事案は、「Yは飲食店営業を目的とする会社であり、キャバレーY1を経営している。Y1で演奏する楽団の一員であったX1は、その楽団の解散に伴い、Yから新たな楽団編成・演奏の依頼を受け、8人編成のX1バンドを作り、昭和44年6月からY1でダンス音楽の演奏をしている。X2は、Yがショーの伴奏をする楽団を探しているので楽団を編成して応募するようX1に勧められ、9人編成のX2バンドを作り、同年8月からX1バンドと30分ずつ交互にY1で演奏をしている。 昭和47年2月、休日の廃止や演奏料引き上げの問題をきっかけに、X2バンドの全員とX1は補助参加人X合同労組(大阪芸能労働組合)に加入し、分会を結成した。XがYの団交拒否と支配介入につき救済を申し立てたところ、YはX1、X2と請負契約を結んでいるに過ぎず、各楽団員との間に労使関係は存在しないとして不当労働行為は成立しないと主張した。 大阪地労委は労使関係の存在を認め、中労委もこれを支持したため、Yが中労委を被告に行政訴訟を提起したもの」である。

 これは、阪神観光事件であるが、最高裁(最判S62、2,26)は次のように判示した。

 バンドマスターであるX1及びX2も含めて両楽団の楽団員は、グループで年間を通じYの経営するY1に必要な楽団演奏者としてその営業組織に組み入れられ、Y1の営業に合わせYの指定する時間にその包括的に指示する方法によって長年月継続的に演奏業務に従事してきたものであり、また、Yから支払われる演奏料は楽団演奏という労務の提供それ自体の対価とみられるのであって、これらの諸点に照らせば、両楽団の楽団員は対価を得てその演奏労働力をYの処分にゆだね、Yは右演奏労働力に対する一般的な指揮命令の権限を有していたものというべきである。そうすると、Yは、X1及びX2を含む両楽団の楽団員に対する関係において労働組合法7条にいう使用者に当たると解するのが相当である。

 「使用者」概念は、「労働者」概念に対応するものであるが、一般的判断基準を示すことを避け、個別的具体的判断をなすにとどめている。

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07年06月30日 | Category: 労働関係
Posted by: marutahoumuj
 事案は、「Xらは、Y航空会社の日本支社従業員であり、その従業員らで組織する労働組合に所属し、本件ストライキ当時は大阪、沖縄の各営業所に勤務していた。組合は、羽田地区におけるY社従業員と派遣会社の派遣する下請従業員との混用を職業安定法44条に違反すると主張。Y社もその要求の一部を受け入れ、一定部門における正社員化の方針などを回答したが、組合はこれを承服せず、あくまで下請従業員の直傭化を要求して、1ヵ月半にわたり東京地区の組合員をもってストライキを決行、同組合員らは羽田空港内のY社の業務用機材約70台をハンガー(格納家屋)に持ち去り、これを占拠した。その結果、Y社飛行便の大部分が欠航を余儀なくされ、大阪および沖縄営業所の従業員各12名(計24名)が就労を必要としなくなったとして休業を命じられた。 そこで、Xら19名は、主位的には休業期間中の未払い賃金の支払を、予備的には同期間中の休業手当の支払を求めて訴えを提起したもの」である。

 これは、ノースウェスト航空事件であるが、最高裁(最判S62,7,17)は次のように判示した。

1 労働者の一部によるストライキが原因で、ストライキに参加しなかった労働者が労働をすることが社会観念上不能又は無価値となり、その労働義務を履行することができなくなった場合、不参加労働者が賃金請求権を有するか否かについては、当該労働者が就労の意思を有する以上、その個別の労働契約上の危険負担の問題として考察すべきである。このことは、当該労働者がストライキを行った組合に所属していて、組合意思の形成に関与し、ストライキを容認しているとしても、異なるところはない。

2 ストライキは労働者に保障された争議権の行使であって、使用者がこれに介入して制御することはできず、また、団体交渉において組合側にいかなる回答を与え、どの程度譲歩するかは使用者の自由であるから、団体交渉の決裂の結果ストライキに突入しても、そのことは、一般に使用者に帰責さるべきものということはできない。したがって、労働者の一部によるストライキが原因でストライキ不参加労働者の労働義務の履行が不能となった場合は、使用者が不当労働行為の意思その他不当な目的をもってことさらストライキを行わしめたなどの特別の事情がない限り、右ストライキは民法536条2項の「債権者の責めに帰すべき事由」には当たらず、当該不参加労働者は賃金請求権を失うと解するのが相当である。

