19年11月13日
迫りくる同一労働、同一賃金!!その対策を考える その3
迫りくる同一労働、同一賃金!!その対策を考える その3(2019.11月号)
前回において、同一労働同一賃金が求める均等待遇、または均衡待遇違反に問われるリスクを回避するためには、正社員と非正規社員との間で3要素で違いを設けることが極めて重要になることをお話しました。3要素とは「職務の内容」、「職務の内容・配置の変更の範囲(人材活用の仕組み)」、「その他の事情」のことで、その内容を詳しく解説しました。
このことを踏まえた上で、今回は正社員と非正規社員の待遇を同等にできない企業の場合に、これからどのようにして行けば良いのか、その具体策を検討して行きます。
まず具体的対策を講じる前に、「職務の内容」、「人材活用の仕組み」の2要素は同じにしないことです。これが同じであると3番目の要素である{その他の事情」は斟酌させず、対策云々以前に均等待遇にしなければならなくなってしまいます。これは避けねばなりません。
では現時点で考えられる対策を解説します。
1.正社員と非正規社員の定義を明確化する(正社員と非正規社員の就業規則を分ける)
まず初めに行いたいのが、正社員とパート有期雇用労働者の定義を就業規則において明確化することです。つまりそもそも正社員とはどういう人か、パート有期雇用労働者とはどういう人かを見える化しておきます。これが曖昧であると、両者の待遇に違いがあることが説明できません。
規定例
第00条(従業員の種類)
(1)正社員:正社員とは契約期間の定めがなく、月極め給与で、かつ所定労働時間をフルに勤務できる者で、原則として定年までの良好な長期雇用を前提とし、中核的業務を担い、広範な職務変更や異動が予定され、キャリアを重ねることでゼネラリストまたはスペシャリストを志向する者をいいます。正社員は本則の適用を受けます。
(2) パート社員・有期雇用社員:パート社員・有期雇用社員或いはアルバイトとは、時間給にて採用された者、契約期間に定めのある者、または正社員とは異なる短い勤務シフトにより採用された者、或いは労働契約法による無期転換した者で、いずれも長期雇用、広範な職務変更や異動、或いはキャリアアップが予定されておらず、原則として簡易な業務に従事する者をいいます。パート社員・有期雇用社員は「パート有期雇用社員就業規則」の適用を受けます。
2.基本給の決定基準の相違を明確にする
「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針(以下。ガイドラインという)によりますと、正社員と非正規社員間で賃金の決定基準に相違を設けること自体は否定していません。但し「将来の役割期待が異なるため」のような、抽象的な説明では足りないともしています。ガイドラインが示してしる例で言えば、正社員には能力に応じて支給しており、パートも能力を重視するのであれば、パートにも能力に応じた支給を求めています。
つまりここから読み取れることは、明らかに決定基準が違えば、そもそも比較しようがないとも言えるのです。そこで、賃金規程においてしっかりと、賃金の決定基準が違うことを明示しておくのも対策の一つと言えるでしょう。
規定例
第00条(賃金の決定基準)
(1)正社員の基本給は月給制にて、経験や能力、役割、業績への貢献度等を総合的に勘案して支給します。
(2)パート社員の基本給は時給制にて、職務内容や勤務シフト、世間相場を勘案して支給するものとし、個別に雇用契約書において定めます。
ちなみに現段階において、基本給の格差が均等均衡待遇違反とされた裁判例は存在しないようです。
3.職務の内容に違いを設ける(パートには基幹業務をさせない)
3要素のうち、第一要素である「職務の内容」に明からな相違を設けることで、待遇差があっても不合理と判断されないようにします。具体的には以下2点のいずれかにて明確な違いを設けます。
(1)職種は同じでも、非正規社員には中核的業務を行わせないか、または簡易業務のみに従事させる。
(2)職種は同じでも、責任の程度に違いを設ける。責任の程度とは例示すると以下のようなものがあります。
(ア)単独契約できる可否
(イ)管理する部下の数
