14年11月07日

持ち帰り残業

持ち帰り残業月82時間… 自殺の英会話講師に労災認定

≪大手英会話学校の講師だった女性(当時22)が2011年に自殺したのは、長時間の「持ち帰り残業」が要因だったとして、金沢労働基準監督署が今年5月に労災認定をしたことがわかった。女性は一人暮らしのため自宅の作業量の裏付けが困難だったが、労基署は女性が作った大量の教材などから作業時間を推定する異例の措置をとった。≫

≪労基署の資料や代理人弁護士によると、労基署は、女性が入社後約2カ月間で主に自宅で作成した文字カード1210枚、絵入りカード1175枚の教材に着目。丁寧にイラストなどがあしらわれ、担当者が作ってみたところ、1枚につき29秒~9分26秒かかったという。これをもとに1カ月の持ち帰り残業時間を82時間と推定し、学校での残業を含めると111時間を超えたため、女性が長時間労働でうつ病を発症したとして労災を認定したという。≫

「持ち帰り残業」というのはもともと労働時間の認定において否定的である。それに応ずる義務はなく、拒否できるものというのが基本的な解釈である。

労働時間と賃金のリンクを外すと言った者もいたが、時給制労働者を対象とした発言でなく、賃金規定で給与が決定される正社員を対象とした発言でおかしいと指摘したことは別として、労働時間を基準とすることについては諸説の反応がある。
なかでも、労働時間でなく、労働量で賃金は決定されるべきという意見もある。これも同様に、政府で決定できるものでもなく、またすべきものでもないだろう。なかなか法制度上扱うのが困難な内容の議題である。しかしそれが諦められずに蒸し返されるのは、実労働時間の管理責任を免れたいのと深夜も法定休日も割増賃金が発生するのを法律上なくしたいということにしか取れない。
そういう背景があったので、労働量から労働時間を割り出して、長時間労働による精神疾患を発症したがための労災認定というのはかなり衝撃的であった。
さらに、これまでは裁判所の見解を待ってから、それから行政が認定に動くという精神事案における順序逆転パターンが、今回はない。他の事案同様、労災決定後、他の損害賠償請求を裁判所に求めるという形になろう。長時間労働や執拗に繰り返されるハラスメントについては積極的に認めていくという方針が形になったということである。それ以外の類型についてはあまり変化はないので、早急に行政→司法→行政という遠くて重い道程の改善を切に願うばかりである。

14年11月07日 | Category: General
Posted by: roumushi
14年10月31日

マタハラ訴訟

平成24年(受)第2231号 地位確認等請求事件

判決破棄、差し戻し。

≪1 本件は,被上告人に雇用され副主任の職位にあった理学療法士である上告人が,労働基準法65条3項に基づく妊娠中の軽易な業務への転換に際して副主任を免ぜられ,育児休業の終了後も副主任に任ぜられなかったことから,被上告人に対し,上記の副主任を免じた措置は雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(以下「均等法」という。)9条3項に違反する無効なものであるなどと主張して,管理職(副主任)手当の支払及び債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償を求める事案である。≫

長文で読みにくいし、またこの訴訟の解説をするつもりではないが、地位を求めていないのに確認訴訟とはと不思議に思う。こういうやり方がよいのか不明である。
さて、この判決はあまり評判がよくないが、事情を読み実務的にすると、軽易な作業を求めて配転した。それに伴う役職を解くにあたり、会社はその人事手続きを失念し、たぶん給与計算の際に気づいたものと思われるが、遡って役職を解くことについて本人の承認を取った。ここで本人と会社との信頼関係が揺れた。従前からの経緯も当然あると推定する。
会社は本人の従前の仕事を任せる者も配置させた。しかしそれは代替のつもりではなく、本人が軽易な業務から元に復帰を願ったところ、もう既に代りは見つけているので、貴方の復帰できる場所はないということから訴訟に発展した。私なりに思い切り丸めた事情なので、この訴訟からは少し離れていることは留意されたい。

