承認カードでモチベーションをアップしよう(H20.10月号の記事)

 経営者に質問です。「従業員のやる気を維持、継続させるには、何が必要でしょうか?」
いい給料?休みの多さ?快適な職場環境?・・・・・・

 いずれもブーです。これに関して従来から二つの確立された実証理論があります。まず一つはハーツバーグという臨床心理学者が唱えた二要因理論です。
ある特定の要因が満たされると満足度が上がり、不足すると満足度が下がるというのではなくて、「満足」に関わる要因と「不満足」に関わる要因は別のものであると考えられています。
 満足に関わるのは、「達成すること」「承認されること」「仕事そのもの」「責任」「昇進」など。これらが満たされると満足感を覚えるが、欠けていても職務不満足を引き起こすわけではありません。これらは「動機付け要因」と呼ばれます。
 一方、不満足に関わるのは「会社の政策と管理方式」「監督」「給与」「対人関係」「作業条件」など。これらが不足すると職務不満足を引き起こしますが、満たされたからといっても満足感に繋がるわけではないとされています。単に不満足を予防する意味しか持たないという意味で「衛生要因」と呼ばれます。

 またアメリカの心理学者マズローは欲求理論を唱えました。これは人間の行動を引き起こす欲求は次の五つの階層を持つとした理論で、人間はこの順番でモチベーションが高まるとしました。
   1)生存の欲求(食欲、睡眠など生命の維持に関する欲求で労務管理で言うと生活できる賃金など)
   2)安全の欲求(危険や不安から逃れたい、衣服や住居など生命に関するものを安定的に維持したいという欲求で労務で言うと安定した雇用など)
   3)社会的欲求(帰属の欲求ともいい、集団に所属し仲間からの愛情を求める欲求)
   4)自尊欲求(承認の欲求ともいい、他人から尊敬されたいとか、人の注目を得たいという欲求で、名声や地位を求める出世欲もこの欲求の一つ)
   5)自己実現欲求(各人が自分を高めていこうとする欲求のことで、潜在的な自分の可能性の探求や自己の成長、発展を求める欲求)
 人間は第1段階の生存の欲求が満たされると、より高次元の段階の欲求(第2~第4)を求めるようになり、最終的には第5段階の自己実現の欲求を求めるようになるとしています。


 これらの考え方を中小企業も応用すべきです。むしろ労務資源を持たない中小企業ほど従業員のモチベーションの維持、向上のために利用すべきでしょう。そこで提案です。
「承認カード」で従業員を素直に認めちゃいましょう。具体的には以下のアドレスに「いいとこ発見 お知らせカード」がダウンロードできるようにしてあります。これは誰かが他の社員のいい行動や振る舞いなどを感じたら、このカードに記入して貼り出すようにするものです。これでいいとこを発見したら、直ぐに承認しちゃいましょう。

ダウンロード → http://www.nishimura-roumu.com/cgi-bin/nishimurashakai/siteup.cgi?category=4&page=5

文責 特定社会保険労務士 西村 聡
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10年03月17日 | Category: General
Posted by: nishimura
能力不足、勤務態度不良で解雇したと思ったとき (H20.9月号の記事)

昔から能力不足とか執務態度が悪いとかで従業員を解雇したいとの相談を良く受けます。法的には以下の2点を検討する必要があります。
1.労働基準法上の解雇手続きを踏んでいるか
2.民事上の解雇権の行使が濫用に当たらないかどうか

1.労働基準法では解雇の場合、30日以前の予告か、30日分の解雇予告手当の支払か、その両方の折半(10日前に予告して20日分の予告手当の支給など)を求めています。つまり労基署段階ではこの手続きを踏んでいれば、問題はありません。ちなみに予告手当は給与とは別で支払うことが望ましいですが、給与明細に入れるときは非課税になります。科目は退職金勘定になります。

2.ただ手続き上は上記の通りとしても、民事上有効かどうかは別問題です。いわゆる能力不足や勤務態度不良による解雇は予測可能性が困難です。一般論としては、企業の規模や職務内容、採用理由(特に職種限定採用か、管理職採用か)、勤務成績や態度の不良の程度(解雇をもって臨まなければ為らないほどか)、回数(繰り返し起こしているか)、改善の余地(指導すれば何とか為るか)、指導教育の程度(何度も警告、教育したか)、他の労働者との均衡(同様事案で不問にしている人はないか)など、総合的に判断されることとなります。