(ウ)決裁権限の範囲
(エ)ノルマの有無
(オ)トラブルや緊急時対応の有無
(カ)時間外労働の必要度
(キ)成果への責任の度合い
特に小規模企業の場合、この「職務の内容」で相違を設けておくことが重要です。何故なら次に述べる「人材活用の仕組み」で違いを設けるのは、物理的に困難であるケースが想像されるからです。例えば拠点が1か所しかない場合、そもそも正社員でも転勤があり得ません。職務においても例えば事務で雇った人を営業に変更することは通常予定されていないからです。
4.人材活用の仕組みに違いを設ける(パートは限定契約を活用)
拠点が複数個所ある場合や、ジョブローテーションが可能な企業であれば、3要素のうち第二要素である「人材活用の仕組み」に違いを設けておきます。人材活用の違いとは以下のようなものが考えられます。
(1)転勤の有無(正社員・非正規社員双方に転勤がある場合でも、正社員は全国転勤、パートはエリア限定転勤であれば同一となならない)
(2)昇進の有無(役職の変化)
(3)昇格の有無(職能資格の変化)
(4)職務内容の変更の有無
(5)キャリア形成の有無(ゼネラリストやスペシャリストへの上昇)
(6)出向・転籍の有無
(7)人事考課の有無
(8)役割の変更の有無(指導・監督・管理・成績連動など)
特にパート有期雇用社員と限定契約を結ぶことは有効な手段と思われます。何を限定するかといえば、それは、職務・勤務場所・勤務時間のいずれかです。通常正社員の場合は、辞令1枚で職務変更や転勤に応じる義務がありますが、
パート有期雇用社員は、本人の同意がない限り、人事権によって異動は行わないことを雇用契約書で明示しておきます。
雇用契約書例(勤務地限定の場合)
勤務地限定 有期雇用社員契約書
勤務地:○○店(本人の同意がない限り、他の勤務地へ転勤することはありません)
5.その他の事情をできるだけたくさん設ける
3要素のうち、第一要素と第二要素のいずれかにて違いを設けるのが大原則ですが、第三要素である「その他の事情」を設定するのも有効な手段となります。その他の事情とは以下のようなものが考えられます。
(1)他の待遇とのバランス(ある待遇差が不合理でも、それを補填するその他の待遇を設ける)
(2)定年後の再雇用
(3)労使協議の在り方(その相違が労使で真摯に話し合って決まっていることかどうか)
(4)正社員登用の有無 (一定の要件のもと希望があれば正社員化のチャンスを与えるもので、ずっと非正規社員で固定化することを妨げる事実となる)
(5)成果・能力・経験・役割の違い
(6)合理的な慣行
(7)残業の有無(非正規社員には一切残業をさせない)
(8)所定労働時間の違い(労働時間に比例した待遇差は不合理とは言えない)
(9)年金や高年齢継続給付の有無
(10)採用の目的(長期勤続とキャリアアップを志向する正社員に対して、パートは一時的、簡易業務を補うためなど)
(11)勤務形態の違い(パートは毎週2日休みだが正社員は変形労働時間制の適用とか、パートはテレワークや兼業を認めるなど)
(12)住居事情(近隣か遠方か)
(13)家族事情(扶養義務の有無)
6.3要素に違いがあることを対比表で明確化する(特に「その他の事情」)
上記3から5までに記載した、いわゆる3要素の相違を対比表を作って明示しておきます。例えば就業規則の巻末に以下のような対比表を載せておきます。
対比表 例
職務内容・人材活用の仕組みその他の比較表
正社員の場合 パート・有期雇用社員の場合
______|___________________|_________________________
人事異動 | 包括契約(職務、勤務場所等無限定) | 限定契約(職務、勤務場所等 本人の同意要)
業務内容 | 包括契約(あらゆる業務を行う可能性)| 限定契約(中核業務・トラブル対応・ノルマなし)
人事制度 | キャリアパス、人事考課による査定) | なし(マイナス査定なし)
時間外労働 | 36協定の範囲で無限定 | なし
(以下次号)
小規模企業の賃金制度、管理職研修を得意としています。
文責 特定社会保険労務士 西村 聡
もっと見る :http://www.nishimura-roumu.com
