●小規模企業の管理職研修のあり方を考える その3(H27.9月号)

経営者の皆様へ質問です。管理職に求められる使命とは何だとお考えですか?


いろいろ考えられますが、私は次の3つが管理職の3大ミッションであり、そのベースに2大要素が必要だと考えています。

(3大ミッション)
1. 経営者の片腕として、経営業務の一端を任される

2. 部下後輩を指導、育成、管理する   

3. 自分自身がより高い業績、成果を上げる


(2大要素)
4. 自分自身の人間力を高める

5. 良いいモデルになる



以下、順に解説いたします。


1.経営者の片腕として、経営業務の一端を任される

経営者が最終的に管理職に求める姿は、自分の片腕になってもらうことです。その為には経営業務の一端をも担ってもらわなければなりません。平社員より少し高度なことをやっている、程度のことでは本当はダメなのです。経営に関与してもらうくらいでないといけません。

大手企業ならここまでは求めません。何故なら、経営業務は複数の担当役員がいるからです。営業担当役員、開発担当役員、人事担当役員といった具合に。社長と管理職との距離も自ずと遠くなります。

これに対し、小規模企業は社長と管理職の距離が大手企業より断然近く、むしろ経営者と一体的な立場とされる管理監督者※は、社長と近い位置にいる小規模企業の管理職にこそ、成り立つと考えています。

※労働基準法第41条に定める労働時間、休憩、休日の規制を受けない(つまり残業代も付かない)管理監督者のこと。裁判ではほとんど会社が負ける類型。



2. 部下後輩を指導、育成、管理する   

これは解説の必要がないと思いますが、自分の仕事を高めるだけなら、職人さんと変わりません。管理職なら自分以外のことに注力する必要があり、その最たるものが部下の指導教育なのです。



3. 自分自身がより高い業績、成果を上げる

自分以外のことが大切とは言っても、今の管理職はマネジメントだけをやっていれば良いほど、会社に人材の余裕がありません。管理職自身もプレイングマネジャーとして、自分の仕事でも結果を出さなければならないのです。



4. 自分自身の人間力を高める

上記の3大ミッションを達成するベースに必要な要素の一つが管理職の人間力です。人間力というと漠然としますので、あえてひと言でいえば、「あの人の言うことなら仕方ない」と回りに思わせることができるかどうかです。時には会社の方針や考えと、社員との間に溝が生まれることがあります。そういったときに、「あの人がそこまで言うなら仕方ない」と思わすことができるかが重要で、その為には自分自身を磨き続け、敬われる存在であることが必要です。



5.良いいモデルになる

さらに3大ミッションを達成するために必要な要素が、部下の良いモデルになるということです。これもひと言でいえば「あの人みたいになりたい!」といった管理職モデルです。
これは若い有望な人材が定着するかどうかにも関わってきます。つまり上昇志向のある人材がその会社で自分の10年先とか、50歳になった姿を想像したとき、良いモデルがいないと、その組織内での上昇に懐疑的となり、将来を悲観してしまうのです。「あの人みたいになりたい、頑張ればあの人みたいになれるかもしれない」とのモチベーションは非常に大切で、今いる管理職に自分の姿をダブらせたとき、「あの人みたいに成れる」という良いイメージが描けないと、その会社で上昇することは諦めてしまうでしょう。



これは全ての問題解決の基本的な考え方である、「あるべき姿論」にもなります。つまり管理職としてあるべき姿と現状とのギャップを明らかにできないと、問題解決もできないことになります。


[あるべき姿]
   |   ギャップ
   |→→→→→→→→→〔問  題]→→→→〔原  因]→→→→〔対  策]
   |
〔現   状]



まず、「あるべき姿」が理想にあって、それに対する「現状」とのギャップが「問題」となります。この問題の「原因」を探り、「対策」を打つというものです。

こうして管理職のあるべき姿をイメージした後で、現状との差を埋めるために、強制して追い込んで行く仕組みを作って行くのです。以下次号。


(文責 特定社会保険労務士 西村 聡)

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小規模企業の賃金制度を得意としています。

文責 特定社会保険労務士 西村 聡
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15年09月01日 | Category: General
Posted by: nishimura
~社長一人の力は限界。殻を破れるかは、管理職の出来で決まる~
●小規模企業の管理職研修のあり方を考える その2 (H27.8月号)


前回に引き続くシリーズ第2弾です。前回は小規模企業の管理職教育のあり方について、その基本的な考え方をお伝えしました。その中で「小規模企業の社員教育は、社員を信じて自主性に任せてはいけない。強制して追い込んで行く仕組みが必要」と申しました。

