08年01月08日

公益通報 で

『内部告発と公益通報』

公益通報者保護法が施行されて1年以上経った。この法律がまた変な位置にあるようだ。これもまた国際標準に合わせて作られたもので、魂が入っていないといえる。ただ、この本が面白いのは、著者が第6章でその点を突いているからである。労働基準監督官出身の著者がその点に触れているのをみるとホッとする、

さて、この法律は、内部告発した者に対して解雇等の不利益を課してはならないという簡単なもの。
対象者は自社・下請・取引先・派遣等の労働者。下請業者などは外されており、また公務員もまた国際標準に合わせたとみせながら外されている。
告発の態様は3種。
1つは内部処理機関へ。これはセクハラと同じで、当人の感じ方でよく、証拠など不要である。この段階で、それを放っておけば我が社にダメージが大きいということで、自浄作用があれば成功。普通は告発者を追いやるため、この法律ができたという堂々巡り。著者の結論は、「公益」という概念が根付いていないという不安を抱えるものなのだが。
2つ目は、行政機関の通報。この場合、「信じるに足りる証拠」が必要。
3つ目は、マスコミ等。マスコミといっても、取りあげるかどうかは不明なので何ともいえないが、この場合は名誉毀損などの問題や証拠隠滅等のおそれなどの問題が絡み、正当な通報かどうかの基準がある。

内部告発者の多くは、アメリカでもハッピーなエンディングとはいえないが、日本ではまた別の事情がある。それについて割いてるのが第6章「コンプライアンスと日本の法律」「日本の法律は守れるか」「守れない法律がなぜ作られるのか」である。例として著者は道交法と労基法について触れている。詳しくは読まれたいが、少し載せてみる。
《法規制のタテマエと現実のホンネとが乖離して並存し、関係者の遵法意識を麻痺させることによって、どうせ守れないからといい加減な時間管理が行われ、結果としてサービス残業につながるという構造もできあがっている。》
《ここでも、産業界のサービス残業を摘発する業務を行うために官庁でサービス残業がなされるというブラックユーモア的状況が存在し、それを指摘するのは非常識だという意識も同時に存在している。なぜ守れるかどうかの検証を欠いた法律が作られるのか、法律を所管する者がなぜ法律を守ろうとしないのか、その構造について次に考えてみることにしたい。》

残念ながらあまり頁が割かれていないが、こういう指摘は山本七平氏の他に聞くことがなかったので、嬉しい。
08年01月08日 | Category: General
Posted by: roumushi
<厚生年金>給与記録改ざんが発覚 社保事務所の関与も

今度は標準報酬月額の問題が取り上げられ、いよいよ年金記録問題の全貌が明らかになった観がある。


≪その後は社員のほとんどをリストラし、経営も回復、社会保険事務所から連絡もなかった。ところが、03年に元社員の一人から「自分の標準報酬月額が過去2年分、30万円から(当時最低額の)8万円に下げられている」と指摘され、当時の社員全員の年金データが改ざんされていたことに気づいた。≫

たまに(身近でも)聞いたことがある話である。というのは整理解雇に移行するときのその回避策として考えられなくもないからである。給与を実際に8万とするなら反撥があるが、標準報酬月額を8万と偽装させて保険料を減らすのなら痛みも少ない。少し前までは、誰も年金記録なんて関心もない。ただし、納付義務を負う会社が勝手にしていたのは民事上の問題として残る。もちろん合意があれば組織秩序的にマシ(所謂「企業ぐるみ」の安定)というだけで、違法行為なので結局合意の有無を問わず無効であることはいうまでもない。

こうした年金減額分請求もしくは受給資格不足による損害賠償請求について争った裁判はあまり聞かない。審査請求では二義的な観点として出ることもたまにあるが、多くはない。第三者委員会はこういった日本社会の現実をみて混乱していると思われる。司法(当然法律を作る国会を含む)も行政も会社も国民生活も、もはや自家中毒で動きが取れなくなりつつあることを強く感じる。アメリカ社会を嫌っていたはずの日本が、知らずしてトラブル社会への途を歩んでいたのは皮肉な話である。
08年01月07日 | Category: General
Posted by: roumushi
厚生年金特例法

結局またひっくり返って戻った(微妙に一歩進む)。年金保険料の徴収が、また一問題なのである。昨日の関連記事。年金に関し国民の関心が薄かった期間が長く、政府も軽視していたことが一番の原因だが、会社もまた同様である。ただ、不幸にも倒産した場合に、特別徴収のかたちで完納となるケースも多いと思われ、実被害は少ないのではなかろうか。だが、この記事のような処理であれば、その記録は実態でないものが正当なものとなる。

