07年08月13日
発症後の安静治療の困難と業務起因性
事案は、「J小学校の教諭である訴外Aは、市内の小学校の球技大会を目指したポートボールの練習を指導する教諭の中で中心的立場に立ち、その練習指導の大部分を行ってきていた者である。Aは、昭和54年10月28日午前7時40分ころ出勤したが、出勤間もないころから頭痛等の身体的不調を訴え普通の健康状態にあるとは考えにくい行動をとり、また体調が悪いことから昼頃と、他校での試合審判開始前の二回にわたり同僚の教諭らに審判の交代を頼んだが聞き入れられず、やむなく午後2時ころに始まった試合に審判として臨んだ。Aは、この審判としての球技指導中に気分が悪いといって倒れ、意識不明となって入院し、入院先で特発性脳内出血と診断され、血腫除去の緊急手術を受け一時意識状態が好転したが、同年11月3日呼吸不全に陥り、同月9日に死亡した。 Aの妻であるXは、本件死亡につき、公務災害の認定を請求。Yは、昭和54年12月25日付けで公務外認定処分をした。Xは、本件処分を不服とし、審査請求次いで再審査請求をしたがいずれも棄却されたため、本件処分の取消訴訟を提起したもの」である。
これは、地公災基金愛知県支部長事件であるが、最高裁(最判H8,3,5)は次のように判示した。
1 特発性脳内出血は、破裂した微細な血管部分から微量の血液が徐々に浸出するもので、出血開始から血腫が拡大し意識障害に至るまでの時間がかなり掛かる。そして血圧の変動が出血の態様、程度に影響を及ぼすことがあり、また、肉体的又は精神的負荷が血圧変動や血管収縮に関係し得ることは経験則上明らかなので、出血の態様、程度が、血管破裂後に当人が安静にしているか、肉体的又は精神的負荷が掛かった状態にあるのかによって影響を受け得る。そうすると、出血開始時期がポートボールの試合の審判をする以前であったとしても、右審判による負担やこれによる血圧の一過性の上昇等が出血の態様、程度に影響を及ぼす可能性も・・・・・・十分に考えられる。また、午前中の段階で、Aは身体的不調を訴えていたのであるから・・・・特発性脳内出血の性質からして、直ちに診察、手術を受ければ死亡するに至らなかった可能性もある。結局、出血開始後の公務の遂行がその後の症状の自然的経過を超える増悪の原因となったことにより、又はその間の治療の機会が奪われたことにより死亡の原因となった重篤な血腫が形成されたという可能性を否定することは許されない。
2 Aは、ポートボールの練習指導の中心的存在であり、他に適当な交代要員がいないため交代が困難であったことから、やむを得ずポートボールの試合の審判に当たったことがうかがわれる。そうすると、仮に前記の可能性が肯定されるならば、Aの特発性脳内出血が後の死亡の原因となる重篤な症状に至ったのは、午前中に脳内出血が開始し、体調不調を自覚したにもかかわらず、直ちに安静を保ち診察治療を受けることが困難であって、引き続き公務に従事せざるを得なかったという、公務に内在する危険が現実化したことによるものとみることができる。
3 以上によれば、出血開始後の公務の遂行が特発性脳内出血の態様、程度に影響を与えた可能性、死亡に至るほどの血腫の形成を避けられた可能性等の点について審理判断を尽くすことなく・・・・・・・公務起因性を否定した原審の判断には審理不尽又は理由不備の違法があるので原判決を破棄し、右の点について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻す。
本判決は、発症それ自体に業務起因性が認められなくとも、当該疾病の発症後に従事した業務が症状を自然的経過を超えて増悪させた場合には業務上となると判断しています。
メールによるご相談は、m-sgo@gaia.eonet.ne.jpまでお気軽にどうぞ(無料)。
なお、当事務所は年金記録問題無料相談所でもありますから、詳しくは年金のテーマの所をご覧下さい。
これは、地公災基金愛知県支部長事件であるが、最高裁(最判H8,3,5)は次のように判示した。
