07年08月03日
無許可のビラ配布を理由とする懲戒処分と不当労働行為
事案は、「学校法人Yの就業規則14条12号は、職員の遵守事項として”書面による許可なく、当校内で業務外の掲示をし、若しくは図書又は印刷物等の頒布あるいは貼付をしないこと”と定めている。Yの丸亀校の教職員で組織する組合であるZは、当初Yの許可を得てから職場ニュースを放課後に職員室内で配布していたが、記事内容に疑問があるとしてYから発行不許可になったのを機に校門外で職場ニュースを配布するようになった。Zは団体交渉で、Yの許可なく校内で就業時間外に職場ニュースを配布することを認めてもらいたい旨要求したが、Yは拒否した。そこで、Zは、昭和53年5月8日、9日、16日にYの許可を得ることなく職員室で職場ニュースを配布した。Yは、同年5月9日にZの委員長に対して就業規則14条12号に違反するとして、”戒告”の処分をなし、また、同年5月16日に”戒告”の処分を行った。Zは、同年5月19日の団体交渉で右各処分の撤回を要求したが、Yは「校内での組合活動は一切拒否する」等述べて拒否した。Zは、右各処分は労働組合活動を理由とする不利益取扱、Zに対する支配介入であると主張し、X(香川地労委)に救済を申し立てた。Xは、Zの申立をほぼ認め、右懲戒処分の撤回を命じた。Yはこれを不服として取消訴訟を提起したもの」である。
これは、倉田学園事件であるが、最高裁(最判H6,12,20)は次のように判示した。
1 本件ビラ配布は、許可を得ないでYの学校内で行われたものであるから、形式的には就業規則第14条12号所定の禁止事項に該当する。しかしながら、右規定はYの学校内の職場規律の維持及び生徒に対する教育的配慮を目的としたものと解されるから、ビラの配布が形式的にはこれに違反するようにみえる場合でも、ビラの内容、ビラ配布の態様等に照らして、その配布が学校内の職場規律を乱すおそれがなく、また、生徒に対する教育的配慮に欠けることとなるおそれのない特別の事情が認められるときは、実質的には右規定の違反になるとはいえず、したがって、これを理由として就業規則所定の懲戒処分をすることは許されないというべきである。
2 本件ビラ配布について検討すると、本件ビラの内容は、香川県下の私立学校における労使間の賃金交渉の妥結額、Yとの間で予定されていた団体交渉の議題、団体交渉の結果など「Zの労働組合としての日ごろの活動状況及びこれに関連する事項であって、違法不当な行為をあおり又はそそのかす等の内容を含むものではない」。また、「本件ビラ配布は丸亀校の職員室内において行われたものではあるが、いずれも、就業時間前に、ビラを二つ折りにして教員の机の上に置くという方法でされたものであって、本件ビラ配布によって業務に支障を来したことを窺わせる事情はない」。
3 生徒に対する教育的配慮という観点からすれば、ビラの内容が労働組合としての通常の情報宣伝活動の範囲内のものであっても、学校内部における使用者と教職員との対立にかかわる事柄をみだりに生徒の目に触れさせるべきではないということもできるが、本件ビラ配布は、始業時刻より15分以上も前の、通常生徒が職員室に入室する頻度の少ない時間帯に行われたものであって、前記の教育的配慮という一般的見地を余りに強調するのは、本件事案の実情にそぐわない。
4 したがって、本件ビラ配布については、学校内の職場規律を乱すおそれがなく、また、生徒に対する教育的配慮に欠けることとなるおそれのない特別の事情が認められるものということができ、本件各懲戒処分は、懲戒事由を定める就業規則上の根拠を欠く違法な処分というべきである。そして、校内での組合活動を一切否定する等のY側の前示組合嫌悪の姿勢、本件各懲戒処分の経緯等に徴すれば、本件各懲戒処分はYの不当労働行為意思に基づくものというほかなく、本件各懲戒処分は、労働組合法7条1号及び3号の不当労働行為を構成するものというに帰する。
本判決は、「特別の事情」を具体的に検討して、就業規則違反に当たらないとしたものである。
メールによるご相談は、m-sgo@gaia.eonet.ne.jpまでお気軽にどうぞ(無料)。
また、当事務所は年金記録問題無料相談所でもありますから、年金のテーマの所をご覧下さい。
これは、倉田学園事件であるが、最高裁(最判H6,12,20)は次のように判示した。
