10年12月02日
未払い残業代請求問題の対策を考える その1 H22.12月号
●未払い残業代請求問題の対策を考える その1~弁護士・司法書士による、消費者金融過払金返還請求の次に来る残業代請求バブルに備える~
皆さんも電車の車内広告やTV・ラジオCMなどで何度かご覧になったことがあるはずです。「消費者金融業者から払い過ぎた金利を取り戻しませんか?」、と弁護士や司法書士が勧誘する、あの宣伝広告のことです。
私は今年後半あたりからその動きが関西でも露出し出すと予想していましたが、今年中はどうやらなさそうです。おそらく来年にはかなりの露出をみることになるでしょう。「あなたの残業代、私が代わって請求します!」なるような広告が・・・・・・。
そこでかつても何度か触れてきたことですが、今後数回シリーズとして、この問題に対する対応策を考えてみたいと思います。全部を履行するのは無理ですから、企業の実情にあった対策を選択していただければと思います。
この問題を考えるとき、以下3つの方法論で検討することが可能です。
1.労働時間(管理)からのアプローチ 2.賃金の支払い方からのアプローチ 3.その他のアプローチ
今回はそのうちの、①労働時間(管理)からのアプローチという視点で、お話を進めてまいります。では始めましょう。
1.労働時間からのアプローチ
① 時間外労働を事前届出制にする
例えば残業するときは4時までに管理者に理由と必要時間を届出書で申請。管理者はその必要性を吟味して理由がない場合は却下。原則的に許可した時間外労働しか認めない。物理的に無駄な残業を削減することともに、心理的抑制効果も期待。また、管理者が本来行うべき役割である部下の労働時間管理を適正に行わせ、その自覚を促す効果も期待する。適正にとは、例えば「所定内に何故終了できないのか」「無理して今日中にやらなければならないことなのか」といったチェックのことである。
② タイムカード上で現認する
①のような別様式で管理するのが煩雑な場合、タイムカード上で、一定の超過時間が印字されたときは必ず翌日までに、管理者の現認印をもらい、本人同意のもと現認された残業時間を記載しておく。これがない場合は時間外労働として認めない。
例 11/26 8:51 18:23 ? 15分 この場合、?は管理者印、15分が残業として現認した時間。
③ 1年単位の変形労働時間制を組替える
1年単位の変形労働時間制※を改定して、1日の時間に弾力性を持たせる。比較的事前に業務の繁閑が予測できるなら企業なら可能。こうすることで最高1日10時間、1週52時間までは残業代が要らない。繁忙期には長時間で設定して、閑散期には現行の所定時間より短く設定。
※1年単位の変形労働時間制:1年以内の一定期間を平均して1週40時間以内とする制度のこと。
④ 完全週休2日制の会社は8時間を超える所定労働時間で設定
土日祝完全週休2日制の会社でも、1年単位の変形労働時間制を利用することで、最大1日8時間40分を所定労働時間に設定できる。つまり8時間40分※を超えたところから残業代をカウントすればよい。1ヶ月約13時間分は残業代を圧縮できる。この場合、今までどおり8時間を超えれば自由に帰宅しても早退扱いにしないような運用が良いと思われる。
※1年の上限時間2085÷240労働日=≒8.68(8時間40分)
⑤ 外勤者(出張)はみなし労働時間制
1)原則的な所定労働時間みなしの場合
常態として事業場外で勤務する従業員には、「みなし労働時間制」を適正に運用する。みなし労働時間制とは現実に労働した時間にかかわりなく、そのみなした時間を労働時間として擬制するもの。適正な運用とは、①時間を把握できる管理者とグループ活動をしていない ②外勤といえども携帯やGPSなどで常に時間や居場所を管理されたり指示命令を受けたりしていない ③訪問先や時間があらかじめ指示され、その予定通りに行動を行うものでないこと。つまり一旦外へ出ればある程度の自由裁量が認められている場合は、この制度を適用できる。所定労働時間でみなす場合は、事業場内と事業場外の時間を合算して所定労働時間とできる。また私見だが、あきらかに所定労働時間内ではこなせ得ない業務量を与えているとか、終業時刻後に特段の指示命令を与えていれば、否定される可能性はある。そのようでなければ、みなし労働時間制のもとではそもそも残業代は発生しない。しかし何らかの定額手当(営業手当など)と組み合せて運用するのが実務的。
2)所定労働時間以外みなしの場合
事業場外時間を少なくみなし、事業場内時間を別カウントで計算する。
例えば1日8時間の会社で、事業場外労働を5時間でみなし(労使協定必要)、2時間分固定残業代など。この場合事業場内時間が5時間((8-5)+固定残業代2時間分みなし)を超えないようにする。超えればその時間分、残業代が必要。外勤者であるが内勤仕事も相当あるような場合向き。
⑥ フレックスタイム制※を導入する
個人裁量のある職種に対してはフレックスタイム制を導入する。これにより本人が業務に必要な時間や日を集中させて濃度を高めるとともに、それ以外の時間帯や日に関しては労働密度を薄くして、効率的に仕事をしてもらう。
※1ヶ月の一定時間枠の範囲内で、出退社を自由に行ってもらうもの。総枠時間の範囲内であれば1日23時間勤務でも残業代は要らない。
⑦ 裁量労働制を採る
労働基準法では、一定の専門的業務に裁量労働制を認めている。裁量労働制とは当該業務の遂行の手段、時間配分等を労働者の自主性に任せ、指示命令しない制度。労使協定で定めた時間を労働したものとみなす。つまり1日8時間とみなすとすれば、実際の時間数に関係なく8時間分の給料だけ払う。細かな指図は出来ない代わりに、無尽蔵な時間外労働を抑制することが出来る。
以下続きは次号にて。