今回はその仕組みとはどういったものが考えられるかをご紹介したいと思いますが、まず以下の表をご覧ください。


            さほど
 緊急         緊急でない
___________________
         |            
  1ゾーン    | 2ゾーン 重要
         |
_________|_________
         |
  3ゾーン    | 4ゾーン       さほど
         |           重要でない
_________|_________        



これは管理職の業務分類を行うときに良く使う表ですが、1ゾーンから4ゾーンまでに分け、管理職が実際に行っている業務(仕事内容)を各ゾーンに分類してみます。業務は営業とか事務とか、そういった大雑把な職種ではなく、現実に行っている仕事そのもののことで、例えば「見積もり」、「下請手配」、「伝票整理」、「研修への参加」、「掃除」などといった具合です。まず業務を手当たり次第書き出し、4つのゾーンに分類します。急ぎで重要な仕事なら1ゾーン、急がないし重要でもない仕事は4ゾーンへ、といった具合です。

そして分類された上表を眺めてみて、その管理職の全体の仕事時間のうち、どのゾーンにどれだけの時間を割いているか、その割合を出してみます。例えば、1ゾーンに60%、2ゾーンに10%、3ゾーンに10%、4ゾーンに20%といった具合です。大体で結構です。そうするとその管理職が、どのゾーンでどれくらいの時間を使っているかが概観できます。


以下をご覧ください。各ゾーンに簡単な解説を入れたものです。



            さほど
 緊急         緊急でない
___________________
         |           重要  
  1ゾーン    | 2ゾーン
 (火消し)   |(投資、予防、育成、開発、計画、育成等)
_________|_________
         |
  3ゾーン    | 4ゾーン       さほど
 (お付き合い) |(消費)       重要でない
_________|_________        


もうお分かりですか?そうです。管理職は2ゾーンの仕事が大事なのです。2ゾーンは将来に向かって投資したり、起こりうるリスクを回避するための予防をしたり、人材を育成したりする仕事なのですが、大概の管理職は、1ゾーンに時間を取られていることが非常に多いのです。1ゾーンとは急ぎで重要な仕事。つまり納期に追われるとか、クレーム処理とか、火消しに走らないといけない日常業務のことです。ちなみに3ゾーンのお付き合いとは、冠婚葬祭や得意先との懇親など、4ゾーンの消費とは、雑用など暇つぶしの仕事のことです。

そして2ゾーンに20%の時間を割いていない場合は要注意。管理職研修ではこの気づきを与え、今後いかに2ゾーンを伸ばして行くかが問われることとなって行くのです。以下次号。

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文責 特定社会保険労務士 西村 聡
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15年08月03日 | Category: General
Posted by: nishimura
~社長一人の力は限界。殻を破れるかは、管理職の出来で決まる~
小規模企業の管理職研修のあり方を考える (H27.7月号)

今まで社会保険労務士として約18年間、中小企業の労務管理をサポートさせていただいている者の感想として、小規模企業がその殻を破り、社長の器を超えて発展するには、良い番頭がいるかどうか、にかかっていると言っても過言ではないと思っています。この番頭とは必ずしも従業員としての管理職だけを指すのではなく、時には兄弟などの親族も含んでのことですが、いわば社長の片腕と言える人が一人、いるかどうかで企業の伸びは著しく差が出るように感じています。
親族に優秀な番頭を見出し得ず、かつ、まだまだ会社を伸ばしたい!と希求する社長であれば、社内で優秀な管理職を育成するしかありません。ところが多くの小規模企業では、優秀な管理職がなかなか育たず、社長の苦労が絶えません。大手企業などの管理職経験者をヘッドハンティングして来るという選択肢もありますが、私の個人的感想として、こういった人材は小規模企業へ来ると、期待はずれに終わることが多いと感じています。この理由を探求することは今回のメインテーマでないため割愛しますが、今後数回のシリーズで、小規模企業の管理職を如何に育成するべきかについて考えて行きたいと思います。
このことを考える前に、そもそも小規模企業に採用されている従業員とはどういう人たちでしょうか?
2:6:2の法則と言われるものがあります。つまり優秀な人財は2割、また反対に採用してはいけない人罪も2割。その中間にいる大多数の普通の人材が6割ということです。上位2割はまず小規模企業で採用することは不可能です。大手企業ですらこの層の人財は獲得競争が苛烈化しています。また下位2割は教育指導以前の問題になるため、絶対に間違っても採用してはいけません。この下位2割の見極めについては、かつてこのメルマガにて特集しておりますので割愛します。

| A 優秀な人財(自立的人財)
|(自分で発火することができる)
|     20%
|—————————-
| B 普通のまともな人材
|(火を付けてもらえば動き出すが、
| 自然発火はしない)
|     60%

|—————————-
| C 採ってはいけない人罪
|(採用段階で排除する) 20%
|______________
そこで真ん中にいる6割の人材、ここを安定的に採用し、教育して行くことになるのですが、この中間層の教育のあり方に小規模企業ではちょっとしたコツがあると思うのです。