1 本件ビラ配布は、許可を得ないでYの学校内で行われたものであるから、形式的には就業規則第14条12号所定の禁止事項に該当する。しかしながら、右規定はYの学校内の職場規律の維持及び生徒に対する教育的配慮を目的としたものと解されるから、ビラの配布が形式的にはこれに違反するようにみえる場合でも、ビラの内容、ビラ配布の態様等に照らして、その配布が学校内の職場規律を乱すおそれがなく、また、生徒に対する教育的配慮に欠けることとなるおそれのない特別の事情が認められるときは、実質的には右規定の違反になるとはいえず、したがって、これを理由として就業規則所定の懲戒処分をすることは許されないというべきである。
2 本件ビラ配布について検討すると、本件ビラの内容は、香川県下の私立学校における労使間の賃金交渉の妥結額、Yとの間で予定されていた団体交渉の議題、団体交渉の結果など「Zの労働組合としての日ごろの活動状況及びこれに関連する事項であって、違法不当な行為をあおり又はそそのかす等の内容を含むものではない」。また、「本件ビラ配布は丸亀校の職員室内において行われたものではあるが、いずれも、就業時間前に、ビラを二つ折りにして教員の机の上に置くという方法でされたものであって、本件ビラ配布によって業務に支障を来したことを窺わせる事情はない」。
3 生徒に対する教育的配慮という観点からすれば、ビラの内容が労働組合としての通常の情報宣伝活動の範囲内のものであっても、学校内部における使用者と教職員との対立にかかわる事柄をみだりに生徒の目に触れさせるべきではないということもできるが、本件ビラ配布は、始業時刻より15分以上も前の、通常生徒が職員室に入室する頻度の少ない時間帯に行われたものであって、前記の教育的配慮という一般的見地を余りに強調するのは、本件事案の実情にそぐわない。
4 したがって、本件ビラ配布については、学校内の職場規律を乱すおそれがなく、また、生徒に対する教育的配慮に欠けることとなるおそれのない特別の事情が認められるものということができ、本件各懲戒処分は、懲戒事由を定める就業規則上の根拠を欠く違法な処分というべきである。そして、校内での組合活動を一切否定する等のY側の前示組合嫌悪の姿勢、本件各懲戒処分の経緯等に徴すれば、本件各懲戒処分はYの不当労働行為意思に基づくものというほかなく、本件各懲戒処分は、労働組合法7条1号及び3号の不当労働行為を構成するものというに帰する。
本判決は、「特別の事情」を具体的に検討して、就業規則違反に当たらないとしたものである。
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07年08月01日
スカウト行為と職安法にいう「職業紹介」
事案は、「Xは、経営幹部や特殊技術者等の人材をスカウトして紹介・就職させる、いわゆるヘッドハンティング業者であり、また職業安定法32条に基づく労働大臣の許可を得た有料職業紹介事業者であった。Xは、診療所の経営者であったYとの間で昭和62年7月、右診療所に勤務する医師を紹介し就職させる契約を締結した。 Xは訴外Z医師をYに紹介し、平成元年4月、YはZを年俸1000万円の条件で採用した。YはXに対し、平成元年3月30日、右紹介等に対して調査活動費50万円、報酬200万円の他、Zの年俸1000万円の15%相当額150万円の合計を平成元年6月末日までに支払う旨約した。Xは、右合意に基づきYに対し約定の報酬金の支払いを求めたもの」である。 なお、労働大臣の許可を得て行う有料職業紹介においては、受けることができる紹介手数料は、職安法32条6項、同法施行規則24条14項によってその上限が定められており、その制限によれば、本件においてはZの6か月分の賃金の100分の10,1相当である50万5000円を超える手数料を受けてはならないとされている。したがって、Xの主張が認められるかどうかは、スカウト行為が職安法にいう「職業紹介」に当たるかどうかに係っている。
これは、東京エグゼクティブ・サーチ事件であるが、最高裁(最判H6,4,22)は次のように判示した。
