事案は、「Xは、Yの武蔵工場に勤務し、トランジスターの品質歩留りの向上を所管する部署に属していたが、昭和42年9月、上司から残業して手抜き作業をやり直すよう命じられたにもかかわらず、残業は労働者の権利であるなどと主張してこれを拒否した。 なお、Yの就業規則及びY武蔵工場とその労働者の過半数で組織するY武蔵工場労働組合(Xも加入している)の上部団体との間で締結された労働協約には、Yは、業務上の都合によりやむを得ない場合には組合との三六協定により1日8時間の実働時間を延長することがある旨定められていた。そして、Yと組合との間で、昭和42年1月、延長する事由7項目を定めた三六協定が締結され、所轄労働基準監督署長に届出られた。 Xは、昭和40年から42年にかけて3回懲戒処分を受けていたが、本件残業拒否に対する出勤停止処分後も反省の色が見えなかった。そのため、Yは、就業規則を適用してXに対し懲戒解雇の意思表示をした。 そこで、Xは、Yを相手方として雇用契約上の地位確認等の訴えを提起したもの」である。

 これは、日立製作所事件であるが、最高裁(最判H3,11,28)は次のように判示した。

1 労働基準法(昭和62年改正前のもの)32条の労働時間を延長して労働させることにつき、使用者が、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合等と書面による協定(いわゆる三六協定)を締結し、これを所轄労働基準監督署長に届け出た場合において、使用者が当該事業場に適用される就業規則に当該三六協定の範囲内で一定の業務上の事由があれば労働契約に定める労働時間を延長して労働者を労働させることができる旨定めているときは、「当該就業規則の規定の内容が合理的なものである限り」、それが具体的労働契約の内容をなすから、右就業規則の規定の適用を受ける労働者は、その定めるところに従い、労働契約に定める労働時間を超えて労働をする義務を負うものと解するを相当とする。

2 本件の場合、時間外労働の具体的内容は三六協定に定められているが、同協定は、その時間を限定し、かつ、所定の事由を必要としているのであるから、結局就業規則の規定は合理的である。3項目はいささか概括的、網羅的ではあるが、企業が需給関係に即応した生産計画を適正且つ円滑に実施する必要性は同法36条の予定するところであり、これらが相当性を欠くとは言えない。懲戒解雇は正当である。

 就業規則の内容の「合理性」があれば、これに反対する労働者をも拘束するというのが、判例の流れです。

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07年07月12日 | Category: 労働関係
Posted by: marutahoumuj
 事案は、「国有林における木材や雑木の伐採作業にかかわる重筋労働の軽減や効率化を目的として昭和32年からチェンソーやブッシュクリーナーの本格的な導入が始められた。ところが、これらを使用した作業員の中から手指の蒼白やしびれを訴える者が昭和35年頃から生じはじめ、俗称「白ろう病」と呼ばれる振動障害が問題となり、昭和40年には労働省により職業病に、41年には人事院により公務災害として認定されるに至る。Xら12名は高知営林局内の営林署で長期間勤務したのち退職したが、退職の前後に振動障害の公務災害認定を受けている。Xらはこのような振動障害の発症につき、国Yに対して安全配慮義務違反等を理由とする損害賠償を求めたもの」である。

 これは、林野庁高知営林局事件であるが、最高裁(最判H2,4,20)は次のように判示した。

1 昭和40年までは振動障害に関する医学的知見は、削岩機、鋲打機等に関するものがほとんどであって、同年に至ってはじめて、チェンソー等の使用による振動障害を予見し得るに至ったというべきである。したがって、昭和40年前は、右のようにチェンソー等使用による振動障害発症の予見可能性が否定される以上、予見可能性を前提とする結果回避義務を問題にする余地はなく、右時点前はYの安全配慮義務違反を問う事はできない。

2 昭和40年に右予見可能性が生じたことを前提に、林野庁の行った施策等についてみるに、振動障害発症回避のための的確な実施可能な具体的施策を策定しうる状況にない時期に、林野庁としては振動障害発症の結果を回避するための相当な措置を講じてきたものということができ、これ以上の措置をとることを求めることは難きを強いるものというべきであるから、振動障害発症の結果回避義務の点においてYに安全配慮義務違反があるとはいえないというべきである。

