10年09月01日
採用時に退職証明書を活用して離職事由を確認しよう H22.9月号
採用時に退職証明書を活用して離職事由を確認しよう~意外と前職で問題行動を起こした人が、円満退職として再就職している~
かつて私はこのメルマガ上で、今や採用活動はリスクを伴うから、出来るだけ水際で採用してはいけない社員を排除する方策を何度か検討してきました。今回は「退職証明書」を活用して、問題社員の入社を防止しようとするものです。
退職証明書とは「退職時等の証明」として労働基準法第22条にその定めがあり、その要旨は「労働者が退職の場合に在職中の契約内容などについて証明書の交付を請求したときは、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない」というものです。そして使用者が労働者の請求に応じて証明義務があるのは、次の5項目となっています。
1 使用期間
2 業務の種類
3 当該業務における地位
4 賃金
5 退職(解雇)の事由
また上記5項目は、すべて証明義務があるのではなく、5項目のうち、労働者が請求した事項のみ証明する義務があることになっており、請求しない事項は法定項目でも証明してはならないものです。当然、虚偽の証明は犯罪になります。
ここからが本題です。今後募集面接のとき、求人広告にこの「退職証明書」を履歴書などと同様に応募書類として求めることを明記し、面接時に持参してもらうことを推奨したいと思うのです。そして求める証明事項は「退職(解雇)の事由」です。
面接時に履歴書を見て、前職の退職事由を質問されるケースは多いと思います。が、そのとき、仮に問題行動があって離職している場合、果たしてその事実を正直に申告していただけるでしょうか?
事例1 ある業界で転職を繰り返しており、職務経歴書からは相当の技術が想像される方がいました。場合によっては即、責任者を任せられるような経歴です。即戦力が欲しいA社としては、期待をこめて採用しました。ところがこの人物、採用してみると極めて素行が不良で、問題発言や行動を繰り返す始末。たまりかねて解雇を告げると、待ってましたとばかりに労基署やあっせん機関への申し立て、訴訟と手際よくA社を攻撃してきました。後で分かったことですが、この人物、今までから行政の窓口でも度が過ぎた申告を繰り返す人物として有名な、いわば常習者だったのです。
事例2 私は裁判外紛争解決機関において、あっせん委員を勤めております。先日処理した紛争事件は、会社の金銭横領事件でした。あっせん申立人は会社であり、その使い込みをした労働者に返済を求める内容です。ギャンブルのために使い込んだらしく、断定はできないものの常習性を感じます。事件としては横領事実に争いがないため、その金額の確定や返済方法が主な争点でした。その労働者は当然解雇されていたのですが、あっせんをしている当時、大手のスポーツ用品販売ショップB社に再就職をしていました。事件とは関係がないことですが、このB社、ちょっと心配です。
たとえば上記二つのケースで、仮にA社B社とも、前職の退職証明書を求めていたらどのようになっていたでしょうか。持参した退職証明書に記載された事実を見ればとても採用は出来ないでしょう。またそもそも円満に退職していない状況下において、前の会社に退職証明書を求めること自体ができるでしょうか。恐らく持参できないと思います。
企業には営業活動の自由があり、採用の自由もその中に含まれます。持参できない方を、採用しない自由もあるのです。
一応申しておきますが、勿論、問題行動があったとしてもそれは過去の事案であり、今後将来に向かって真面目に"更正?"してくれる可能性もあり、一概に排除することに異論がある方もおられるかもしれません。しかし、採用後に課せられる使用者の労働法上の義務の重さや経営環境の厳しさとを比較考量するとき、そういった方を積極的に採用しなければならない理由はないはずです。
※上記でいう退職証明書は応募者の前職会社で任意に出してもらうものですが、参考までにモデル書式を以下に掲出しておきます。
http://www.nishimura-roumu.com/cgi-bin/nishimurashakai/siteup.cgi?category=4&page=5
文責 特定社会保険労務士 西村 聡
もっと見る :http://www.nishimura-roumu.com
かつて私はこのメルマガ上で、今や採用活動はリスクを伴うから、出来るだけ水際で採用してはいけない社員を排除する方策を何度か検討してきました。今回は「退職証明書」を活用して、問題社員の入社を防止しようとするものです。
退職証明書とは「退職時等の証明」として労働基準法第22条にその定めがあり、その要旨は「労働者が退職の場合に在職中の契約内容などについて証明書の交付を請求したときは、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない」というものです。そして使用者が労働者の請求に応じて証明義務があるのは、次の5項目となっています。
1 使用期間
2 業務の種類
3 当該業務における地位
4 賃金
5 退職(解雇)の事由
また上記5項目は、すべて証明義務があるのではなく、5項目のうち、労働者が請求した事項のみ証明する義務があることになっており、請求しない事項は法定項目でも証明してはならないものです。当然、虚偽の証明は犯罪になります。
ここからが本題です。今後募集面接のとき、求人広告にこの「退職証明書」を履歴書などと同様に応募書類として求めることを明記し、面接時に持参してもらうことを推奨したいと思うのです。そして求める証明事項は「退職(解雇)の事由」です。
面接時に履歴書を見て、前職の退職事由を質問されるケースは多いと思います。が、そのとき、仮に問題行動があって離職している場合、果たしてその事実を正直に申告していただけるでしょうか?
事例1 ある業界で転職を繰り返しており、職務経歴書からは相当の技術が想像される方がいました。場合によっては即、責任者を任せられるような経歴です。即戦力が欲しいA社としては、期待をこめて採用しました。ところがこの人物、採用してみると極めて素行が不良で、問題発言や行動を繰り返す始末。たまりかねて解雇を告げると、待ってましたとばかりに労基署やあっせん機関への申し立て、訴訟と手際よくA社を攻撃してきました。後で分かったことですが、この人物、今までから行政の窓口でも度が過ぎた申告を繰り返す人物として有名な、いわば常習者だったのです。
事例2 私は裁判外紛争解決機関において、あっせん委員を勤めております。先日処理した紛争事件は、会社の金銭横領事件でした。あっせん申立人は会社であり、その使い込みをした労働者に返済を求める内容です。ギャンブルのために使い込んだらしく、断定はできないものの常習性を感じます。事件としては横領事実に争いがないため、その金額の確定や返済方法が主な争点でした。その労働者は当然解雇されていたのですが、あっせんをしている当時、大手のスポーツ用品販売ショップB社に再就職をしていました。事件とは関係がないことですが、このB社、ちょっと心配です。
たとえば上記二つのケースで、仮にA社B社とも、前職の退職証明書を求めていたらどのようになっていたでしょうか。持参した退職証明書に記載された事実を見ればとても採用は出来ないでしょう。またそもそも円満に退職していない状況下において、前の会社に退職証明書を求めること自体ができるでしょうか。恐らく持参できないと思います。
企業には営業活動の自由があり、採用の自由もその中に含まれます。持参できない方を、採用しない自由もあるのです。
一応申しておきますが、勿論、問題行動があったとしてもそれは過去の事案であり、今後将来に向かって真面目に"更正?"してくれる可能性もあり、一概に排除することに異論がある方もおられるかもしれません。しかし、採用後に課せられる使用者の労働法上の義務の重さや経営環境の厳しさとを比較考量するとき、そういった方を積極的に採用しなければならない理由はないはずです。
※上記でいう退職証明書は応募者の前職会社で任意に出してもらうものですが、参考までにモデル書式を以下に掲出しておきます。
http://www.nishimura-roumu.com/cgi-bin/nishimurashakai/siteup.cgi?category=4&page=5
文責 特定社会保険労務士 西村 聡
もっと見る :http://www.nishimura-roumu.com