事案は、「山陽電気軌道株式会社では、私鉄総連傘下の私鉄中国地方労働組合山陽電軌支部(以下「支部組合」という)と、会社に極めて協力的な山陽電軌労働組合(以下「山労」という)とがあったが、昭和36年の春闘にあたり、支部組合は賃上げ等を要求して団体交渉を会社側と行ったが、決裂に到った。かくして、支部組合は、無期限全面ストに突入することを決め、その実効を期すため、車両を会社車庫に格納してピケをはった。一方、山労組合員の就労を前提に争議中も運行業務を継続しようと企図した会社は、山労執行部とも十分協議の上、その組合員を中心に「移動隊」を編成するなど事前に周到な準備を行い、所定の各地に車両を分散して保全看守する対抗措置をとった。そこで、支部組合員らは、(1)会社が分散目的で取引先の整備工場や系列下の自動車学校に預託していたバスを搬出・確保するため、多数の威力を示して、看守者の意思に反して当該建造物内に立入ったこと(建造物侵入)、(2)会社の指示により山労組合員が分散地へ回送中のバス等を、多数人の暴力を伴う威力を用いて奪取し、支部組合側の支配下においたこと(威力業務妨害)、(3)支部組合員らと山労組合員らとが衝突した際に、殴打、蹴りつける等の暴力の行使に及んだこと(暴行・傷害)、(4)衝突の規制にあたった警察官に暴行を加え、その逮捕行為を妨害したこと(公務執行妨害)について、起訴されたもの」である。

 この事件に関して、最高裁(最決S53、11,15)は次のように判示した。

1 「使用者は、労働者側がストライキを行っている期間中であっても、操業を継続することができる」ことは、当裁判所の判例の趣旨とするところである・・・・・・・・・。使用者は、労働者側の正当な争議行為によって業務の正常な運営が阻害されることは受忍しなければならないが、「ストライキ中であっても業務の遂行自体を停止しなければならないものではなく、操業阻止を目的とする労働者側の争議手段に対しては操業を継続するために必要とする対抗措置をとることができる」と解すべきであり、このように解しても所論の指摘するいわゆる労使対等の原則に違背するものではない。

2 したがって、「使用者が操業を継続するために必要とする業務は、それが労働者側の争議手段に対する対抗措置として行われたものであるからといって、威力業務妨害罪によって保護されるべき業務としての性格を失うものではない」というべきである。

 争議行為の限界を示したものであるが、争議権の本質と絡んで難しい問題である。このような事案について、常に威力業務妨害罪が成立するとするならば、憲法が争議権を保障した意義を没却することにもなりかねないであろう。

 メールによるご相談は、m-sgo@gaia.eonet.ne.jpまでお気軽にどうぞ(無料)。