることが明らかである。また、本件労働協約等は、法内休暇、協定休暇の区別を問わず、休暇を法39条所定の基準により一律に取り扱うこととしているものと解するのが相当である。

2 時季変更権行使の時期について                                             「年度の途中において時季変更権を行使し、右計画の休暇付与予定日を変更することができるのは、計画決定時においては予測できなかった事態発生の可能性が生じた場合に限られる。」「その場合においても、時季変更により職員の被る不利益を最小限にとどめるため、所属長は、右事態発生の予測が可能になってから合理的期間内に時季変更権を行使しなければならず、不当に遅延した時季変更権の行使が許されないものと解する。」

3 本件の休暇変更は、6月予定日の直前になされており、また、変更の理由も、同月27日の参議院議員選挙投票日を控えての配達郵便物数が平常より増加することが見込まれることを理由としているが、もしこの接した時期になって初めて右事態発生の予測が可能となったものであり、本件休暇付与予定日の変更が不当に遅延してなされたものでないというのであれば、右変更をもって有効なものと認めることができる。しかしながら、原審は、高知郵便局集配課においては年度途中の予測できない病気休暇や職員の希望による計画休暇の変更が従来少なくなく、また、郵便集配業務の特殊性として郵便物数を前もって把握することが困難であるという一般的事情に触れるのみで、右事態の発生がいつの時点において予測可能となったかについて何ら確定することなく、殊に参議院議員選挙投票日が相当以前から明らかになっているものであることとの関係について説明せず、本件計画休暇付与予定日の変更を有効としているのであって、原判決にはこの点において審理不尽、理由不備の違法があるといわざるをえない。

 この判例は、時季変更権を行使できる場合とその行使時期について厳格に解しており、年休の権利性を強化するものであろう。

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07年06月15日 | Category: 労働関係
Posted by: marutahoumuj
 事案は、「ホテルオークラの従業員で組織する労働組合は、賃上げ闘争の一環として、就業時間中にリボンを着用するいわゆるリボン闘争を2回にわたり実施し、各回とも当日就業した従業員の一部の者が参加した。胸に着用したリボンは、布地により紅白の花もしくは桃の花をあしらいそこから幅2,5センチメートル、長さ6〜11センチメートルの白布地を垂らしたもので、その白布地の部分に「要求貫徹」あるいはそれに加えて「ホテル労連」の文字が黒色もしくは朱色スタンプで印されていた。会社は、リボン闘争を実施しないよう警告したが組合がそれを無視して実施したので、組合幹部5人の幹部責任を問い、減給及び譴責の懲戒処分を行った。 処分を受けた組合幹部が懲戒処分は不当労働行為に該当するとして救済の申立を行ったところ、都労委は救済を認容し、処分の取消と減給にかかる賃金相当分の支払を命じた。そこで、会社は、命令の取消を求める行政訴訟を起こしたもの」である。

 これは、大成観光事件であるが、最高裁(最判S57,4,13)は、原審の判断を是認し、上告を棄却した。

 第1審の東京地裁は、「一般にリボン闘争は、組合活動の面においては経済的公正を欠き誠実に労務に服すべき労働者の義務に違背するが故に、また争議行為の面においては労働者に心理的二重構造をもたらし、また、使用者はこのような戦術に対抗しうる争議手段をもたないが故に、違法であること、また、ホテル業におけるリボン闘争は、業務の正常な運営を阻害する意味合いが強いので、特別の違法性を有することを理由として、本件懲戒処分は不当労働行為に該当しないものと判断し、救済命令を取消した。」

 第2審の東京高裁は、一部理由を修正したほか第1審判決を支持し、控訴を棄却した。これに対して、都労委が上告したものである。

 この最高裁の判決は、およそリボン闘争はすべて正当性を欠くとの立場に立つのか、それとも本件事案のようなホテル業におけるリボン闘争に限って正当性を否定する趣旨なのか、明確でないことに注意する必要があります。

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07年06月14日 | Category: 労働関係
Posted by: marutahoumuj
 事案は、「Xらは、Y(三菱重工長崎造船所)の従業員で、訴外三菱重工長崎造船所労働組合(以下長船労組)の組合員である。長船労組は昭和47年7月、8月ストライキを実施した。このため、Yは賃金支払日の各20日にストライキ期間中の時間割賃金をカットし、家族手当も例外としなかった。この家族手当は、Yの就業規則(社員賃金規則)に基づき従業員の扶養家族数に応じて支払われていたものである。Xらは、(1)家族手当は労働者の仕事量、勤務時間に関係なく支払われる生活補助的賃金であり、(2)また、家族手当を時間外労働等の割増賃金算定の基礎にしていない労基法37条の法意からも、右手当を時間割してストライキ期間相当額をカットすることは違法であると主張し、カット分の支払いを請求したもの」である。

 これは、三菱重工長崎造船所事件であるが、最高裁(最判S56,9,18)は、Xらの請求を認容した原判決を破棄し、次のように判示した。

 長崎造船所においては、ストライキの場合における家族手当の削減が昭和23年頃から昭和44年10月までは就業規則(賃金規則)の規定に基づいて実施されており、その取扱いは、同年11月賃金規則から右規定が削除されてからも、細部取扱のうちに定められ、Y従業員の過半数で組織された三菱重工労働組合の意見を徴しており、その後も同様の取扱いが引続き異議なく行われてきたというのであるから、ストライキの場合における家族手当の削減は、YとXらの所属する長船労組との間の労働慣行となっていたものと推認することができるというべきである。また、右労働慣行は、家族手当を割増賃金の基礎となる賃金に算入しないと定めた労基法37条2項及び本件賃金規則25条の趣旨に照らして著しく不合理であると認めることもできない。

 家族手当については、就業規則ではなく労働協約等に別段の定めがあるとか、その旨の労働慣行がある場合のほかは例外的取扱は許されないとする下級審の判決例があることには、注意を要します。

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07年06月13日 | Category: 労働関係
Posted by: marutahoumuj
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