 後ほど解雇の効力をめぐって紛争に至った場合を想定して、こういった事由で解雇に発展する場合、いかに会社が常に指導、注意、警告を行なってきたかを書証で残しておくことが肝要です。例えば初めのうちは口頭による注意から始まり、改善しないときは指導書や勧告書なる文書で記録を残します。それでも従わない又は改善しない場合は更に踏み込んで始末書、減給、出勤停止等の段階をおった制裁処分により、解雇する前に様子をみます。そしてなおダメなときに初めて解雇できるくらいの辛抱が求められるのです。また制裁罰を課すときは、就業規則にその根拠規程がないとできません。


これらは、解雇に本人が納得せず、民事訴訟に及んだ場合の話です。

また法律論だけでなく以下の点も、会社が内々に考慮しておくことがいいでしょう。
1.有給休暇の残日数をどうするか(交渉によっては買い上げもある)
2.雇用保険の受給資格はあるか(自己都合で1年、解雇で6ヶ月)
3.離職票は普通解雇扱いにするのか懲戒になるのか(退職合意書を取って本人の為にすぐもらえるように解雇扱いすることも)
4.退職金は考慮するのか(所謂手切れ金)
5.仮に解雇としても合意解約の形で文書が取れるのか(後々の為に安心)


 ここからは法律論ではなく感情論です。
同じ解雇でもモノは言い様、うそも方便。できるだけ本人の感情に配慮すべきです。例えば本人のことを慮るようにして、「今までの勤務状況をみているとこのままウチの会社で続けるのは難しいんじゃないか。このままでは、○○さんを会社は評価できないし、つまりこれ以上重要なポジションで仕事を任せることもなければ、給料も上がらない。ボーナスの査定も低くなる。支給しないこともあるだろう。恐らく同僚や後輩にも抜かれ、プライドを傷つけられることになるだろう。まだまだ今ならやり直しは効くと思う。残念ながらウチの会社では浮かばれなかったが、きっと広い世の中、○○さんがもっと輝いて自己実現できるところがあるだろう。今のうちにお互いきれいな形で分かれた方がお互いの為になるのではないか。じっくりよく考えてみてはどうか」なんて感じで、歩み寄り、合意解約に持ってゆければ、後顧の憂えなしです。条件を出せば応じる場合は、出すのも一計でしょう。
とにかくモノは言い様です。
 
 くれぐれも安易な解雇で無用なトラブルを起こさないことです。出来が悪くても、雇った責任があるのですから。

文責 特定社会保険労務士 西村 聡
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10年03月17日 | Category: General
Posted by: nishimura
試用期間の基準を明確にしよう(H20.8月号の記事)

 多くの会社で試用期間が設けられています。これを明確に定義した法令はありませんが、一般的には「採用にあたり一定の期間内におけるその者の勤務状況によって人物、性格、能力、経験等についてその者が真に正式従業員とするにふさわしいかどうかをテストする」ものとされています(労働用語辞典)。そしてそれは1ヶ月から6ヶ月程度の範囲でなされ、3ヶ月としているところがい多いようです。 またこの試用期間中は正式採用した後よりも民事上広い解雇権が認められ、労働基準法上も14日以内の場合は解雇予告も予告手当の支払いも必要ないとされています。つまり本採用前に、使用者には広い許容範囲の権利が認められているのです。
 しかし実務の現場では、この試用期間が漫然とやり過ごされていることが多いように思います。つまり本採用されるためには会社として何を重視し、それが満たされないと会社が判断したときは、本採用へ移行しないという基準が、労使共に明確になっていないことが多いのです。 これではいくら会社が試用期間と言っても、応募者はテストされている期間と認識せず、結局本採用されている状況と変わらないこととなってしまいます。そこで雇用契約書を交わすときに、きちっと試用期間の意味について説明し、次のように明示してはいかがでしょうか。これは当事務所で行ってるサンプルです。

試用期間:平成○年○月から平成○年○月○日
本採用移行するための条件:試用期間中の執務態度(特に協調性と従順性及び別紙「守るべき5か条」)を勘案して判断する。本採用するときは再度労働条件を見直す。

