07年08月31日
失業率は下がったけど
失業率:7月は3.6% 9年5カ月ぶりの低水準
総務省が31日公表した労働力調査(速報)によると、7月の完全失業率(季節調整値)は前月より0.1ポイント改善し、98年2月以来、9年5カ月ぶりの低水準となる3.6%だった。男性は0.1ポイント減の3.7%、女性は0.2ポイント減の3.3%。完全失業者数は、前年同月比34万人減の234万人となった。
雇用者数は、前年同月比53万人増の5535万人。失業率を年齢層別にみると、最も高い15〜24歳男性も前年同月に比べ1.2ポイント減の7.6%になるなど、大半の年齢層で改善が進んでいる。
ただ、4〜6月平均の非正規社員数は、対前年同期比84万人増の1731万人で、全雇用者に占める非正規社員の割合も0.9ポイント増の33.2%に上昇した。増加幅の84万人のうち49万人は55歳以上で、いったん退職した団塊の世代の多くが非正規として再就職したことをうかがわせている。
一方、厚生労働省が発表した7月の有効求人倍率(季節調整値)は前月と同じ1.07倍だったが、正社員に限ると0.01ポイント減の0.59倍だった。(毎日新聞 2007年8月31日)
このように非正規社員が増加の一途をたどっている。非正規社員は正社員に比べ、どうしても地位が不安定である。特に短時間労働者はそうである。そのため、パート労働者を保護すべく、改正パートタイム労働法が平成20年4月1日から施行される。
総務省が31日公表した労働力調査(速報)によると、7月の完全失業率(季節調整値)は前月より0.1ポイント改善し、98年2月以来、9年5カ月ぶりの低水準となる3.6%だった。男性は0.1ポイント減の3.7%、女性は0.2ポイント減の3.3%。完全失業者数は、前年同月比34万人減の234万人となった。
雇用者数は、前年同月比53万人増の5535万人。失業率を年齢層別にみると、最も高い15〜24歳男性も前年同月に比べ1.2ポイント減の7.6%になるなど、大半の年齢層で改善が進んでいる。
ただ、4〜6月平均の非正規社員数は、対前年同期比84万人増の1731万人で、全雇用者に占める非正規社員の割合も0.9ポイント増の33.2%に上昇した。増加幅の84万人のうち49万人は55歳以上で、いったん退職した団塊の世代の多くが非正規として再就職したことをうかがわせている。
一方、厚生労働省が発表した7月の有効求人倍率(季節調整値)は前月と同じ1.07倍だったが、正社員に限ると0.01ポイント減の0.59倍だった。(毎日新聞 2007年8月31日)
このように非正規社員が増加の一途をたどっている。非正規社員は正社員に比べ、どうしても地位が不安定である。特に短時間労働者はそうである。そのため、パート労働者を保護すべく、改正パートタイム労働法が平成20年4月1日から施行される。
07年08月29日
解雇権を濫用すると無効になります
労働関係を記事にするようになってから、労働問題に関するメール相談がチラホラ来るようになりました。なかでもやはり、解雇に関する相談が一番多いです。
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする(労基法18条の2)。
これは、判例法理として確立していたものを、平成15年の改正のとき盛り込まれたものです。
この解雇のルールを念頭に入れて、使用者も労働者も行動しましょう。
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする(労基法18条の2)。
これは、判例法理として確立していたものを、平成15年の改正のとき盛り込まれたものです。
この解雇のルールを念頭に入れて、使用者も労働者も行動しましょう。
07年08月21日
アナウンサー勤務の女性職員に対する他職種配転の効力
事案は、「Xは、昭和36年5月に、テレビ・ラジオの放送会社であるYに入社し、約2ヶ月の研修の後に約24年にわたってアナウンサー業務に従事していた。Yのアナウンス部長は、Xのアナウンサーとしての能力に問題があると評価し,配転の打診をしていたところ、昭和60年3月にXは、その同意の下に報道局情報センターに異動した(第一次配転)。この部署は、基本的にアナウンス業務を所管するものではないが、Xは一部アナウンス業務にも従事していた。 昭和62年8月に、報道局情報センターは報道部に吸収され、さらに平成2年に、同センターのアナウンス部の廃止にともない(但し、アナウンサー職種は存続している)、アナウンサーを他の部署に配置するため、Xを含む3名が異動対象となった。Xは最初、会社の説得を拒否していたが、同年5月にテレビ編成局番組審議会事務局図書資料室への配転を命じられた(第二次配転)。Xは、この配転の効力を留保しながら、新職場で勤務した。 なお、Yの就業規則には配転規定があり、アナウンサーはほとんど40歳代までに他の職種へ配転していた。また、労働協約には配転時の労働者の意向尊重規定があり、配転時には当人の意向が尊重され、その同意がない場合には配転をしないとの運用がされていた。 Xは、アナウンサーとしての業務に従事する労働契約上の地位確認を請求したもの」である。
これは、九州朝日放送事件であるが、最高裁(最判H10,9,10)は、原審の判断を是認して、Xの上告を棄却した。
(原審の判決)
Xの請求が認められるためには、労働契約においてアナウンサーとしての職種の限定がなければならず、単に長年アナウンサーとしての業務に従事していたというだけでは足りない。しかし、Xの採用時には、アナウンサーとしての特別の技能や資格は要求されておらず、労働契約においてアナウンサーとしての職種限定の合意があったとはいえない。就業規則や労働協約においてもアナウンサーが配転の対象から外されておらず、また、アナウンサーについても一定年齢に達すると他職種への配転が頻繁に行われていた。このことからYには、業務上の必要がある場合には、労働者の個別的な同意なしに配転を命令する権利が与えられていたと解される。Xは、長年にわたってアナウンス業務に従事していたが、労働契約締結後に職種限定が合意されたと認めるに足る証拠はないし、情報センターの部長の発言は職種限定の保証を行ったものとは解せない。
なお、本件の第一審判決は、Xの同意を得て行われた第一次配転により既に職種変更が行われたとして、Xの請求を棄却しており、結論は同じであるが、論理構成が異なっていることに注意を要します。
これは、九州朝日放送事件であるが、最高裁(最判H10,9,10)は、原審の判断を是認して、Xの上告を棄却した。
(原審の判決)
Xの請求が認められるためには、労働契約においてアナウンサーとしての職種の限定がなければならず、単に長年アナウンサーとしての業務に従事していたというだけでは足りない。しかし、Xの採用時には、アナウンサーとしての特別の技能や資格は要求されておらず、労働契約においてアナウンサーとしての職種限定の合意があったとはいえない。就業規則や労働協約においてもアナウンサーが配転の対象から外されておらず、また、アナウンサーについても一定年齢に達すると他職種への配転が頻繁に行われていた。このことからYには、業務上の必要がある場合には、労働者の個別的な同意なしに配転を命令する権利が与えられていたと解される。Xは、長年にわたってアナウンス業務に従事していたが、労働契約締結後に職種限定が合意されたと認めるに足る証拠はないし、情報センターの部長の発言は職種限定の保証を行ったものとは解せない。
なお、本件の第一審判決は、Xの同意を得て行われた第一次配転により既に職種変更が行われたとして、Xの請求を棄却しており、結論は同じであるが、論理構成が異なっていることに注意を要します。
07年08月20日
疾病を理由とする自宅待機命令期間中の労働者の賃金請求権
