事案は、「3ヶ月の試用期間を設けて採用された者が、採用試験の際に提出を求めた身上書の所定の記載欄に虚偽の記載をし、または記載すべき事項を秘匿し、面接試験における質問に対しても虚偽の回答をしたことを理由として、試用期間の満了直前に、本採用を拒否されたもの」である。

 有名な三菱樹脂事件であるが、最高裁(最判S48,12,12)は次のように判示した。

1 企業者は、経済活動の一環としてする契約締結の自由を有し、自己の営業のために労働者を雇用するに     当たり、いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができるのであって、企業者が特定の思想・信条を有する者をそのゆえをもって雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできない。

2 また、当該雇用契約を解約権留保付の雇用契約と認め、採用拒否は雇入れ後における解雇に当たるとし、当該留保約款の合理性を肯定した上で、留保解約権に基づく解雇と通常の解雇とを区別し、前者の場合は後者の場合よりも広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべきものとした。

3 そして、企業者が、採用決定後における調査により、または試用中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合において、そのような事実に照らしその者を引き続き当該企業に雇用しておくのが適当でないと判断することが、上記解約権留保の趣旨・目的に徴して、「客観的に相当であると認められる場合」には、さきに留保した解約権を行使することができる。

 この判例については、様々な憲法上の論点を孕む上に、企業者の裁量を広く認めすぎているきらいもあるが、「客観的相当性」がない場合には留保解約権を行使することができない、という点には注意しなければならない。

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07年05月09日 | Category: 労働関係
Posted by: marutahoumuj
 今回から、労働関係に関するものも記事にしたいと思っています。

 まず手始めは、試行雇用契約と試用期間の違いです。

 試行雇用契約は、「試用を目的とする有期労働契約」であって、企業が労働者の適性や能力を見極めた上で本採用にするか否かを決めるものです。

 これに対し、試用期間というのは、「期間の定めのない労働契約」であることを前提に、試用期間を設けるものです。

 この両者は、概念的には「契約存続期間」と「試用期間」と明確に区別することができるのですが、具体的ケースでは問題になることがあります。

 そこで、最高裁は、「使用者が労働者を新規に採用するに当たり、その雇用契約に期間を設けた場合において、その設けた趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものであるときは、右期間の満了により右雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き、右期間は「契約の存続期間」ではなく、「試用期間」であると解するのが相当である。」と判示しています(最判H2・6・5)。

 つまり、このような場合、原則として期間の定めのない契約における「試用期間」であって、例外的に期間満了で当然に雇用契約が終了するとの明確な合意がなされているような特段の事情があるときに限って、「契約存続期間」となる、というものです。

 メールによるご相談は、m-sgo@gaia.eonet.ne.jpまでお気軽にどうぞ(無料)。

07年05月08日 | Category: 労働関係
Posted by: marutahoumuj
07年05月07日

国家の品格

 読んだ方も多いと思いますが、一昨年末に出版され、ベストセラーとなった藤原正彦氏の「国家の品格」を読む機会に恵まれた。

 氏は、現在の荒廃した社会は、「論理」や「合理精神」が破綻した結果ではないかと主張されている。

 その内容には立ち入らないけれども、戦後、我が国は祖国への誇りや自身を失うように教育され、すっかり足腰の弱っていた日本人は、世界に誇るべき我が国古来の「情緒と形」をあっさり忘れ、市場経済に代表される、欧米の「論理と合理」に身を売ってしまい、「国家の品格」をなくしてしまった、と論じている。

 そして、日本は、金銭至上主義を何とも思わない野卑な国々とは、一線を画す必要があり、日本人一人一人が美しい情緒と形を身につけ、品格ある国家を保つことは、日本人として生まれた真の意味であり、人類への責務と思うと述べられ、ここ4世紀間ほど世界を支配した欧米の教義の破綻から世界を本格的に救えるのは、日本人しかいない思う、という言葉で結ばれている。

 中々うなずける箇所があり、興味深い一冊であった。

 今回はこの辺で。

07年05月07日 | Category: つぶやき
Posted by: marutahoumuj
 以前にも、大手消費者金融会社が貸出審査を厳格化していることは記事にしましたが、その流れは止まらないようです。

 消費者金融は、これまで、いわゆる高金利のグレーゾーン金利で多数の顧客に貸し出すことにより、返済できない顧客による損失を上回る利益を上げてきました。しかし、昨年末に成立した改正貸金業規制法は、平成21年末までに、個人ローンの上限金利を利息制限法並みの15~20%に引き下げるほか、借り手一人当たりの貸付総額に上限を設ける総量規制を導入しています。

 こうなると、不良債権が生じないようにしなければ、収益の悪化は避けられません。

 大手4社の今年2月の新規貸付の平均契約率は、44,5%であり、前年同期の64,3%と比べると、約20ポイント低下しており、実に2人に1人が融資を断られているのです。

 また、これまでの高金利に頼った経営戦略のツケが、今のしかかっているのです。消費者金融大手4社の今年3月期連結決算の最終赤字が、合計1兆円規模に上る見通しであることが、先月17日に判明しております。これは、利息制限法の上限を超える「過払い利息」の返還請求の増加に歯止めがかからず、引当金の一層の積み増しを、せざるを得なくなっているからなのです。

 大手各社は、店舗閉鎖や人員削減など大胆なリストラだけでなく、貸出審査の厳格化という経営方針によって、生き残りを賭けようとしています。

 その一方で、中小の消費者金融会社は、規制強化を受けて銀行やノンバンクが中小業者への融資を手控えるようになったため、廃業が続出しているのです。

 これまで大手から新規貸付を断られた人は、大手より審査が緩い中小業者に頼ってきたが、中小業者の廃業により、どこからも借りられない人は、どこから融資を受けるのであろうか。ヤミ金に走らないことを祈るのみである。

 今回はこの辺で。

07年05月02日 | Category: つぶやき
Posted by: marutahoumuj
 長崎市長選は、まだ終わっていない。

 田上新市長が当選した翌日の4月23日から、「選挙は無効だ、やり直せ」などの嫌がらせ電話が相次いでいるという。そのため、市長の公式行事には私服警官を付けたり、市長の自宅周辺の警備強化を余儀なくされている。

 確かに、田上氏と横尾氏の得票数は953票の僅差であって、しかも、前市長の「伊藤一長」と書かれたものなどの無効票が1万票を超えるという混乱ぶりからすれば、いわば「世襲派」の気持ちも分からないではない。

 しかし、横尾氏が当選できなかったのは、自分が無効票を投じたからではないのか。

 私は、政治家の世襲制には前から疑問を持っていた。親が政治家としての資質や能力を有していたとしても、その子供に同様の資質や能力が備わっているとは限らないからだ。

 勿論、子供に政治家としての資質や能力が備わっているのであれば、親の「地盤」「看板」「カバン」を利用して、当選することに異議を唱えるものではない。

 長崎市民は、実質3日という選挙戦により、横尾氏の政治家としての資質や能力を判断することができなかったため、課長職にあった田上氏を選ばざるを得なかったのであろう。

 それにしても、自分の思った人が当選しなかったからといって、脅迫まがいのことをするべきではない。言葉の暴力は、時として有形力を伴った暴力よりも恐怖心を与えることがある。

 わが国の民主主義のバロメーターを見た思いであった。

 今回はこの辺で。

07年05月01日 | Category: つぶやき
Posted by: marutahoumuj
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