3 敷衍するに、社会、経済の進歩発展のため必要性、有益性が認められるがあるいは危険の可能性を内包するかもしれない機械器具については、その使用を禁止するのではなく、その使用を前提として、その使用から生ずる危険、損害の発生の有無に留意し、その発生を防止するための相当の手段方法を講ずることが要請されているというべきであるが、社会通念に照らし相当と評価される措置を講じたにもかかわらずなおかつ損害の発生をみるに至った場合には、結果回避義務に欠けるものとはいえないというべきである。

 予見可能性を肯定する時期が若干遅いような気がするが、本判決は、従来の労災補償の上に重畳的に損害賠償をも認めるという方向を否定するものではないことに留意する必要があります。

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07年07月11日 | Category: 労働関係
Posted by: marutahoumuj
 事案は、「補助参加人らは、Yに対し、Xを被申立人として不当労働行為救済の申立をしたところ、Yは、Xが不誠実な団体交渉等によって補助参加人分会の組合員に対する夏季一時金の支給を遅滞させたこと等を認定し、これを不当労働行為に該当すると判断し、救済命令を発した。その中で、誓約書という題の下に、「当社団が行った次の行為は、神奈川県地方労働委員会により不当労働行為と認定されました。当社団は、ここに深く反省するとともに今後、再びかかる行為を繰り返さないことを誓約します。・・・・・・・・」との文言を縦1メートル、横2メートルの白色木板に墨書し、これをX経営の病院の建物入口附近に掲示するよう命ずる(ポスト・ノーティス命令)という内容があった。Xは、本件ポスト・ノーティス命令は謝罪広告を命ずるものであり、原状回復という不当労働行為の救済の目的に反し、当事者以外の第三者にその内容を公表し、かつXの意思の反してその掲示を強要するもので、救済内容として不要かつ行き過ぎたものであるとして、救済命令の取消を求めたもの」である。

 これは、医療法人社団・亮正会事件であるが、最高裁(最判H2、3,6)は次のように判示した。

 本件ポスト・ノーティス命令が、労働委員会によってXの行為が不当労働行為と認定されたことを関係者に周知徹底させ、同種行為の再発を抑制しようとする趣旨のものであることは明らかである。右掲示文には「深く反省する」、「誓約します」などの文言が用いられているが、同種行為を繰り返さない旨の約束文言を強調する意味を有するにすぎないものであり、Xに対し反省等の意思表明を要求することは、右命令の本旨とするところではないと解される。してみると、右命令はXに対し反省等の意思表明を強制するものであるとの見解を前提とする憲法19条違反の主張は、その前提を欠くというべきである。また、本件ポスト・ノーティス命令が、Yに認められた裁量権の範囲を逸脱したものともいえない。

 この判決は、最高裁が初めて、ポスト・ノーティス命令は思想及び良心の自由を保障した憲法19条に違反しないと判示したものです。

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07年07月10日 | Category: 労働関係
Posted by: marutahoumuj
 事案(チェック・オフに関する部分のみ)は、「Xは、本件病院を含む医療機関等を設置して社会福祉事業を行うものである。病院には、Xの従業員が組織するZ組合の支部組合Z’と訴外A組合がある。Z及びZ’組合は都労委にX及び病院を被申立人として、病院がZ’組合ないし組合員に対してチェック・オフの中止が支配介入に該当するとする不当労働行為救済の申立をした。 都労委は支配介入を認め、中労委もこれを維持したので、X及び病院が中労委(Y)を相手として再審査棄却命令の取消を求める行政訴訟を提起したもの」である。

(注) チェック・オフとは、通常、使用者が労働者の賃金から組合費を天引して、それらを一括して組合に交付することをいい、法的には、労働組合と組合員とが使用者に対し組合費の取立てと弁済を委任し、使用者がこれを履行することと解されています。

 これは、済生会事件であるが、最高裁(最判H元、12,11)は次のように判示した。

1 労基法24条1項本文は、賃金はその全額を労働者に支払わなければならないとしているが、その趣旨は、労働者の賃金はその生活を支える重要な財源で日常必要とするものであるから、これを労働者に確実に受領させ、その生活に不安のないようにすることが労働政策の上から極めて必要なことである、というにある・・・・・。これを受けて、同項但書は、(ア)当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者が使用者との間で賃金の一部を控除して支払うことに合意し、かつ、(イ)これを書面による協定とした場合に限り、労働者の保護に欠けるところはないとして、同項本文違反が成立しないこととした。しかして、いわゆるチェック・オフも労働者の賃金の一部を控除するものにほかならないから、同項但書の要件を具備しない限り、これをすることができないことは当然である。たしかに、原審のいうようにチェック・オフは労働組合の団結を維持、強化するものであるが、その組合員すなわち労働者自体は賃金の一部を控除されてその支払いを受けるのであるから、チェック・オフをする場合には右の(ア)(イ)の要件を具備する必要がないということはできない。