事案は、「Xは、Y社の本社工事部に所属して、約20年、建築工事現場における現場監督業務に従事してきた。Xは、平成2年夏、バセドウ病に罹患している旨の診断を受け、その後、通院して治療を受けていたが、Y社に対してバセドウ病に罹患していることを告げなかった。Xは、平成3年2月まで現場監督業務を続け、同年2月以降8月まで、次の現場監督業務が生ずるまでの間の臨時的、一時的業務として、Y社の本社工務監理部において図面の作成などの事務作業に従事していた。Xは、同年8月、F市の工事現場において現場監督業務に従事すべき旨の業務命令を受けたが、バセドウ病であることを理由に、現場作業には従事できないこと、残業は午後6時までとすること、日曜、祭日、隔週土曜を休日にすることの3条件を、Y社に示した。その後、Y社の求めに応じ、Xは、主治医が作成した診断書と自ら病状を記した書面を、Y社に提出した。Y社はこれらから、Xが現場監督業務に従事することは不可能であると判断して、Xに対して自宅治療命令を発した。同命令は、約4ヶ月継続し、その間、Xは就労せず、Y社は賃金を支給しなかった。なお、Xは、自宅治療命令が発せられている期間中に、事務作業はできるとして、再度診断書を提出している。 Xは、Y社に対し、自宅治療命令は無効であるとして、不就労期間中の賃金支払を請求したもの」である。
これは、片山組事件であるが、最高裁(最判H10,4,9)は、次のように判示して、Xの賃金請求権を否定した原判決を破棄し、差戻した。
労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合においては、現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、その能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供があると解するのが相当である。そのように解さないと、同一の企業における同様の労働契約を締結した労働者の提供し得る労務の範囲に同様の身体的原因による制約が生じた場合に、その能力、経験、地位等にかかわりなく、現に就業を命じられている業務によって、労務の提供が債務の本旨に従ったものになるか否か、また、その結果、賃金請求権を取得するか否かが左右されることになり、不合理である。
本判決からは、疾病を理由に現在の職務に従事できない労働者に対して、再配置を行う義務が使用者にあることを、読み取ることができます。
これは、片山組事件であるが、最高裁(最判H10,4,9)は、次のように判示して、Xの賃金請求権を否定した原判決を破棄し、差戻した。
労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合においては、現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、その能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供があると解するのが相当である。そのように解さないと、同一の企業における同様の労働契約を締結した労働者の提供し得る労務の範囲に同様の身体的原因による制約が生じた場合に、その能力、経験、地位等にかかわりなく、現に就業を命じられている業務によって、労務の提供が債務の本旨に従ったものになるか否か、また、その結果、賃金請求権を取得するか否かが左右されることになり、不合理である。
本判決からは、疾病を理由に現在の職務に従事できない労働者に対して、再配置を行う義務が使用者にあることを、読み取ることができます。
07年08月17日
保母業務と頸肩腕症候群との間の因果関係と安全配慮義務
事案は、「Xは、昭和35年12月にY市に採用され、昭和43年4月15日からY市立長津田保育園に保母として勤務し始めたが、3年目の昭和45年9月頃から、肩、背中の痛みを感じるようになった。昭和46年6月14日に、Xが長女を出産した約10ヵ月後の昭和47年4月頃からは、慢性的肩こりに加えて、右腕、右肘の筋肉が非常に痛み出した。その状態のまま、Xは、昭和47年6月2日に新設のY市立山手保育園に主任保母として着任し、同僚の保母のほとんどは新任保母であるという状況の中で、中心的立場で事務処理に当たった。Xには、同保育園に転勤した頃から、肩こり、腕のだるさ等の自覚症状があったが、同年8月の調理員休暇中の調理作業中、右背中に激痛を感じた。Xは、同年9月に、訴外A病院で診察を受け、頸肩腕症候群と診断され、通院を開始した。この間、Xは十分な休憩、休暇を取得することができず、その後も同僚保母の長期欠勤のため合同保育にあたるなど、Xの業務負担が重くなることはあっても軽減されることはなく、Xの症状も若干の起伏を伴いながら続いた。 そこで、Xは、Y市に対し、安全配慮義務違反により頸肩腕症候群を発病させ、さらにこれを増悪させたとして、慰謝料1000万円を請求したもの」である。
これは、横浜市立保育園事件であるが、最高裁(最判H9,11,28)は次のように判示した。
1 職業病としての頸肩腕症候群の発症の原因や病理的発生機序については、いまだ十分な解明がされていないとはいえ、せん孔、印書など上肢に過度の負担のかかる業務に従事することにより頸肩腕症候群の症状を生ずることは、医学的にも、法的にも承認されている。保母の業務と頸肩腕症候群との因果関係については、公務員を含め労働者災害補償上の行政的取扱いとしては、個別的に因果関係の有無が判断されるものとされているが、相当数の保母が頸肩腕症候群による労災(又は公務災害)補償認定を受けている。
2 訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要とし、かつ、それで足りるものである。
保母の保育業務は、長時間にわたり同一の動作を反復したり、同一の姿勢を保持することを強いられるものではなく、作業ごとに態様は異なるものの、間断なく行われるそれぞれの作業が、精神的緊張を伴い、肉体的にも疲労度の高いものであり、乳幼児の抱き上げなどで上肢を使用することが多く、不自然な姿勢で他律的に上肢、頸肩腕部等の瞬発的な筋力を要する作業も多いといった態様のものであるから、上肢、頸肩腕部等にかなりの負担のかかる状態で行う作業に当たることは明らかというべきである。
Xの具体的業務態様をみても、・・・・・・・・通常の保母の業務に比べて格別負担が重かったという特異な事情があったとまでは認められないとはいえ、その負担の程度が軽いものということはできない。
Xの症状の推移と業務との対応関係、業務の性質・内容等に照らして考えると、Xの保母としての業務と頸肩腕症候群の発症ないし増悪との間に因果関係を是認し得る高度の蓋然性を認めるに足りる事情があるものということができ、他に明らかにその原因となった要因が認められない以上、経験則上、この間に因果関係を肯定するのが相当であると解される。
Xの出産、育児、発症部位その他の原判決の説示する事情は、・・・・・・・・・・・右の結論を左右するものではない。
本判決は、最高裁として、保母業務一般について頸肩腕症候群が生じる蓋然性が高い職種と認めたという点で大きな意義を有するものである。なお、頸肩腕症候群を含む上肢障害の業務(公務)上外認定基準については、改正がなされており、本件で問題となった保母業務は「上肢等の特定の部位に負担のかかる状態で行う作業」の一つとして認定基準に含められている。
これは、横浜市立保育園事件であるが、最高裁(最判H9,11,28)は次のように判示した。
1 職業病としての頸肩腕症候群の発症の原因や病理的発生機序については、いまだ十分な解明がされていないとはいえ、せん孔、印書など上肢に過度の負担のかかる業務に従事することにより頸肩腕症候群の症状を生ずることは、医学的にも、法的にも承認されている。保母の業務と頸肩腕症候群との因果関係については、公務員を含め労働者災害補償上の行政的取扱いとしては、個別的に因果関係の有無が判断されるものとされているが、相当数の保母が頸肩腕症候群による労災(又は公務災害)補償認定を受けている。
2 訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要とし、かつ、それで足りるものである。
保母の保育業務は、長時間にわたり同一の動作を反復したり、同一の姿勢を保持することを強いられるものではなく、作業ごとに態様は異なるものの、間断なく行われるそれぞれの作業が、精神的緊張を伴い、肉体的にも疲労度の高いものであり、乳幼児の抱き上げなどで上肢を使用することが多く、不自然な姿勢で他律的に上肢、頸肩腕部等の瞬発的な筋力を要する作業も多いといった態様のものであるから、上肢、頸肩腕部等にかなりの負担のかかる状態で行う作業に当たることは明らかというべきである。
