07年06月12日
ロックアウトと賃金請求権
事案は、「Xらは、一般放送事業を営むY会社の従業員であり、訴外AはXらにより組織された労働組合である。Aは、Yに対し、賃上げ等を含む春闘要求を行ったが、決着をみないまま、3月に入って新たにYは、新番組編成に伴うテレビ放送時間の延長を計画し、これに伴う人事異動計画を組合に提示した。これらの問題につき、YとAとは30数回にわたって団交を行ったが、妥結に至らなかった。この間、Aは時限ストをはじめとして十数波にわたるストライキをした他、現に人事異動が実施された4月下旬以降は新勤務拒否ないし配転拒否闘争、さらには法定外休日出勤拒否闘争を行った。しかし、これらの闘争によって、具体的な放送業務の障害又は放送事故は発生せず、また、このような事故等の発生する具体的な緊迫した危険性もなかった。ところが、Yは、5月6日、Aに対しロックアウトに入る旨通告して、本社社屋の重要部分をバリケードし、有刺鉄線で囲んでXら組合員の立入りを禁止し、以後ロックアウトが解除された7月4日まで非組合員を使って放送業務を遂行した。この間、何度か団交がもたれたが、不調に終わり、Aが地労委に斡旋を申請し、7月4日、労使双方が地労委の提示した斡旋案を受諾し、協定が成立したことによってロックアウトが解除された。本件は、このロックアウト期間中の賃金請求権の存否が争われたもの」である。
これは、山口放送事件であるが、最高裁(最判S55,4,11)は、原審の判断を是認して、次のように判示した。
1 思うに、「個々の具体的な労働争議の場において、労働者の争議行為により使用者側が著しく不利な圧力を受けることになるような場合には、「衡平の原則」に照らし、労使間の勢力の均衡を回復するための対抗防衛手段として相当性を認められる限りにおいては、使用者の争議行為も正当なものとして是認される」と解すべきであり、使用者のロックアウトが正当な争議行為として是認されるかどうかも、右に述べたところに従い、個々の具体的な労働争議における労使間の交渉態度、経過、組合側の争議行為の態様、それによって使用者側の受ける打撃の程度等に関する具体的諸事情に照らし、「衡平の見地」から見て労働者側の争議行為に対する対抗防衛手段として相当と認められるかどうかによってこれを決すべく、「このような相当性を認めうる場合には、使用者は、正当な争議行為をしたものとして、右ロックアウト期間中における対象労働者に対する個別的労働契約上の賃金支払義務を免れるものというべきである。」
2 Yは、本社社屋2階の組合事務所とこれに通ずる通路を除いて、右社屋の重要部分をバリケード及び有刺鉄線で囲んでXら組合員の立入りを禁止し、会社としてはAがY側の提案を大筋において受け入れない限り本件ロックアウトを解除する考えがなかった、というのであるから、本件においては、組合事務所及びこれに通ずる通路を除く本社社屋全体について一体不可分のロックアウトがされたものというべきである。したがって、本件ロックアウトの一部を部分ロックアウトとして可分的にその効力を判断することは許されないというべきである。
このようにして、本件ロックアウトを違法と判断し、Xらの請求を認めたものであるが、ロックアウトの正当性を当該労働争議における個々の具体的諸事情に照らしつつ、「衡平の見地」から総合的に判断することに注意を要します。
メールによるご相談は、m-sgo@gaia.eonet.ne.jpまでお気軽にどうぞ(無料)。
これは、山口放送事件であるが、最高裁(最判S55,4,11)は、原審の判断を是認して、次のように判示した。
1 思うに、「個々の具体的な労働争議の場において、労働者の争議行為により使用者側が著しく不利な圧力を受けることになるような場合には、「衡平の原則」に照らし、労使間の勢力の均衡を回復するための対抗防衛手段として相当性を認められる限りにおいては、使用者の争議行為も正当なものとして是認される」と解すべきであり、使用者のロックアウトが正当な争議行為として是認されるかどうかも、右に述べたところに従い、個々の具体的な労働争議における労使間の交渉態度、経過、組合側の争議行為の態様、それによって使用者側の受ける打撃の程度等に関する具体的諸事情に照らし、「衡平の見地」から見て労働者側の争議行為に対する対抗防衛手段として相当と認められるかどうかによってこれを決すべく、「このような相当性を認めうる場合には、使用者は、正当な争議行為をしたものとして、右ロックアウト期間中における対象労働者に対する個別的労働契約上の賃金支払義務を免れるものというべきである。」