訴訟は均等関係を根拠とするものでややこしくみえているが、私の丸め方であれば、会社の権利の濫用、不法行為が一目瞭然であろう。妊娠、育児にかかわらず、穴埋めのため配置した者がいるから辞めめてくれ、辞めるしかない、会社は余剰人員を抱えるところではない、とかよくある話である。まして、少子化問題があり、誰それが言われていたが、子供か会社かの二社選択を迫る雇用状況は改善されなければならない国家的急務である。ただ一方で、会社の財政問題も無視できないともいえ、法律論だけではなかなか難しく、身を引く者が実際のところ多い。有期雇用なら転職してしまう。争う労力等はハンパではなく、その間出費のみになるからだ。

.........................................

マタハラで頼れぬ、「伝書バトのような」労働局

≪最高裁判決で注目されたマタニティー・ハラスメント(マタハラ)だが、問題解決のために全国の労働局で行われている「紛争解決援助」や「是正指導」の実績は低迷している。≫読売新聞

セクハラやパワハラもそうだが、これを裁く法律は民法である。つまり、債務不履行や不法行為、権利の濫用、公序良俗違反を根拠に置く。加害者被害者という関係でみるなら刑法である。労働行政はそういうものを扱うのではなく、労働環境の改善への取り組み、起こったときの対応体制などである。当然の話であるが、労働局は裁判所ではない。事件を裁く権能は持たされていない。
ただし、個別労使紛争として助言をしたりあっせんの組織はある。助言というのは当事者の和解促進を助けるものでそれなりの実績効果がある。伝書バトではなく、裁判所扱いでない民事事案はあくまでも当事者で解決すべきものという性質なので、逆に代理人のように頼るものではないというものである。あっせんにしても、裁判のように主張や証拠の確認を数回の期日で行うものではなく、事情は当事者が最も知るものとして、あっせん委員が当事者の和解契機を誘う性質である。
この新聞記事では解雇無効を本人が求めていたとのことなので、もともと助言もあっせんも向かないということに過ぎない。白黒の決着は法的認定権能がある裁判所だけである。「解雇の撤回を求める。しかし、どうしても解雇を撤回しないならば給与1年分の補償を求める。」など交渉の余地があるか無いかがポイントで、本人が交渉の余地を求めないで解雇無効のみについて争うのならば裁判所しかない。
なお、あっせんは訴訟において数度の主張立証を行われた後の和解勧告の場に匹敵する。したがって、少なくとも、相手方との数度の書面などの交渉で双方の主張ポイントが確認できてから行うのがよい。だからあっせんは半日で十分なのである。なかなか労働局では代理人のように接することができないので念のため。
14年10月31日 | Category: General
Posted by: roumushi
14年10月23日

労基法では?

質問「仕事中、会社の車を傷つけてしまった。修理代を会社から請求されたが、労基法上どうなのか知りたい。」


労基法がどのような法律なのかがよく理解されていない典型例である。
あっせん手続きに備え、各監督署等において相談員を配置しているので詰まる所このような質問も対応できているが、ただ、これは労基法の話ではない。
これはどうみても民民の損害賠償請求事案である。したがって、当事者間で数回交渉してもらい、妥結しないならば、あっせん申請となる。あるいは決裂だとか交渉拒否の場合は、あっせんではなくて、審判など裁判所の事案となる。なお、当事者間の事前交渉が少ないため、まだ全体的な見通しが立たない状態で、交渉の大部分も裁判所でしたいならば民事調停となろう。

労基法上どうなのか?の他に、「法律上」どうなのかという質問もある。これもなかなか困ったものである。民法そしてその解釈としての裁判例まで拡げて「法律」と受取るべきかどうか………。尤も、回答への影響は殆ど無いけれど。

しかしながら、損害賠償の事項について雇用契約書に取り決めてあるとかいうことで、給料から差し引くと言われている、となると、今まで無関係だった労基法が関連づけられてくる。

