12年05月09日
有期(期間)雇用契約を締結するときの留意点
有期(期間)雇用契約を締結するときの留意点 (平成24年5月号)
現在、有期労働契約について定めた労働契約法が改正されようとしています。その目玉は3つあり、(1)有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換、(2)有期労働契約の更新等(「雇止め法理」の法定化)、(3)期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止─の3項目となっています。
そのうち(1)については期間の定めのある労働契約の契約期間を通算した期間が5年を超える場合は、労働者の申込みにより、期間の定めのない労働契約の締結を使用者が承認したものとみなすとしています。つまり希望があれば5年以降は正社員になってしまうということです。
ただし、原則として6ヵ月以上の空白期間(いわゆるクーリング期間)がある場合は、前の契約期間を通算しないこととされています。また、この仕組みによって転換した期間の定めのない労働契約における労働条件は、別段の定めがない限り、従前と同一とするとしています。つまり給与形態など正社員用に変更する必要まではないということです。
次に(2)の「雇止め法理」に関しては、有期労働契約の反復更新により無期労働契約と実質的に異ならない状態で存在している場合、または、有期労働契約の期間満了後の雇用継続につき、合理的期待が認められる場合には、雇止めが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、有期労働契約が更新(締結)されたものとみなす、とする規定を設けられる予定です。簡単に言うと、安易に更新している有期契約は期間満了により当然に打ち切れないということです。
施行日はまだ未定ですが、ここ数年以内であることは間違いなく、従来から有期労働契約は中小企業でも非常によく行われてきていることから、その運用に少なからぬ影響を及ぼすものと考えられます。ちなみに現在の労働契約法では有期労働契約について、以下第17条を設けています。
期間の定めのある労働契約
第17条 使用者は、期間の定めのある労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。
2 使用者は、期間の定めのある労働契約について、その労働契約により労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間を定めることにより、その労働契約を反復して更新することのないよう配慮しなければならない。
現在、17条第1項で途中解約を厳しく規制しています。有期契約は労使対等の原則から言えば、使用者もその期間までは雇用を維持する義務があるし、労働者も期間満了までは労働に従事する義務があるものですが、実態は労働者の途中解約は自由状態となっており、一方、使用者の途中解約はほとんど認められていません。
ただそれでも有期労働契約書の解約条項の中に、期間途中でも解雇権を発動することを謳っておくべきですが、通常の正社員を解雇する場合でも困難であるのに、期間途中で解約する道は争いになれば非常に分が悪いものになります。そしてここに 上記(1)(2)記載のような使用者にとって更に厳しい規定が入ってくることになるのです。
また厚労省の基準では、3回以上更新されているか、1年を超えて継続している場合はで雇い止めをする場合は、30日前までに更新拒絶の予告をしなければならないとされています。
ただ上記(2)の有期契約だからといって安易に打ち切りにできない、という考えは現在はまだ法律条文には記載がありませんが、従来から法の世界では確立した法理となっていました。ここでは法学講座の場ではありませんので、小難しいことは割愛しますが、要するに次のような場合は、今まででも裁判になれば雇い止めを認めない傾向にあるのです。
1 期間契約を形式上結んでいるが、形骸化しており、実態は無期契約と何ら変わらない状態になっているとき
2 形骸化しているとまでは言えないが、反復更新により更新への合理的な期待が生じているとき
3 反復更新もしていないが、契約当初から更新されることに期待を抱かせるような態様で契約しているとき
これら3つの態様に鑑みて、雇い止めが権利の濫用と判断されると、有期契約だからといって当然に終了できないのです。そしてこの態様の判断は以下のような要素で総合判断されることになっています。
1 業務の内容/要するに正社員と比較して業務内容に同一性があり恒常的か、それとも臨時的か
2 契約上の地位/労働条件や地位が正社員と比べてどうか
3 労使の認識/安易に更新があることを期待させる使用者の言動があるか
4 更新の手続/更新回数、年数はどうか、手続きは厳格に行われているか
5 他の労働者の状況/同様の労働者の契約更新の実態はどうか
6 有期契約締結の経緯/単に試用期間の代用としていないか
で、ここからが雇い止めが無効と言われないための、最低限の実務ポイントです。
1 まず更新手続きを厳格にすること
よく満了期を過ぎてから、遡及して更新しているケースをみます。絶対にダメです。必ず満了前に次期の契約についてどうするか、文書を交えてきちんと話し合うべきです。そして更新が決まったら、必ず新しい契約書を交わします。他の契約のように自動更新はないと思っておいてください。
2 更新の基準を明確にしておくこと
次の更新の可能性がある場合、どういった場合に更新するのか、逆に言えばどういったことがあれば更新しないのか、契約書の中にも書き込み、労使できちんと認識しておくべきです。仮に更新を拒絶する場合に非常に有効です。
3 安易に更新への期待を抱かせない
次期の更新がどうなるか分からない場合、「他の人は皆、更新されている」「これは形式上のもので普通は更新する」など、安易に更新への期待が生じるような言動は慎むべきです。長期雇用を前提にしているなら、初めから無期契約にするか、上記2にように更新基準を明確にするべきです。
4 更新しない場合はそれを予告した上で最後の更新をする
もし経営上何らかの事情で雇い止めするときで、直ちに解約するほどでもないときは、あと1回だけ更新して、「今回の更新が最後になります」ことを口頭でも契約書でも明示して、それでよければ更新してもらうべきです。この場合必ずしも従前と同じ期間でなければならないことはありません。これにより少なくとも次期への合理的期待権は減殺されます。
5 経営者だけの都合でむやみやたらに有期契約を濫用しない。
説明するまでもないでしょう。人を使う上で品格を問われるケースすらあるでしょう。
文責 特定社会保険労務士 西村 聡