2 Yは、本社社屋2階の組合事務所とこれに通ずる通路を除いて、右社屋の重要部分をバリケード及び有刺鉄線で囲んでXら組合員の立入りを禁止し、会社としてはAがY側の提案を大筋において受け入れない限り本件ロックアウトを解除する考えがなかった、というのであるから、本件においては、組合事務所及びこれに通ずる通路を除く本社社屋全体について一体不可分のロックアウトがされたものというべきである。したがって、本件ロックアウトの一部を部分ロックアウトとして可分的にその効力を判断することは許されないというべきである。
このようにして、本件ロックアウトを違法と判断し、Xらの請求を認めたものであるが、ロックアウトの正当性を当該労働争議における個々の具体的諸事情に照らしつつ、「衡平の見地」から総合的に判断することに注意を要します。
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07年06月11日
争議行為中における使用者の操業の自由
事案は、「山陽電気軌道株式会社では、私鉄総連傘下の私鉄中国地方労働組合山陽電軌支部(以下「支部組合」という)と、会社に極めて協力的な山陽電軌労働組合(以下「山労」という)とがあったが、昭和36年の春闘にあたり、支部組合は賃上げ等を要求して団体交渉を会社側と行ったが、決裂に到った。かくして、支部組合は、無期限全面ストに突入することを決め、その実効を期すため、車両を会社車庫に格納してピケをはった。一方、山労組合員の就労を前提に争議中も運行業務を継続しようと企図した会社は、山労執行部とも十分協議の上、その組合員を中心に「移動隊」を編成するなど事前に周到な準備を行い、所定の各地に車両を分散して保全看守する対抗措置をとった。そこで、支部組合員らは、(1)会社が分散目的で取引先の整備工場や系列下の自動車学校に預託していたバスを搬出・確保するため、多数の威力を示して、看守者の意思に反して当該建造物内に立入ったこと(建造物侵入)、(2)会社の指示により山労組合員が分散地へ回送中のバス等を、多数人の暴力を伴う威力を用いて奪取し、支部組合側の支配下においたこと(威力業務妨害)、(3)支部組合員らと山労組合員らとが衝突した際に、殴打、蹴りつける等の暴力の行使に及んだこと(暴行・傷害)、(4)衝突の規制にあたった警察官に暴行を加え、その逮捕行為を妨害したこと(公務執行妨害)について、起訴されたもの」である。
この事件に関して、最高裁(最決S53、11,15)は次のように判示した。
1 「使用者は、労働者側がストライキを行っている期間中であっても、操業を継続することができる」ことは、当裁判所の判例の趣旨とするところである・・・・・・・・・。使用者は、労働者側の正当な争議行為によって業務の正常な運営が阻害されることは受忍しなければならないが、「ストライキ中であっても業務の遂行自体を停止しなければならないものではなく、操業阻止を目的とする労働者側の争議手段に対しては操業を継続するために必要とする対抗措置をとることができる」と解すべきであり、このように解しても所論の指摘するいわゆる労使対等の原則に違背するものではない。
2 したがって、「使用者が操業を継続するために必要とする業務は、それが労働者側の争議手段に対する対抗措置として行われたものであるからといって、威力業務妨害罪によって保護されるべき業務としての性格を失うものではない」というべきである。
争議行為の限界を示したものであるが、争議権の本質と絡んで難しい問題である。このような事案について、常に威力業務妨害罪が成立するとするならば、憲法が争議権を保障した意義を没却することにもなりかねないであろう。
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この事件に関して、最高裁(最決S53、11,15)は次のように判示した。
1 「使用者は、労働者側がストライキを行っている期間中であっても、操業を継続することができる」ことは、当裁判所の判例の趣旨とするところである・・・・・・・・・。使用者は、労働者側の正当な争議行為によって業務の正常な運営が阻害されることは受忍しなければならないが、「ストライキ中であっても業務の遂行自体を停止しなければならないものではなく、操業阻止を目的とする労働者側の争議手段に対しては操業を継続するために必要とする対抗措置をとることができる」と解すべきであり、このように解しても所論の指摘するいわゆる労使対等の原則に違背するものではない。
2 したがって、「使用者が操業を継続するために必要とする業務は、それが労働者側の争議手段に対する対抗措置として行われたものであるからといって、威力業務妨害罪によって保護されるべき業務としての性格を失うものではない」というべきである。
争議行為の限界を示したものであるが、争議権の本質と絡んで難しい問題である。このような事案について、常に威力業務妨害罪が成立するとするならば、憲法が争議権を保障した意義を没却することにもなりかねないであろう。