1 特発性脳内出血は、破裂した微細な血管部分から微量の血液が徐々に浸出するもので、出血開始から血腫が拡大し意識障害に至るまでの時間がかなり掛かる。そして血圧の変動が出血の態様、程度に影響を及ぼすことがあり、また、肉体的又は精神的負荷が血圧変動や血管収縮に関係し得ることは経験則上明らかなので、出血の態様、程度が、血管破裂後に当人が安静にしているか、肉体的又は精神的負荷が掛かった状態にあるのかによって影響を受け得る。そうすると、出血開始時期がポートボールの試合の審判をする以前であったとしても、右審判による負担やこれによる血圧の一過性の上昇等が出血の態様、程度に影響を及ぼす可能性も・・・・・・十分に考えられる。また、午前中の段階で、Aは身体的不調を訴えていたのであるから・・・・特発性脳内出血の性質からして、直ちに診察、手術を受ければ死亡するに至らなかった可能性もある。結局、出血開始後の公務の遂行がその後の症状の自然的経過を超える増悪の原因となったことにより、又はその間の治療の機会が奪われたことにより死亡の原因となった重篤な血腫が形成されたという可能性を否定することは許されない。
2 Aは、ポートボールの練習指導の中心的存在であり、他に適当な交代要員がいないため交代が困難であったことから、やむを得ずポートボールの試合の審判に当たったことがうかがわれる。そうすると、仮に前記の可能性が肯定されるならば、Aの特発性脳内出血が後の死亡の原因となる重篤な症状に至ったのは、午前中に脳内出血が開始し、体調不調を自覚したにもかかわらず、直ちに安静を保ち診察治療を受けることが困難であって、引き続き公務に従事せざるを得なかったという、公務に内在する危険が現実化したことによるものとみることができる。
3 以上によれば、出血開始後の公務の遂行が特発性脳内出血の態様、程度に影響を与えた可能性、死亡に至るほどの血腫の形成を避けられた可能性等の点について審理判断を尽くすことなく・・・・・・・公務起因性を否定した原審の判断には審理不尽又は理由不備の違法があるので原判決を破棄し、右の点について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻す。
本判決は、発症それ自体に業務起因性が認められなくとも、当該疾病の発症後に従事した業務が症状を自然的経過を超えて増悪させた場合には業務上となると判断しています。
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07年08月10日
労働協約の不利益変更と未組織労働者への拡張適用
事案は、「Xは、昭和26年に鉄道保険部職員としてA社に雇用されたが、昭和40年にYがA社の業務を引き継いだことに伴い、Yの従業員になった。 当時、Yでは、Xら鉄道保険部出身の労働者とそれ以外の労働者との労働条件の統一について合意が成立するまで、Xらには従前の労働協約及び就業規則の効力を認めることが了解されていたが、その後両者の組合が合体して新たに結成されたB労組とYとの間で、前記の労働条件の統一について交渉が続けられた。昭和47年までに順次労働条件を統一したが、定年年齢の統一については合意に至らず、鉄道保険部出身の労働者の定年が満63歳であるのに対し、それ以外の労働者の定年は満55歳のまま推移した。 その後、yの経営悪化などの事情の下、昭和58年にB労組とYは、定年年齢の統一、退職金支給率の変更について合意し、同年7月に新たな労働協約を締結した。当時Xは協約上非組合員とされていたが、本件労働協約及び就業規則の効力が及ぶものとして、労働条件が次のように変更された。(1)定年年齢が57歳とされることによってXは既に退職したものとされ、それ以降は62歳まで特別社員として1年ごとに再雇用されるが、給与は定年前の60%となった。(2)退職手当規程の改定に応じて退職金支給率が30年勤続について71ヶ月から60ヶ月に引き下げられた。なお、これらの改定にかかわる解決の代償金として、対象者1人平均12万円が支払われた。また、本件労働協約は昭和58年4月1日に遡って効力を生じるものとされていた。 これに対し、Xが、労働契約上の地位確認及び給与等の差額を請求したもの」である。
これは、朝日火災海上保険事件であるが、最高裁(最判H8,3,26)は次のように判示した(当てはめの部分省略)。
