07年11月30日
雇い止めに関する判断 で
中野区保育園争議 高裁判決
・雇い止めに関する代表判例について。
≪(2)私法上の期間雇用の場合に,期間終了とともに雇用契約が終了しているはずであるのに,判例が雇用の継続があったものと認めている根拠を検討する。最高裁判所は,上記東芝柳町工場事件判決においては,期間の定めの条項の存在にかかわらず,当事者の合理的な意思解釈としては実質的に期間の定めのない契約を締結していたと原審が認定したことを是認した上で,雇止めの意思表示は実質的に解雇の意思表示に当たるから解雇権濫用の法理の類推適用が可能であるとしており,雇用の継続の根拠を当事者双方の意思に求め,他方,日立メディコ事件判決では,従前の労働契約の更新に根拠を求めているものの,契約更新の理由について説明をしているわけではないが,この点は,雇用の更新推定に関する民法629条1項を根拠とするものと解されよう。≫
いずれも解雇権濫用法理であるが、東芝柳町工場事件では「期間の定めなき雇用」とみなされ、日立メディコ事件では「期間雇用の更新」である。ただし、区事業なので民間と異なり、当法理は適用できないとしている。
雇い止めのトラブルに関し、採用時の雇用契約で更新の有無、更新基準についての明示は最低限しないと。
・慰謝料について
期待させる言辞
説明不足
更新の形式性
不誠実態度
急な告知
などによって、期待権侵害の不法行為として、「報酬の1年間分に相当する程度の慰謝料額」としている。
当事件は本来地位確認請求ができないものであるから、1年とされていることから、民間の場合には地位確認もしくはやや少な目の慰謝料額となると思われる。
いずれにせよ、「非正規雇用」は今度のパート労働法もそうだが、強い判断で保護される傾向にある。
尤も、「正社員」は残業なし、有休なし、労災認めず、という民間も多く、どちらがいいということでもない。
・雇い止めに関する代表判例について。
≪(2)私法上の期間雇用の場合に,期間終了とともに雇用契約が終了しているはずであるのに,判例が雇用の継続があったものと認めている根拠を検討する。最高裁判所は,上記東芝柳町工場事件判決においては,期間の定めの条項の存在にかかわらず,当事者の合理的な意思解釈としては実質的に期間の定めのない契約を締結していたと原審が認定したことを是認した上で,雇止めの意思表示は実質的に解雇の意思表示に当たるから解雇権濫用の法理の類推適用が可能であるとしており,雇用の継続の根拠を当事者双方の意思に求め,他方,日立メディコ事件判決では,従前の労働契約の更新に根拠を求めているものの,契約更新の理由について説明をしているわけではないが,この点は,雇用の更新推定に関する民法629条1項を根拠とするものと解されよう。≫
いずれも解雇権濫用法理であるが、東芝柳町工場事件では「期間の定めなき雇用」とみなされ、日立メディコ事件では「期間雇用の更新」である。ただし、区事業なので民間と異なり、当法理は適用できないとしている。
雇い止めのトラブルに関し、採用時の雇用契約で更新の有無、更新基準についての明示は最低限しないと。
・慰謝料について
期待させる言辞
説明不足
更新の形式性
不誠実態度
急な告知
などによって、期待権侵害の不法行為として、「報酬の1年間分に相当する程度の慰謝料額」としている。
当事件は本来地位確認請求ができないものであるから、1年とされていることから、民間の場合には地位確認もしくはやや少な目の慰謝料額となると思われる。
いずれにせよ、「非正規雇用」は今度のパート労働法もそうだが、強い判断で保護される傾向にある。
尤も、「正社員」は残業なし、有休なし、労災認めず、という民間も多く、どちらがいいということでもない。
07年11月28日
「厚生年金保険料納付特例法案」
労働契約法案が可決したとか、来年4月施行の「パート労働法」について行政が早くも告知を始めているとか、労働=職場をめぐる法規制の展開が見え始めた。年金記録問題にも一歩踏み込んでいる。
年金保険料未納、企業に対し国が請求権…与野党修正案
企業の未納保険料、国に請求権=厚生年金、特例法案で修正案
<年金特例法案>修正で大筋合意 与党と民主党
毎日の記事に≪被害事例数は不明だが、総務省の「年金記録確認第三者委員会」で審査中の厚生年金関連の申し立て約8500件のうち半数程度は同法案の適用対象になるとみられる。≫とあるところからすると、やはり第三者委員会の活動が芳しくない要因が企業による年金保険料の横領ということになる。健康保険料もまたそうであるはずだが、これについては読み取れない。
従前の与党案では、勧告しても払わないときは税による補填で解決するという、首をかしげる内容であった。尤も、魑魅魍魎とした世界であるから、また覆る可能性もある。