Xの具体的業務態様をみても、・・・・・・・・通常の保母の業務に比べて格別負担が重かったという特異な事情があったとまでは認められないとはいえ、その負担の程度が軽いものということはできない。
Xの症状の推移と業務との対応関係、業務の性質・内容等に照らして考えると、Xの保母としての業務と頸肩腕症候群の発症ないし増悪との間に因果関係を是認し得る高度の蓋然性を認めるに足りる事情があるものということができ、他に明らかにその原因となった要因が認められない以上、経験則上、この間に因果関係を肯定するのが相当であると解される。
Xの出産、育児、発症部位その他の原判決の説示する事情は、・・・・・・・・・・・右の結論を左右するものではない。
本判決は、最高裁として、保母業務一般について頸肩腕症候群が生じる蓋然性が高い職種と認めたという点で大きな意義を有するものである。なお、頸肩腕症候群を含む上肢障害の業務(公務)上外認定基準については、改正がなされており、本件で問題となった保母業務は「上肢等の特定の部位に負担のかかる状態で行う作業」の一つとして認定基準に含められている。
07年08月16日
労災保険特別加入制度と中小事業主
事案は、「Xの夫であり、個人事業主である訴外Aは、当初、重機を単体又は運転業務付で貸し付けてその対価を受領する業務を営んでいたが、その後、土木工事請負業務も行うようになった。もっとも、Aが雇用する4名前後の労働者らは、後者の業務にのみ従事していた。 Aは、昭和61年5月14日、労働者災害補償保険法27条1号(現33条1号)にいう「事業主」として長男である訴外Bと共に労災保険への特別加入を認められる。Aが提出した特別加入申請書の「業務の内容」欄には「土木作業経営全般」と記載されていた。 訴外T会社から掘削機1台のリースの依頼を受けていたAは、昭和62年12月8日午後8時30分頃、Bや加勢に応じた訴外Cとともに、T会社指定の場所でトラックの荷台から当該掘削機を降ろす作業中、昇降版が外れたために転落してきた同機の下敷きとなって即死した。Xは、Aが労災保険の特別加入者であること、右災害が業務上の事由により生じたことを理由として、葬祭料の支給をYに請求したが、Yは、昭和63年2月25日、葬祭料の不支給処分を下した。当該処分の不服申立が斥けられたXは、その取消請求訴訟を提起したもの」である。
これは、姫路労基署長(井口重機)事件であるが、最高裁(最判H9,1,23)は次のように判示した。
1 労働者災害補償保険法27条1号(現33条1号)所定の事業主の特別加入の制度は、労働者に関し成立している労災保険に係る労働保険の保険関係を前提として、右保険関係上、事業主を労働者とみなすことにより、当該事業主に対する同法の適用を可能とする制度である。
2 認定事実等によれば、Aは、土木工事及び重機・・・・・賃貸を業として行っていた者であるが、その使用する労働者を・・・・・建設事業の下請として・・・・・土木工事にのみ従事させており、重機・・・・・賃貸については、労働者を使用することなく、請負に係る土木工事と無関係に行っていたというのである。そうであれば、同法28条(現34条)に基づきAの加入申請が承認されたことによって、その・・・・・・土木工事が関係する建設事業につき保険関係が成立したに留まり、・・・・・重機・・・・賃貸業務については、労働者に関し保険関係が成立していないものといわざるを得ないのであるから、Aは・・・・・業務に起因する死亡等に関し、同法に基づく保険給付を受けることができる者となる余地はない。したがって、・・・・・原審の判断は、説示中に適切を欠く部分があるが、結論において是認することができる。
特別加入者は一般の労働者と異なり、労働契約等によって業務内容が特定されていないため、業務災害等の認定については、特別加入に係る申請書に記載された業務または作業の内容を基礎として、厚生労働省労働基準局長が定める基準によって行うこととされています。
メールによるご相談は、m-sgo@gaia.eonet.ne.jpまでお気軽にどうぞ(無料)。
なお、当事務所は年金記録問題無料相談所でもありますから、詳しくは年金のテーマの所をご覧下さい。
これは、姫路労基署長(井口重機)事件であるが、最高裁(最判H9,1,23)は次のように判示した。
1 労働者災害補償保険法27条1号(現33条1号)所定の事業主の特別加入の制度は、労働者に関し成立している労災保険に係る労働保険の保険関係を前提として、右保険関係上、事業主を労働者とみなすことにより、当該事業主に対する同法の適用を可能とする制度である。
2 認定事実等によれば、Aは、土木工事及び重機・・・・・賃貸を業として行っていた者であるが、その使用する労働者を・・・・・建設事業の下請として・・・・・土木工事にのみ従事させており、重機・・・・・賃貸については、労働者を使用することなく、請負に係る土木工事と無関係に行っていたというのである。そうであれば、同法28条(現34条)に基づきAの加入申請が承認されたことによって、その・・・・・・土木工事が関係する建設事業につき保険関係が成立したに留まり、・・・・・重機・・・・賃貸業務については、労働者に関し保険関係が成立していないものといわざるを得ないのであるから、Aは・・・・・業務に起因する死亡等に関し、同法に基づく保険給付を受けることができる者となる余地はない。したがって、・・・・・原審の判断は、説示中に適切を欠く部分があるが、結論において是認することができる。
特別加入者は一般の労働者と異なり、労働契約等によって業務内容が特定されていないため、業務災害等の認定については、特別加入に係る申請書に記載された業務または作業の内容を基礎として、厚生労働省労働基準局長が定める基準によって行うこととされています。
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07年08月14日
労災保険特別支給金を被災労働者の損害額から控除することの可否
事案は、「Xは、弁当の製造販売を業とするY会社に勤務していたが、弁当箱洗浄機を使っての作業中、機械を停止させずに異物を取り除こうとして右手示指及び中指を挟まれて負傷し、右手示指及び中指用廃等の後遺障害を負った。Xは、Yが機械に事故防止のための装置を設置しなかった等に安全配慮義務違反があるとして、休業損害、後遺障害による逸失利益等合計1900万円の損害賠償を求めたもの」である。 なお、Xは、労働者災害補償保険から、保険給付として休業補償及び障害補償給付の計293万円を受けた他、休業特別支給金約65万円及び障害特別支給金約40万円の支給を受けており、Yは、安全配慮義務違反を争うとともに、これら特別支給金を損害額から控除すべきであると主張した。
これは、コック食品事件であるが、最高裁(最判H8,2,23)は次のように判示した。
労働者災害補償保険法による保険給付は、使用者の労働基準法上の災害補償義務を政府が労働者災害補償保険によって保険給付の形式で行うものであり、業務災害又は通勤災害による労働者の損害をてん補する性質を有するから、保険給付の原因となる事故が使用者の行為によって生じた場合につき、政府が保険給付をしたときは、労働基準法84条2項の類推適用により、使用者はその給付の価額の限度で労働者に対する損害賠償の責めを免れると解され、使用者の損害賠償義務の履行と年金給付との調整に関する規定も設けられている。また、保険給付の原因となる事故が第三者の行為によって生じた場合につき、政府が保険給付をしたときは、その給付の価額の限度で保険給付を受けた者の第三者に対する損害賠償請求権を取得し、保険給付を受けるべき者が当該第三者から同一の事由について損害賠償を受けたときは、政府はその価額の限度で保険給付をしないことができる旨定められている。
