最近は、統計上景気が回復したとされていますが、バブル経済崩壊後は、リストラ等による不当解雇や賃金未払いなど、労働者と使用者との間の個別労働紛争は、相変わらず増えています。

 労働局などに寄せられる相談で最も多いのが、やはり解雇事案であり、次が労働時間、賃金引下げなどの労働条件の低下の事案、これにいじめ・嫌がらせの事案が続きます。

 このように労働者と事業主との間に個別労働紛争が生じた場合、顧問の弁護士や社会保険労務士などによって、「企業内において自主的解決」を図るのがベストである。このような法律の専門家が企業内に存在する場合には、紛争を未然に防ぐため、就業規則の充実が図られているものと思われます。しかし、それでも、個別労働紛争は起きるものです。

 企業内に法律の専門家がいない場合には、法律知識等の不足により紛争の自主的解決が困難となる場合が多くなります。そこで、都道府県労働局企画室または労働基準監督署に設けられている「総合労働相談コーナー」では、自主解決のための情報提供や相談・助言を行っています。

 また、都道府県労働局長は、個別労働関係紛争に関し当事者の双方または一方から紛争解決について援助を求められた場合には、企業内自主解決ができるよう、当事者に対し、必要な助言又は指導を行います。もっとも、男女雇用機会均等法にかかる事案については、勧告も行います。

 さらに、都道府県労働局長は、紛争当事者の双方または一方から「あっせん」の申請があった場合に、紛争解決のために必要があると認めるときには、都道府県労働局にある「紛争調整委員会」にあっせんを行わせます。あっせんは、当事者双方の主張の要点を確かめ、実情に即したあっせん案を作成・提示しますが、当事者の一方から不参加の意思表示がなされると、あっせん打ち切りとなります。また、あっせん案は、必ず受諾しなければならないものではないのです。このように強制力がないのです。

 そこで、労働審判制度の登場となりますが、次回に譲ります。

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07年06月21日 | Category: 労働関係
Posted by: marutahoumuj
 事案は、「Y会社には、Y労働組合(約120名、以下労組)とY分会(20数名、以下分会)の2組合が併存していた。年末一時金に関して、Yと労組・分会とは一回目は妥結に至らなかった。労組との2回目の団交において、Yは前回の約束に基づいて「生産性向上に協力すること」という前提条件を付けた上で支給額上積み回答を示し、労組側はこれを受諾し、労働協約を締結し、Yは労組の組合員及び非組合員に対し、年末一時金を支給した。 他方、分会との2回目団交の席上、Yは、「生産性向上に協力する」という前提条件を付けた上、労組に提示したものと同一内容の回答を行った。分会は、「生産性向上に協力する」という条件は、人員削減を伴う合理化、労働組合潰しなどにつながると考え、その意味・内容を質問したが、具体的な説明は得られなかった。その後の団交においても、Yは、右前提条件と一時金回答とは一体のものであると主張した。分会は両者を切り離すべきことを主張して対立し、交渉は妥結せず、分会員に一時金は支給されなかった。 そこで、分会は、不当労働行為を理由に都労委に救済を申し立てた。都労委は、「生産性向上に協力する」という表現が極めて抽象的でその真意が測りかねる点があり、また、一時金につき妥結に至らなかったのはYが前提条件を一時金回答と不可分のものとした態度に基因するから、分会員に一時金が支給されない結果をもたらしたことは分会員に対する不利益取扱いであり、同時に分会の弱体化を企図したものであるとして、一時金の支給を命じた。Yはこれを不服とし、都労委(X)を被告として救済命令の取消訴訟を提起したもの」である。

 これは、日本メール・オーダー事件であるが、最高裁(最判S59,5,29)は次のように判示して、Xの命令を取消した原審を破棄した。

1 その前提条件は抽象的で具体性を欠くことから、一時金の積上げを実施する前提として提案するに当たって、Yは分会の理解を得るために十分な説明が必要であるのに協力義務の履行として具体的になすべきことの説明をしていない。にもかかわらず、右一時金の積上げ回答に本件前提条件を付することは合理性のあるものとはいい難く、したがって、分会がこれに反対したことも無理からぬものというべきである。

2 本件の前提条件は、労組の側から上積み要求実現のための交換条件として持ち出されたものとみるべきであるから、その内容上、労組とは組織とその方針を異にしていた分会として当然に受け入れられるものでないことは、Yとしても予測しえたはずである。