1 労組法17条の適用に当たっては、労働協約上の基準の一部が未組織の同種労働者の労働条件より不利益な場合でも、そのことだけで右の不利益部分についてはその効力が右労働者に対して及ばないと解するのは相当でない。けだし、同条は、その文言上、同条に基づき労働協約の規範的効力が同種労働者にも及ぶ範囲について何らの限定もしていない上、労働協約の締結に当たっては、その時々の社会的経済的条件を考慮して、総合的に労働条件を定めていくのが通常であるから、その一部をとらえて有利、不利をいうことは適当でないからである。また、右規定の趣旨は、主として一つの事業場の4分の3以上の同種労働者に適用される労働協約上の労働条件によって当該事業場の労働条件を統一し、労働組合の団結権の維持強化と当該事業場における公正妥当な労働条件の実現を図ることにあると解されるから、その趣旨からしても、未組織の同種労働者の労働条件が一部有利のものであることの故に、労働協約の規範的効力がこれに及ばないとするのは相当でない。
2 しかしながら他面、未組織労働者は、労働組合の意思決定に関与する立場になく、また逆に、労働組合は、未組織労働者の労働条件を改善し、その他の利益を擁護するために活動する立場にないことからすると、労働協約によって特定の未組織労働者にもたらされる不利益の程度・内容、労働協約が締結されるに至った経緯、当該労働者が労働組合の組合員資格を認められているかどうか等に照らし、当該労働協約を特定の未組織労働者に適用することが著しく不合理であると認められる特段の事情があるときは、労働協約の規範的効力を当該労働者に及ぼすことはできない。
このように判示して、Xへの労働協約の拡張適用を否定したものである。
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これは、朝日火災海上保険事件であるが、最高裁(最判H8,3,26)は次のように判示した(当てはめの部分省略)。
1 労組法17条の適用に当たっては、労働協約上の基準の一部が未組織の同種労働者の労働条件より不利益な場合でも、そのことだけで右の不利益部分についてはその効力が右労働者に対して及ばないと解するのは相当でない。けだし、同条は、その文言上、同条に基づき労働協約の規範的効力が同種労働者にも及ぶ範囲について何らの限定もしていない上、労働協約の締結に当たっては、その時々の社会的経済的条件を考慮して、総合的に労働条件を定めていくのが通常であるから、その一部をとらえて有利、不利をいうことは適当でないからである。また、右規定の趣旨は、主として一つの事業場の4分の3以上の同種労働者に適用される労働協約上の労働条件によって当該事業場の労働条件を統一し、労働組合の団結権の維持強化と当該事業場における公正妥当な労働条件の実現を図ることにあると解されるから、その趣旨からしても、未組織の同種労働者の労働条件が一部有利のものであることの故に、労働協約の規範的効力がこれに及ばないとするのは相当でない。
2 しかしながら他面、未組織労働者は、労働組合の意思決定に関与する立場になく、また逆に、労働組合は、未組織労働者の労働条件を改善し、その他の利益を擁護するために活動する立場にないことからすると、労働協約によって特定の未組織労働者にもたらされる不利益の程度・内容、労働協約が締結されるに至った経緯、当該労働者が労働組合の組合員資格を認められているかどうか等に照らし、当該労働協約を特定の未組織労働者に適用することが著しく不合理であると認められる特段の事情があるときは、労働協約の規範的効力を当該労働者に及ぼすことはできない。
このように判示して、Xへの労働協約の拡張適用を否定したものである。
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07年08月09日
労災保険審査請求手続の遅延と取消訴訟
