10年03月24日
リストラ(整理解雇)をしたいと、頭をよぎったときに・・・クリアすべきハードルがある。
リストラ(整理解雇)をしたいと、頭をよぎったときに・・・クリアすべきハードルがある。(H21.4月号の記事)
今年に入ってから金属関係の製造業を中心に雇用調整を行う企業が増えてきています。仕事がないため、従業員を休ませざるを得ず、それに対する助成金の申請も日を追って増えています。この動きは今のところ製造業が中心ですが、早く底を打たない限り、サービス業や販売業にも波及してくるでしょう。従業員を休業させて解雇を防止するのもワークシェアリングの一種であり、これによりこの危機的状況を回避できることを望みます。
しかしまだまだ底を打たず、この状況が一時的なものではなくなってきた場合、企業は整理解雇を選択肢に考えなければならない局面が出て来るかも分かりません。そこで今回は、この整理解雇についてその留意点を述べさせていただきたいと思います。
そもそも解雇とは何か。言うまでもなくそれは使用者からの一方的な労働契約解除の意思表示です。これについて法律は「解雇は客観的に合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」(労働契約法第16条)とされています。いささか分かりにくいので簡単に申しますと、「客観的に合理的理由」とは、「解雇に値する事実があって、それが第三者にも証明でき、その事実が就業規則の解雇事由となっているか」という意味です。また法後段の「社会通念上相当であると認められない場合」とは前段要件を仮に満たしたとしても、「いきなり解雇に処するには酷に過ぎないか、他に方法はないのか」といったような意味です。このような考え方は解雇権濫用法理として判例上も確立しており(日本食塩製造事件他)、解雇を不自由なものにしています。
通常、解雇は労働者にも何らかの帰責事由があるのが普通ですが、整理解雇においては労働者に責任がないところで解雇されることから、上記の解雇権濫用法理を更に進めて、より厳しい判断基準を日本の司法は蓄積して来ました。それがいわゆる整理解雇の4要件と呼ばれるものです。その4要件とは①人員整理の必要性、②解雇回避の努力、③人選の合理性、④労使の誠実な協議、のことでこの4つのハードルをすべて飛び越えないと、その整理解雇は解雇権の濫用とされているのです(最近は少し違う考え方も登場しているがここでは割愛する)。それぞれ簡単に解説を加えましょう。
①経営上の人員整理の必要性
これは企業に経営上の危機が存在する必要があります。この危機は必ずしも倒産必至の状況までは要求されず、将来の危険に対する予防的措置という場合もあります。しかしいずれにしても、人員整理をしなければならない経営上の事由を従業員だけでなく、第三者にもきちんと説明できる事情の存在は不可欠です。
②解雇回避の努力を尽くしたこと
これは解雇する前に、他の努力をしたかが問われます。その努力とは例えば、配置転換、残業削減、新規採用の停止、昇給停止、一時金削減、希望退職の募集、経営上の経費削減などですが、これらすべてを行う必要はなく、こういったことをしてきてもなお、余剰人員を解雇せざるをえないという証明が必要なのです。
③人選の合理性
通常、整理解雇は、一部の人間を指名解雇するものであるため、その指名された人選に合理的理由があるかということです。例えば、基幹社員より臨時社員をまず検討するとか、解雇しても生活への影響が少ない者とか、あるいは出勤成績が悪い者、帰属性の薄い者などその選定に納得のできる説明ができる必要があります。
④労使の誠実な協議があったか
これは整理解雇せざるをえないやむを得ない事由を、誠実に説明義務を果たしたかということです。当たり前のことといえば当たり前ですが、この協議過程も重要な判断のモノサシになります。
このように見てくると、経営が厳しいからと安易に解雇するのは法的にも高いハードルのようです。また中小企業は大手のように経営指標から判断して、従業員の顔や家族を見ずに、ばっさりやることは出来ないのではないでしょうか。また一度経験者がいなくなると、その後回復したときに、後継者を直ぐに採用するのは至難の業でしょう。
また身を軽くしたい思いでやったことが、深刻な労使紛争に発展し、かえって時間、手間、コストと精神的負担を要することもあります。やはり慎重に考えるべきでしょう。
それでも他の従業員、得意先その他のことを考えて、生き残るためにはやはり必要であるとの高度な経営判断に基づくものならば、それはれそれで尊重いたしますが・・・・。