他方、政府は、労災保険により、被災労働者に対し、休業特別支給金、障害特別支給金等の特別支給金を支給する・・・・が、右特別支給金の支給は、労働福祉事業の一環として、被災労働者の療養生活の援護等によりその福祉の増進を図るために行われるものであり・・・、使用者又は第三者の損害賠償義務の履行と特別支給金の支給との関係について、保険給付の場合における前記各規定と同趣旨の定めはなく、このような、保険給付と特別支給金との差異を考慮すると、特別支給金が被災労働者の損害をてん補する性質を有するということはできず、したがって、被災労働者が労災保険から受領した特別支給金をその損害額から控除することはできない。
本判決は、特別支給金の福祉的給付の要素を重視して、被災労働者の損害額からの控除を否定したものである。
メールによるご相談は、m-sgo@gaia.eonet.ne.jpまでお気軽にどうぞ(無料)。
なお、当事務所は年金記録問題無料相談所でもありますから、詳しくは年金のテーマの所をご覧下さい。
これは、コック食品事件であるが、最高裁(最判H8,2,23)は次のように判示した。
労働者災害補償保険法による保険給付は、使用者の労働基準法上の災害補償義務を政府が労働者災害補償保険によって保険給付の形式で行うものであり、業務災害又は通勤災害による労働者の損害をてん補する性質を有するから、保険給付の原因となる事故が使用者の行為によって生じた場合につき、政府が保険給付をしたときは、労働基準法84条2項の類推適用により、使用者はその給付の価額の限度で労働者に対する損害賠償の責めを免れると解され、使用者の損害賠償義務の履行と年金給付との調整に関する規定も設けられている。また、保険給付の原因となる事故が第三者の行為によって生じた場合につき、政府が保険給付をしたときは、その給付の価額の限度で保険給付を受けた者の第三者に対する損害賠償請求権を取得し、保険給付を受けるべき者が当該第三者から同一の事由について損害賠償を受けたときは、政府はその価額の限度で保険給付をしないことができる旨定められている。
他方、政府は、労災保険により、被災労働者に対し、休業特別支給金、障害特別支給金等の特別支給金を支給する・・・・が、右特別支給金の支給は、労働福祉事業の一環として、被災労働者の療養生活の援護等によりその福祉の増進を図るために行われるものであり・・・、使用者又は第三者の損害賠償義務の履行と特別支給金の支給との関係について、保険給付の場合における前記各規定と同趣旨の定めはなく、このような、保険給付と特別支給金との差異を考慮すると、特別支給金が被災労働者の損害をてん補する性質を有するということはできず、したがって、被災労働者が労災保険から受領した特別支給金をその損害額から控除することはできない。
本判決は、特別支給金の福祉的給付の要素を重視して、被災労働者の損害額からの控除を否定したものである。
メールによるご相談は、m-sgo@gaia.eonet.ne.jpまでお気軽にどうぞ(無料)。
なお、当事務所は年金記録問題無料相談所でもありますから、詳しくは年金のテーマの所をご覧下さい。
07年08月13日
発症後の安静治療の困難と業務起因性
事案は、「J小学校の教諭である訴外Aは、市内の小学校の球技大会を目指したポートボールの練習を指導する教諭の中で中心的立場に立ち、その練習指導の大部分を行ってきていた者である。Aは、昭和54年10月28日午前7時40分ころ出勤したが、出勤間もないころから頭痛等の身体的不調を訴え普通の健康状態にあるとは考えにくい行動をとり、また体調が悪いことから昼頃と、他校での試合審判開始前の二回にわたり同僚の教諭らに審判の交代を頼んだが聞き入れられず、やむなく午後2時ころに始まった試合に審判として臨んだ。Aは、この審判としての球技指導中に気分が悪いといって倒れ、意識不明となって入院し、入院先で特発性脳内出血と診断され、血腫除去の緊急手術を受け一時意識状態が好転したが、同年11月3日呼吸不全に陥り、同月9日に死亡した。 Aの妻であるXは、本件死亡につき、公務災害の認定を請求。Yは、昭和54年12月25日付けで公務外認定処分をした。Xは、本件処分を不服とし、審査請求次いで再審査請求をしたがいずれも棄却されたため、本件処分の取消訴訟を提起したもの」である。
これは、地公災基金愛知県支部長事件であるが、最高裁(最判H8,3,5)は次のように判示した。
1 特発性脳内出血は、破裂した微細な血管部分から微量の血液が徐々に浸出するもので、出血開始から血腫が拡大し意識障害に至るまでの時間がかなり掛かる。そして血圧の変動が出血の態様、程度に影響を及ぼすことがあり、また、肉体的又は精神的負荷が血圧変動や血管収縮に関係し得ることは経験則上明らかなので、出血の態様、程度が、血管破裂後に当人が安静にしているか、肉体的又は精神的負荷が掛かった状態にあるのかによって影響を受け得る。そうすると、出血開始時期がポートボールの試合の審判をする以前であったとしても、右審判による負担やこれによる血圧の一過性の上昇等が出血の態様、程度に影響を及ぼす可能性も・・・・・・十分に考えられる。また、午前中の段階で、Aは身体的不調を訴えていたのであるから・・・・特発性脳内出血の性質からして、直ちに診察、手術を受ければ死亡するに至らなかった可能性もある。結局、出血開始後の公務の遂行がその後の症状の自然的経過を超える増悪の原因となったことにより、又はその間の治療の機会が奪われたことにより死亡の原因となった重篤な血腫が形成されたという可能性を否定することは許されない。
2 Aは、ポートボールの練習指導の中心的存在であり、他に適当な交代要員がいないため交代が困難であったことから、やむを得ずポートボールの試合の審判に当たったことがうかがわれる。そうすると、仮に前記の可能性が肯定されるならば、Aの特発性脳内出血が後の死亡の原因となる重篤な症状に至ったのは、午前中に脳内出血が開始し、体調不調を自覚したにもかかわらず、直ちに安静を保ち診察治療を受けることが困難であって、引き続き公務に従事せざるを得なかったという、公務に内在する危険が現実化したことによるものとみることができる。
3 以上によれば、出血開始後の公務の遂行が特発性脳内出血の態様、程度に影響を与えた可能性、死亡に至るほどの血腫の形成を避けられた可能性等の点について審理判断を尽くすことなく・・・・・・・公務起因性を否定した原審の判断には審理不尽又は理由不備の違法があるので原判決を破棄し、右の点について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻す。
本判決は、発症それ自体に業務起因性が認められなくとも、当該疾病の発症後に従事した業務が症状を自然的経過を超えて増悪させた場合には業務上となると判断しています。
メールによるご相談は、m-sgo@gaia.eonet.ne.jpまでお気軽にどうぞ(無料)。
なお、当事務所は年金記録問題無料相談所でもありますから、詳しくは年金のテーマの所をご覧下さい。
これは、地公災基金愛知県支部長事件であるが、最高裁(最判H8,3,5)は次のように判示した。
1 特発性脳内出血は、破裂した微細な血管部分から微量の血液が徐々に浸出するもので、出血開始から血腫が拡大し意識障害に至るまでの時間がかなり掛かる。そして血圧の変動が出血の態様、程度に影響を及ぼすことがあり、また、肉体的又は精神的負荷が血圧変動や血管収縮に関係し得ることは経験則上明らかなので、出血の態様、程度が、血管破裂後に当人が安静にしているか、肉体的又は精神的負荷が掛かった状態にあるのかによって影響を受け得る。そうすると、出血開始時期がポートボールの試合の審判をする以前であったとしても、右審判による負担やこれによる血圧の一過性の上昇等が出血の態様、程度に影響を及ぼす可能性も・・・・・・十分に考えられる。また、午前中の段階で、Aは身体的不調を訴えていたのであるから・・・・特発性脳内出血の性質からして、直ちに診察、手術を受ければ死亡するに至らなかった可能性もある。結局、出血開始後の公務の遂行がその後の症状の自然的経過を超える増悪の原因となったことにより、又はその間の治療の機会が奪われたことにより死亡の原因となった重篤な血腫が形成されたという可能性を否定することは許されない。