別紙 守るべき5か条

1.分からないことは聞く。
分からないことは多分こうだろうと勝手に推測してやるのではなく、遠慮なしに尋ねること。

2.見直し。
一度作成したもの、入力したものでも、間違いがないか必ず見直しすること。

3.メモする。
忘れるかもしれない、覚えられないかもしれないことはメモして書きとどめておくこと。

4.報告
お客さんの所で何かあったとき、特に悪いことがあったときは必ず報告すること。

5.周りの皆と協調する
小さな職場では周りとの協調的な執務態度がとても大切。和を乱す、自分勝手は厳禁。


 このようにしておくと、少なくともこういったことがテストされていることが分かり、意識付けにもなりますし、使用者としてもこれを重点的に指導してゆくこととなります。
 ただ一つ勘違いがないようにお願いしたいのは、試用期間と期間契約とは法的性格が異なります。試用期間が満了しても期間契約でないため、その期日をもって自動的に契約終了はできません。本採用へ移行しない場合は、本人との合意がない限り、改めて解雇予告するか予告手当が別途必要です。

文責 特定社会保険労務士 西村 聡
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10年03月17日 | Category: General
Posted by: nishimura
外勤仕事がある会社は、残業代が要らない、「みなし労働時間制」を適用しよう!!(H20.7月号の記事)

 営業など外勤活動において、会社がその労働時間を正確に把握できないときは、裁量労働制の一種である「みなし労働時間制」を適用することができます。この場合は、社内で行った業務を含めて、所定労働時間の労働とすることができ、残業代は発生しません。所定労働時間とは9時から18時とか、その会社で定めている正規の時間帯のことです。例えば、所定労働時間が8時間で午前中は事業場内で業務に従事し、午後から事業場外で業務に従事した場合、午後からの労働時間の算定が困難なためにその日全体としての労働時間の算定ができないのであれば、みなし労働時間制の適用ができ、原則として、その日は事業場内で業務に従事した時間を含めて全体として所定労働時間の8時間を労働したことになるというもので、始業終業時刻の前後にはみ出した時間が有っても、特段の指示でもない限り、8時間だけの労働になります。あくまでも使用者の具体的な指揮監督が及ばないことが重要で、例えば次のようなケースは該当しません。
①グループ活動において、労働時間を管理する人がその中にいる場合
②携帯電話などで逐一、会社から指示を受けている場合
③外出前に訪問場所や時間を予定し、その通りに帰ってくる場合
 つまり外出すると、従業員の自由裁量が確保されていることが必要です。また残業代が要らない「みなし」の場合は、通常その外勤活動が所定労働時間の7時間とか8時間程度でこなせる必要があり、普通にやっても明らかに10時間はかかるとかいう場合には、基本的に残業代が必要になります。
 この「みなす」という意味は非常に重たく、法律効果を固定させることを意味し、仮に18時終業の会社でタイムカードが毎日1時間オーバーで印字されていても、その各1時間分について残業代は発生しません。あくまでも18時までの労働で固定させるのです。このあたりが事実によって効果が覆る「推定」規定と異なるところです。
 従業員の自由裁量のある外勤職(ある程度の統制は可)のある会社は、この規定を上手に活用しましょう。具体的にはこうです。
①就業規則を整備し、みなし労働時間の規定を入れる。
②求人募集の段階で1行入れる。   ※みなし労働時間制の適用有りと。
③面接時にその意味をきちんと説明する。 例えば、当社営業はみなし労働時間制といって、一旦外へ出ると細かな指示命令はない代わりに、多少遅くなっても9時から18時の労働となり、残業代は付きませんと。
④雇用契約書をきちんと交わし、時間の欄に以下のように記載し、再度③の説明を行う。 時間:9時から18時(実働8時間) ※営業職はみなし労働時間制を適用し、前記時間帯を超えても、特段の指示のない場合は9時から18時の労働とみなす。

 また出来ることなら、営業手当などによって慰労する手当を付け、就業規則(賃金規程)に「営業手当は通常の時間を超えて労働することに対する定額時間外手当の性格として支給する」というような説明をしておく方が、なお良いと思われます。ただ品格に欠ける経営者は要注意です。いたずらに濫用し、かえってトラブルを招くだけだからです。



(参考)  労働基準法 第38条の2(事業場外労働)

 第三十八条の二  労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時問を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。ただし、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場においては、当該業務に関しては命令で定めるところにより、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす。(以下略)

文責 特定社会保険労務士 西村 聡
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10年03月16日 | Category: General
Posted by: nishimura
名ばかり管理職とはいかなるものか?(H20.6月号の記事)