≪(賠償予定の禁止)
第十六条  使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。

この規定は「違約金の定め」と「損害賠償額の予定」を禁止している。「額」を予定してはいけないということなので、労使で交渉して決めるということになる。
ただし、ここで民事上のことについて触れるならば、どういう風にして車を傷つけたかがポイントになってくる。基本は、仕事中のリスクと利益は会社が負うものなので、労働者側に故意はまず無いとしても相当な不注意が認められるのかどうかにより、賠償額は測られていく。

(賃金の支払)
第二十四条  賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、(略)労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。≫

ここは難しい。額については互いに納得して決まったならまぁ協定通り差し引かれても労基法上問題は無いと考えることができる。そこで労働者側が拒否した場合どうか?
そうなると今度は協定の有効性について考えていく必要もでてくるだろうし、また当事者間で支払い方についてもう少し交渉できないかどうかというアドバイスも出すべきだろう。労基法上ではどうかというのはかなり難しく、無難でない選択となる。監督行政では裁判機能は当然ながら持たされていないため、協定の有効性については見るからに無効だとわかる珍物でない限り有効とするより他はないだろうからである。したがって、それより先は当初の話に戻り、民事的な解決について、当人が自分がどうしたいかの意思を固めて次のステップに移るもしくは移らないという次第となる。
14年10月23日 | Category: General
Posted by: roumushi
残業代を支払わない会社は「労働基準法をなめている」

《残業はいとわないが、それに見合った処遇を――。こうした考えの若者が増加していることを指摘した調査結果が、ネット上で議論を呼んでいる。》弁護士ドットコム 9月23日(火)
《話題となったのは、日本生産性本部・日本経済青年協議会が、2014年度の新社会人約2200人を対象に実施した「働くことの意識」調査。「残業についてどう思うか」という質問に対して「手当がもらえるからやってもよい」と答えた若者が69.4%と過去最高だった。一方、「手当にかかわらず仕事だからやる」は下降線をたどっており、今回23.7%にとどまった。調査報告書は、「残業はいとわないが、それに見合った処遇を求めている傾向がうかがえる」とまとめている。
この調査結果に対して、ネットの掲示板サイトでは、「金貰う為に働いてるのに貰えない分まで仕事する意味がわからん」といった意見がある一方で、「残業代が欲しいなら、残業代が払えるほど利益を会社に与えろ」「まだロクに仕事も覚えてないのに…」「社会なめすぎ」といった意見もあった。》

バブル崩壊後の資金ショート、退職金債務超過などで、日本の会社の経営学は挫折した。そして世界主要国にも誇った昭和の「日本的経営」を取り崩した。背に腹は変えられない
ということである。以後、無秩序にも脱線する経営者も出て、また自然状態といおうか原状態のまま今日に至っている経営もあるし、またぞろ海外のモデルに頼ろうとする経営もある。
労働者の方はこの変化によって上手く「巻き添え」を逃れた中高齢者もいたが、多くはまだ労働の中心あるいは末端にいる者たちであり、この者らの多くは生活が立ち行かなくなる状態に陥っており、今日に至っている。
「日本的経営」のメインは日本的労務管理にある。法の介入も困難なほど強固な組織力がメインであった。戦争末期の挙国、報国、全体主義体制の流れが、戦後の社会動乱を経て辿って落ち着いたところに合流した。危機の中にあってその限界状況において確立されたもの、確かにそれはゆるぎない日本的性質のエッセンスが認められる。むろん、文学作品に記されているように、ある面理屈が通らず苛酷でもあった。地上げの心配がまとわりついたバブル現象もそうである。しかし、国家経済的には、成功した。そして、国家経済的に失敗すると、自律して考えることに慣れていない国民は路頭に迷った。

日本的労務管理論が急速にしぼみ、経営はそれを否定する方針を進めた。ただ生き残るためだけの理由なので、経営論は皆目ない。裁判ではたいてい会社の権利濫用や解雇無効という結果である。したがって、「労働者の味方」というよりも、会社の行為の理不尽さのみで判断が済んでいるのが殆どというものである。労働者は労務方針の根本的変化あるいは崩壊に遭い、労働が従来のように精神的にも収入的にも報われることがないことを知る以上、公的なものを軸として自律しようとする。世界に誇る強固な組織力は既に会社自らによって崩壊させている。