3 休業手当の制度は、・・・・・・・・労働者の生活保障という観点から設けられたものではあるが、賃金の全額においてその保障をするものではなく、しかも、その支払義務の有無を使用者の帰責事由の存否にかからしめていることからみて、・・・・・・・・・・使用者の立場をも考慮すべきものとしていることは明らかである。そうすると、労基法26条の「使用者の責に帰すべき事由」の解釈適用に当たってはいかなる事由による休業の場合に労働者の生活保障のために使用者に(平均賃金の6割)の限度での負担を要求するのが社会的に正当とされるかという考量を必要とするといわなければならない。このようにみると、右の「使用者の責に帰すべき事由」とは、取引における一般原則たる過失責任主義とは異なる観点をも踏まえた概念というべきであって、民法536条2項の「債権者の責めに帰すべき事由」よりも広く、使用者側に起因する経営、管理上の障害を含むものと解するのが相当である。

 本件では、ストライキは組合が自らの主体的判断とその責任において行ったものであるとして、使用者の帰責性を認めず、賃金も休業手当も否定されています。ただ、判決は、賃金請求権と休業手当請求権とは競合しうるとの前提に立っていることに注意を要します。

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07年06月29日 | Category: 労働関係
Posted by: marutahoumuj
 事案は、「日産自動車(以下会社という)が、プリンス自工を吸収合併した際、全金プリンス自工支部(以下支部という)は日産労組に統合されたが、一部組合員は支部を存続させたので、二労組が併存することになった。合併後旧プリンス工場に「日産型交替制」と「計画残業」が、会社と日産労組との協定に基づき導入された。会社はこの導入については日産労組とのみ協議し、支部とは何らの協議もしなかった。導入後会社は、製造部門の支部組合員を早番のみの勤務に組み入れ、残業は一切させなかった。また、間接部門でも、支部組合員は残業をさせられなくなった。 ところで、支部は、会社合併後、右の制度導入以前から、日産型交替制については深夜勤務(遅番)に反対し、計画残業についてはこれを強制残業として反対する情宣活動をしていた。その後、支部は残業からの除外を差別と主張した。 その後の団交で、会社は、初めて支部に対し、日産型交替制と計画残業は組み合わされて一体をなすものであるとして、その内容、手当等につき具体的な説明をし、日産労組と同様に支部もこれを受け入れない限り、支部組合員を残業に組み入れることはできない旨述べたが、支部はこれを拒否した。 不当労働行為救済申立事件で東京地労委は、労組法7条3号違反を認め、会社が残業を命ずるに当たって支部組合員であることを理由として他の労働組合員と差別して取扱ってはならない旨を命令した。その再審査申立に対し、中労委は棄却を命令した。この命令の取消請求をしたもの」である。

 これは、日産自動車事件であるが、一審は、支部組合員が残業を命じられなかったのは、支部の自主的判断による拒否の結果であるとして、不当労働行為を否定し、中労委命令を取消した。これに対し、二審は、会社の勤務体制への支部の反対は、会社の残業組入れ拒否の形式的、表面的理由に過ぎないか、ないしはその理由の一部をなすにとどまり主たる動因は反組合的意図にあるとして、一審判決を取消した。

 最高裁(最判S60,4,23)は、次のように判示して、上告を棄却した。

1 併存する組合の一方は使用者との間に一定の労働条件の下で残業することについて協約を締結したが、他方の組合はより有利な労働条件を主張し、右と同一の労働条件の下で残業をすることについて反対の態度をとったため、残業に関して協定締結に至らず、その結果、右後者の組合員が使用者から残業を命ぜられず、前者の組合員との間に残業に関し取扱いに差異を生ずることになったとしても、それは、ひっきょう、使用者と労働組合との間の自由な取引の場において各組合が異なる方針ないし状況判断に基づいて選択した結果が異なるにすぎないから、一般的、抽象的に論ずる限りは不当労働行為の問題は生じない。

2 複数組合併存下においては、使用者に各組合との対応に関して平等取扱い、中立義務が課せられているとしても、各組合の組織力、交渉力に応じた合理的、合目的的な対応をすることが右義務に反するものとみなさるべきではない。

3 合理的、合目的的な取引活動とみられうべき使用者の態度であっても、当該交渉事項については既に当該組合に対する団結権、の否認ないし同組合に対する嫌悪の意図が決定的動機となって行われた行為があり、当該団体交渉がそのような既成事実を維持するために形式的に行われているものと認められる特段の事情がある場合には、右団体交渉の結果としてとられている使用者の行為についても労組法7条3号の不当労働行為が成立する。

 企業内に複数の労働組合が併存する場合、使用者の交渉条件とこれに対する各労働組合の取引の自由が問題となるため、不当労働行為となるか否かの判断は、極めて微妙でありかつ困難となります。以前記事にした日本メール・オーダー事件も参照してください。