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07年06月01日
解雇権の濫用
事案は、「Y会社と組合との間には、新機械の導入に関し意見の対立が見られたが、この間Xは、他の従業員に職場離脱をさせたり、無届集会をしたり、会社役員の入門を阻止したりとの行為が、会社の職場規律を害するものとして使用者により懲戒解雇された。この時、組合委員長や他の組合員も出勤停止、減給、けん責などの処分を受けている。組合は地労委に不当労働行為を申立て、処分撤回の和解が成立したが、この和解には和解の成立の日をもってXが退職する旨の規定が含まれていた。しかし、Xには退職する意思はなかったため、組合は、Xが退職に応じないときは組合から離脱せしめることも止むを得ないと考えて、Xを離籍(除名)処分に付した。Y会社と組合との間には、「会社は組合を脱退し、または除名された者を解雇する。」旨のユニオン・ショップ協定が結ばれており、Y会社は、この協定に基づきXを解雇した。そこで、Xは、雇用関係の存在確認の請求を行ったもの」である。
これは、日本食塩製造事件であるが、最高裁(最判S50,4,25)は次のように判示した。
1 「使用者の解雇権の行使も、それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効になる」と解するのが相当である。
2 ユニオン・ショップ協定は、労働者が労働組合の組合員たる資格を取得せず又はこれを失った場合に、使用者をして当該労働者との雇用関係を終了させることにより間接的に労働組合の組織の拡大強化を図ろうとする制度であり、このような制度としての正当な機能を果たすものと認められる限りにおいてのみその効力を承認することができるものであるから、「ユニオン・ショップ協定に基づき使用者が労働組合に対し解雇義務を負うのは、当該労働者が正当な理由がないのに労働組合に加入しないために組合員たる資格を取得せず又は労働組合から有効に脱退し若しくは除名されて組合員たる資格を喪失した場合に限定され、除名が無効な場合には、使用者は解雇義務を負わない」ものと解すべきである。
3 そして、労働組合から除名された労働者に対し、ユニオン・ショップ協定に基づく労働組合に対する義務の履行として使用者が行う解雇は、その協定によって使用者に解雇義務が発生している場合に限り、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当なものとして是認することができるのであり、「同除名が無効な場合には、使用者に解雇義務が生じないから、かかる場合には、客観的に合理的な理由を欠き社会的に相当なものとして是認することはできず、他に解雇の合理性を裏付ける特段の事由がない限り、解雇権の濫用として無効である」と言わなければならない。
要するに、ユニオン・ショップ協定に基づいて使用者が労働者を解雇するには、前提となる労働組合の除名処分が有効でなければならないということです。
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これは、日本食塩製造事件であるが、最高裁(最判S50,4,25)は次のように判示した。
1 「使用者の解雇権の行使も、それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効になる」と解するのが相当である。
2 ユニオン・ショップ協定は、労働者が労働組合の組合員たる資格を取得せず又はこれを失った場合に、使用者をして当該労働者との雇用関係を終了させることにより間接的に労働組合の組織の拡大強化を図ろうとする制度であり、このような制度としての正当な機能を果たすものと認められる限りにおいてのみその効力を承認することができるものであるから、「ユニオン・ショップ協定に基づき使用者が労働組合に対し解雇義務を負うのは、当該労働者が正当な理由がないのに労働組合に加入しないために組合員たる資格を取得せず又は労働組合から有効に脱退し若しくは除名されて組合員たる資格を喪失した場合に限定され、除名が無効な場合には、使用者は解雇義務を負わない」ものと解すべきである。
3 そして、労働組合から除名された労働者に対し、ユニオン・ショップ協定に基づく労働組合に対する義務の履行として使用者が行う解雇は、その協定によって使用者に解雇義務が発生している場合に限り、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当なものとして是認することができるのであり、「同除名が無効な場合には、使用者に解雇義務が生じないから、かかる場合には、客観的に合理的な理由を欠き社会的に相当なものとして是認することはできず、他に解雇の合理性を裏付ける特段の事由がない限り、解雇権の濫用として無効である」と言わなければならない。