そのような平成の職場状況にあって、まだ従前の「日本的経営」のまま思考している者も目立つ。むろん、それは日本的組織のエッセンスではあるが、今はその時ではない。
また、<「会社は適正な業務量を設定したり、業務指示によって『残業をさせない』ことができます。>と波多野弁護士の言う通りであるが、「日本的経営」では殆ど意識する必要がなかったため、経営の指揮管理能力が今ほとんど水準に達していないのではないかという感触もある。セクハラ、パワハラの多くは上司など近い職制の者からのものであるが、トップが把握すらしていないというものも多く、解決能力も低いものが多い。
自律した働き方はまだ組織内ではなかなか難しいが、自律した経営はそれよりもずっと遅れている。そこにはまだまだ「日本的経営」が邪魔な障害物として漂っている。
14年09月23日 | Category: General
Posted by: roumushi
特定社会保険労務士資格ができて数年経つが、まだ定着までには至っていない。むろん、もともと簡単な業務ではないこともあるにせよ、である。

初期の資格はあっせん代理人であったが、それもすぐに紛争解決代理人に引き上げられた。「あっせん代理人」はその名の通りで、顧問先なり関与先で生じた個別労使紛争を事業主の代理人として行動する(労務管理業務の延長)というものを想定されていたが、「紛争解決代理人」では個別労使関係に関する民事紛争の代理人という性格になった。この流れの詳細は今、調べていないが、この性格の違いは大きなものがある。

特定社会保険労務士において民事紛争解決についてのノウハウが醸成されていないことに尽きる。労働相談もできるし、判例もよく知っている。ただし、それは「あっせん代理人」の状態で止まっているに過ぎない。「民事紛争解決代理人」において必要なノウハウは解決手段、方法に尽きる。

訴訟上の和解、は数回審尋を開き労使の主張を経て、全体が見えたときに勧告がなされる。4回期日を開いたとすれば、5回目に勧告である。
その5回目だけを取り出したのが、あっせん制度と考えればよい。したがって、少なくとも4回とは言わずとも数回の主張の往復をあっせん期日前に済ませ、当日は全体を見据えての和解勧告相当期日と考えることができる。
あっせん制度では「紛争状態が生じていること」(労使の主張の食い違いが生じていること)を前提として申請受付するが、それは制度運営上の最低限のことであるに過ぎない。あっせん申請の受付ができることと、解決できることとは違うのである。
結果、あっせん制度は参加されない例が多く、一方参加されれば解決率は高い。(しかし、解決額は司法とかけ離れていると一般的に言われている。このことについては産業競争力会議などで分析中である。)普通の労働者が紛争解決しようと行動する契機になったことは評価でき、使用者の労働関係観も若干変化した―権利の濫用の表面化が加速。ただ、もうそろそろ簡易、迅速の謳い文句は変えるべきだろう。なお、昭和の内向型の組織からの脱皮を目前としながらも、新たな労務管理論は構築されていないことが不安の種としてある。

いずれにせよ、あっせん期日では訴訟上の和解勧告日相当の期日と設定しておく必要がある。基本「一回」の期日であり、なぜ1回で終了できるのかがポイントである。
紛争事情、本人の主張と要求事項、相手方の主張とそれへの対応、争点整理その他証明物保全など、これらを本人でできるならばその補佐人として、できなければ代理人として進める。
ここまで進めばたいていはあっせんで和解すると考えるが、和解するしないは当事者の自由である。また、相手方が特定社会保険労務士または弁護士をつけた場合、当事者間での和解が行われることもある。その場合は、代理人業務ではなく労務管理業務となる。(紛争解決業務については、既存の社労士業務と弁護士法との関係により、やや複雑である。依頼者には直接関係ないことではあるが。)
14年09月21日 | Category: General
Posted by: roumushi
ページ移動 前へ 1,2, ... ,5,6,7, ... ,36,37 次へ Page 6 of 37