18年08月03日
年次有給休暇について その2
●年次有給休暇について その2 (H30.7月号)
皆様こんにちは、西村社会保険労務士事務所の坂口です。前回は年次有給休暇の付与要件や付与日数等をご説明させて頂きましたが、第2回目は実務的な内容、多いご相談、今後の法改正等をご紹介させて頂きます。
○年次有給休暇の半日付与
年次有給休暇の付与については暦日単位が原則であるので、半日単位で請求してきても、応じる義務はないのですが、会社が認めた場合について半日単位で付与する分には差し支えありません。最近は半日単位を認める会社が多くなっております。
○年次有給休暇の時間単位付与(時間単位年休)
・労使協定(届出不要)を締結すれば、年に5日を限度として、時間単位で年次有給休暇を付与することができます。労使協定に定める内容は
ア.時間単位年休の対象労働者の範囲
イ.時間単位年休の日数
ウ.時間単位年休1日の時間数
エ.1時間以外の時間を単位とする場合はその時間数となります。
・時間単位年休に支払われる賃金額
時間単位年休1時間分の賃金額は、
ア.平均賃金
イ.所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金
ウ.健康保険の標準報酬日額(労使協定が必要)をその日の所定労働時間数で割った額になります。
ア~ウのいずれにするかは、日単位による取得の場合と同様にし、就業規則に定めることが必要です。
・時季変更権
時間単位年休も年次有給休暇ですので、事業の正常な運営を妨げる場合は使用者による時季変更権が認められます。ただし、日単位での請求を時間単位に変えることや、時間単位での請求を日単位に変えることはできません。
○年次有給休暇の計画的付与
労使協定(届出不要)により年次有給休暇を与える時季に関する定めをしたときは、有給休暇の日数のうち※5日を超える部分を、下記のような方法で取得させることができます。
・事業場全体の休業による一斉付与
・班別の交替制付与
・年次有給休暇付与計画表による個人別付与等
※5日を超える部分とは⇒20日年次有給休暇を有している場合 20日-5日=15日 この15日が計画付与できる日数となります。
よって例えば事業場全体の休業による一斉付与の場合で、年次有給休暇がない労働者や少ない労働者については特別休暇や年次有給休暇の日数を増やすことが望ましいですが、そのような措置を取らない場合は、欠勤扱いするのではなく少なくとも休業手当(平均賃金の6割以上)の支払いが必要になります。
今後有給休暇取得の義務化(下段 今後の法改正参照)が施行されれば、有給休暇の計画的付与を採用する会社は増々増えてくるかと思われます。
○多いご相談としては3つのケース
1.退職の際にまとめて取得申請してくるケース
このケースは申出してくるタイミングにもよりますが、会社としては拒否することは出来ず、対策としては以下の方法が考えられます。
・退職間際であれば引継もあるので引継を完了してから消化するように依頼する方法
・引継業務が残っているならば引継業務を完了するまで出勤してもらう旨を依頼し、逆算して退職日までで有給が消化しきれない場合は、退職日を変更して頂くか、退職日以降の消化出来ない有給については買い取る形で話をする。
※先ほど申出してくるタイミングにもよると言いましたが、労働者から退職の意思表示があり、その退職を人事権者が承諾すればその退職日以降は有給の消化は当然出来ませんので申出があっても拒否することが出来ます。
つまりは退職日が確定した後で退職日の撤回や退職日以降の分について申出してきても拒否出来るということです。ただしあくまで人事権のある方が承認した場合になりますので、人事権がない方が承認しても拒否は出来ません。
またそのような労働者の場合は有給消化について拒否が出来ても感情的になりそれ以外の部分(例えば残業代など)で主張してくるケースがあるかと思われます。
2.頻繁に取得する人とそうでない人の差が激しい
有給は権利ですので、これといった対処法はなく頻繁に取得する方につき拒否や抑制することは出来ませんが、一つの方法として「有給休暇取得のお願い」(HPに書式雛形あり)といった文書を社内掲示や回覧することは可能かと思われます。また一定の期間を区切って有給休暇を取得しなかった労働者につき表彰し金一封を出す会社もあります。
3.当日、事後に有給休暇を申請してくるケース
年休取得にあたって当日や事後に申請してくる労働者について、判例では年休の時季指定の期限について就業規則に定めた「原則として前々日の勤務時間終了時までに請求すること」という規定内容が年次有給休暇に違反するものではなく、合理的内容である限り有効であるとしています。
つまりは前々日とする定めは、時季変更権の行使についての判断の時間的余裕を与え、代替要員の確保を容易にし、時季変更権の行使をなるべく行わないように配慮するようにしたものであるから有効であるとしたものです。
また会社の時季変更権については、時間的余裕がない状態で年休取得の請求があった場合は、その時季変更が事後に行われたとしても適法とされています。だからといって代替要員の確保等なんら配慮、努力がない場合は時季変更権の行使は許されないかと思われます。
また長期での年休休暇の取得については、長期であればあるほど代替要員の確保等困難であり、事業の正常な運営を妨げる要因になることから、会社との調整をせずに行った長期での年休休暇についてはある程度時季変更権の裁量の余地があるかと考えられます。