もっと見る :http://www.nishimura-roumu.com
現在、有期労働契約について定めた労働契約法が改正されようとしています。その目玉は3つあり、(1)有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換、(2)有期労働契約の更新等(「雇止め法理」の法定化)、(3)期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止─の3項目となっています。
そのうち(1)については期間の定めのある労働契約の契約期間を通算した期間が5年を超える場合は、労働者の申込みにより、期間の定めのない労働契約の締結を使用者が承認したものとみなすとしています。つまり希望があれば5年以降は正社員になってしまうということです。
ただし、原則として6ヵ月以上の空白期間(いわゆるクーリング期間)がある場合は、前の契約期間を通算しないこととされています。また、この仕組みによって転換した期間の定めのない労働契約における労働条件は、別段の定めがない限り、従前と同一とするとしています。つまり給与形態など正社員用に変更する必要まではないということです。
次に(2)の「雇止め法理」に関しては、有期労働契約の反復更新により無期労働契約と実質的に異ならない状態で存在している場合、または、有期労働契約の期間満了後の雇用継続につき、合理的期待が認められる場合には、雇止めが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、有期労働契約が更新(締結)されたものとみなす、とする規定を設けられる予定です。簡単に言うと、安易に更新している有期契約は期間満了により当然に打ち切れないということです。
施行日はまだ未定ですが、ここ数年以内であることは間違いなく、従来から有期労働契約は中小企業でも非常によく行われてきていることから、その運用に少なからぬ影響を及ぼすものと考えられます。ちなみに現在の労働契約法では有期労働契約について、以下第17条を設けています。
期間の定めのある労働契約
第17条 使用者は、期間の定めのある労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。
2 使用者は、期間の定めのある労働契約について、その労働契約により労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間を定めることにより、その労働契約を反復して更新することのないよう配慮しなければならない。
現在、17条第1項で途中解約を厳しく規制しています。有期契約は労使対等の原則から言えば、使用者もその期間までは雇用を維持する義務があるし、労働者も期間満了までは労働に従事する義務があるものですが、実態は労働者の途中解約は自由状態となっており、一方、使用者の途中解約はほとんど認められていません。
ただそれでも有期労働契約書の解約条項の中に、期間途中でも解雇権を発動することを謳っておくべきですが、通常の正社員を解雇する場合でも困難であるのに、期間途中で解約する道は争いになれば非常に分が悪いものになります。そしてここに 上記(1)(2)記載のような使用者にとって更に厳しい規定が入ってくることになるのです。
また厚労省の基準では、3回以上更新されているか、1年を超えて継続している場合はで雇い止めをする場合は、30日前までに更新拒絶の予告をしなければならないとされています。
ただ上記(2)の有期契約だからといって安易に打ち切りにできない、という考えは現在はまだ法律条文には記載がありませんが、従来から法の世界では確立した法理となっていました。ここでは法学講座の場ではありませんので、小難しいことは割愛しますが、要するに次のような場合は、今まででも裁判になれば雇い止めを認めない傾向にあるのです。
1 期間契約を形式上結んでいるが、形骸化しており、実態は無期契約と何ら変わらない状態になっているとき
2 形骸化しているとまでは言えないが、反復更新により更新への合理的な期待が生じているとき
3 反復更新もしていないが、契約当初から更新されることに期待を抱かせるような態様で契約しているとき
これら3つの態様に鑑みて、雇い止めが権利の濫用と判断されると、有期契約だからといって当然に終了できないのです。そしてこの態様の判断は以下のような要素で総合判断されることになっています。
1 業務の内容/要するに正社員と比較して業務内容に同一性があり恒常的か、それとも臨時的か
2 契約上の地位/労働条件や地位が正社員と比べてどうか
3 労使の認識/安易に更新があることを期待させる使用者の言動があるか
4 更新の手続/更新回数、年数はどうか、手続きは厳格に行われているか
5 他の労働者の状況/同様の労働者の契約更新の実態はどうか
6 有期契約締結の経緯/単に試用期間の代用としていないか
で、ここからが雇い止めが無効と言われないための、最低限の実務ポイントです。
1 まず更新手続きを厳格にすること
よく満了期を過ぎてから、遡及して更新しているケースをみます。絶対にダメです。必ず満了前に次期の契約についてどうするか、文書を交えてきちんと話し合うべきです。そして更新が決まったら、必ず新しい契約書を交わします。他の契約のように自動更新はないと思っておいてください。
2 更新の基準を明確にしておくこと
次の更新の可能性がある場合、どういった場合に更新するのか、逆に言えばどういったことがあれば更新しないのか、契約書の中にも書き込み、労使できちんと認識しておくべきです。仮に更新を拒絶する場合に非常に有効です。
3 安易に更新への期待を抱かせない
次期の更新がどうなるか分からない場合、「他の人は皆、更新されている」「これは形式上のもので普通は更新する」など、安易に更新への期待が生じるような言動は慎むべきです。長期雇用を前提にしているなら、初めから無期契約にするか、上記2にように更新基準を明確にするべきです。
4 更新しない場合はそれを予告した上で最後の更新をする
もし経営上何らかの事情で雇い止めするときで、直ちに解約するほどでもないときは、あと1回だけ更新して、「今回の更新が最後になります」ことを口頭でも契約書でも明示して、それでよければ更新してもらうべきです。この場合必ずしも従前と同じ期間でなければならないことはありません。これにより少なくとも次期への合理的期待権は減殺されます。
5 経営者だけの都合でむやみやたらに有期契約を濫用しない。
説明するまでもないでしょう。人を使う上で品格を問われるケースすらあるでしょう。
文責 特定社会保険労務士 西村 聡
もっと見る :http://www.nishimura-roumu.com