事案は、「Xは、昭和51年8月26日に被った負傷について、那覇労働基準監督署長Yより「業務上」の認定を受け、療養補償給付及び休業補償給付を受給していたが、昭和53年1月20日にYから上記負傷につき「治癒」したとの認定がなされ、これ以降の期間については補償給付を行わないとする処分を受けた。Xは、この処分を不服として、沖縄県労働者災害補償保険審査官に審査請求したが、棄却されたので、労働保険審査会に再審査請求をなした。審査会は、昭和57年4月20日、「治癒」の日を昭和54年12月20日と判断し、Yの不支給処分を一部取消す旨の裁決をなした。 しかし、この裁決を不服とするXは、その後もなおYに対し、昭和62年6月1日以降の期間について療養補償給付及び休業補償給付を請求したところ、Yは平成2年7月5日に不支給とする処分をなした。Xは、同月16日に本件処分を不服として、再び審査官に不服審査をしたが、3ヶ月以上経過しても裁決がなかった。そのため、Xは、行政事件訴訟法8条2項1号にいう「審査請求があった日から3箇月を経過しても裁決がないとき」に当たると判断して、再審査請求手続が始まる前の平成3年1月25日に、本件処分の取消を求める訴えを提起したもの」である。
これは、那覇労基署長事件であるが、最高裁(最判H7,7,6)は次のように判示した。
行訴法8条2項1号の「審査請求」は、行政処分について、2段階の審査請求手続が定められ、かつ、第2段階の審査請求に対する裁決の前置主義が採られている場合には、法律に特段の定めがない限り、第1段階の審査請求と第2段階の審査請求のいずれをも指し、そのいずれに対する裁決が遅延するときにも、同号が適用され、裁決前置主義が緩和される。
労災保険法は、保険給付に関する決定に対する不服について、2段階の審査請求手続を定め、かつ、取消しの訴えにつき第2段階の審査請求に対する裁決の前置を定めている。その趣旨は、多数に上る保険給付に関する決定に対する不服事案を迅速かつ公正に処理すべき要請にこたえるため、専門的知識を有する特別の審査機関を設けた上、裁判所の判断を求める前に、簡易迅速な処理を図る第1段階の審査請求と慎重な審査を行い併せて行政庁の判断の統一を図る第2段階の再審査請求とを必ず経由させることによって、行政と司法の機能の調和を保ちながら、保険給付に関する国民の権利救済を実効性のあるものとしようとするところにある。
しかし、これらの定めからは、行訴法8条2項1号の「審査請求」を第2段階の審査請求に限定するとの趣旨を読み取ることはできず、また労災保険法は、審査請求に対する決定が遅延した場合に決定を経ないで再審査請求をすることを許容するなど、その遅延に対する救済措置の定めを置いていないので、第1段階の審査請求についての法8条2項1号の不適用を定めたものと解するならば、国民の司法救済の道を不当に閉ざす結果を招くことは明らかであるから、そのような解釈は採り得ない。
したがって、保険給付に関する決定に不服のある者は、労働者災害補償保険審査官に対して審査請求をした日から3箇月を経過しても決定(法8条2項1号の「裁決」に当たる。)がないときは、審査請求・・・・・・の手続を経ないで、処分の取消しの訴えを提起することができるものというべきである。
なお、この判決後、労災保険法が改正され、「審査請求後3箇月を経過しても審査官の決定がないときには、再審査請求できる」ことになったので、行訴法8条2項1号は2段階目の不服申立手続の遅延にのみ適用されることになると思われる。
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これは、那覇労基署長事件であるが、最高裁(最判H7,7,6)は次のように判示した。
行訴法8条2項1号の「審査請求」は、行政処分について、2段階の審査請求手続が定められ、かつ、第2段階の審査請求に対する裁決の前置主義が採られている場合には、法律に特段の定めがない限り、第1段階の審査請求と第2段階の審査請求のいずれをも指し、そのいずれに対する裁決が遅延するときにも、同号が適用され、裁決前置主義が緩和される。
労災保険法は、保険給付に関する決定に対する不服について、2段階の審査請求手続を定め、かつ、取消しの訴えにつき第2段階の審査請求に対する裁決の前置を定めている。その趣旨は、多数に上る保険給付に関する決定に対する不服事案を迅速かつ公正に処理すべき要請にこたえるため、専門的知識を有する特別の審査機関を設けた上、裁判所の判断を求める前に、簡易迅速な処理を図る第1段階の審査請求と慎重な審査を行い併せて行政庁の判断の統一を図る第2段階の再審査請求とを必ず経由させることによって、行政と司法の機能の調和を保ちながら、保険給付に関する国民の権利救済を実効性のあるものとしようとするところにある。
