利益が利益を生んでいく商売は理想です。ただしそれは、それなりの前振りがあってのこと。要するに「種まき」というプロセスです。あなたの持っている情報や人脈が顧客の役に立つなら喜んで差し出しましょう。お金にならなくても、多少の手間がかかっても、顧客にあなたを利用してもらうのです。
 とある場所で事務用品販売会社を営むAさん。その肩書きは自称「つなぎ屋」だそうです。人付き合いの良いAさんは、いろいろな宴席に顔を出すうちに知り合いがどんどん増えていったそうです。普通なら広がった人脈を自分の商売にいかす知恵を巡らせます。Aさんも最初はそうだったようです。しかし思うようにいきません。
 ある日、知り合いから「鉄道模型に詳しい人を知らないか」と持ちかけられました。宴会で知り合った仲間の中に鉄道マニアがいたことを思い出したAさんは、2人を引き合わせるために一席設けます。そんなことが何度か続くと、自然に「あの人とあの人を引き合わせたら双方にメリットがありそうだ」と考えるようになり、さりげなく人をつなぐようになったそうです。するとAさんの人脈が勝手に動き出し、あちこちで「Aさんのおかげ」というつながりが生まれました。
 「つなぎ屋」はとても感謝されます。良い出会いが商売のチャンスを運んでくることを、そして本当に良い出会いはそうそうないことを、誰もが体験的に知っているからです。つないだ同士が「いい人を紹介してくれてありがとう」となれば、Aさんと彼らの結びつきも強くなります。そして彼らは後々、必ずAさんに何らかの利益をもたらしてくれたそうです。人に助けてもらったら「自分も相手の役に立ちたい」と思うのは、いたってまっとうな感覚でしょう。
 Aさん曰く、「商売目線で人を見ていたときは、目が“¥(円)”マークだった。けれども今は“縁”マーク」だそうです。人は人を呼び寄せます。人から始まる商売はお金から始まるそれよりも息が長く、秘められた可能性も大きいもの。「縁」から生まれた「円」がさらなる「円」を生む。まさに理想的な商売ですね。