前回において、同一労働同一賃金が求める均等待遇、または均衡待遇違反に問われるリスクを回避するためには、正社員と非正規社員との間で3要素で違いを設けることが極めて重要になることをお話しました。3要素とは「職務の内容」、「職務の内容・配置の変更の範囲(人材活用の仕組み)」、「その他の事情」のことで、その内容を詳しく解説しました。
このことを踏まえた上で、今回は正社員と非正規社員の待遇を同等にできない企業の場合に、これからどのようにして行けば良いのか、その具体策を検討して行きます。
まず具体的対策を講じる前に、「職務の内容」、「人材活用の仕組み」の2要素は同じにしないことです。これが同じであると3番目の要素である{その他の事情」は斟酌させず、対策云々以前に均等待遇にしなければならなくなってしまいます。これは避けねばなりません。
では現時点で考えられる対策を解説します。
1.正社員と非正規社員の定義を明確化する(正社員と非正規社員の就業規則を分ける)
まず初めに行いたいのが、正社員とパート有期雇用労働者の定義を就業規則において明確化することです。つまりそもそも正社員とはどういう人か、パート有期雇用労働者とはどういう人かを見える化しておきます。これが曖昧であると、両者の待遇に違いがあることが説明できません。
規定例
第00条(従業員の種類)
(1)正社員:正社員とは契約期間の定めがなく、月極め給与で、かつ所定労働時間をフルに勤務できる者で、原則として定年までの良好な長期雇用を前提とし、中核的業務を担い、広範な職務変更や異動が予定され、キャリアを重ねることでゼネラリストまたはスペシャリストを志向する者をいいます。正社員は本則の適用を受けます。
(2) パート社員・有期雇用社員:パート社員・有期雇用社員或いはアルバイトとは、時間給にて採用された者、契約期間に定めのある者、または正社員とは異なる短い勤務シフトにより採用された者、或いは労働契約法による無期転換した者で、いずれも長期雇用、広範な職務変更や異動、或いはキャリアアップが予定されておらず、原則として簡易な業務に従事する者をいいます。パート社員・有期雇用社員は「パート有期雇用社員就業規則」の適用を受けます。
2.基本給の決定基準の相違を明確にする
「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針(以下。ガイドラインという)によりますと、正社員と非正規社員間で賃金の決定基準に相違を設けること自体は否定していません。但し「将来の役割期待が異なるため」のような、抽象的な説明では足りないともしています。ガイドラインが示してしる例で言えば、正社員には能力に応じて支給しており、パートも能力を重視するのであれば、パートにも能力に応じた支給を求めています。
つまりここから読み取れることは、明らかに決定基準が違えば、そもそも比較しようがないとも言えるのです。そこで、賃金規程においてしっかりと、賃金の決定基準が違うことを明示しておくのも対策の一つと言えるでしょう。
規定例
第00条(賃金の決定基準)
(1)正社員の基本給は月給制にて、経験や能力、役割、業績への貢献度等を総合的に勘案して支給します。
(2)パート社員の基本給は時給制にて、職務内容や勤務シフト、世間相場を勘案して支給するものとし、個別に雇用契約書において定めます。
ちなみに現段階において、基本給の格差が均等均衡待遇違反とされた裁判例は存在しないようです。
3.職務の内容に違いを設ける(パートには基幹業務をさせない)
3要素のうち、第一要素である「職務の内容」に明からな相違を設けることで、待遇差があっても不合理と判断されないようにします。具体的には以下2点のいずれかにて明確な違いを設けます。
(1)職種は同じでも、非正規社員には中核的業務を行わせないか、または簡易業務のみに従事させる。
(2)職種は同じでも、責任の程度に違いを設ける。責任の程度とは例示すると以下のようなものがあります。
(ア)単独契約できる可否
(イ)管理する部下の数
(ウ)決裁権限の範囲
(エ)ノルマの有無
(オ)トラブルや緊急時対応の有無
(カ)時間外労働の必要度
(キ)成果への責任の度合い