3 分会が少数派組合であることからすると、分会所属の組合員が一時金の支給を受けられないことになれば、同組合員らの間に動揺を来し、分会の組織力に影響を及ぼしその弱体化を来すと予測できる。Yが右のような状況の下において本件前提条件にあえて固執したということは、かかる状況を利して分会及びその所属組合員をして、右のような結果を甘受するのやむなきに至らしめようとの意図を有していたとの評価を受けてもやむをえない。

4 Yの右行為は、それを全体としてみた場合には、分会に所属している組合員を、そのことの故に差別し、これによって、分会の内部に動揺を生じさせ、ひいては分会の組織を弱体化させようとの意図の下に行われたものとして、労働組合法7条1号及び3号の不当労働行為を構成するものというべきである。

 使用者が、併存する複数の組合に同一条件を提示し、一方の組合はこれを受諾して協約を締結したが、他方の組合はこれを拒否したため、結果として両組合間に差別状態が生じた場合に、常に不当労働行為になると判示しているわけではないことに注意を要します。それは、団体交渉における取引の自由、労働組合の選択の自由があるからです。

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07年06月20日 | Category: 労働関係
Posted by: marutahoumuj
 事案は、「Xは、Y会社に技術者として勤務する者で、事件当時、工業学校卒業後に入社して以来14年近くが経っていた。この間、Xは、Y会社の従業員で組織する訴外A組合において様々な役職に就いたことがあったが、事件発生時には役職になく、組合主流派を労使協調路線と批判する立場をとっていた。 そのXが、他の数名と手分けして、昭和43年大晦日から翌44年元旦にかけての深夜に、Y会社の従業員社宅へビラ約350枚を配布した。ビラは、発行者の表示がなく、その内容は、Y会社に関して、(1)70年革命説を唱え反共宣伝をしている、(2)差別・村八分をはじめおよそ常識と法に反して労働者を締め上げている、(3)他の会社より低い給料・少ない賞与を押し付けている、(4)種々の既得権を取り上げてきた、などの事実を指摘し、(5)日本有数の大会社の正体がどんなにきたないものか、どんなにひどいものかを体で知ったと論評し、(6)ことしこそ以前にもましてみにくく、きたないやり方をするだろうと予想し、また、(7)会社の悪巧みや策動を・・・・・・公然と暴露すべきで、会社はそのことを最も恐れているとか、(8)会社は自分で自分の首をしめており、天に向かって唾するもの、還りて己が面を汚すとはY会社のことだとする記載があった。 Y会社は、こうしたビラ配布が就業規則の懲戒事由である「その他特に不都合な行為があったとき」に該当するとして、Xを最も軽い懲戒である譴責処分に付した。これに対して、Xは、譴責処分の無効確認などを求めたもの」である。

 ビラの内容が問題となったので、少し長くなりましたが、これは、関西電力事件であり、最高裁(最判S58,9,8)は次のように判示した。

1 労働者は、労働契約を締結して雇用されることによって、使用者に対して労務提供義務を負うとともに、「企業秩序を遵守すべき義務を負い」、使用者は、広く企業秩序を維持し、もって企業の円滑な運営を図るために、その雇用する労働者の企業秩序違反行為を理由として、当該労働者に対し、一種の制裁罰である懲戒を課すことができるものであるところ、「右企業秩序は、通常、労働者の職場内又は職務遂行に関係のある行為を規制することにより維持しうるのであるが、職場外された職務遂行に関係のない労働者の行為であっても、企業の円滑な運営に支障を来すおそれがあるなど企業秩序に関係を有するものもあるのであるから、使用者は、企業秩序の維持確保のために、そのような行為をも規制の対象とし、これを理由として労働者に懲戒を課することも許される」のであり、右のような場合を除き、労働者は、その職場外における職務遂行に関係のない行為について、使用者による規制を受けるべきいわれはないものと解するのが相当である。

2 これを本件についてみるに、右ビラの内容が大部分事実に基づかず、又は事実を誇張歪曲してY会社を非難攻撃し、全体としてこれを中傷誹謗するものであり、右ビラの配布により労働者の会社に対する不信感を醸成して企業秩序を乱し、又はそのおそれがあったものとした原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、是認することができないではなく、その過程に所論の違法があるものとすることはできない。・・・・・Xによる本件ビラの配布は、就業時間外に職場外であるY会社の従業員社宅において職務遂行に関係なく行われたものではあるが、前記就業規則所定の懲戒事由にあたると解することができ、これを理由としてXに対して懲戒として譴責を課したことは、懲戒権者に認められる裁量権の範囲を超えるものとは認められない。