簡潔な説明の社会保険庁ホームページから

条文は読みにくいが、法律解釈で難しい点がある。

第一条一項但し書き
「ただし、特例対象者が、当該事業主が当該義務を履行していないことを知り、又は知り得る状態であったと認められる場合には、この限りでない。」

趣旨からして絶対的に近いかたちで記録は回復されるとみうけられるものの、黙認とみなされると駄目だということである。これは日本的労使関係にあってはかなりの障害である。個別労使紛争も同じだか、障害といっていては何も解決しない(しかし泣き寝入りは楽)。日本的労使関係も一部では完全に崩壊しているが、まだ多くは残っている。最近私は山本七平をまた読み出したところだが、今の所個々の事案ではいったんは労使関係の破綻が避けられず、そして回復の道筋ができればと願う。

〔参考〕
本法では次の規定がある。

≪(確認の請求)
第31条 被保険者又は被保険者であつた者は、いつでも、第18条第1項(註−資格の取得、喪失のこと)の規定による確認を請求することができる。≫

このいつでも被保険者又は被保険者であつた者は確認請求権があるのだから、それを行使していない以上保護されるものではないという司法判断がたまに下るときがある。
07年12月28日 | Category: General
Posted by: roumushi
07年12月23日

派遣事業の適正化

人材派遣業者が軒並みに増加し、多くは経営難に陥っているのだが、交流会などで話をしてみるとその開設意欲は感心できないものにあることがやはり多かった。
その羅針盤となっていたのがGWGのような経営であろう。すなわち、「法令違反や経営がズサンであればあるほど儲かっている」という経営の現実である。

コンピテンシーという人事用語があり、一時期流行らせようとする動きがあったが、それは「できる人」を基準に評価設定や教育システムを作るという内容である。私は人事において外来語を嫌うため加工するが、それなりに理に叶う手法といえる。
この発想から、「儲かっている企業」を基準に同種の経営をやればいいということになる。世の常として、朱に交われば赤くなる、悪貨が良貨を駆逐する謂われの通り、斯業界はますます無法地帯と化した。

派遣業者の存在も大きくなり、かつて社会保険の存在を否定し、自らの企業年金で足りるとして国の干渉を拒んだ大手も、社会的存在を認識するようになった。社会保険労務士が派遣業者と積極的に顧問契約し出したのもその頃からであろう。いずれにせよ、派遣業界の常識は国家の常識とはことごとく反撥するまでになっていたわけである。こういう手合いには、戦中ほどではないにしろ、手厳しいという伝統がある。

さて、GWGを対岸の火事とみて、派遣業界は適正化していくのであろうか。既に、業界内部からはGWGに否定的なコメントが上がっている。GWGに続けとばかりに開設した経営者は‥‥。
07年12月23日 | Category: General
Posted by: roumushi
07年12月20日

改正パート労働法

20年4月施行ですが、従来はあくまでも「パート」という固定的な概念での改善措置でありましたが(同時に、実効性がほとんど無かった)、今改正はそのような固定的なイメージの「パート」という存在から出発していません。

改正目的は、店長クラスなど正社員同等の責任ポストを受け持つパートが増えてきましたが、その処遇は「パート扱い」にすぎないため、法的整備をする必要が生じたとされています。労務管理でできるのですが、残念ながら軽快機敏な経営者が少ないものと思われます。したがって、改正パート労働法を遵守すれば、社会保険労務士費用が少なくて済むというもんで‥‥(笑)。

1、「パート」の定義は「通常労働者に比して短い労働時間の者」ですが、従来は「通常労働者」を正社員としていたのに対し、今回からは社会通念上「通常」とされる労働者とされました。事業所単位で(※会社単位でない)、業務の種類ごとに、個別判定していきます。

2、労働条件の明示
労働基準法の規定に加え、「昇給の有無」「退職手当の有無」「賞与の有無」の3点につき、文書交付。罰則10万、労働基準法の規定もならプラス30万。
納得して働いてもらうと経営も円滑に。

3、待遇の決定についての説明義務
これは求められた場合ですが、「説明義務」はますます経営者に必修の課題ですので、日頃から訓練を。

4、賃金の決定方法「第9条」
これは努力義務なのですが、従来の意味の努力規定と同じとして、放置すると厄介です。施行後民事損害賠償請求事件に大きな影響力をもつことになると考えられるからです。
通常労働者と比べて、
・職務内容
・人事制度の適用(異動等)
・契約期間(期間の定めなし、またはそのようにみなされる)
など分析した結果、通常労働者と同等であれば、通常労働者と同一の賃金決定方法によるよう努力すること。つまり、評価基準表など同じものを使うということ。


(まとめ)
「同一価値労働同一賃金」の流れを促進するものです。また身分格差是正を促進するものです。案外、経営者は乗り気、「正社員」は不安という状態かもしれません。
07年12月20日 | Category: General
Posted by: roumushi
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