1 職業安定法にいう職業紹介におけるあっ旋とは、求人者と求職者との間における雇用関係成立のための便宜を図り、その成立を容易にさせる行為一般を指称するものと解すべきであり、右のあっ旋には、求人者と求職者との間に雇用関係を成立させるために両者を引き合わせる行為のみならず、求人者に紹介するために求職者を探索し、求人者に就職するよう求職者に勧奨するいわゆるスカウト行為も含まれるものと解するのが相当である。けだし、同法は、労働力充足のためにその需要と供給の調整を図ることと並んで、各人の能力に応じて妥当な条件の下に適当な職業に就く機会を与え、職業の安定を図ることを目的として制定されたものであって、同法32条は、この目的を達成するため、弊害の多かった有料の職業紹介事業を行うことを原則として禁じ、公の機関によって無料で公正に職業を紹介することとし、公の機関において適切に職業を紹介することが困難な特別の技術を必要とする職業に従事する者の職業をあっ旋することを目的とする場合については、労働大臣の許可を得て有料の職業紹介事業を行うことができるものとしたものであるところ、スカウト行為が右のあっ旋に当たらず、同法32条等の規制に服しないものと解するときは、以上に述べた同法の趣旨を没却することになるからである。この理は、スカウト行為が医師を対象とする場合であっても同様である。
2 職業安定法32条6項は、有料職業紹介の手数料契約のうち労働大臣が中央職業安定審議会に諮問の上定める手数料の最高額を超える部分の私法上の効力を否定し、右契約の効力を所定最高額の範囲内においてのみ認めるものと解するのが相当である。けだし、・・・・・・立法趣旨にかんがみ、同条項は、右手数料契約のうち所定最高額を超える部分の私法上の効力を否定することによって求人者及び求職者の利益を保護する趣旨をも含むものと解すべきであるからである。
契約自由の原則の中で、判決が、立法趣旨から所定最高額を超える部分の私法上の効力を否定したのは、妥当である。
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これは、東京エグゼクティブ・サーチ事件であるが、最高裁(最判H6,4,22)は次のように判示した。
1 職業安定法にいう職業紹介におけるあっ旋とは、求人者と求職者との間における雇用関係成立のための便宜を図り、その成立を容易にさせる行為一般を指称するものと解すべきであり、右のあっ旋には、求人者と求職者との間に雇用関係を成立させるために両者を引き合わせる行為のみならず、求人者に紹介するために求職者を探索し、求人者に就職するよう求職者に勧奨するいわゆるスカウト行為も含まれるものと解するのが相当である。けだし、同法は、労働力充足のためにその需要と供給の調整を図ることと並んで、各人の能力に応じて妥当な条件の下に適当な職業に就く機会を与え、職業の安定を図ることを目的として制定されたものであって、同法32条は、この目的を達成するため、弊害の多かった有料の職業紹介事業を行うことを原則として禁じ、公の機関によって無料で公正に職業を紹介することとし、公の機関において適切に職業を紹介することが困難な特別の技術を必要とする職業に従事する者の職業をあっ旋することを目的とする場合については、労働大臣の許可を得て有料の職業紹介事業を行うことができるものとしたものであるところ、スカウト行為が右のあっ旋に当たらず、同法32条等の規制に服しないものと解するときは、以上に述べた同法の趣旨を没却することになるからである。この理は、スカウト行為が医師を対象とする場合であっても同様である。
2 職業安定法32条6項は、有料職業紹介の手数料契約のうち労働大臣が中央職業安定審議会に諮問の上定める手数料の最高額を超える部分の私法上の効力を否定し、右契約の効力を所定最高額の範囲内においてのみ認めるものと解するのが相当である。けだし、・・・・・・立法趣旨にかんがみ、同条項は、右手数料契約のうち所定最高額を超える部分の私法上の効力を否定することによって求人者及び求職者の利益を保護する趣旨をも含むものと解すべきであるからである。
契約自由の原則の中で、判決が、立法趣旨から所定最高額を超える部分の私法上の効力を否定したのは、妥当である。
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07年07月31日
歩合給と時間外・深夜割増手当