結論から申し上げます。小規模企業の社員教育は、社員を信じて自主性に任せてはいけません。強制して追い込んで行く仕組みが必要なのです。特に期待して管理職に任じた人材ほどそうしなければなりません。彼らはまともな人材ではあるのですが、決して自然発火はしないのです。いわばマッチと一緒。常に摺って火を点し続ける必要があるのです。
これに対して、上位2割の人財は元々自立型人財であり、自分で考え、自分で行動し、自分で工夫する人達ですので、あまり強制的に介入する必要がなく、むしろ自主性に任せ、難しい仕事をどんどん与えて行けばよいのです。しかし中間層の人達にも同じような自主性を期待してはいけません。ところが以外にも、経営者は自主性に期待する傾向があり、それが裏切られることに歯噛みすることとなるのです。

先ほど強制して追い込んで行く仕組みが必要であると申しました。また、特に期待して管理職に任じた人材ほどそうしなければならないとも申しました。これにらにも意味があります。
前者の追い込んで行く仕組みについては次回以降で考えたいと思います。後者についてですが、小規模企業の場合の教育プランは、全員に等しく行うのではなく、ターゲットを絞って行う必要があるからです。下図をご覧ください。



実績↑

|Ⅱ専門家 ¦Ⅰ片腕
|       ¦
|———————————
|Ⅳ及第点 ¦Ⅲ片腕候補
|       ¦
|===========
|   Ⅴ 異動・退場
|___________ →総合力



ⅠからⅤまでの五つの領域に分けます。縦軸は実績(成果)、横軸は総合力(ポテンシャル)です。この5領域に従業員名を入れてみます。そうするとこの中で今後、鍛えて行くべき人は、ⅠとⅢに入った人です。ちなみにⅡの方は、管理職には向かないため、自分自身のスキルを上げて会社に貢献してもらう道を模索します。いわゆるスペシャリストです。Ⅳの方は何とか留まることを許された人達で、ここに教育資源を投資することはしません。Ⅴは残念ながら、転職を含めて検討してもらった方が良い人です。

小規模企業は数少ないⅠとⅢ、特にⅢの領域にある人達に向けて教育資源を集中させます。つまり管理職には就いているが物足りない人、管理職にしたいと考えている人、今後伸びる可能性のある人に絞って強制して追い込んで行くこととなります。

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文責 特定社会保険労務士 西村 聡
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15年07月03日 | Category: General
Posted by: nishimura
マイナンバーがやってくる!! 100人以下中小規模事業者の実務上の留意点と対応策(H27.6月号)

マイナンバーにつきましては、昨年末から年初にかけて2回にわたりお届けしましたが、最近になって政府から、かなり具体的な情報が出るようになってきました。この問題は、100人以下の企業には若干の緩和措置が認められているとはいえ、人を雇う事業所であればすべてに影響が及ぶ大きな社会制度改革なのです。

そこで今回は小規模企業が制度開始の28年1月までに、最低限行っておくべき事柄を纏めましたので、ご参考にしていただき、対策を講じていただきたいと思います。



1.アプリケーションソフト会社への確認(6月中)

給与計算や経理処理を業務ソフトを使って処理しておられるところも多いかと思います。マイナンバーが入ってくると、今までのシステムはそのまま使用することができません。何故なら社会保険や税の手続きにおいてマイナンバーを印字する必要があり、その機能がなければいちいち手書きで記入しなければなりません。
これだけなら良いのですが、もっと厄介なのが従業員から預かったマイナンバーは各手続きの法定保管年限を越えて保持することはできず、廃棄処分にしなければならないのです。例えば雇用保険の手続きなら4年、所得税の手続きなら7年といった具合ですが、いちいち退職日の異なる従業員のマイナンバーを期限管理することは物理的に不可能です。従って一定の年限が経過すれば自動的に削除されるシステム構築が欠かせません。
社会保険や税の分野は頻繁に法改正や仕様変更があるため、ベンダーとサポート契約をされているはずで、その場合は業者が無償でシステム改修を行うものと思われますが、一応、今お使いのソフトが来年以降、こういったことに対応するのかどうか、確認しておかれることが必要です。



