カタクリの花は、私の郷里では春分の日前後に満開となります。

秋、雑木林の木々は、木の葉を全部落とします。
雑木林は、冬は木々の根元の隅々まで太陽の光が届きます。
真夏の雑木林は、昼間でも暗く、空気はひんやりとして心地よいものです。
でも、都会の方を、暗い雑木林にお連れすると怖いといいます。
都会のけん騒に慣れた方は、森閑とし、冷気を帯びた薄暗い空間を、恐怖として
とらえます。
真夏の雑木林の根元には、太陽の光は届きません。
天空を木々の葉が幾重にも重なり、
何の華やぎも感じられない薄暗い空間がどこまでも続くのみです。

春の雑木林は、想像もつかないくらい華やかです。
秋散った枯葉の厚い絨毯のしたから、木々の根元まで届く太陽の光に誘われて
カタクリの青い芽が太陽に向かって延びてきます。青い芽の間から紫色のかれんな
複数の花弁が出てきます。そしてその花弁は命の限りと、その花弁を反りかえらせ
るのです。
その花弁の中心からアケビの花と同じ色の漆黒の紫のめしべが下がります。
これがカタクリの花です。カタクリの花は、雑木林の根元まで届く春の日に守られて
林一面を紫の広場に換えてしまします。
カタクリの花は開花して、1週間くらいで枯れてしまい、その後には青く成長した
カタクリの葉だけがのこります。カタクリの葉はおしたしにして食することが出来
ると聞きましたが、まだ食したことはありません。
また、カタクリの葉は、よく目をこらしてみると、濃い緑と薄い緑のまだら
模様が描かれております。
カタクリの花の後には、白い花の二輪草が咲きます。二輪草はその名の通り双又に
分かれた二つの柄に一個づつ白いかれんな花を咲かせます。
二輪草は、カタクリのようには群生しません。
ところどころに小さな群落を形づくつて咲きます。
二輪草が咲きだすと、スミレも咲きだします。
スミレが咲きだすと、山吹の花の芽が膨らみ始めます。そして桜が咲き、
ヤシオツツジが咲き雑木林は新芽の薄く柔らかな葉のスクリーンを通過した
太陽の光に包まれます。
太陽の勢力が増し、山ツツジ、さつきが真赤に咲き乱れ、散り
山ツツジと、さつきの木の枝が葉に覆い尽くされ、その葉の緑が深くなるころ
には雑木林の天空の木漏れ日がすこしずつ小さくなり、
夏の気配を予感する時期には
カタクリの葉は消えてなくなり、その痕跡を残しません。
不思議な植物です。幾年にもわたつて堆積された枯葉と同化してしまい,
来年春まで雑木林の地面の上においてその存在主張しません。
カタクリは、雑木林の地下の20センチにおいて、球根の状態で次の春を待ちます。


続きは・・・・後日