これからの高齢者雇用を考える
●定年再雇用者には、技能伝承をミッションとして与えよう  
(H26.3月号)


今後、確実に起こると予想される労務問題があります。いや、経営問題と言った方が良いかも知れません。それは団塊世代の大量退職による日本企業の技能断絶問題のことです。日経新聞2月21日付けの特集記事「建設 人手不足」にこんな一節があります。

『事態は切迫している。熟練工が集中する団塊の世代は65歳を超えて現場から去りつつある。若手への技能伝承を急がないと、中堅が退職する10年先に現場が持たなくなる(国土交通省)』

記事は建設業の人手不足の状況を一時的な外国人技能実習制度の拡充で凌ぐよりも、国内の若年労働者への技能伝承をどうするかという、より根本的な原因を問題提議するものですが、この認識は建設業に限らず、長く日本の基幹産業であった第二次産業全般に言えることではないかと思うのです。


昨年4月の高齢者安定法の改正もあり、定年退職者の再雇用が中小企業でも整備されました。現在進行中の公的年金の支給開始年齢の引き上げに対応して、すべての企業が65歳まで働ける環境整備を求められたのはご承知の通りです。そして多くの企業は60歳定年制をそのまま残しながらも、本人が希望すれば、有期契約にて65歳まで再雇用する制度を採用しています。
そういった影響も有ってか、日本は先進国の中でも飛びぬけて就業者全体に占める高齢者の割合が高く、65歳以上の方に限っても全体の1割を形成する集団になっているのです。

人口減と高齢就業者の増加は、約束された明らかな未来です。こういう明らかな未来に対処するには、今から対応を考えておくべきです。
むしろ高齢者の活用の如何が生き残りを左右する時代になるのかも知れません。


ただ、中小企業の実態は、法改正によって再雇用制度を整備しているわけでも、先を見据えて行っているわけでもなく、従来から必要に迫られてそのまま漫然と雇用しているという感じです。しかも定年前と仕事や役割は何ら変わらず同じことをしてもらっているという実態です。にもかかわらず、給料は4割程度減額されるのが一般的です。
つまり、そこにあるのは次世代を担う中核になるべき人材に対する技能の伝承者の姿ではなく、定年前の状況が延長されているだけで、自分の仕事を黙々とこなす姿です。そのベテランがいずれ引退すれば、そのノウハウはそこで終わってしまう危険をはらんだ姿です。これはまさしく、技能の断絶を暗示しています。



これからの高齢者雇用は、単に仕事に穴が開くとか、コストを安く抑えたいなどという問題として捉えるのではなく、今までとは次元の違う労務管理を考えねばなりません。
そこで具体的にご提案したいのが、多元型人事システムと技能伝承師弟関係制度の創設です。今回はそのうちの後者の技能伝承についてです。


技術や知識に長けた高齢者には、「自分の守備範囲の仕事を黙々とこなすこと」から、「自分の生きた証を会社に残すこと」を最大ミッションとして仕事をしてもらいましょう。「自分のコピーを作る」という感覚でもいいでしょう。間違っても教えるのが面倒くさい、自分でやった方が早い、自分の仕事がなくなるなどと思われないようにしましょう。所詮、墓場まで仕事を持って逝くことはできないのですから、自らが生きた証を財産として会社に残して行く喜びを感じてもらえるようにしましょう。

高齢者が自らの存在価値を再確認でき、会社から優秀な技能伝道者として再承認され、若い社員から師匠として尊敬され慕われる、そんな循環になるのが理想です。

そのことを仕組みで整備するのが技能伝承師弟関係制度です。是非今後、お勧めしたい人事制度です。

小規模企業の賃金制度を得意としています。

文責 特定社会保険労務士 西村 聡
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