2 本件の場合、チェック・オフを中止した頃、Z’組合が病院の従業員の過半数で組織されていたといえるかどうかは極めて疑わしいといわなければならないし、また、本件チェック・オフは、過去15年余にわたってされたものであるが、これにつき書面による協定がなかったことも原審の適法に確定するところである。そうすると、本件チェック・オフの中止が労基法24条1項違反を解消するものであることは明らかであるところ、これに加えて、病院が・・・・・・・・・チェック・オフをすべき組合員(従業員)を特定することが困難である(これが特定されればチェック・オフをすることにやぶさかではない)として本件チェック・オフを中止したこと、及び病院が実際に・・・チェック・オフ協定案を提示したこと等を併せ考えると、本件チェック・オフの中止は、病院・・・・・・・の不当労働行為意思に基づくものともいえず、結局、不当労働行為に該当しないというべきである。

 判旨は、(ア)(イ)の形式的判断で処理していますが、そもそもチェック・オフに労基法24条1項但書が適用されるのかという問題があります。

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07年07月06日 | Category: 労働関係
Posted by: marutahoumuj
 事案は、「X会社は、参加人全港湾労働組合X分会(以下、参加人組合という)との間で、「X会社に所属する海上コンテナトレーラー運転手は、すべて参加人組合の組合員でなければならない。X会社は、X会社に所属する海上コンテナトレーラー運転手で、参加人組合に加入しない者及び参加人組合を除名された者を解雇する。」旨のユニオン・ショップ協定を締結していた。 Xに勤務する海上コンテナトレーラー運転手のYらは、参加人組合に脱退届を提出して同組合を脱退し、即刻、全日本運輸一般労働組合神戸支部に加入するとともに、同X分会を結成し、その旨をXに通告した。参加人組合は、同日、Xに対し、ユニオン・ショップ協定に基づくYらの解雇を要求し、Xは、右協定に基づきYらを解雇した。 そこで、Yらは、ユニオン・ショップ協定締結組合を脱退した直後に他組合に加入した場合には協定の効力は及ばないとして、右解雇の無効確認と賃金支払いを求めて訴えを提起したもの」である。

 これは、三井倉庫港運事件であるが、最高裁(最判H元、12,14)は次のように判示した。

1 ユニオン・ショップ協定は、労働者が労働組合の組合員たる資格を取得せず又はこれを失った場合に、使用者をして当該労働者との雇用関係を終了させることにより間接的に労働組合の組織の拡大強化を図ろうとするものであるが、他方、労働者には、自らの団結権を行使するため労働組合を選択する自由があり、また、ユニオン・ショップ協定を締結している労働組合の団結権と同様、同協定を締結していない他の労働組合の団結権も等しく尊重されるべきであるから、ユニオン・ショップ協定によって、労働者に対し、解雇の威嚇の下に特定の労働組合への加入を強制することは、それが労働者の組合選択の自由及び他の労働組合の団結権を侵害する場合には許されないというべきである。

2 したがって、ユニオン・ショップ協定のうち、締結組合以外の他の労働組合に加入している者及び締結組合から脱退し又は除名されたが、他の労働組合に加入し又は新たな労働組合を結成した者について使用者の解雇義務を定める部分は、右の観点からして、民法90条の規定によりこれを無効と解すべきである。そうすると、使用者が、ユニオン・ショップ協定に基づき、このような労働者に対してした解雇は、同協定に基づく解雇義務が生じていないのにされたものであるから、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当なものとして是認することはできず、他に解雇の合理性を裏付ける特段の事由がない限り、解雇権の濫用として無効であるといわざるをえない。

 労働者の組合選択の自由と他の労働組合の団結権を尊重して、ユニオン・ショップ協定の限界を判示したものといえる。

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07年07月05日 | Category: 労働関係
Posted by: marutahoumuj
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