2 Aは、ポートボールの練習指導の中心的存在であり、他に適当な交代要員がいないため交代が困難であったことから、やむを得ずポートボールの試合の審判に当たったことがうかがわれる。そうすると、仮に前記の可能性が肯定されるならば、Aの特発性脳内出血が後の死亡の原因となる重篤な症状に至ったのは、午前中に脳内出血が開始し、体調不調を自覚したにもかかわらず、直ちに安静を保ち診察治療を受けることが困難であって、引き続き公務に従事せざるを得なかったという、公務に内在する危険が現実化したことによるものとみることができる。
3 以上によれば、出血開始後の公務の遂行が特発性脳内出血の態様、程度に影響を与えた可能性、死亡に至るほどの血腫の形成を避けられた可能性等の点について審理判断を尽くすことなく・・・・・・・公務起因性を否定した原審の判断には審理不尽又は理由不備の違法があるので原判決を破棄し、右の点について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻す。
本判決は、発症それ自体に業務起因性が認められなくとも、当該疾病の発症後に従事した業務が症状を自然的経過を超えて増悪させた場合には業務上となると判断しています。
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07年08月10日
労働協約の不利益変更と未組織労働者への拡張適用
事案は、「Xは、昭和26年に鉄道保険部職員としてA社に雇用されたが、昭和40年にYがA社の業務を引き継いだことに伴い、Yの従業員になった。 当時、Yでは、Xら鉄道保険部出身の労働者とそれ以外の労働者との労働条件の統一について合意が成立するまで、Xらには従前の労働協約及び就業規則の効力を認めることが了解されていたが、その後両者の組合が合体して新たに結成されたB労組とYとの間で、前記の労働条件の統一について交渉が続けられた。昭和47年までに順次労働条件を統一したが、定年年齢の統一については合意に至らず、鉄道保険部出身の労働者の定年が満63歳であるのに対し、それ以外の労働者の定年は満55歳のまま推移した。 その後、yの経営悪化などの事情の下、昭和58年にB労組とYは、定年年齢の統一、退職金支給率の変更について合意し、同年7月に新たな労働協約を締結した。当時Xは協約上非組合員とされていたが、本件労働協約及び就業規則の効力が及ぶものとして、労働条件が次のように変更された。(1)定年年齢が57歳とされることによってXは既に退職したものとされ、それ以降は62歳まで特別社員として1年ごとに再雇用されるが、給与は定年前の60%となった。(2)退職手当規程の改定に応じて退職金支給率が30年勤続について71ヶ月から60ヶ月に引き下げられた。なお、これらの改定にかかわる解決の代償金として、対象者1人平均12万円が支払われた。また、本件労働協約は昭和58年4月1日に遡って効力を生じるものとされていた。 これに対し、Xが、労働契約上の地位確認及び給与等の差額を請求したもの」である。
これは、朝日火災海上保険事件であるが、最高裁(最判H8,3,26)は次のように判示した(当てはめの部分省略)。
1 労組法17条の適用に当たっては、労働協約上の基準の一部が未組織の同種労働者の労働条件より不利益な場合でも、そのことだけで右の不利益部分についてはその効力が右労働者に対して及ばないと解するのは相当でない。けだし、同条は、その文言上、同条に基づき労働協約の規範的効力が同種労働者にも及ぶ範囲について何らの限定もしていない上、労働協約の締結に当たっては、その時々の社会的経済的条件を考慮して、総合的に労働条件を定めていくのが通常であるから、その一部をとらえて有利、不利をいうことは適当でないからである。また、右規定の趣旨は、主として一つの事業場の4分の3以上の同種労働者に適用される労働協約上の労働条件によって当該事業場の労働条件を統一し、労働組合の団結権の維持強化と当該事業場における公正妥当な労働条件の実現を図ることにあると解されるから、その趣旨からしても、未組織の同種労働者の労働条件が一部有利のものであることの故に、労働協約の規範的効力がこれに及ばないとするのは相当でない。
2 しかしながら他面、未組織労働者は、労働組合の意思決定に関与する立場になく、また逆に、労働組合は、未組織労働者の労働条件を改善し、その他の利益を擁護するために活動する立場にないことからすると、労働協約によって特定の未組織労働者にもたらされる不利益の程度・内容、労働協約が締結されるに至った経緯、当該労働者が労働組合の組合員資格を認められているかどうか等に照らし、当該労働協約を特定の未組織労働者に適用することが著しく不合理であると認められる特段の事情があるときは、労働協約の規範的効力を当該労働者に及ぼすことはできない。
このように判示して、Xへの労働協約の拡張適用を否定したものである。
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これは、朝日火災海上保険事件であるが、最高裁(最判H8,3,26)は次のように判示した(当てはめの部分省略)。
1 労組法17条の適用に当たっては、労働協約上の基準の一部が未組織の同種労働者の労働条件より不利益な場合でも、そのことだけで右の不利益部分についてはその効力が右労働者に対して及ばないと解するのは相当でない。けだし、同条は、その文言上、同条に基づき労働協約の規範的効力が同種労働者にも及ぶ範囲について何らの限定もしていない上、労働協約の締結に当たっては、その時々の社会的経済的条件を考慮して、総合的に労働条件を定めていくのが通常であるから、その一部をとらえて有利、不利をいうことは適当でないからである。また、右規定の趣旨は、主として一つの事業場の4分の3以上の同種労働者に適用される労働協約上の労働条件によって当該事業場の労働条件を統一し、労働組合の団結権の維持強化と当該事業場における公正妥当な労働条件の実現を図ることにあると解されるから、その趣旨からしても、未組織の同種労働者の労働条件が一部有利のものであることの故に、労働協約の規範的効力がこれに及ばないとするのは相当でない。
2 しかしながら他面、未組織労働者は、労働組合の意思決定に関与する立場になく、また逆に、労働組合は、未組織労働者の労働条件を改善し、その他の利益を擁護するために活動する立場にないことからすると、労働協約によって特定の未組織労働者にもたらされる不利益の程度・内容、労働協約が締結されるに至った経緯、当該労働者が労働組合の組合員資格を認められているかどうか等に照らし、当該労働協約を特定の未組織労働者に適用することが著しく不合理であると認められる特段の事情があるときは、労働協約の規範的効力を当該労働者に及ぼすことはできない。
このように判示して、Xへの労働協約の拡張適用を否定したものである。
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07年08月09日
労災保険審査請求手続の遅延と取消訴訟
事案は、「Xは、昭和51年8月26日に被った負傷について、那覇労働基準監督署長Yより「業務上」の認定を受け、療養補償給付及び休業補償給付を受給していたが、昭和53年1月20日にYから上記負傷につき「治癒」したとの認定がなされ、これ以降の期間については補償給付を行わないとする処分を受けた。Xは、この処分を不服として、沖縄県労働者災害補償保険審査官に審査請求したが、棄却されたので、労働保険審査会に再審査請求をなした。審査会は、昭和57年4月20日、「治癒」の日を昭和54年12月20日と判断し、Yの不支給処分を一部取消す旨の裁決をなした。 しかし、この裁決を不服とするXは、その後もなおYに対し、昭和62年6月1日以降の期間について療養補償給付及び休業補償給付を請求したところ、Yは平成2年7月5日に不支給とする処分をなした。Xは、同月16日に本件処分を不服として、再び審査官に不服審査をしたが、3ヶ月以上経過しても裁決がなかった。そのため、Xは、行政事件訴訟法8条2項1号にいう「審査請求があった日から3箇月を経過しても裁決がないとき」に当たると判断して、再審査請求手続が始まる前の平成3年1月25日に、本件処分の取消を求める訴えを提起したもの」である。