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07年06月27日 | Category: 労働関係
Posted by: marutahoumuj
 事案は、「Xら21名は、Y会社の従業員であり、これをもって組織する訴外労働組合の組合員である。昭和48年1月30日、右組合はYに対し、2月1日以降出張・外勤拒否等の闘争に入る旨を通告。対するにYは同月5日から14日までの間、Xらに出張・外勤を文書で命じたが、Xらはこれを拒否、この間もっぱら内勤業務に従事した。かくてYは、Xらが右命令を拒否した間の賃金を過払い分として翌3月分の給与から控除。そこで、Xらは、かかる賃金カットを違法として、控除された賃金の支払を訴求したもの」である。

 これは、水道機工事件であるが、最高裁(最判S60,3,7)は次のように判示して、Xらの上告を棄却した。

 原審は、・・・・・・・・・・・・・・本件業務命令は、組合の争議行為を否定するような性質のものではないし、従来の慣行を無視したものとして信義則に反するというものでもなく、「Xらが、本件業務命令によって指定された時間、その指定された出張・外勤に従事せず内勤業務に従事したことは、債務の本旨に従った労務の提供をしたとはいえず、また、Yは、本件業務命令を事前に発したことにより、その指定した時間については出張・外勤以外の労務の受領をあらかじめ拒絶したものと解すべきであるから、Xらが提供した内勤業務についての労務を受領したものとはいえず、したがって、Yは、Xらに対し右の時間に対応する賃金の支払義務を負うものではない」と判断している。原審の右判断は、・・・・・・・・・・・・・・・正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。

 出張・外勤命令が事前に発せられたことをもって、これ以外の労務の受領を予め使用者が拒絶したものと解する論理構成は、シックリしないものがある。使用者の争議行為として限定的に認めたロックアウトに関する最高裁の立場と整合性を有するのであろうか。

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07年06月26日 | Category: 労働関係
Posted by: marutahoumuj
 事案は、「Xら4名は、Y会社における女子従業員で、Yの従業員組合Aの組合員でもあるが、昭和46年11月に生理休暇を2日取得したところ、精皆勤手当の算定に際して欠勤扱いとされ同月分の同手当が1000円しか支給されなかったため、本来5000円の手当受給権があるはずとしてその差額4000円の支給を請求したものである。 なお、YとA組合との間には、昭和46年3月以降「出勤不足日数のない場合5000円、出勤不足日数1日の場合3000円、同2日の場合1000円、同3日以上の場合なし」とする旨の同年11月の口頭による合意があった。また、原審の認定によれば、生理休暇取得者には、不就業手当としてXらには1日1460円から1510円の間の基本給相当額が支給されていたが、右46年合意に際し、生理休暇取得日数を出勤不足日数に算入する旨の口頭の約束があった。」というものである。

 これは、エヌ・ビー・シー工業事件であるが、最高裁(最判S60、7,16)は、次のように判示して、Xらの上告を棄却した。

1 労基法67条(現68条)は所定の要件を備えた女子労働者が生理休暇を請求したときは、その者を就業させてはならない旨規定しているが、年次有給休暇については同法39条4項(現6項)においてその期間所定の賃金等を支払うべきことが定められているのに対し、生理休暇についてはそのような規定が置かれていないことを考慮すると、「その趣旨は、当該労働者が生理休暇の請求をすることによりその間の就労義務を免れ、その労務の不提供につき労働契約上債務不履行の責めを負うことのないことを定めたにとどまり、生理休暇が有給であることまでをも保障したものではない」と、解するのが相当である。したがって、「生理休暇を取得した労働者は、その間就労していないのであるから、労使間に特段の合意がない限り、その不就労期間に対応する賃金請求権を有しない。」

2 また、労基法12条3項及び39条5項(現7項)によると、生理休暇は、同法65条所定の産前産後の休業と異なり、平均賃金の計算や年次有給休暇の基礎となる出勤日の算定について特別の扱いを受けるものとはされておらず、、これらの規定に徴すると、「同法67条(現68条)は、使用者に対し生理休暇取得日を出勤扱いにすることまでも義務づけるものではなく、これを出勤扱いにするか欠勤扱いにするかは原則として労使間の合意に委ねられている。」

3 ところで、生理休暇の取得が欠勤扱いとされることによって何らかの形で経済的利益を得られない結果となるような措置ないし制度を設けられたときには、生理休暇の取得が事実上抑制される場合も起こりうるが、労基法67条(現68条)の上述の趣旨に照らすと、「かかる措置ないし制度は、その趣旨、目的、労働者が失う経済的利益の程度、生理休暇の取得に対する事実上の抑止力の強弱等諸般の事情を総合して、生理休暇の取得を著しく困難とし同法が女子労働者の保護を目的として生理休暇について特に規定を設けた趣旨を失わせるものと認められるのでない限り、同条違反とはいえない。」

 生理休暇の有給性の問題と精皆勤手当の問題とは区別しなければなりません。最高裁が、生理休暇制度保障にいわば消極的な立場をとったのは、生理休暇制度の濫用防止を睨んでのことと思われます。

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07年06月25日 | Category: 労働関係
Posted by: marutahoumuj
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