文責 特定社会保険労務士 西村 聡
もっと見る :http://www.nishimura-roumu.com
今年に入ってから金属関係の製造業を中心に雇用調整を行う企業が増えてきています。仕事がないため、従業員を休ませざるを得ず、それに対する助成金の申請も日を追って増えています。この動きは今のところ製造業が中心ですが、早く底を打たない限り、サービス業や販売業にも波及してくるでしょう。従業員を休業させて解雇を防止するのもワークシェアリングの一種であり、これによりこの危機的状況を回避できることを望みます。
しかしまだまだ底を打たず、この状況が一時的なものではなくなってきた場合、企業は整理解雇を選択肢に考えなければならない局面が出て来るかも分かりません。そこで今回は、この整理解雇についてその留意点を述べさせていただきたいと思います。
そもそも解雇とは何か。言うまでもなくそれは使用者からの一方的な労働契約解除の意思表示です。これについて法律は「解雇は客観的に合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」(労働契約法第16条)とされています。いささか分かりにくいので簡単に申しますと、「客観的に合理的理由」とは、「解雇に値する事実があって、それが第三者にも証明でき、その事実が就業規則の解雇事由となっているか」という意味です。また法後段の「社会通念上相当であると認められない場合」とは前段要件を仮に満たしたとしても、「いきなり解雇に処するには酷に過ぎないか、他に方法はないのか」といったような意味です。このような考え方は解雇権濫用法理として判例上も確立しており(日本食塩製造事件他)、解雇を不自由なものにしています。
通常、解雇は労働者にも何らかの帰責事由があるのが普通ですが、整理解雇においては労働者に責任がないところで解雇されることから、上記の解雇権濫用法理を更に進めて、より厳しい判断基準を日本の司法は蓄積して来ました。それがいわゆる整理解雇の4要件と呼ばれるものです。その4要件とは①人員整理の必要性、②解雇回避の努力、③人選の合理性、④労使の誠実な協議、のことでこの4つのハードルをすべて飛び越えないと、その整理解雇は解雇権の濫用とされているのです(最近は少し違う考え方も登場しているがここでは割愛する)。それぞれ簡単に解説を加えましょう。
①経営上の人員整理の必要性
これは企業に経営上の危機が存在する必要があります。この危機は必ずしも倒産必至の状況までは要求されず、将来の危険に対する予防的措置という場合もあります。しかしいずれにしても、人員整理をしなければならない経営上の事由を従業員だけでなく、第三者にもきちんと説明できる事情の存在は不可欠です。
②解雇回避の努力を尽くしたこと
これは解雇する前に、他の努力をしたかが問われます。その努力とは例えば、配置転換、残業削減、新規採用の停止、昇給停止、一時金削減、希望退職の募集、経営上の経費削減などですが、これらすべてを行う必要はなく、こういったことをしてきてもなお、余剰人員を解雇せざるをえないという証明が必要なのです。
③人選の合理性
通常、整理解雇は、一部の人間を指名解雇するものであるため、その指名された人選に合理的理由があるかということです。例えば、基幹社員より臨時社員をまず検討するとか、解雇しても生活への影響が少ない者とか、あるいは出勤成績が悪い者、帰属性の薄い者などその選定に納得のできる説明ができる必要があります。
④労使の誠実な協議があったか
これは整理解雇せざるをえないやむを得ない事由を、誠実に説明義務を果たしたかということです。当たり前のことといえば当たり前ですが、この協議過程も重要な判断のモノサシになります。
このように見てくると、経営が厳しいからと安易に解雇するのは法的にも高いハードルのようです。また中小企業は大手のように経営指標から判断して、従業員の顔や家族を見ずに、ばっさりやることは出来ないのではないでしょうか。また一度経験者がいなくなると、その後回復したときに、後継者を直ぐに採用するのは至難の業でしょう。
また身を軽くしたい思いでやったことが、深刻な労使紛争に発展し、かえって時間、手間、コストと精神的負担を要することもあります。やはり慎重に考えるべきでしょう。
それでも他の従業員、得意先その他のことを考えて、生き残るためにはやはり必要であるとの高度な経営判断に基づくものならば、それはれそれで尊重いたしますが・・・・。
文責 特定社会保険労務士 西村 聡
もっと見る :http://www.nishimura-roumu.com