これは、那覇労基署長事件であるが、最高裁(最判H7,7,6)は次のように判示した。
行訴法8条2項1号の「審査請求」は、行政処分について、2段階の審査請求手続が定められ、かつ、第2段階の審査請求に対する裁決の前置主義が採られている場合には、法律に特段の定めがない限り、第1段階の審査請求と第2段階の審査請求のいずれをも指し、そのいずれに対する裁決が遅延するときにも、同号が適用され、裁決前置主義が緩和される。
労災保険法は、保険給付に関する決定に対する不服について、2段階の審査請求手続を定め、かつ、取消しの訴えにつき第2段階の審査請求に対する裁決の前置を定めている。その趣旨は、多数に上る保険給付に関する決定に対する不服事案を迅速かつ公正に処理すべき要請にこたえるため、専門的知識を有する特別の審査機関を設けた上、裁判所の判断を求める前に、簡易迅速な処理を図る第1段階の審査請求と慎重な審査を行い併せて行政庁の判断の統一を図る第2段階の再審査請求とを必ず経由させることによって、行政と司法の機能の調和を保ちながら、保険給付に関する国民の権利救済を実効性のあるものとしようとするところにある。
しかし、これらの定めからは、行訴法8条2項1号の「審査請求」を第2段階の審査請求に限定するとの趣旨を読み取ることはできず、また労災保険法は、審査請求に対する決定が遅延した場合に決定を経ないで再審査請求をすることを許容するなど、その遅延に対する救済措置の定めを置いていないので、第1段階の審査請求についての法8条2項1号の不適用を定めたものと解するならば、国民の司法救済の道を不当に閉ざす結果を招くことは明らかであるから、そのような解釈は採り得ない。
したがって、保険給付に関する決定に不服のある者は、労働者災害補償保険審査官に対して審査請求をした日から3箇月を経過しても決定(法8条2項1号の「裁決」に当たる。)がないときは、審査請求・・・・・・の手続を経ないで、処分の取消しの訴えを提起することができるものというべきである。
なお、この判決後、労災保険法が改正され、「審査請求後3箇月を経過しても審査官の決定がないときには、再審査請求できる」ことになったので、行訴法8条2項1号は2段階目の不服申立手続の遅延にのみ適用されることになると思われる。
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これは、那覇労基署長事件であるが、最高裁(最判H7,7,6)は次のように判示した。
行訴法8条2項1号の「審査請求」は、行政処分について、2段階の審査請求手続が定められ、かつ、第2段階の審査請求に対する裁決の前置主義が採られている場合には、法律に特段の定めがない限り、第1段階の審査請求と第2段階の審査請求のいずれをも指し、そのいずれに対する裁決が遅延するときにも、同号が適用され、裁決前置主義が緩和される。
労災保険法は、保険給付に関する決定に対する不服について、2段階の審査請求手続を定め、かつ、取消しの訴えにつき第2段階の審査請求に対する裁決の前置を定めている。その趣旨は、多数に上る保険給付に関する決定に対する不服事案を迅速かつ公正に処理すべき要請にこたえるため、専門的知識を有する特別の審査機関を設けた上、裁判所の判断を求める前に、簡易迅速な処理を図る第1段階の審査請求と慎重な審査を行い併せて行政庁の判断の統一を図る第2段階の再審査請求とを必ず経由させることによって、行政と司法の機能の調和を保ちながら、保険給付に関する国民の権利救済を実効性のあるものとしようとするところにある。
しかし、これらの定めからは、行訴法8条2項1号の「審査請求」を第2段階の審査請求に限定するとの趣旨を読み取ることはできず、また労災保険法は、審査請求に対する決定が遅延した場合に決定を経ないで再審査請求をすることを許容するなど、その遅延に対する救済措置の定めを置いていないので、第1段階の審査請求についての法8条2項1号の不適用を定めたものと解するならば、国民の司法救済の道を不当に閉ざす結果を招くことは明らかであるから、そのような解釈は採り得ない。
したがって、保険給付に関する決定に不服のある者は、労働者災害補償保険審査官に対して審査請求をした日から3箇月を経過しても決定(法8条2項1号の「裁決」に当たる。)がないときは、審査請求・・・・・・の手続を経ないで、処分の取消しの訴えを提起することができるものというべきである。
なお、この判決後、労災保険法が改正され、「審査請求後3箇月を経過しても審査官の決定がないときには、再審査請求できる」ことになったので、行訴法8条2項1号は2段階目の不服申立手続の遅延にのみ適用されることになると思われる。
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07年08月08日
地域別最低賃金の目安固まる
8日、全国の最低賃金改定の目安を協議する中央最低賃金審議会の小委員会は、現在の最低時給平均673円に対し、今年度の引き上げ幅を平均14円とする報告書をまとめた。10日に中央審を開き、正式決定する。
目安は、地域ごとに4ランクに分け、東京・大阪などのAランク(現行平均710円)が14円、埼玉・京都などのBランク(同674円)が14円、北海道・福岡などのCランク(同647円)が9〜10円、青森・沖縄などのDランク(同612円)が6〜7円とする。
これは、時給で働き、最低賃金額の影響を受けやすいパートやアルバイトなど非正社員が増え、低所得者層の拡大が社会問題となる中、正社員と非正社員の賃金格差の是正を狙ったものである。
目安は、地域ごとに4ランクに分け、東京・大阪などのAランク(現行平均710円)が14円、埼玉・京都などのBランク(同674円)が14円、北海道・福岡などのCランク(同647円)が9〜10円、青森・沖縄などのDランク(同612円)が6〜7円とする。
これは、時給で働き、最低賃金額の影響を受けやすいパートやアルバイトなど非正社員が増え、低所得者層の拡大が社会問題となる中、正社員と非正社員の賃金格差の是正を狙ったものである。
07年08月06日
社外労働者の受入会社の使用者性
事案は、「テレビ放送事業等を営むYは業務請負契約に基づいて派遣された阪神東通など3社の従業員を撮影、音響効果、照明等の番組制作業務に従事させていた。業務請負という形式にも拘らず実際には、Yの器材等を使用し、彼らはYの作業秩序に組み込まれて、1ヶ月毎にYが作成する、日別に番組名、作業の開始時刻、場所等を記した編成日程表と台本及び制作進行表による作業の内容・手順に従い、作業時間の変更、残業等を含め作業の進行はすべてY従業員であるディレクターの指揮の下に行われていた。 請負3社の従業員らで組織する民放労連近畿地区労働組合Xは、昭和49年9月以降、直接雇用、賃上げ、一時金、休憩室の設置を含む労働条件の改善等について団体交渉を申し入れたが、Yは「使用者」ではないことを理由に拒否したので、団交拒否の不当労働行為として救済を申し立てた。 大阪地労委は、Yの使用者性を認め、中労委も一定の事項を除き使用者性を認めた。 そこで、Yが、中労委命令の取消訴訟を提起したもの」である。
これは、朝日放送事件であるが、最高裁(最判H7,2,28)は次のように判示した。
1 団結権の侵害に当たる一定の行為を不当労働行為として排除、是正して正常な労使関係を回復するという労組法7条の目的に鑑み、労働契約上の雇用主以外でも、雇用主から労働者の派遣を受けて自己の業務に従事させ、その労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて・・・・・・同条の「使用者」に当たる。