特に小規模企業の場合、この「職務の内容」で相違を設けておくことが重要です。何故なら次に述べる「人材活用の仕組み」で違いを設けるのは、物理的に困難であるケースが想像されるからです。例えば拠点が1か所しかない場合、そもそも正社員でも転勤があり得ません。職務においても例えば事務で雇った人を営業に変更することは通常予定されていないからです。
4.人材活用の仕組みに違いを設ける(パートは限定契約を活用)
拠点が複数個所ある場合や、ジョブローテーションが可能な企業であれば、3要素のうち第二要素である「人材活用の仕組み」に違いを設けておきます。人材活用の違いとは以下のようなものが考えられます。
(1)転勤の有無(正社員・非正規社員双方に転勤がある場合でも、正社員は全国転勤、パートはエリア限定転勤であれば同一となならない)
(2)昇進の有無(役職の変化)
(3)昇格の有無(職能資格の変化)
(4)職務内容の変更の有無
(5)キャリア形成の有無(ゼネラリストやスペシャリストへの上昇)
(6)出向・転籍の有無
(7)人事考課の有無
(8)役割の変更の有無(指導・監督・管理・成績連動など)
特にパート有期雇用社員と限定契約を結ぶことは有効な手段と思われます。何を限定するかといえば、それは、職務・勤務場所・勤務時間のいずれかです。通常正社員の場合は、辞令1枚で職務変更や転勤に応じる義務がありますが、
パート有期雇用社員は、本人の同意がない限り、人事権によって異動は行わないことを雇用契約書で明示しておきます。
雇用契約書例(勤務地限定の場合)
勤務地限定 有期雇用社員契約書
勤務地:○○店(本人の同意がない限り、他の勤務地へ転勤することはありません)
5.その他の事情をできるだけたくさん設ける
3要素のうち、第一要素と第二要素のいずれかにて違いを設けるのが大原則ですが、第三要素である「その他の事情」を設定するのも有効な手段となります。その他の事情とは以下のようなものが考えられます。
(1)他の待遇とのバランス(ある待遇差が不合理でも、それを補填するその他の待遇を設ける)
(2)定年後の再雇用
(3)労使協議の在り方(その相違が労使で真摯に話し合って決まっていることかどうか)
(4)正社員登用の有無 (一定の要件のもと希望があれば正社員化のチャンスを与えるもので、ずっと非正規社員で固定化することを妨げる事実となる)
(5)成果・能力・経験・役割の違い
(6)合理的な慣行
(7)残業の有無(非正規社員には一切残業をさせない)
(8)所定労働時間の違い(労働時間に比例した待遇差は不合理とは言えない)
(9)年金や高年齢継続給付の有無
(10)採用の目的(長期勤続とキャリアアップを志向する正社員に対して、パートは一時的、簡易業務を補うためなど)
(11)勤務形態の違い(パートは毎週2日休みだが正社員は変形労働時間制の適用とか、パートはテレワークや兼業を認めるなど)
(12)住居事情(近隣か遠方か)
(13)家族事情(扶養義務の有無)
6.3要素に違いがあることを対比表で明確化する(特に「その他の事情」)
上記3から5までに記載した、いわゆる3要素の相違を対比表を作って明示しておきます。例えば就業規則の巻末に以下のような対比表を載せておきます。
対比表 例
職務内容・人材活用の仕組みその他の比較表
正社員の場合 パート・有期雇用社員の場合
______|___________________|_________________________
人事異動 | 包括契約(職務、勤務場所等無限定) | 限定契約(職務、勤務場所等 本人の同意要)
業務内容 | 包括契約(あらゆる業務を行う可能性)| 限定契約(中核業務・トラブル対応・ノルマなし)
人事制度 | キャリアパス、人事考課による査定) | なし(マイナス査定なし)
時間外労働 | 36協定の範囲で無限定 | なし
(以下次号)
小規模企業の賃金制度、管理職研修を得意としています。
文責 特定社会保険労務士 西村 聡
もっと見る :http://www.nishimura-roumu.com
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