●従業員を説得するのも経営者の仕事  どう言えば良いのか・・・・  (H26.5月号)


 私は企業顧問を請け負う社会保険労務士として、日々、経営者の方から労務管理上の様々なご相談を受けます。その中には、手続き論や法律論でスパッと割り切れるものではなく、なかなか正答というべき回答が導き出しにくいご相談が多いのも事実です。正しい回答ではなく、様々な考え方ができる中で、こういう選択肢があり得るというアドバイスなどがその典型的なものですが、そういったご相談の中で、よく経営者が期待されることに、「それをどのように従業員に言えばよいのか?」ということがあります。

これこそ、ベストの物言いなど無いのですが、今回は私がよく頂くご相談の中から、類型別にこのような説明をされてはどうですかと、ご提示している「言い方」をご紹介したいと思います。



1.能力不足で退職して欲しい社員がいる場合


「今までの勤務状況をみているとこのままウチの会社で続けるのは難しいんじゃないか。このままでは、○○さんを会社は評価できないし、これ以上重要なポジションで仕事を任せることもできないし、給料も上がらない。賞与査定も低くなる。恐らく同僚や後輩にも抜かれ、プライドを傷つけられることになるだろう。まだまだ今ならやり直しは効くと思う。残念ながらウチとは合わず、ウチの会社では浮かばれなかったが、きっと広い世の中、○○さんに合う環境で、○○さんのことをもっと評価してくれて、もっと輝いて自己実現できるところがあると思う。今のうちにきれいな形で分かれた方がお互いの為になるのではないか。じっくりよく考えてみてはどうか」




2.社員から不正な要求があった場合 


その1 

「私だって、法を全部守れるわけじゃない。例えば交通法規なんて守れないことがある。赤信号で渡ることもあるかもしれない。でも、横断歩道の向こう側に小さい子どもの手を引いたお母さんがちゃんと止まっていれば、ちょっと渡るのは躊躇する。翻ってみたとき、この問題(状況)を○○さんは子どもに説明できるのか?子供が「何してるの?」と聞いてきたら、どう答えるんだ。窮するようなら、やましいことだ。少なくとも子供にきちんと説明できないことはやめるべきではないか?」


その2

「私だって聖人君子でないから、偉そうなことは言えない。裁判官でも警察官でもない。法の番人でもないから、間違ったこともするかも知れない。でも、それは最終的に自分で責任を取れる範囲でのことだ。今、○○さんが言っているのは、あなた一人で責任を取れる話ではなく、何かあったときには他の人を巻き込むものだ。いわば、他人に泥棒をさせておいて、捕まるのは他人。果実を得るのは自分。というような虫のいい話だ。
自分で全ての責任が取れるならとやかく言わないが、自分が得するために他人を危険に巻き込むのは良識ある大人と態度としてどうなのか?」

 



3.病気で長期間休む社員が出る場合


「会社は休職制度を用意しているから、その間、身分保障はされるし、健康保険から所得保障となる傷病手当金も出るから、安心して療養に専念し、元気な姿で戻ってきて欲しい。でも、会社にも都合があるし、いつまでも待ち続けるというわけにも行かないのは分かってもらえると思う。同僚や顧客の事情もある。であるから、●ヶ月間で、復帰可能とういうことにならなければ、申し訳ないが、そのときは退職扱いになることも理解しておいて欲しい」



4.何となく合わない扱いにくい社員がいる場合


「○○さんは○○さんで信念を持ってその考え(やり方)をしているのはそれ自体は立派なことかもしれない。でも、会社には会社の考えは方がある。仮に会社の方針が間違っていて失敗しても、最終的に全責任を負うのは自分の方である。○○さんではない。私は、お客様に対して、取引業者に対して、そして他の社員とその家族に対しても、最終的に全責任を負う。極論すれば墓場まで会社を背負って行く。そういう意味では私は会社を選ぶことができない。逃げることも出来ない。
最後に責任を取るのは私なのだから、方針が合わなくとも、最終的には私の方針に従うべきではないのか。もしそれができないというなら、むしろ会社や経営者を選べるのは○○さんの方だ。この相反する状況を変えられるのは、会社を選べる○○さんの方だよ。私はずっとここにいるわけだから。どうしても従えないなら、○○さんの方から状況を変えるべきじゃないのか」



5.試用期間から本採用へ移行したくない場合


「そろそろ試用期間の3ヶ月が経過しようとしています。3ヶ月前にウチで本採用となるためには、これこれしかじか、を守って欲しい(やって欲しい)とお約束したはずですが、この間、果たしてどうだったでしょうか?
自分で振り返ってみてどうですか?・・・・・。」



6.有給休暇の請求を受けた場合

「勿論、社員の権利として有給休暇は認められるべきです。でも、小さな会社ですから、周りの仲間やお客様のことも考えて、誰かに負担をかけているとか、遣り残しているとか、そういったことが無い様に自信をもって言える状態で休んでくれたら嬉しい。できたら1週間くらい前には言ってくれると助かる。お互いに皆が気持ちよく有給を取り合えるように皆でやってゆきましょう」



5.給料と評価の関係で感覚の違いがある場合 



「確かに○○さんは、まじめにきちんと仕事をしている。それは認める。しかし、その部分はすでに基本給の中に入っている仕事だ。例えばきちんと期日に納品し、回収もしていると言ったね。それは今の給与の中に含まれているよ。そのために払っている。もし、今以上の評価を勝ち取るとするならば、それ以上のことをやってくれて、初めて評価の対象となるのではないか?」




6.管理者が管理職らしくない場合


「管理者に任命し、役職手当を支払う意味を考えたことがあるかね。はっきり言うと、これはあなたの生計費のために払っているのではないよ。管理者として、私に代わって特別な、或いは重要な責任や役割を担って欲しいからだよ。それは今回は山田君の教育指導だ。役職手当はそのオプション対価だ。既得権でも名誉職でもない。自分の普段の日常業務の上に、部下のため、皆のため、会社のためにやって欲しい事があるからだよ。その私の気持ちを汲んで欲しい。決して部長と呼ばれるだけの“名ばかり管理職”にならないようにして欲しい」




まだまだ、色んな局面で色んな言い方があるでしょう。これからも皆様と一緒に考えて行きましょう。


小規模企業の賃金制度を得意としています。

文責 特定社会保険労務士 西村 聡
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