要するに、ユニオン・ショップ協定に基づいて使用者が労働者を解雇するには、前提となる労働組合の除名処分が有効でなければならないということです。
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07年05月31日
労働者の損害賠償責任
事案は、「Y会社は、石油等の輸送・販売を業としているが、Xは、業務上タンクローリーを運転中、追突事故を起こした。そのため、Y会社は、使用者責任に基づき、追突された車両の所有者に対し、車両の損害賠償として約7万円を支払い、また、破損したY会社のタンクローリーの修理費及び修理のための休車期間中の逸失利益として約33万円の損害を被った。そこで、Y会社は、X及びその身元保証人に対し、被害者への損害賠償分の求償とY会社が直接被った損害に対する賠償を請求したもの」である。
これは、茨石事件であるが、原審は、損害額のうち4分の1を超える部分についての賠償及び求償の請求は信義則上許されないと判断したので、Y会社が上告した。これに対し、最高裁(最判S51,7,8)は、次のように判示した。
1 使用者が、その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により、直接損害を被り又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被った場合には、「使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防もしくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し、右損害の賠償または求償の請求をすることができる」ものと解すべきである。
2 (1)Y会社の、資本金800万円、従業員約50名、業務用車両20台、経費節減のため、右車両につき対人賠償責任保険にのみ加入し、対物賠償責任保険及び車両保険には未加入という事実、(2)Xは、主として小型貨物自動車の運転業務に従事し、タンクローリーには特命により臨時的に乗務するに過ぎず、事故当時、Xは、重油をほぼ満載したタンクローリーを運転して交通の渋滞し始めた国道上を進行中、車間距離不保持及び前方注視不十分等の過失により、急停車した先行車に追突したという事実、(3)事故当時、Xの月給は4万5000円であり、勤務成績は普通以上であったという事実を認定し、「これらの事実関係の下においては、Yがその直接被った損害及び被害者に対する損害賠償義務の履行により被った損害のうち、Xに対して賠償及び求償しうる範囲は、信義則上右損害額の4分の1を限度とすべきであり」として、原審の判断を是認した。
要するに、会社が被用者に対して賠償及び求償しうる範囲は、「全額」ではなく、会社の規模や労働条件等に照らして、「損害の公平な分担」という見地から「信義則上相当と認められる限度」、においてしか認められないということです。
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これは、茨石事件であるが、原審は、損害額のうち4分の1を超える部分についての賠償及び求償の請求は信義則上許されないと判断したので、Y会社が上告した。これに対し、最高裁(最判S51,7,8)は、次のように判示した。
1 使用者が、その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により、直接損害を被り又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被った場合には、「使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防もしくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し、右損害の賠償または求償の請求をすることができる」ものと解すべきである。
2 (1)Y会社の、資本金800万円、従業員約50名、業務用車両20台、経費節減のため、右車両につき対人賠償責任保険にのみ加入し、対物賠償責任保険及び車両保険には未加入という事実、(2)Xは、主として小型貨物自動車の運転業務に従事し、タンクローリーには特命により臨時的に乗務するに過ぎず、事故当時、Xは、重油をほぼ満載したタンクローリーを運転して交通の渋滞し始めた国道上を進行中、車間距離不保持及び前方注視不十分等の過失により、急停車した先行車に追突したという事実、(3)事故当時、Xの月給は4万5000円であり、勤務成績は普通以上であったという事実を認定し、「これらの事実関係の下においては、Yがその直接被った損害及び被害者に対する損害賠償義務の履行により被った損害のうち、Xに対して賠償及び求償しうる範囲は、信義則上右損害額の4分の1を限度とすべきであり」として、原審の判断を是認した。