ところで、はじめから社会保険事務所が積極的に事業所を調査し、行政処分を抜かりなくしておればいい話なのだが、警察「署」、労働基準監督「署」と異なり、社会保険事務「所」、公共職業安定「所」はそれほど強行に執行する権力は与えられていないとみるべきである。
したがって、社会保険等の適用をめぐっては多くの国民が困ることになったものである。もちろん、国民はおろか政府、国会議員が今日ほど社会保険等に関心をもつようになったことはかつてない事態だが。
年金保険料未納、企業に対し国が請求権…与野党修正案
企業の未納保険料、国に請求権=厚生年金、特例法案で修正案
<年金特例法案>修正で大筋合意 与党と民主党
毎日の記事に≪被害事例数は不明だが、総務省の「年金記録確認第三者委員会」で審査中の厚生年金関連の申し立て約8500件のうち半数程度は同法案の適用対象になるとみられる。≫とあるところからすると、やはり第三者委員会の活動が芳しくない要因が企業による年金保険料の横領ということになる。健康保険料もまたそうであるはずだが、これについては読み取れない。
従前の与党案では、勧告しても払わないときは税による補填で解決するという、首をかしげる内容であった。尤も、魑魅魍魎とした世界であるから、また覆る可能性もある。
ところで、はじめから社会保険事務所が積極的に事業所を調査し、行政処分を抜かりなくしておればいい話なのだが、警察「署」、労働基準監督「署」と異なり、社会保険事務「所」、公共職業安定「所」はそれほど強行に執行する権力は与えられていないとみるべきである。
したがって、社会保険等の適用をめぐっては多くの国民が困ることになったものである。もちろん、国民はおろか政府、国会議員が今日ほど社会保険等に関心をもつようになったことはかつてない事態だが。
07年11月15日
労働条件の変更 で =法的観点から=
経営環境の悪化、最近ではとりわけ全産業において長期にわたっての慣行となっていた「偽装工作」が国や消費者からの批判を受けて是正されるようになり、事業縮小の傾向を示す。事業再生にはやはりきれいなかたちで生まれ変わりたいものである。
(例)船場吉兆:湯木取締役が偽装指示 パート従業員ら語る真実はまだ不明だが、とりあえずこの企業では実質上パートに「業務執行権」があり、取締役は「パート」の役割にすぎなかったと幹部が告白していることになる。確かに、90年代あたりの日本企業では従業員の地位は結構高く、経営者風の発想をし経営者にハッパをかける人も少なくなかったが、パートが実質上事業を執行していたと告白する経営者はいなかったはずである。それが今日の経営遂行能力の低下という問題である。これでは互いに取引がしにくくなり、相乗効果的に産業が行き詰ることになる。まずいことだ。なお、かつての「見せしめ」は今や有効ではなく、個別に是正を求めなければ、誰も好き好んで直近の利益と信用を落とそうとはしない。したがって、経営者団体は、諸外国との取引に際する信用問題や日本の産業育成の視点から、「コンプライアンス」を所属会員に求めるものの、実効性はあまり期待できない。もはや「日本株式会社」は影はあっても姿はない。
さて、本題。
(1) 管理職手当のカットについて個別に面談し、同意を得た。これは法的に有効か。
管理職手当は就業規則絶対記載項目なので、就業規則変更によるのでなければ無効。同意があっても、カット分は返金しなければならない。
(就業規則についてはなお難しい問題を含んでいる。企業内での取り扱いと企業外での扱われ方とは相当なギャップがあるからである。裁判での証拠物という発想で作成していないことが多く、また企業内実務とも乖離している。それは労働時間管理などで「逃げる」経営者意識からくるが、社会保険労務士としてはとりあえずは作成し、当企業からの相談事項から一事項づつ指導助言して人事労務力を段階式に高めることを好しとしている。)
(2) パートの労働時間を減らす際の説明において、その同意は自由とした。不同意の者については繰り返し説得が行われ、実質上解雇されているようである。その後に同意した者から、同意撤回の申し出が出た。
これはかなり難しい状況である。ざっくり言うと、その同意が真意のものなのかどうかである。不同意すれば辞めさせられると考えて同意したとなれば当然無効となり、撤回できることになる。
なお、法的な判断においては経営状態がそれほど斟酌されるものとは思われない。あっせんなど裁判外紛争解決手続によれば別だが、裁判は法律判断するところなので、六法に書かれていないことは重視されないと思っておけばよいだろう。国家はそれが大事。「パートは雇用の調整弁」などという理由も国家には通用しない。
(3) 更新が長期にわたって繰返されているパートの時給を下げて更新すると説明した。同意した者は更新された。それは不同意であるので、今後協議というかたちをとりそれが決着するまで、とりあえずはその条件で就業するといったパートを雇い止めた。