★マクド裁判 
 さる1月28日に日本マクドナルドの店長が労働基準法上の管理監督者にあたるかどうかの判断が東京地裁から下されました。結論から申し上げると、マクドの店長は管理監督者に当らないとして、残業代の支払い(約750万円)を命じました。これはあくまでも訴訟を起こした1名の店長に対するものです。このニュースはテレビ、新聞が一斉にかつ大々的に報じたため、かなりセンセーショナルなインパクトを与えたようです。
 しかしこの裁判ではいわゆる管理監督者に対して、新しい判断の枠組みを示したものではなく、従来からある通達や判例法理の範囲から逸脱するものではありません。そして今回もそうですが、この手の紛争は会社側がほとんど敗れているのです(マクド裁判は現在控訴中で確定していませんが)。つまり残業代を払わなくていい管理者のハードルは極めて高いのです。一般的に誤解のある、管理職=残業代の要らない管理監督者という単純な図式ではありません。

文責 社会保険労務士 西村 聡
★管理監督者とは何か
 ここで改めて残業代の要らない管理者の判断基準をおさらいしておきましょう。大雑把に言って、以下の3要件をすべて満たす必要があります。
①一つ目の要件 経営者と一体的な立場にあるかどうか
 これはさらに以下の2要素に分解することができ、いずれかをクリアする必要があります。
 (1)経営の意思決定業務への関与(例えば経営方針、計画への参与など)
 (2)労務管理上の重要な権限(例えば基幹社員の採用、考課など)
 要するに会社全体にとって重要な権限や役割を有している必要があり、一部署に留まるとか、仕事内容が一般社員と大差がない状態では認められていません。
②二つ目の要件 勤務時間に自由裁量があるかどうか
 一般社員と同じようにタイムカードを打って、朝から晩まで拘束されており、出退勤に自由がない状態では困難です。
③三つ目の要件 管理者としてふさわしい待遇が講じられているかどうか
 例えば基本給水準が明らかに高い、役職手当が高額など。残業のある下位の従業員の年収を下回るようだとアウトで、相当上回っている必要があります。

★ものは考えよう
 従来私は、大手企業ですらほとんど認められない管理監督者が、中小企業で認められるのは極めて困難と考えていました。実際、先の判断基準からも分かるように、「役員と部長の違いは何なの?」と問いたくなるようなハードルです。特に1番目の要件は極めて高く見えます。
多くの拠点を有する大手企業の管理職がその守備範囲を超えて、経営者と共に会社全体に権限を及ぼすなどということは普通ありえません。しかし中小企業の場合はどうでしょうか。組織単位も小さく、しかも社長に近い位置関係で仕事をしているのが普通です。つまりむしろ大手企業の方が物理的に困難なシチュエーションであって、中小企業は社長の考え方、任せ方一つで単なる管理職を名実共に管理監督職にするのは大企業よりも近道かもしれません。ただ組織が小さい分だけ対象者の数も絞られることにはなりますが。
 
★ちょっとだけ具体策を考えよう
 経営者が「俺はこいつを管理監督者として処遇する」とまず腹を決めたら、このように実行しましょう。
①経営計画書を作成している会社は、その作成に管理者も巻き込みましょう。経営者の方針を伝えるだけでなく、自ら案を出させて作成に関与させることです。
 そして社長と共に経営会議に参加し、進捗状況や手直しなど発言する機会を与え、単に社長が演説するのを聞いているようなことは避けましょう。
②管理職はタイムカードを廃止しましょう。やることをやっていたら、所定労働時間をキチンと来ることを評価のモノサシにすることはやめましょう。完全月給制にして欠勤や遅刻があっても日割りはやめましょう。時間で仕事をする人間ではなく、中味(成果や役割)で仕事をする特別な責任があることを懇々と説明しましょう。
③一般社員がそこそこ残業しても、収入が逆転しないような役職手当を考えましょう。出来たら役職制度の整備と就業規則上の役職手当の整備は必要のように思われます。

 ただ仮に法律上の管理監督者には当らなくとも、管理職の旗を降ろすわけではありません。何のために管理職に任命しているのか、ただ単に残業代を逃れたいためだけなのか、経営者は今一度自問自答する必要があるかもしれません。

文責 特定社会保険労務士 西村 聡
もっと見る :http://www.nishimura-roumu.com
10年03月16日 | Category: General
Posted by: nishimura
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