よって現実的な対応として事後申請は原則拒否、ただし傷病等の事由によりやむを得ないと会社が判断したときは例外規定を設け、その際は医療機関のレシートなどの証明を求める形にする。
当日申請の場合は有給休暇は暦日単位が原則より、当日申請も事後申請になりますので上記判例にもあるように就業規則上の申請期間が合理的な期間である限り拒否しても違法にはならないかと思われますし、また代替要員の確保等が困難なので時期変更権の行使も可能かと思われます。
ただ合理的な期間後の申請、当日申請であっても拒否、時季変更権が不当と判断される可能性もあるので、事後申請と同様で個別具体的な諸事情(当日申請が疾病等で止むを得ない場合等)を勘案し総合的にその有給取得の可否を決めていくことになります。
○Q&A
Q1 定年退職者を引続き嘱託として同一事業所で雇用する場合の勤続年数は?
A1 実質的に労働関係が継続しているものと認めれら、勤続年数は通算するものとなります。つまりは定年により有給休暇はリセットにならないものとなります。パートタイマー等を本採用として引続き雇用する場合も同様です。
Q2 在籍出向の場合は?
A2 在籍出向の場合の出向労働者については出向元、出向先双方と労働契約関係が存することになり、この両者を統合したものが当該労働者の労働関係ということになるので、出向元における勤務期間を通算した勤続年数に応じた年次有給休暇を付与しなければなりません。
※移籍出向の場合は出向元の契約は継続されませんので勤続年数は通算されません。
Q3 短期契約労働者の契約を更新して、事実上6か月以上使用している場合は?
A3 契約更新は単なる形式にとどまり、実質的に労働関係が継続しているものと認められる場合は継続勤務に該当する形となります。つまりは期間契約であっても実質空白期間もなく更新しているような場合は継続勤務とみなされるということです。
Q4 年次有給休暇の買い取りは?年次有給休暇が定める法の日数よりも多く付与した場合は?
A4 年次有給休暇の買い取りは本来の趣旨である「休むこと」を妨げるこことなるため、禁止されています。ただ退職により残ってしまった行使できなくなった日数、法定日数を超えて与えられている有給休暇については買い上げをしても違反にはならず、その金額の決め方も特段定めはございません。
Q5 年次有給休暇の時効は?
A5 年次有給休暇の時効は2年と労基法115条で定められています。
この起算日については労基法では特段の定めがありませんので、年休の付与日から時効が進行するという考え(時効は権利を行使することができるときから進行するより)でいくと、例えば入社日に5日、残りの5日については6ヶ月経過後の法定どうり付与した場合には入社時に付与された5日については入社日、残りの5日については6ヶ月経過後が時効の起算日(そこから2年)ということになります。
○今後の法改正
「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」にて、有給休暇5日の取得義務化が今国会で成立しました。施行日は平成31年4月1日です。
また債権法改正後の新民法(債権者が権利を行使することができると知った時から5年間又は権利を行使できる時から10年間)との関係では、債権法改正に連動したかたちで、労働者保護を目的とする労基法115条(時効2年)のほうが労働者にとって不利な時効を定めていることになるとのことから、労基法115条の見直しに向けた検討がおこなわれております。つまりは「残業代請求の時効」「年次有給休暇の時効」の2年が5年へ見直しされる可能性があります。
年次有給休暇に限れば最高40日(20日×2年)とこれまで言っていたのが、勤続年数にもよりますが最高100日(20日×5年)蓄積されているといったことも出てくるかもしれません。そうなれば管理上も今まで以上に煩雑になり、また退職時に一括請求ともなれば大変なことになります。
年次有給休暇については取得率(50%以下)が日本は低いと叫ばれております。中小企業においてはギリギリの人数で日々業務をこなしており、1人欠けても日常業務に支障がでますし、補充しようと募集をかけても応募が少ないのが現状です。大手企業と同じように取得させるのは業種、企業規模、仕組みからして困難です。
ただ今後の働き方改革の動向、労働力人口の減少、時代の流れをみても中小企業だからといって言い訳のできないが状況になんてきており、難しい問題ではありますが、一緒に考え対応していければと思っております。
(文責 社会保険労務士 坂口 将)
皆様こんにちは、西村社会保険労務士事務所の坂口です。前回は年次有給休暇の付与要件や付与日数等をご説明させて頂きましたが、第2回目は実務的な内容、多いご相談、今後の法改正等をご紹介させて頂きます。
○年次有給休暇の半日付与
年次有給休暇の付与については暦日単位が原則であるので、半日単位で請求してきても、応じる義務はないのですが、会社が認めた場合について半日単位で付与する分には差し支えありません。最近は半日単位を認める会社が多くなっております。
○年次有給休暇の時間単位付与(時間単位年休)
・労使協定(届出不要)を締結すれば、年に5日を限度として、時間単位で年次有給休暇を付与することができます。労使協定に定める内容は
ア.時間単位年休の対象労働者の範囲
イ.時間単位年休の日数
ウ.時間単位年休1日の時間数