2.住民票の確認と制度周知(6月中)

マイナンバーは、日本国内に住民票を持つ人であれば外国籍の方であっても、全国民に付番され、10月以降順次、住民票のある住所へ簡易書留にて送付されます。そして会社は扶養親族の分を含めて従業員のマイナンバーを収集して保管することとなりますが、この収集作業が相当手間取ることが予想されます。そもそも住民票の所在地と、現在住んでいる所在地が違うケースがよくありますが、この場合は要注意です。この社員の番号が収集できないことから、28年以降の事務処理に遅滞をもたらす可能性があります。
従ってまず、制度の軽い周知を兼ねて、今から、「マイナンバーの通知に伴う「住民票の再確認」お願い」などと題する通知文を発出し、直ちに住民票を変更するか、何らかの事情で変更できないなら、10月以降に届く通知カードを速やかに現住所でも回収できるような措置を取るよう、全従業員(パート・アルバイトを含む全従業員)に促すこととなります。
当事務所では、近日中にこの書式を毎月1回 書式便にてご提供する予定です。



3.番号収集通知と収集(9月)
いよいよ10月になると各個人にマイナンバーが通知され、番号を収集することとなります。その前の9月ごろに、通知カードを全従業員に持参するよう指示を出すこととなります。できればこれも文書で通知した方がよいでしょう。この書式も追ってご提供します。先ほども言いましたが、本人からだけではなく、その扶養親族の番号も必要になるため、実務的には年末調整の時期に、扶養控除等申告書の提出と共にそこに記載される家族の分を持参してもらうのが効率的かもしれません。
ただ実際上、従来の年末調整に必要な資料や情報だけでもきちんとスムーズに揃わない状況下にある場合は、かえって遅滞を来たす可能性もあることから、分けて処理した方がいい場合もあるでしょう。そのあたりは会社ごとの判断で行ってください。

また単に通知カードを回収するだけでなく、運転免許証その他の身分証により本人確認を行う必要もあり、その詳細はここでは割愛しますが、従業員への周知文書中には印刷しておくべきです。



4.最低限の安全管理措置
マイナンバーは特定個人情報として、いままでの個人情報保護法よりもかなり厳しい安全管理措置を求めており、刑事罰も強化されています。政府から出ている対策ガイドラインを見ると、かなりお金も手間もかかる対策が事も無げに例示されていますが、小規模企業の場合は最低以下の措置は来年までに取っておいてください。
(1)人的な措置

マイナンバーに触れることのある事務担当者を特定の人に限定しておいてください。そしてその方から「特定個人情報の取扱いに関する誓約書」を提出させ、保管しておいてください。この誓約書の雛形も追ってご提供いたします。

(2)物理的な措置

上記で特定した事務担当者しか、マイナンバーの記載された書類や保管されたパソコンに触れることが出来ないようにしておいてください。例えば書類は事務担当者の引き出しに保管し、そこだけ施錠できるようにし、他の者が勝手に見ることができないような環境を作るということです。

(3)技術的な措置

パソコンには、ファイアウォールをかけ、ウイルス対策ソフトを入れ、常に最新版に更新し、かつウィンドウズアップデートを自動更新にし、その他JAVAやアクロバットリーダーなど基本アプリケーションを常に最新の状態に保つ、当たり前の対策で充分です。また特定した事務担当者のパソコンにはパスワードを設定して、アクセス制御をすることをお勧めします。



5.新入社員からの回収
28年1月以降に入社して来る従業員からは、入社事務の中にマイナンバーを通知してもらうことが入ってきます。これは社会保険の対象外となるアルバイトやパートも対象です。従って入社した時点で、上記の特定した事務担当者に受け渡す流れを作ることとなります。間違っても特定した事務担当者以外の者(上司など)に渡さないように徹底しておきましょう。特定した事務担当者に直接送るか渡すのが良いのですが、不在時に無造作に机の上に置いておくことのない様に、徹底しておきましょう。


6.取扱規程の作成、就業規則の改訂
できれば上記5の流れなど、マイナンバーを取扱うルールを文書化し、かつ取扱い違反に対しては懲戒処分とするなどの規定を就業規則にも盛り込みんでおきたいものです。規程の作成に関してご相談に応じますので、お気軽にお声がけください。

小規模企業の賃金制度を得意としています。

文責 特定社会保険労務士 西村 聡
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15年06月01日 | Category: General
Posted by: nishimura
●4月より施行されている有期雇用特別措置法 (H27.5月号)


