事案は、「Xは、デモに参加し凶器準備集合罪等の嫌疑で現行犯逮捕・勾留され、その間会社を欠勤した。その後、出勤して勝手に従前の職場に割り込んで作業を行い、事情聴取のため労務課への出頭命令も無視し続けたので、Y会社は自宅待機を命じた。しかし、Xは連日入構しようとして、警士とトラブルを繰り返したので、YはXを20日間の第一次出勤停止処分に処した。Xは、その後も入構しようとして警士ともみ合い、週2,3回会社前で抗議のビラの配布を続けたので、YはXを20日間の第二次出勤停止処分に処した。Yは第二次処分満了日に、Xの働く適当な職場がないとして、無期限の自宅待機命令を行ったが、Xは、工場ゲリラと称する17名の者らとともに工場内に入り、ベルトコンベアを停止させたり、警士に打撲傷を与えたりしたので、YはXを懲戒解雇したというもの」である。

 これは、ダイハツ工業事件であるが、1審及び2審は、懲戒権の濫用に当たり無効としたが、最高裁(最判S58,9,16)は、原判決を破棄し、自判した。

1 「使用者の懲戒権の行使は当該具体的状況の下において、それが客観的に合理的理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合に初めて権利の濫用として無効になる」と解するのが相当である。

2 原審が、「第二次出勤停止処分の対象行為は、第一次出勤停止処分の対象行為とその目的、態様等において著しく異なることはなく、その続きに過ぎないから、第二次処分は不当に苛酷な処分であって無効である」としたのに対し、最高裁は、「・・・・・目的、態様等において著しく異なるところはないにしても、より一層激しく悪質なものとなり、警士が負傷するに至っていることと、一次処分を受けたのに何らその態度を改めようとせず、執拗に反発し、ビラ配布という挙に出たこととを併せ考えると、本件第二次出勤停止処分は、必ずしも合理的理由を欠くものではなく、社会通念上相当として是認できないものではないといわなければならず、これを目して権利の濫用であるとすることはできない。」とした。

3 また、Xは、自己の主張を貫徹するため執拗かつ過激な実力行使に終始し、警士の負傷、ベルトコンベアの停止等による職場の混乱を再三にわたり招いているのであって、その責任は重大であるとした上で、「Xとしては、自己の立場を訴え、その主張をするにしても、その具体的な手段については企業組織の一員としておのずから守るべき限度があるにもかかわらず、本件懲戒解雇の対象となったXの行為は、その性質、態様に照らして明らかにこの限度を逸脱するものであり、その動機も身勝手なものであって同情の余地は少なく、その結果も決して軽視できないものである。」 そして、「Yが、Xをなお企業内にとどめ置くことは企業秩序を維持し、適切な労務管理を徹底する見地からしてもはや許されないことであり、事ここに至ってはXを企業外に排除するほかないと判断したとしても、やむをえないことというべきであり、これを苛酷な措置であるとして非難することはできない。」

4 以上のようなXの行為の性質、態様、結果及び情状並びにこれに対するYの対応等に照らせば、「YがXに対し本件懲戒解雇に及んだことは、客観的にみても合理的理由に基づくものというべきであり、本件懲戒解雇は社会通念上相当として是認することができ、懲戒権を濫用したものと判断することはできない。」

 結局、懲戒権の行使は、対象行為の性質、態様、結果等と会社の対応等からして、(1)客観的に合理的理由があり、(2)社会通念上相当として是認することができる、のであれば権利の濫用とはならないということです。

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