2 Yは、請負3社から派遣される従業員が従事すべき業務の全般につき、編成日程表、台本及び制作進行表の作成を通じて、作業日時、作業時間、作業場所、作業内容等その細部に至るまで自ら決定していたこと、請負3社は、単に、ほぼ固定している一定の従業員のうちのだれをどの番組制作業務に従事させるかを決定していたにすぎない・・・・・こと、・・・・・・・・請負3社の従業員は・・・・・・・Yから支給ないし貸与される器材等を使用し、その作業秩序に組み込まれてYの従業員と共に番組制作業務に従事していたこと、請負3社の従業員の作業の進行は、作業時間帯の変更、作業時間の延長、休憩等の点についても、すべてYの従業員であるディレクターの指揮監督下に置かれていたこと・・・・・を総合すれば、Yは実質的にみて、請負3社から派遣される従業員の勤務時間の割り振り、労務提供の態様、作業環境等を決定していたのであり、右従業員の基本的な労働条件等について、雇用主である請負3社と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったから、その限りにおいて、労組法7条にいう「使用者」に当たる。
3 そうすると、Yが自ら決定することのできる労働条件(本件命令中の「番組制作業務に関する勤務の割付など就労に係る諸条件」はこれに含まれる)の改善を求める部分については、Yが正当な理由がなく団体交渉を拒否することは許されず、これを拒否したYの行為は、労働組合法7条2号の不当労働行為を構成する。
不当労働行為制度は、団結権侵害行為を実効的に排除して使用者の妨害・抑圧から自由な組合活動を保障するための制度であり、労働契約上の責任を追及するものではないから、不当労働行為の主体たる「使用者」を契約の相手方たる使用者に限定すべき必然性はないのである。
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これは、朝日放送事件であるが、最高裁(最判H7,2,28)は次のように判示した。
1 団結権の侵害に当たる一定の行為を不当労働行為として排除、是正して正常な労使関係を回復するという労組法7条の目的に鑑み、労働契約上の雇用主以外でも、雇用主から労働者の派遣を受けて自己の業務に従事させ、その労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて・・・・・・同条の「使用者」に当たる。
2 Yは、請負3社から派遣される従業員が従事すべき業務の全般につき、編成日程表、台本及び制作進行表の作成を通じて、作業日時、作業時間、作業場所、作業内容等その細部に至るまで自ら決定していたこと、請負3社は、単に、ほぼ固定している一定の従業員のうちのだれをどの番組制作業務に従事させるかを決定していたにすぎない・・・・・こと、・・・・・・・・請負3社の従業員は・・・・・・・Yから支給ないし貸与される器材等を使用し、その作業秩序に組み込まれてYの従業員と共に番組制作業務に従事していたこと、請負3社の従業員の作業の進行は、作業時間帯の変更、作業時間の延長、休憩等の点についても、すべてYの従業員であるディレクターの指揮監督下に置かれていたこと・・・・・を総合すれば、Yは実質的にみて、請負3社から派遣される従業員の勤務時間の割り振り、労務提供の態様、作業環境等を決定していたのであり、右従業員の基本的な労働条件等について、雇用主である請負3社と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったから、その限りにおいて、労組法7条にいう「使用者」に当たる。
3 そうすると、Yが自ら決定することのできる労働条件(本件命令中の「番組制作業務に関する勤務の割付など就労に係る諸条件」はこれに含まれる)の改善を求める部分については、Yが正当な理由がなく団体交渉を拒否することは許されず、これを拒否したYの行為は、労働組合法7条2号の不当労働行為を構成する。
不当労働行為制度は、団結権侵害行為を実効的に排除して使用者の妨害・抑圧から自由な組合活動を保障するための制度であり、労働契約上の責任を追及するものではないから、不当労働行為の主体たる「使用者」を契約の相手方たる使用者に限定すべき必然性はないのである。
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07年08月03日
無許可のビラ配布を理由とする懲戒処分と不当労働行為
事案は、「学校法人Yの就業規則14条12号は、職員の遵守事項として”書面による許可なく、当校内で業務外の掲示をし、若しくは図書又は印刷物等の頒布あるいは貼付をしないこと”と定めている。Yの丸亀校の教職員で組織する組合であるZは、当初Yの許可を得てから職場ニュースを放課後に職員室内で配布していたが、記事内容に疑問があるとしてYから発行不許可になったのを機に校門外で職場ニュースを配布するようになった。Zは団体交渉で、Yの許可なく校内で就業時間外に職場ニュースを配布することを認めてもらいたい旨要求したが、Yは拒否した。そこで、Zは、昭和53年5月8日、9日、16日にYの許可を得ることなく職員室で職場ニュースを配布した。Yは、同年5月9日にZの委員長に対して就業規則14条12号に違反するとして、”戒告”の処分をなし、また、同年5月16日に”戒告”の処分を行った。Zは、同年5月19日の団体交渉で右各処分の撤回を要求したが、Yは「校内での組合活動は一切拒否する」等述べて拒否した。Zは、右各処分は労働組合活動を理由とする不利益取扱、Zに対する支配介入であると主張し、X(香川地労委)に救済を申し立てた。Xは、Zの申立をほぼ認め、右懲戒処分の撤回を命じた。Yはこれを不服として取消訴訟を提起したもの」である。
これは、倉田学園事件であるが、最高裁(最判H6,12,20)は次のように判示した。
1 本件ビラ配布は、許可を得ないでYの学校内で行われたものであるから、形式的には就業規則第14条12号所定の禁止事項に該当する。しかしながら、右規定はYの学校内の職場規律の維持及び生徒に対する教育的配慮を目的としたものと解されるから、ビラの配布が形式的にはこれに違反するようにみえる場合でも、ビラの内容、ビラ配布の態様等に照らして、その配布が学校内の職場規律を乱すおそれがなく、また、生徒に対する教育的配慮に欠けることとなるおそれのない特別の事情が認められるときは、実質的には右規定の違反になるとはいえず、したがって、これを理由として就業規則所定の懲戒処分をすることは許されないというべきである。
2 本件ビラ配布について検討すると、本件ビラの内容は、香川県下の私立学校における労使間の賃金交渉の妥結額、Yとの間で予定されていた団体交渉の議題、団体交渉の結果など「Zの労働組合としての日ごろの活動状況及びこれに関連する事項であって、違法不当な行為をあおり又はそそのかす等の内容を含むものではない」。また、「本件ビラ配布は丸亀校の職員室内において行われたものではあるが、いずれも、就業時間前に、ビラを二つ折りにして教員の机の上に置くという方法でされたものであって、本件ビラ配布によって業務に支障を来したことを窺わせる事情はない」。
3 生徒に対する教育的配慮という観点からすれば、ビラの内容が労働組合としての通常の情報宣伝活動の範囲内のものであっても、学校内部における使用者と教職員との対立にかかわる事柄をみだりに生徒の目に触れさせるべきではないということもできるが、本件ビラ配布は、始業時刻より15分以上も前の、通常生徒が職員室に入室する頻度の少ない時間帯に行われたものであって、前記の教育的配慮という一般的見地を余りに強調するのは、本件事案の実情にそぐわない。
4 したがって、本件ビラ配布については、学校内の職場規律を乱すおそれがなく、また、生徒に対する教育的配慮に欠けることとなるおそれのない特別の事情が認められるものということができ、本件各懲戒処分は、懲戒事由を定める就業規則上の根拠を欠く違法な処分というべきである。そして、校内での組合活動を一切否定する等のY側の前示組合嫌悪の姿勢、本件各懲戒処分の経緯等に徴すれば、本件各懲戒処分はYの不当労働行為意思に基づくものというほかなく、本件各懲戒処分は、労働組合法7条1号及び3号の不当労働行為を構成するものというに帰する。
本判決は、「特別の事情」を具体的に検討して、就業規則違反に当たらないとしたものである。
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これは、倉田学園事件であるが、最高裁(最判H6,12,20)は次のように判示した。