その概略は、(1)一定の高度専門職と、(2)定年退職後の有期雇用者 に関しては、会社は無期転換権を認めなくても良いとする特例法です。



この話の前提ですが、平成25年4月に改正労働契約法が施行され、そのときに有期契約労働者に無期転換権が付与されることなりました。簡単に申し上げると、有期契約労働者が、平成25年4月以降に契約した有期契約の通算年数が5年を超えると、その労働者には無期転換権(有期契約ではなく、契約期間の定めのない契約に変更を求めることができる権利)を行使できるもので、会社は申し出があった場合、拒否できないこととなっています。


これに対して、上記2種類の労働者については、一定の手続きをすれば、無期転換権を発生させず、ずっと有期契約で雇用できることとなったものです。そして中小企業にも影響が大きいのは、(2)の定年退職後の有期契約労働者の扱いです。今回はこれに絞って解説しますが、参考までに(1)の高度専門職とは医師・弁護士等の国家資格者や5年以上の実務経験を有するシステムエンジニアなど職種が絞られる上に、年収が1,075万円以上でなければならず、まず、中小企業には居ない人材であることから、今回は省略します。


(2)の定年退職後の有期契約労働者は中小企業にも影響が大きいと申し上げましたが、そのことをご理解いただくには、改正労働契約法と同じく25年4月に施行された改正高齢者安定法を理解する必要があります。

この法律は、簡単に申し上げると中小を含むすべての企業が、1.定年の廃止 2.65歳まで定年を引き上げ 3.65歳までの継続雇用制度の導入のいずれかの措置を取らなければならず、年金の支給開始年齢の引き上げに伴い、高齢者が働き続けられる仕組みを、国が企業に義務付けしたものですが、多くの企業では3の継続雇用制度を選択しています。

この継続雇用制度とは、定年は60歳に据え置きながらも、本人から継続雇用の希望がある限り、65歳までは雇用を継続しなければならず、多くは半年から1年間の有期雇用契約により、65歳まで継続する制度設計をしているものです。

つまり60歳定年後に有期契約労働者(一般には嘱託などと呼称することが多い)になった者でも、本人から希望がある限り、自動的に65歳まで行ってしまう仕組みなのです。そうすると、先の無期転換権を付与する労働契約法との関係で、定年により一旦有期契約になった労働者が、65歳以降でまだ継続されているとき、つまり有期契約が5年を超えた時点で、「また定年前と同じく、無期契約にしてください!」との申出を受けると、拒否できないこととなっていたのです。何だか少しおかしいですよね。


そういったこともあり、今回の有期雇用特別措置法は、一定の手続きをすれば、こういった不整合な状況を回避できることとなり、定年後に有期契約労働者になった者には、無期転換権が発生しないこととなりました。


では、その一定の手続きとはどのようなものでしょうか?

これには「適切な雇用管理に関する申請書を作成」し、本店の所在地の「労働局長の認定」を受けなければなりません。これは企業単位でよく、36協定のように事業所単位で出す必要はありません。



適切な雇用管理に関する申請書とは?


「第二種計画認定・変更申請書」を2部作成し、以下8つの雇用管理措置の中から最低一つ以上の措置を講じなければなりません。措置を講じたことを証明する就業規則や雇用契約書などの添付資料が必要です。

(1)高齢者雇用安定法第11条の高齢者雇用推進者の選任
(2)職業能力の開発及び向上のための教育訓練の実施等
(3)作業施設・方法の改善
(4)健康管理、安全衛生の配慮
(5)職域の拡大
(6)知識、経験等を活用できる配置、処遇の推進
(7)賃金体系の見直し
(8)勤務時間制度の弾力化

それぞれの措置の内容は省略しますが、(8)の勤務時間制度の弾力化とは、短時間勤務や隔日勤務等のことであり、中小企業でも比較的導入しやすい措置です。申請書はこれらのどの措置を選択したかをチェックするだけの非常に簡素なものになっています。


詳細リーフレットは

http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000075676.pdf

第二種計画認定・変更申請書は、

http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/keiyaku/kaisei/



定年退職者であっても、65歳(5年以下)できっちり契約を打ち止めしている場合は関係ありませんが、65歳以降においてもそのまましばらく継続しているケースが見受けられます。そういった場合に無期転換権を行使されるのは困るというのであれば、是非、申請書を出して認定を受けておかれることをお勧めします。

但し、60歳以上年齢で雇用している方でも、そもそも定年前から有期雇用である方や、定年後に新たに雇用した者は、有期雇用であってもこの特例の対象とはなりません。

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15年05月07日 | Category: General
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