エ.1時間以外の時間を単位とする場合はその時間数となります。
・時間単位年休に支払われる賃金額
時間単位年休1時間分の賃金額は、
ア.平均賃金
イ.所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金
ウ.健康保険の標準報酬日額(労使協定が必要)をその日の所定労働時間数で割った額になります。
ア~ウのいずれにするかは、日単位による取得の場合と同様にし、就業規則に定めることが必要です。
・時季変更権
時間単位年休も年次有給休暇ですので、事業の正常な運営を妨げる場合は使用者による時季変更権が認められます。ただし、日単位での請求を時間単位に変えることや、時間単位での請求を日単位に変えることはできません。
○年次有給休暇の計画的付与
労使協定(届出不要)により年次有給休暇を与える時季に関する定めをしたときは、有給休暇の日数のうち※5日を超える部分を、下記のような方法で取得させることができます。
・事業場全体の休業による一斉付与
・班別の交替制付与
・年次有給休暇付与計画表による個人別付与等
※5日を超える部分とは⇒20日年次有給休暇を有している場合 20日-5日=15日 この15日が計画付与できる日数となります。
よって例えば事業場全体の休業による一斉付与の場合で、年次有給休暇がない労働者や少ない労働者については特別休暇や年次有給休暇の日数を増やすことが望ましいですが、そのような措置を取らない場合は、欠勤扱いするのではなく少なくとも休業手当(平均賃金の6割以上)の支払いが必要になります。
今後有給休暇取得の義務化(下段 今後の法改正参照)が施行されれば、有給休暇の計画的付与を採用する会社は増々増えてくるかと思われます。
○多いご相談としては3つのケース
1.退職の際にまとめて取得申請してくるケース
このケースは申出してくるタイミングにもよりますが、会社としては拒否することは出来ず、対策としては以下の方法が考えられます。
・退職間際であれば引継もあるので引継を完了してから消化するように依頼する方法
・引継業務が残っているならば引継業務を完了するまで出勤してもらう旨を依頼し、逆算して退職日までで有給が消化しきれない場合は、退職日を変更して頂くか、退職日以降の消化出来ない有給については買い取る形で話をする。
※先ほど申出してくるタイミングにもよると言いましたが、労働者から退職の意思表示があり、その退職を人事権者が承諾すればその退職日以降は有給の消化は当然出来ませんので申出があっても拒否することが出来ます。
つまりは退職日が確定した後で退職日の撤回や退職日以降の分について申出してきても拒否出来るということです。ただしあくまで人事権のある方が承認した場合になりますので、人事権がない方が承認しても拒否は出来ません。
またそのような労働者の場合は有給消化について拒否が出来ても感情的になりそれ以外の部分(例えば残業代など)で主張してくるケースがあるかと思われます。
2.頻繁に取得する人とそうでない人の差が激しい
有給は権利ですので、これといった対処法はなく頻繁に取得する方につき拒否や抑制することは出来ませんが、一つの方法として「有給休暇取得のお願い」(HPに書式雛形あり)といった文書を社内掲示や回覧することは可能かと思われます。また一定の期間を区切って有給休暇を取得しなかった労働者につき表彰し金一封を出す会社もあります。
3.当日、事後に有給休暇を申請してくるケース
年休取得にあたって当日や事後に申請してくる労働者について、判例では年休の時季指定の期限について就業規則に定めた「原則として前々日の勤務時間終了時までに請求すること」という規定内容が年次有給休暇に違反するものではなく、合理的内容である限り有効であるとしています。
つまりは前々日とする定めは、時季変更権の行使についての判断の時間的余裕を与え、代替要員の確保を容易にし、時季変更権の行使をなるべく行わないように配慮するようにしたものであるから有効であるとしたものです。
また会社の時季変更権については、時間的余裕がない状態で年休取得の請求があった場合は、その時季変更が事後に行われたとしても適法とされています。だからといって代替要員の確保等なんら配慮、努力がない場合は時季変更権の行使は許されないかと思われます。
また長期での年休休暇の取得については、長期であればあるほど代替要員の確保等困難であり、事業の正常な運営を妨げる要因になることから、会社との調整をせずに行った長期での年休休暇についてはある程度時季変更権の裁量の余地があるかと考えられます。
よって現実的な対応として事後申請は原則拒否、ただし傷病等の事由によりやむを得ないと会社が判断したときは例外規定を設け、その際は医療機関のレシートなどの証明を求める形にする。
当日申請の場合は有給休暇は暦日単位が原則より、当日申請も事後申請になりますので上記判例にもあるように就業規則上の申請期間が合理的な期間である限り拒否しても違法にはならないかと思われますし、また代替要員の確保等が困難なので時期変更権の行使も可能かと思われます。
ただ合理的な期間後の申請、当日申請であっても拒否、時季変更権が不当と判断される可能性もあるので、事後申請と同様で個別具体的な諸事情(当日申請が疾病等で止むを得ない場合等)を勘案し総合的にその有給取得の可否を決めていくことになります。
○Q&A
Q1 定年退職者を引続き嘱託として同一事業所で雇用する場合の勤続年数は?