 職場外の職務遂行と関係のない行為に対する懲戒は、労働者の企業秩序遵守義務、使用者の企業秩序維持確保を根拠としていることに注意する必要があります。

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07年06月19日 | Category: 労働関係
Posted by: marutahoumuj
 事案は、「観光バスの副運転手が、誘導のため下車しようとしたときに、同僚運転手が前進発進したため、そのバスに着地していた左足を轢過され、その結果生じた逸失利益と慰謝料を、民法715条1項の使用者責任を根拠に、損害賠償として請求したもの」である。

 これは、東都観光バス事件であるが、控訴審が、逸失利益については棄却し、慰謝料については200万円を認定した上、原告に過失ありとして過失相殺をし、かつ労災保険に基づく障害補償一時金および使用者等からの弁償金についても過失相殺の対象とし、先の慰謝料から控除したのに対し、最高裁(最判S58、4、19)は、次のように判示して、破棄差戻した。

 「労働者に対する災害補償は、労働者の被った財産上の損害の填補のためにのみされるものであって、精神上の損害の填補の目的をも含むものではない」から、・・・・・・・・・・前記上告人が受領した「労災保険による障害補償一時金及び休業補償金のごときは、上告人の財産上の損害の賠償請求権にのみ充てられるべき筋合のものであって、上告人の慰謝料請求権には及ばない」ものというべきであり、従って上告人が右補償金を受領したからといってその全部ないし一部を上告人の被った精神上の損害を填補すべきものとして認められた慰謝料から控除することは許されない。

 このように、わが国の最高裁判例は、労災保険法に基づく給付を、財産上の損害の填補であり、精神上の損害を含まないものと解していますから、慰謝料と労災保険法を調整するのは誤りなのです。ただ、「慰謝料」は、財産的損害を除く純粋な精神的損害のみを含んでいることが前提ですから、注意が必要です。

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07年06月18日 | Category: 労働関係
Posted by: marutahoumuj
 事案は、「Y会社の就業規則には、女子従業員は毎月生理休暇を必要日数だけとることができ、そのうち年間24日を有給とすると定められていた。Y会社はこれを、Xら及びXら所属の労働組合の同意を得ないままで、女子従業員は毎月生理休暇を必要日数だけとることができ、そのうち月2日を限度とし、1日につき基本給1日分の68%を補償するという規定に変更した。Xらは、Yに対し、右の新規定の下で生理休暇の取得により減額された賃金の支払を請求したもの」である。

 これは、タケダシステム事件であるが、最高裁(最判S58,11,25)は、次のように判示して、Xらの請求を認容した原審を破棄し、差し戻した。

1 新たな就業規則の作成または変更によって、労働者の既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは原則として許されないが、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由としてその適用を拒むことは許されないと解すべきことは、当裁判所の判例とするところであって、今これを変更する必要をみない。

2 したがって、本件就業規則の変更がXらにとって不利益なものであるにしても、右変更が合理的なものであれば、Xらにおいて、これに同意しないことを理由として、その適用を拒むことは許されないというべきである。そして、右変更が合理的なものであるか否かを判断するに当たっては、変更の内容及び必要性の両面からの考察が要求され、右変更により従業員の被る不利益の程度、右変更との関連の下に行われた賃金の改善状況のほか、Y主張のように、旧規定の下において有給生理休暇の取得について濫用があり、社内規律の保持及び従業員の公平な処遇のため右変更が必要であったか否かを検討し、更には労働組合との交渉の経過、他の従業員の対応、関連会社の取扱い、我が国社会における生理休暇制度の一般的状況等の諸事情を総合勘案する必要がある。

3 原審が、長期的に実質賃金の低下を生ずるような就業規則の変更はそもそも許されないとの見解の下に、本件の変更が合理的なものか否かに触れることなく、それはXらに対し効力を生じないと速断したのは、就業規則に関する法令の解釈適用を誤ったものである。

 前にも述べましたが、就業規則の変更には、労働組合等の意見を聞く必要はありますが、同意までは要求されません。ただし、それが「合理的」なものでなければなりません。

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07年06月16日 | Category: 労働関係
Posted by: marutahoumuj
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