●従業員を懲戒(制裁)処分したいと思ったとき  その2
~懲戒はハードルが高いことを理解しよう~

前回は、懲戒処分を行うに当たっての留意すべきポイントを解説いたしました。今回は懲戒処分にはどんな方法があるのかを解説します。

一般的に懲戒処分には以下の処分が定義されていることが多いと思います。

(1) 戒  告 始末書を取らずに将来を戒めるもの
(2) 譴責 始末書を取って将来を戒めるもの
(3) 減給 支給されるべき賃金の一部を支給しないもの
(4) 出勤停止 就労を一定期間禁止してその間の賃金を支払わないもの
(5) 降格降職 役職や能力等級を下げ、それに伴う賃金体系に変更するもの
(6) 諭旨解雇 退職願の提出を促し、提出しないときは懲戒解雇とするもの
(7) 懲戒解雇 使用者が一方的に労働契約を解消するもの


(1)戒告

規定していないところもたくさんあると思います。懲戒処分というよりも、事実上の注意指導に当たるケースが多いでしょう。


(2)譴責(始末書)

上記処分の中で、よく登場するのはこの譴責、いわゆる始末書です。ただ始末書は、反省謝罪の意を表明させるものであり、業務命令で強制的に提出させることはできません。しかし非違行為自体が存在しているなら、反省の意を示さないことをマイナス評価して労務管理することは構いませんし、今後非違行為を繰り返すような場合に悪質性が高いと評価することも可能でしょう。
また、始末書を出さない場合や始末書とは別に、事の顛末や経過報告を求める顛末書を業務命令で求めることは差し支えありません。


(3)減給

これには労基法上の制限があります。つまり1回の非違行為に対して、平均賃金の半額以下、または複数回の非違行為に対しては1賃金支払期間において10分の1以下という制限です。
この10分の1というのは、10%までしか引けないという意味ではなく、あくまでも1賃金支払期における制限であり、複数回の非違行為の減給金額が10%を超えた場合、その超える金額を次の期に繰り越して減給することは可能です。


(4)出勤停止

就労を禁止して賃金を支払わないものですが、あまりに長期間にわたる処分は違法とされる可能性があります。法律上の期間制限はないのですが、1ヶ月を超える場合は相当難しいのではないかと思っています。
また出勤停止と似た措置として、処分確定前の自宅待機命令というのがありますが、調査の為や、証拠隠滅の恐れがある場合に行なう自宅待機命令は、懲戒処分とは別の措置であり、その後に懲戒処分を課しても二重処罰には当たりません。しかし賃金の支払い義務はあり、原則100%ですが、最低でも60%の休業手当は必要です(但し限定的に支払を免除されるケースも考えられるが、ここでは割愛します)。


(5)降格降職

懲戒権の行使として役職を剥奪したり、職能等級を下げたりする結果、一般的に賃金もそれに応じて減額されるものです。
これと似て非なるものに人事権の行使として行うものがあります。これは役職を下げるものと等級を下げるものの二つに分けて考える必要があり、役職者を降格させるのは特に規程上の定めが無くとも可能であり、その帰結として役職手当の対価がなくなるのは当然のことです。

一方、何らかの能力等級があってそれを引き下げることは、就業規則上の根拠規定が必要で、自由に行うことはできません。
私見ですが、役職の任免は使用者が自由に行えるため、ことさら懲戒権の行使で行う必要はなく、役職者の適正が無いなど人事権で行えば良いのではないかと考えています。
ちなみに昇給停止や賞与減額を懲戒事由にしているところもまれにありますが、同様の理由で懲戒として行う意味はあまり無いと思います。


(6)諭旨解雇(退職)

一定の期間内に退職届を出すように勧告し、提出しない場合に懲戒解雇するものですが、次の懲戒解雇と同様、その処分の当否は非常に厳しいものです。


(7)懲戒解雇

即時に解雇し、退職金も諭旨解雇と違って不支給になることが多く、再就職にも不利益になる重大な処分です。非常に慎重に行う必要があり、私見ですが、企業外へ放逐すればよいだけであれば、普通解雇を選択する方が良く、仮に懲戒解雇するにしても、予備的に普通解雇の意思表示もしておくことです。
ここで誤解が多いのが、懲戒解雇の場合は、解雇予告手当(または30日前の予告)が要らないと思われていることですが、労基署長の除外認定を受けない限り、この手続きは回避できません。ただ、除外認定を受けなければ、懲戒解雇ができないということでもありません。

実務上、懲戒解雇者に予告手当を支払うのは理解しがたい使用者が多いでしょう。ただ即日解雇に拘るものでなければ、予告手当の支払いを欠く懲戒解雇も即時解雇される事由があれば、30日経過後には解雇の効力が発生します。少し分かりにくいでしょうか?
また懲戒解雇の有効性と退職金の不支給も分けて考える必要があり、後者の方が更にハードルが高いとお考えください。簡単に言いますと、仮に懲戒解雇が有効でも、退職金の全額不支給は認められないことが多いということです。


次回はこのシリーズの最後として、ある非違行為に対してどの懲戒処分を選択すればよいのかという、難題に触れたいと思います。

文責 特定社会保険労務士 西村 聡
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