文責 特定社会保険労務士 西村 聡
もっと見る :http://www.nishimura-roumu.com
皆さんも電車の車内広告やTV・ラジオCMなどで何度かご覧になったことがあるはずです。「消費者金融業者から払い過ぎた金利を取り戻しませんか?」、と弁護士や司法書士が勧誘する、あの宣伝広告のことです。
私は今年後半あたりからその動きが関西でも露出し出すと予想していましたが、今年中はどうやらなさそうです。おそらく来年にはかなりの露出をみることになるでしょう。「あなたの残業代、私が代わって請求します!」なるような広告が・・・・・・。
そこでかつても何度か触れてきたことですが、今後数回シリーズとして、この問題に対する対応策を考えてみたいと思います。全部を履行するのは無理ですから、企業の実情にあった対策を選択していただければと思います。
この問題を考えるとき、以下3つの方法論で検討することが可能です。
1.労働時間(管理)からのアプローチ 2.賃金の支払い方からのアプローチ 3.その他のアプローチ
今回はそのうちの、①労働時間(管理)からのアプローチという視点で、お話を進めてまいります。では始めましょう。
1.労働時間からのアプローチ
① 時間外労働を事前届出制にする
例えば残業するときは4時までに管理者に理由と必要時間を届出書で申請。管理者はその必要性を吟味して理由がない場合は却下。原則的に許可した時間外労働しか認めない。物理的に無駄な残業を削減することともに、心理的抑制効果も期待。また、管理者が本来行うべき役割である部下の労働時間管理を適正に行わせ、その自覚を促す効果も期待する。適正にとは、例えば「所定内に何故終了できないのか」「無理して今日中にやらなければならないことなのか」といったチェックのことである。
② タイムカード上で現認する
①のような別様式で管理するのが煩雑な場合、タイムカード上で、一定の超過時間が印字されたときは必ず翌日までに、管理者の現認印をもらい、本人同意のもと現認された残業時間を記載しておく。これがない場合は時間外労働として認めない。
例 11/26 8:51 18:23 ? 15分 この場合、?は管理者印、15分が残業として現認した時間。
③ 1年単位の変形労働時間制を組替える
1年単位の変形労働時間制※を改定して、1日の時間に弾力性を持たせる。比較的事前に業務の繁閑が予測できるなら企業なら可能。こうすることで最高1日10時間、1週52時間までは残業代が要らない。繁忙期には長時間で設定して、閑散期には現行の所定時間より短く設定。
※1年単位の変形労働時間制:1年以内の一定期間を平均して1週40時間以内とする制度のこと。
④ 完全週休2日制の会社は8時間を超える所定労働時間で設定
土日祝完全週休2日制の会社でも、1年単位の変形労働時間制を利用することで、最大1日8時間40分を所定労働時間に設定できる。つまり8時間40分※を超えたところから残業代をカウントすればよい。1ヶ月約13時間分は残業代を圧縮できる。この場合、今までどおり8時間を超えれば自由に帰宅しても早退扱いにしないような運用が良いと思われる。
※1年の上限時間2085÷240労働日=≒8.68(8時間40分)
⑤ 外勤者(出張)はみなし労働時間制
1)原則的な所定労働時間みなしの場合
常態として事業場外で勤務する従業員には、「みなし労働時間制」を適正に運用する。みなし労働時間制とは現実に労働した時間にかかわりなく、そのみなした時間を労働時間として擬制するもの。適正な運用とは、①時間を把握できる管理者とグループ活動をしていない ②外勤といえども携帯やGPSなどで常に時間や居場所を管理されたり指示命令を受けたりしていない ③訪問先や時間があらかじめ指示され、その予定通りに行動を行うものでないこと。つまり一旦外へ出ればある程度の自由裁量が認められている場合は、この制度を適用できる。所定労働時間でみなす場合は、事業場内と事業場外の時間を合算して所定労働時間とできる。また私見だが、あきらかに所定労働時間内ではこなせ得ない業務量を与えているとか、終業時刻後に特段の指示命令を与えていれば、否定される可能性はある。そのようでなければ、みなし労働時間制のもとではそもそも残業代は発生しない。しかし何らかの定額手当(営業手当など)と組み合せて運用するのが実務的。
2)所定労働時間以外みなしの場合
事業場外時間を少なくみなし、事業場内時間を別カウントで計算する。
例えば1日8時間の会社で、事業場外労働を5時間でみなし(労使協定必要)、2時間分固定残業代など。この場合事業場内時間が5時間((8-5)+固定残業代2時間分みなし)を超えないようにする。超えればその時間分、残業代が必要。外勤者であるが内勤仕事も相当あるような場合向き。
⑥ フレックスタイム制※を導入する
個人裁量のある職種に対してはフレックスタイム制を導入する。これにより本人が業務に必要な時間や日を集中させて濃度を高めるとともに、それ以外の時間帯や日に関しては労働密度を薄くして、効率的に仕事をしてもらう。
※1ヶ月の一定時間枠の範囲内で、出退社を自由に行ってもらうもの。総枠時間の範囲内であれば1日23時間勤務でも残業代は要らない。
⑦ 裁量労働制を採る
労働基準法では、一定の専門的業務に裁量労働制を認めている。裁量労働制とは当該業務の遂行の手段、時間配分等を労働者の自主性に任せ、指示命令しない制度。労使協定で定めた時間を労働したものとみなす。つまり1日8時間とみなすとすれば、実際の時間数に関係なく8時間分の給料だけ払う。細かな指図は出来ない代わりに、無尽蔵な時間外労働を抑制することが出来る。
以下続きは次号にて。
文責 特定社会保険労務士 西村 聡
もっと見る :http://www.nishimura-roumu.com