要するに、会社が被用者に対して賠償及び求償しうる範囲は、「全額」ではなく、会社の規模や労働条件等に照らして、「損害の公平な分担」という見地から「信義則上相当と認められる限度」、においてしか認められないということです。
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07年05月30日
安全配慮義務違反と使用者の責任
労働関係の記事については、難しいという意見が寄せられていますので、事案・判旨ともに分かりやすさを心掛けていきたいと思っています。
事案は、「反物、毛皮、宝石の販売等を営む会社の新入社員が、一人で宿直中に、窃盗の目的で来訪した元従業員に殺害された事件に関して、新入社員の親が会社に対して損害賠償の請求をしたもの」である。
これは、川義事件であるが、最高裁(最判S59,4,10)は次のように判示した。
1 雇用契約は、労働者の労務提供と使用者の報酬支払をその基本内容とする双務有償契約であるが、通常の場合、労働者は、使用者の指定した場所に配置され、使用者の供給する設備、器具等を用いて労務の提供を行うものであるから、「使用者は、右の報酬支払義務にとどまらず、労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示の下に労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)を負っている」ものと解するのが相当である。
2 本件の場合、「宿直勤務の場所である本件社屋内に、宿直勤務中に盗賊等が容易に侵入できないような物的設備を施し、かつ、万一盗賊が侵入した場合は盗賊から加えられるかもしれない危害を免れることができるような物的施設を設けるとともに、これら物的施設等を十分に整備することが困難であるときは、宿直員を増員するとか宿直員に対する安全教育を十分に行うなどし、もって右物的施設等と相まって労働者の生命、身体等に危険が及ばないように配慮する義務があった」ものと解すべきである。
3 そして、本件では、右義務の不履行があり、かつ、義務の履行があれば殺害という事故の発生を未然に防止しえたとして因果関係を認め、会社の損害賠償責任を肯定した。
安全配慮義務違反による損害賠償責任は、労働契約に基づく債務不履行責任でありますから、不法行為に基づく損害賠償責任と異なり、落ち度がないことを債務者たる会社の方で立証しなければならないことに注意しましょう。
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事案は、「反物、毛皮、宝石の販売等を営む会社の新入社員が、一人で宿直中に、窃盗の目的で来訪した元従業員に殺害された事件に関して、新入社員の親が会社に対して損害賠償の請求をしたもの」である。
これは、川義事件であるが、最高裁(最判S59,4,10)は次のように判示した。
1 雇用契約は、労働者の労務提供と使用者の報酬支払をその基本内容とする双務有償契約であるが、通常の場合、労働者は、使用者の指定した場所に配置され、使用者の供給する設備、器具等を用いて労務の提供を行うものであるから、「使用者は、右の報酬支払義務にとどまらず、労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示の下に労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)を負っている」ものと解するのが相当である。
2 本件の場合、「宿直勤務の場所である本件社屋内に、宿直勤務中に盗賊等が容易に侵入できないような物的設備を施し、かつ、万一盗賊が侵入した場合は盗賊から加えられるかもしれない危害を免れることができるような物的施設を設けるとともに、これら物的施設等を十分に整備することが困難であるときは、宿直員を増員するとか宿直員に対する安全教育を十分に行うなどし、もって右物的施設等と相まって労働者の生命、身体等に危険が及ばないように配慮する義務があった」ものと解すべきである。
3 そして、本件では、右義務の不履行があり、かつ、義務の履行があれば殺害という事故の発生を未然に防止しえたとして因果関係を認め、会社の損害賠償責任を肯定した。
安全配慮義務違反による損害賠償責任は、労働契約に基づく債務不履行責任でありますから、不法行為に基づく損害賠償責任と異なり、落ち度がないことを債務者たる会社の方で立証しなければならないことに注意しましょう。
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