事案は、「Xら4名は、タクシー業を営むY会社の乗務員として昭和62年2月28日まで勤務していたが、Xらの勤務体制は、労働時間を午前8時から翌日午前2時まで(そのうち2時間は休憩時間)とする隔日16時間勤務制であった。賃金は一律歩合制で、1ヶ月間の稼動によるタクシー料金の月間水揚高に一定の歩合を乗じた金額とされていた。しかし、Xらが労基法37条の時間外及び深夜労働を行った場合にはこれ以外の賃金は支給されておらず、右歩合給のうちで通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分とを判別することもできなかった。 Xらは、昭和60年6月1日から62年2月28日までの期間について時間外及び深夜の割増賃金が支払われていないとして、この期間のうち昭和61年12月から同62年2月までの3ヶ月間の勤務実績に基づき午前2時以降の時間外労働及び午後10時から翌日午前5時までの深夜労働に対する割増賃金等の支払を求めたもの」である。なお、Yは、右歩合給には時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分も含まれているから、右請求にかかる割増賃金は既に支払済みであると主張した。
これは、高知県観光事件であるが、最高裁(最判H6,6,13)は次のように判示した。
1 原審における当事者双方の主張からすれば、Xらの午前2時以後の就労についても、それがXらとYとの間の労働契約に基づく労務の提供として行われたものであること自体は、当事者間で争いのない事実となっていることが明らかである。したがって、この時間帯におけるXらの就労を、法的根拠を欠くもの、すなわち右の労働契約に基づくものではないとした原審の認定判断は、弁論主義に反するものであり、この違法は、判決に影響を及ぼすことが明らかなものというべきである。そうすると、原判決は、その余の論旨について判断するまでもなく、破棄を免れない。
2 本件請求期間にXらに支給された前記の歩合給の額が、Xらが時間外及び深夜の労働を行った場合においても増額されるものではなく、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分とを判別することもできないものであったことからして、この歩合給の支給によって、Xらに対して法37条の規定する時間外及び深夜の割増賃金が支払われたとすることは困難なものというべきであり、Yは、Xらに対し、本件請求期間におけるXらの時間外及び深夜の労働について、法37条及び労基法施行規則19条1項6号の規定に従って計算した額の割増賃金を支払う義務がある。
割増賃金を予め歩合給に組み込んで支給する場合には、歩合給の中で通常の賃金部分と割増賃金部分とが判別可能であることが要請されるでしょう。
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これは、高知県観光事件であるが、最高裁(最判H6,6,13)は次のように判示した。
1 原審における当事者双方の主張からすれば、Xらの午前2時以後の就労についても、それがXらとYとの間の労働契約に基づく労務の提供として行われたものであること自体は、当事者間で争いのない事実となっていることが明らかである。したがって、この時間帯におけるXらの就労を、法的根拠を欠くもの、すなわち右の労働契約に基づくものではないとした原審の認定判断は、弁論主義に反するものであり、この違法は、判決に影響を及ぼすことが明らかなものというべきである。そうすると、原判決は、その余の論旨について判断するまでもなく、破棄を免れない。
2 本件請求期間にXらに支給された前記の歩合給の額が、Xらが時間外及び深夜の労働を行った場合においても増額されるものではなく、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分とを判別することもできないものであったことからして、この歩合給の支給によって、Xらに対して法37条の規定する時間外及び深夜の割増賃金が支払われたとすることは困難なものというべきであり、Yは、Xらに対し、本件請求期間におけるXらの時間外及び深夜の労働について、法37条及び労基法施行規則19条1項6号の規定に従って計算した額の割増賃金を支払う義務がある。
割増賃金を予め歩合給に組み込んで支給する場合には、歩合給の中で通常の賃金部分と割増賃金部分とが判別可能であることが要請されるでしょう。