所謂「変更解約告知」「留保付同意」の問題。「更新が長期にわたって繰返されている」場合には、解雇権濫用法理が適用される。また労働基準法18条の2や整理解雇法理など色々な観点から進めることができる。設例のようにして、不利益変更が一方的に行われることは認められないので、辞めさせたパートを職場に復帰させることになる。
(まとめ) 労働条件の変更には説明、協議、同意が必要であるが、今日的な課題として「偽装説明」は話をややこしくさせるものである。従業員に信頼され、人望のある人物が説明し、苦しい状態と再生計画について社会人として節度をもって協議すれば、それほど同意は難しいとも思われない。もちろん、実際に労働条件は下がるものであるから、最後まで反対する者は出るが、そこまでできておればあとは裁判所に委ねるのが気分的には互いに楽である。
最後に、あっせんなど裁判外紛争解決手続では上記のような法律論は重視されないが、大枠として必修的に押さえてあるものである。
(例)船場吉兆:湯木取締役が偽装指示 パート従業員ら語る真実はまだ不明だが、とりあえずこの企業では実質上パートに「業務執行権」があり、取締役は「パート」の役割にすぎなかったと幹部が告白していることになる。確かに、90年代あたりの日本企業では従業員の地位は結構高く、経営者風の発想をし経営者にハッパをかける人も少なくなかったが、パートが実質上事業を執行していたと告白する経営者はいなかったはずである。それが今日の経営遂行能力の低下という問題である。これでは互いに取引がしにくくなり、相乗効果的に産業が行き詰ることになる。まずいことだ。なお、かつての「見せしめ」は今や有効ではなく、個別に是正を求めなければ、誰も好き好んで直近の利益と信用を落とそうとはしない。したがって、経営者団体は、諸外国との取引に際する信用問題や日本の産業育成の視点から、「コンプライアンス」を所属会員に求めるものの、実効性はあまり期待できない。もはや「日本株式会社」は影はあっても姿はない。
さて、本題。
(1) 管理職手当のカットについて個別に面談し、同意を得た。これは法的に有効か。
管理職手当は就業規則絶対記載項目なので、就業規則変更によるのでなければ無効。同意があっても、カット分は返金しなければならない。
(就業規則についてはなお難しい問題を含んでいる。企業内での取り扱いと企業外での扱われ方とは相当なギャップがあるからである。裁判での証拠物という発想で作成していないことが多く、また企業内実務とも乖離している。それは労働時間管理などで「逃げる」経営者意識からくるが、社会保険労務士としてはとりあえずは作成し、当企業からの相談事項から一事項づつ指導助言して人事労務力を段階式に高めることを好しとしている。)
(2) パートの労働時間を減らす際の説明において、その同意は自由とした。不同意の者については繰り返し説得が行われ、実質上解雇されているようである。その後に同意した者から、同意撤回の申し出が出た。
これはかなり難しい状況である。ざっくり言うと、その同意が真意のものなのかどうかである。不同意すれば辞めさせられると考えて同意したとなれば当然無効となり、撤回できることになる。
なお、法的な判断においては経営状態がそれほど斟酌されるものとは思われない。あっせんなど裁判外紛争解決手続によれば別だが、裁判は法律判断するところなので、六法に書かれていないことは重視されないと思っておけばよいだろう。国家はそれが大事。「パートは雇用の調整弁」などという理由も国家には通用しない。
(3) 更新が長期にわたって繰返されているパートの時給を下げて更新すると説明した。同意した者は更新された。それは不同意であるので、今後協議というかたちをとりそれが決着するまで、とりあえずはその条件で就業するといったパートを雇い止めた。
所謂「変更解約告知」「留保付同意」の問題。「更新が長期にわたって繰返されている」場合には、解雇権濫用法理が適用される。また労働基準法18条の2や整理解雇法理など色々な観点から進めることができる。設例のようにして、不利益変更が一方的に行われることは認められないので、辞めさせたパートを職場に復帰させることになる。
(まとめ) 労働条件の変更には説明、協議、同意が必要であるが、今日的な課題として「偽装説明」は話をややこしくさせるものである。従業員に信頼され、人望のある人物が説明し、苦しい状態と再生計画について社会人として節度をもって協議すれば、それほど同意は難しいとも思われない。もちろん、実際に労働条件は下がるものであるから、最後まで反対する者は出るが、そこまでできておればあとは裁判所に委ねるのが気分的には互いに楽である。
最後に、あっせんなど裁判外紛争解決手続では上記のような法律論は重視されないが、大枠として必修的に押さえてあるものである。