1 本件ビラ配布は、許可を得ないでYの学校内で行われたものであるから、形式的には就業規則第14条12号所定の禁止事項に該当する。しかしながら、右規定はYの学校内の職場規律の維持及び生徒に対する教育的配慮を目的としたものと解されるから、ビラの配布が形式的にはこれに違反するようにみえる場合でも、ビラの内容、ビラ配布の態様等に照らして、その配布が学校内の職場規律を乱すおそれがなく、また、生徒に対する教育的配慮に欠けることとなるおそれのない特別の事情が認められるときは、実質的には右規定の違反になるとはいえず、したがって、これを理由として就業規則所定の懲戒処分をすることは許されないというべきである。
2 本件ビラ配布について検討すると、本件ビラの内容は、香川県下の私立学校における労使間の賃金交渉の妥結額、Yとの間で予定されていた団体交渉の議題、団体交渉の結果など「Zの労働組合としての日ごろの活動状況及びこれに関連する事項であって、違法不当な行為をあおり又はそそのかす等の内容を含むものではない」。また、「本件ビラ配布は丸亀校の職員室内において行われたものではあるが、いずれも、就業時間前に、ビラを二つ折りにして教員の机の上に置くという方法でされたものであって、本件ビラ配布によって業務に支障を来したことを窺わせる事情はない」。
3 生徒に対する教育的配慮という観点からすれば、ビラの内容が労働組合としての通常の情報宣伝活動の範囲内のものであっても、学校内部における使用者と教職員との対立にかかわる事柄をみだりに生徒の目に触れさせるべきではないということもできるが、本件ビラ配布は、始業時刻より15分以上も前の、通常生徒が職員室に入室する頻度の少ない時間帯に行われたものであって、前記の教育的配慮という一般的見地を余りに強調するのは、本件事案の実情にそぐわない。
4 したがって、本件ビラ配布については、学校内の職場規律を乱すおそれがなく、また、生徒に対する教育的配慮に欠けることとなるおそれのない特別の事情が認められるものということができ、本件各懲戒処分は、懲戒事由を定める就業規則上の根拠を欠く違法な処分というべきである。そして、校内での組合活動を一切否定する等のY側の前示組合嫌悪の姿勢、本件各懲戒処分の経緯等に徴すれば、本件各懲戒処分はYの不当労働行為意思に基づくものというほかなく、本件各懲戒処分は、労働組合法7条1号及び3号の不当労働行為を構成するものというに帰する。
本判決は、「特別の事情」を具体的に検討して、就業規則違反に当たらないとしたものである。
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07年08月01日
スカウト行為と職安法にいう「職業紹介」
事案は、「Xは、経営幹部や特殊技術者等の人材をスカウトして紹介・就職させる、いわゆるヘッドハンティング業者であり、また職業安定法32条に基づく労働大臣の許可を得た有料職業紹介事業者であった。Xは、診療所の経営者であったYとの間で昭和62年7月、右診療所に勤務する医師を紹介し就職させる契約を締結した。 Xは訴外Z医師をYに紹介し、平成元年4月、YはZを年俸1000万円の条件で採用した。YはXに対し、平成元年3月30日、右紹介等に対して調査活動費50万円、報酬200万円の他、Zの年俸1000万円の15%相当額150万円の合計を平成元年6月末日までに支払う旨約した。Xは、右合意に基づきYに対し約定の報酬金の支払いを求めたもの」である。 なお、労働大臣の許可を得て行う有料職業紹介においては、受けることができる紹介手数料は、職安法32条6項、同法施行規則24条14項によってその上限が定められており、その制限によれば、本件においてはZの6か月分の賃金の100分の10,1相当である50万5000円を超える手数料を受けてはならないとされている。したがって、Xの主張が認められるかどうかは、スカウト行為が職安法にいう「職業紹介」に当たるかどうかに係っている。
これは、東京エグゼクティブ・サーチ事件であるが、最高裁(最判H6,4,22)は次のように判示した。
1 職業安定法にいう職業紹介におけるあっ旋とは、求人者と求職者との間における雇用関係成立のための便宜を図り、その成立を容易にさせる行為一般を指称するものと解すべきであり、右のあっ旋には、求人者と求職者との間に雇用関係を成立させるために両者を引き合わせる行為のみならず、求人者に紹介するために求職者を探索し、求人者に就職するよう求職者に勧奨するいわゆるスカウト行為も含まれるものと解するのが相当である。けだし、同法は、労働力充足のためにその需要と供給の調整を図ることと並んで、各人の能力に応じて妥当な条件の下に適当な職業に就く機会を与え、職業の安定を図ることを目的として制定されたものであって、同法32条は、この目的を達成するため、弊害の多かった有料の職業紹介事業を行うことを原則として禁じ、公の機関によって無料で公正に職業を紹介することとし、公の機関において適切に職業を紹介することが困難な特別の技術を必要とする職業に従事する者の職業をあっ旋することを目的とする場合については、労働大臣の許可を得て有料の職業紹介事業を行うことができるものとしたものであるところ、スカウト行為が右のあっ旋に当たらず、同法32条等の規制に服しないものと解するときは、以上に述べた同法の趣旨を没却することになるからである。この理は、スカウト行為が医師を対象とする場合であっても同様である。
2 職業安定法32条6項は、有料職業紹介の手数料契約のうち労働大臣が中央職業安定審議会に諮問の上定める手数料の最高額を超える部分の私法上の効力を否定し、右契約の効力を所定最高額の範囲内においてのみ認めるものと解するのが相当である。けだし、・・・・・・立法趣旨にかんがみ、同条項は、右手数料契約のうち所定最高額を超える部分の私法上の効力を否定することによって求人者及び求職者の利益を保護する趣旨をも含むものと解すべきであるからである。
契約自由の原則の中で、判決が、立法趣旨から所定最高額を超える部分の私法上の効力を否定したのは、妥当である。
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これは、東京エグゼクティブ・サーチ事件であるが、最高裁(最判H6,4,22)は次のように判示した。
1 職業安定法にいう職業紹介におけるあっ旋とは、求人者と求職者との間における雇用関係成立のための便宜を図り、その成立を容易にさせる行為一般を指称するものと解すべきであり、右のあっ旋には、求人者と求職者との間に雇用関係を成立させるために両者を引き合わせる行為のみならず、求人者に紹介するために求職者を探索し、求人者に就職するよう求職者に勧奨するいわゆるスカウト行為も含まれるものと解するのが相当である。けだし、同法は、労働力充足のためにその需要と供給の調整を図ることと並んで、各人の能力に応じて妥当な条件の下に適当な職業に就く機会を与え、職業の安定を図ることを目的として制定されたものであって、同法32条は、この目的を達成するため、弊害の多かった有料の職業紹介事業を行うことを原則として禁じ、公の機関によって無料で公正に職業を紹介することとし、公の機関において適切に職業を紹介することが困難な特別の技術を必要とする職業に従事する者の職業をあっ旋することを目的とする場合については、労働大臣の許可を得て有料の職業紹介事業を行うことができるものとしたものであるところ、スカウト行為が右のあっ旋に当たらず、同法32条等の規制に服しないものと解するときは、以上に述べた同法の趣旨を没却することになるからである。この理は、スカウト行為が医師を対象とする場合であっても同様である。
2 職業安定法32条6項は、有料職業紹介の手数料契約のうち労働大臣が中央職業安定審議会に諮問の上定める手数料の最高額を超える部分の私法上の効力を否定し、右契約の効力を所定最高額の範囲内においてのみ認めるものと解するのが相当である。けだし、・・・・・・立法趣旨にかんがみ、同条項は、右手数料契約のうち所定最高額を超える部分の私法上の効力を否定することによって求人者及び求職者の利益を保護する趣旨をも含むものと解すべきであるからである。
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