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07年07月26日
火山灰の除去作業を命ずる業務命令の違法性
事案は、「Xは昭和60年当時、旧国鉄九州総局鹿児島自動車営業所の運輸管理係であり、Y1は同営業所長、Y2は同営業所主席助役であった。当時国鉄は職場規律の乱れを内外から指摘され、その是正を課題としており、Y1は鹿児島営業所の上級機関である九州地方自動車部の指示により、勤務時間中のワッペン・腕章や国鉄労働組合の組合員バッジの着用を禁止していた。また、Y1は自動車部から、取り外し命令に従わない職員に対しては本来の業務から外すことも指示されていた。なお、Xは、管理者に準ずる地位である補助運行管理者に指定される一方、国労の組合員でもあった。 昭和60年7月23日、Xが本件バッジを着用したまま補助運行管理者として点呼執行業務に従事しようとしたため、Y1はバッジの取外しを命じたが、Xはこれに従わなかった。そこでY1はXを点呼執行業務から外して、鹿児島自動車営業所構内に降り積もった桜島の噴火による火山灰を除去する作業に従事すべき旨の業務命令を発し、その後も8月にかけて計10回にわたり同様の経緯から右業務命令を発した。降灰除去作業に際しては、Yら管理職がXの作業状況を監視し、また他の職員がXに清涼飲料水を渡そうとしたところ、Y1がこれを制止する等のことがあった。 そこで、Xが、本件業務命令は不法行為にあたるとしてY1・Y2に対し各自50万円の損害賠償を請求したもの」である。
これは、旧国鉄鹿児島自動車営業所事件であるが、最高裁(最判H5,6,11)は次のように判示した。
前記の事実関係によると、降灰除去作業は、鹿児島営業所の職場環境を整備して、労務の円滑化、効率化を図るために必要な作業であり、また、その作業内容、作業方法等からしても、社会通念上相当な程度を超える過酷な業務に当たるものともいえず、これがXの労働契約上の義務の範囲内に含まれるものであることは、原判決も判示するとおりである。しかも、本件各業務命令は、Xが、Y1の取外し命令を無視して、本件バッジを着用したまま点呼執行業務に就くという違反行為を行おうとしたことから、自動車部からの指示に従ってXをその本来の業務から外すこととし、職場規律維持の上で支障が少ないものと考えられる屋外作業である降灰除去作業に従事させることとしたものであり、職場管理上やむを得ない措置ということができ、これが殊更にXに対して不利益を課するという違法、不当な目的でされたものであるとは認められない。なお、Yら管理職がXによる作業の状況を監視し、勤務中の他の職員がXに清涼飲料水を渡そうとするのを制止した等の行為も、その管理職としての職責等からして、特に違法あるいは不当視すべきものとも考えられない。そうすると、本件各業務命令を違法なものとすることは、到底困難なものといわなければならない。
本判決は、降灰除去作業はXの労働契約上の義務に含まれるとし、また、業務命令も違法ではないとしたものです。
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これは、旧国鉄鹿児島自動車営業所事件であるが、最高裁(最判H5,6,11)は次のように判示した。
前記の事実関係によると、降灰除去作業は、鹿児島営業所の職場環境を整備して、労務の円滑化、効率化を図るために必要な作業であり、また、その作業内容、作業方法等からしても、社会通念上相当な程度を超える過酷な業務に当たるものともいえず、これがXの労働契約上の義務の範囲内に含まれるものであることは、原判決も判示するとおりである。しかも、本件各業務命令は、Xが、Y1の取外し命令を無視して、本件バッジを着用したまま点呼執行業務に就くという違反行為を行おうとしたことから、自動車部からの指示に従ってXをその本来の業務から外すこととし、職場規律維持の上で支障が少ないものと考えられる屋外作業である降灰除去作業に従事させることとしたものであり、職場管理上やむを得ない措置ということができ、これが殊更にXに対して不利益を課するという違法、不当な目的でされたものであるとは認められない。なお、Yら管理職がXによる作業の状況を監視し、勤務中の他の職員がXに清涼飲料水を渡そうとするのを制止した等の行為も、その管理職としての職責等からして、特に違法あるいは不当視すべきものとも考えられない。そうすると、本件各業務命令を違法なものとすることは、到底困難なものといわなければならない。