しかし、これらの定めからは、行訴法8条2項1号の「審査請求」を第2段階の審査請求に限定するとの趣旨を読み取ることはできず、また労災保険法は、審査請求に対する決定が遅延した場合に決定を経ないで再審査請求をすることを許容するなど、その遅延に対する救済措置の定めを置いていないので、第1段階の審査請求についての法8条2項1号の不適用を定めたものと解するならば、国民の司法救済の道を不当に閉ざす結果を招くことは明らかであるから、そのような解釈は採り得ない。
したがって、保険給付に関する決定に不服のある者は、労働者災害補償保険審査官に対して審査請求をした日から3箇月を経過しても決定(法8条2項1号の「裁決」に当たる。)がないときは、審査請求・・・・・・の手続を経ないで、処分の取消しの訴えを提起することができるものというべきである。
なお、この判決後、労災保険法が改正され、「審査請求後3箇月を経過しても審査官の決定がないときには、再審査請求できる」ことになったので、行訴法8条2項1号は2段階目の不服申立手続の遅延にのみ適用されることになると思われる。
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07年08月08日
地域別最低賃金の目安固まる
8日、全国の最低賃金改定の目安を協議する中央最低賃金審議会の小委員会は、現在の最低時給平均673円に対し、今年度の引き上げ幅を平均14円とする報告書をまとめた。10日に中央審を開き、正式決定する。
目安は、地域ごとに4ランクに分け、東京・大阪などのAランク(現行平均710円)が14円、埼玉・京都などのBランク(同674円)が14円、北海道・福岡などのCランク(同647円)が9〜10円、青森・沖縄などのDランク(同612円)が6〜7円とする。
これは、時給で働き、最低賃金額の影響を受けやすいパートやアルバイトなど非正社員が増え、低所得者層の拡大が社会問題となる中、正社員と非正社員の賃金格差の是正を狙ったものである。
目安は、地域ごとに4ランクに分け、東京・大阪などのAランク(現行平均710円)が14円、埼玉・京都などのBランク(同674円)が14円、北海道・福岡などのCランク(同647円)が9〜10円、青森・沖縄などのDランク(同612円)が6〜7円とする。
これは、時給で働き、最低賃金額の影響を受けやすいパートやアルバイトなど非正社員が増え、低所得者層の拡大が社会問題となる中、正社員と非正社員の賃金格差の是正を狙ったものである。
07年08月06日
社外労働者の受入会社の使用者性
事案は、「テレビ放送事業等を営むYは業務請負契約に基づいて派遣された阪神東通など3社の従業員を撮影、音響効果、照明等の番組制作業務に従事させていた。業務請負という形式にも拘らず実際には、Yの器材等を使用し、彼らはYの作業秩序に組み込まれて、1ヶ月毎にYが作成する、日別に番組名、作業の開始時刻、場所等を記した編成日程表と台本及び制作進行表による作業の内容・手順に従い、作業時間の変更、残業等を含め作業の進行はすべてY従業員であるディレクターの指揮の下に行われていた。 請負3社の従業員らで組織する民放労連近畿地区労働組合Xは、昭和49年9月以降、直接雇用、賃上げ、一時金、休憩室の設置を含む労働条件の改善等について団体交渉を申し入れたが、Yは「使用者」ではないことを理由に拒否したので、団交拒否の不当労働行為として救済を申し立てた。 大阪地労委は、Yの使用者性を認め、中労委も一定の事項を除き使用者性を認めた。 そこで、Yが、中労委命令の取消訴訟を提起したもの」である。
これは、朝日放送事件であるが、最高裁(最判H7,2,28)は次のように判示した。
1 団結権の侵害に当たる一定の行為を不当労働行為として排除、是正して正常な労使関係を回復するという労組法7条の目的に鑑み、労働契約上の雇用主以外でも、雇用主から労働者の派遣を受けて自己の業務に従事させ、その労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて・・・・・・同条の「使用者」に当たる。
