このままでは若者の雇用が破壊される 高齢者は賃金シェアを (H22.3月号の記事)
~60歳以上の従業員の皆様へ 賃金シェアリングにご協力ください~

 今回のテーマはは、60歳以上の方々(役員を含む)の給与を減額させてもらって、その原資を若年者に還元しようという、というお話です。どうして今まで貢献してきた高齢者の賃金を見直す必要があるのでしょうか。

 国税庁が出している「民間給与の実態調査」という統計があます(http://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/minkan2008/minkan.htm)。これは年末調整後の年収データを集計したもので、賞与や残業代も含んだ年収総額(交通費は除く)の相場を読み取ることができます。この20年版によると、「100万円から500万円未満」で生活している方が全体の61.2%を占め、一番多い年収帯は16.9%を占める「300万円から400万円未満」の方々です。この統計の驚くべきことは、年収300万円にも満たない層が約40%もいるのです。この現象は企業規模が小さくなるほど顕著です。仮に年収300万円とすると、単純に月額25万円、賞与が1か月分とすると月額23万円です。果たして余裕のある生活が想像できるでしょうか。年齢構成はよく分かりませんが、若年者が相当の割合を占めていることは容易に推測できます。

 また昨年12月、厚生労働省から「平成21年度賃金引上げ等の実態に関する調査結果の概況」が発表されました。(http://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/jittai/09/index.html)。
 その中で1人平均の賃金改定額及び改定率の推移という統計があります。平成21年の改定額平均は3,083円、改定率平均は1.1%、100人から300人未満の企業だけでみると額は1,846円、率は0.8%です。100人未満は分かりませんが、推して知るべきでしょう。また同じく厚労省の「賃金構造基本統計調査」によると、平成21年の高卒初任給平均は157,800円です(http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/53-21.html)。これはどういうことを意味するのでしょうか。

 つまり18歳の子を158,000円で雇い、世間並みに昇給しても年間1,740円(1.1%)の昇給で、多少色を付けたとしても10年で2万円程度しか上がらないことを意味します。10年後といえば28歳、そろそろ結婚も考え、子供も作り、住宅ローンも組みたい、そんな年です。それが20万円にも満たない給与。まさにデフレ下のワーキングプア族です。勿論、これは机上論であり、実際には経営者が若年者にはこれ以上の配分をしていると思われますが、それでも15年前までに行われていた1年1万円以上、率で5%以上の昇給などこれから先は考えられません。こと平成11年以降、改定率は2%に到達したことがなく、改定額で5,000円を超えたことがありません。ということはこれからの若者は、現在の中高齢者に見られる40万円以上の給与などついぞありえないことを意味します。

 これからの企業、ひいては将来の日本を支える人たちの給与がこんな状態では、本当にかわいそうです。年金制度においても現行では60歳から厚生年金の受給権が発生しますが、これも徐々に先送りされてゆき、具体的には昭和36年4月2日以降生まれの男性は、そもそも老齢年金は65歳からでないと、受給権自体が発生しません(女性は41年4月2日以降の方)。また現在は60歳以降に給与が減額になると、在職中でも雇用保険から従業員本人に給付金が受けられますが、将来はこれも削減されてゆくでしょう。税金も社会保険料もどんどん上がって行きます。しかもこれからはパイが縮小する時代です。限られた原資の中で賃金をやりくりする必要があります。そこでどうしても相対的に恵まれている60歳以上に方には、譲るべきところは譲っていただく必要があると思うのです。

 例えば60歳時に446,700円の給与、年金受給権が1,391,200円の方がいたとします。他にもいくつか前提条件があるのですが、難しい説明は割愛します。この方の給与を269,000円まで、つまり約60%まで引き下げたとします。でも手取りは60%になりません。手取りは80%で収まるのです。金額にして月額約33,600円のダウンで済みます。しかし会社から見ると法定福利費を含めて月額約202,000円もの削減になります。1名分の初任給が出てくるのです。大義名分のため、何とかこの痛みを甘受していただけないでしょうか。そして頂いたこの大切な原資を若年者にシェアしてゆくのです。そうしないと雇用が壊れてしまいます。
皆様、どのように思われますか。

文責 特定社会保険労務士 西村 聡
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