本判決は、降灰除去作業はXの労働契約上の義務に含まれるとし、また、業務命令も違法ではないとしたものです。
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07年07月24日
労災保険法施行前の業務に起因する保険給付支給の可否
事案は、「亡きAらは、労基法及び労災保険法の施行日である1947年9月1日より前に約1年間ないし9年間、ベンジジンの製造業務に従事した。亡きAらの遺族Xらは、Y労基署長に対して、亡きAらが、ベンジジン製造業務に従事したことに起因して、その発病日が前記労基法・労災保険法施行日より1年半ないし25年を経た後である膀胱がん等にかかったとして、労災保険法に基づき、昭和51年に至り、それぞれ保険給付を請求した。しかし、Yは、労災保険法による保険給付の対象となるのは、同法の施行日以降に従事した業務に起因して発生した死傷病に限られるとして、保険給付の不支給決定をした。Xらは、本件不支給決定を不服として、審査請求、再審査請求をしたが、いずれも棄却されたので、本件不支給決定の取消を求める訴訟を提起したもの」である。
これは、和歌山ベンジジン事件であるが、最高裁(最判H5、2,16)は次のように判示した。
1 労働基準法による災害補償の対象となる疾病の範囲についてみるのに、同法は、広く、業務上の疾病を災害補償の対象とするものであり(同法75条ないし77条)、同法附則129条は、その文理からして、右の業務上の疾病のうち、同法施行前に疾病の結果が生じた場合における災害補償については、なお旧法の扶助に関する規定による旨を定め、右の場合のみを労働基準法による災害補償の対象外としているものと解されることにかんがみると、「労働基準法の右各規定は、同法の施行後に疾病の結果が生じた場合における災害補償については、その疾病が同法施行前の業務に起因するものであっても、なお同法による災害補償の対象としたものと解するのが相当である。」
2 「労働者災害補償保険法もまた、同法の施行後に疾病の結果が生じた場合については、それが同法施行前の業務に起因するものであってもなお同法による保険給付の対象とする趣旨」で、同法附則57条2項において、同法施行前に発生した業務上の疾病等に対する保険給付についてのみ、旧法によるべき旨を定めたものと解するのが相当である。
労災保険法施行から既に60年近く経った今では、本件のようなケースが出てくる可能性はほとんどないと思われるが、被害者救済という観点を重視した判決であった。
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これは、和歌山ベンジジン事件であるが、最高裁(最判H5、2,16)は次のように判示した。
1 労働基準法による災害補償の対象となる疾病の範囲についてみるのに、同法は、広く、業務上の疾病を災害補償の対象とするものであり(同法75条ないし77条)、同法附則129条は、その文理からして、右の業務上の疾病のうち、同法施行前に疾病の結果が生じた場合における災害補償については、なお旧法の扶助に関する規定による旨を定め、右の場合のみを労働基準法による災害補償の対象外としているものと解されることにかんがみると、「労働基準法の右各規定は、同法の施行後に疾病の結果が生じた場合における災害補償については、その疾病が同法施行前の業務に起因するものであっても、なお同法による災害補償の対象としたものと解するのが相当である。」
2 「労働者災害補償保険法もまた、同法の施行後に疾病の結果が生じた場合については、それが同法施行前の業務に起因するものであってもなお同法による保険給付の対象とする趣旨」で、同法附則57条2項において、同法施行前に発生した業務上の疾病等に対する保険給付についてのみ、旧法によるべき旨を定めたものと解するのが相当である。
労災保険法施行から既に60年近く経った今では、本件のようなケースが出てくる可能性はほとんどないと思われるが、被害者救済という観点を重視した判決であった。
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