2 Yは、請負3社から派遣される従業員が従事すべき業務の全般につき、編成日程表、台本及び制作進行表の作成を通じて、作業日時、作業時間、作業場所、作業内容等その細部に至るまで自ら決定していたこと、請負3社は、単に、ほぼ固定している一定の従業員のうちのだれをどの番組制作業務に従事させるかを決定していたにすぎない・・・・・こと、・・・・・・・・請負3社の従業員は・・・・・・・Yから支給ないし貸与される器材等を使用し、その作業秩序に組み込まれてYの従業員と共に番組制作業務に従事していたこと、請負3社の従業員の作業の進行は、作業時間帯の変更、作業時間の延長、休憩等の点についても、すべてYの従業員であるディレクターの指揮監督下に置かれていたこと・・・・・を総合すれば、Yは実質的にみて、請負3社から派遣される従業員の勤務時間の割り振り、労務提供の態様、作業環境等を決定していたのであり、右従業員の基本的な労働条件等について、雇用主である請負3社と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったから、その限りにおいて、労組法7条にいう「使用者」に当たる。
3 そうすると、Yが自ら決定することのできる労働条件(本件命令中の「番組制作業務に関する勤務の割付など就労に係る諸条件」はこれに含まれる)の改善を求める部分については、Yが正当な理由がなく団体交渉を拒否することは許されず、これを拒否したYの行為は、労働組合法7条2号の不当労働行為を構成する。
不当労働行為制度は、団結権侵害行為を実効的に排除して使用者の妨害・抑圧から自由な組合活動を保障するための制度であり、労働契約上の責任を追及するものではないから、不当労働行為の主体たる「使用者」を契約の相手方たる使用者に限定すべき必然性はないのである。
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これは、朝日放送事件であるが、最高裁(最判H7,2,28)は次のように判示した。
1 団結権の侵害に当たる一定の行為を不当労働行為として排除、是正して正常な労使関係を回復するという労組法7条の目的に鑑み、労働契約上の雇用主以外でも、雇用主から労働者の派遣を受けて自己の業務に従事させ、その労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて・・・・・・同条の「使用者」に当たる。
2 Yは、請負3社から派遣される従業員が従事すべき業務の全般につき、編成日程表、台本及び制作進行表の作成を通じて、作業日時、作業時間、作業場所、作業内容等その細部に至るまで自ら決定していたこと、請負3社は、単に、ほぼ固定している一定の従業員のうちのだれをどの番組制作業務に従事させるかを決定していたにすぎない・・・・・こと、・・・・・・・・請負3社の従業員は・・・・・・・Yから支給ないし貸与される器材等を使用し、その作業秩序に組み込まれてYの従業員と共に番組制作業務に従事していたこと、請負3社の従業員の作業の進行は、作業時間帯の変更、作業時間の延長、休憩等の点についても、すべてYの従業員であるディレクターの指揮監督下に置かれていたこと・・・・・を総合すれば、Yは実質的にみて、請負3社から派遣される従業員の勤務時間の割り振り、労務提供の態様、作業環境等を決定していたのであり、右従業員の基本的な労働条件等について、雇用主である請負3社と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったから、その限りにおいて、労組法7条にいう「使用者」に当たる。
3 そうすると、Yが自ら決定することのできる労働条件(本件命令中の「番組制作業務に関する勤務の割付など就労に係る諸条件」はこれに含まれる)の改善を求める部分については、Yが正当な理由がなく団体交渉を拒否することは許されず、これを拒否したYの行為は、労働組合法7条2号の不当労働行為を構成する。
不当労働行為制度は、団結権侵害行為を実効的に排除して使用者の妨害・抑圧から自由な組合活動を保障するための制度であり、労働契約上の責任を追及するものではないから、不当労働行為の主体たる「使用者」を契約の相手方たる使用者に限定すべき必然性はないのである。
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