A1 実質的に労働関係が継続しているものと認めれら、勤続年数は通算するものとなります。つまりは定年により有給休暇はリセットにならないものとなります。パートタイマー等を本採用として引続き雇用する場合も同様です。
Q2 在籍出向の場合は?
A2 在籍出向の場合の出向労働者については出向元、出向先双方と労働契約関係が存することになり、この両者を統合したものが当該労働者の労働関係ということになるので、出向元における勤務期間を通算した勤続年数に応じた年次有給休暇を付与しなければなりません。
※移籍出向の場合は出向元の契約は継続されませんので勤続年数は通算されません。
Q3 短期契約労働者の契約を更新して、事実上6か月以上使用している場合は?
A3 契約更新は単なる形式にとどまり、実質的に労働関係が継続しているものと認められる場合は継続勤務に該当する形となります。つまりは期間契約であっても実質空白期間もなく更新しているような場合は継続勤務とみなされるということです。
Q4 年次有給休暇の買い取りは?年次有給休暇が定める法の日数よりも多く付与した場合は?
A4 年次有給休暇の買い取りは本来の趣旨である「休むこと」を妨げるこことなるため、禁止されています。ただ退職により残ってしまった行使できなくなった日数、法定日数を超えて与えられている有給休暇については買い上げをしても違反にはならず、その金額の決め方も特段定めはございません。
Q5 年次有給休暇の時効は?
A5 年次有給休暇の時効は2年と労基法115条で定められています。
この起算日については労基法では特段の定めがありませんので、年休の付与日から時効が進行するという考え(時効は権利を行使することができるときから進行するより)でいくと、例えば入社日に5日、残りの5日については6ヶ月経過後の法定どうり付与した場合には入社時に付与された5日については入社日、残りの5日については6ヶ月経過後が時効の起算日(そこから2年)ということになります。
○今後の法改正
「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」にて、有給休暇5日の取得義務化が今国会で成立しました。施行日は平成31年4月1日です。
また債権法改正後の新民法(債権者が権利を行使することができると知った時から5年間又は権利を行使できる時から10年間)との関係では、債権法改正に連動したかたちで、労働者保護を目的とする労基法115条(時効2年)のほうが労働者にとって不利な時効を定めていることになるとのことから、労基法115条の見直しに向けた検討がおこなわれております。つまりは「残業代請求の時効」「年次有給休暇の時効」の2年が5年へ見直しされる可能性があります。
年次有給休暇に限れば最高40日(20日×2年)とこれまで言っていたのが、勤続年数にもよりますが最高100日(20日×5年)蓄積されているといったことも出てくるかもしれません。そうなれば管理上も今まで以上に煩雑になり、また退職時に一括請求ともなれば大変なことになります。
年次有給休暇については取得率(50%以下)が日本は低いと叫ばれております。中小企業においてはギリギリの人数で日々業務をこなしており、1人欠けても日常業務に支障がでますし、補充しようと募集をかけても応募が少ないのが現状です。大手企業と同じように取得させるのは業種、企業規模、仕組みからして困難です。
ただ今後の働き方改革の動向、労働力人口の減少、時代の流れをみても中小企業だからといって言い訳のできないが状況になんてきており、難しい問題ではありますが、一緒に考え対応していければと思っております。
(文責 社会保険労務士 坂口 将)