中小企業緊急雇用安定助成金にはデメリットもあることを理解しよう(H21.6月号の記事)

 本年に入りましてから、製造業を中心に「中小企業緊急雇用安定助成金」の申請が激増しております。この助成金はいわゆる構造的不況等により、生産量や売上高が一定割合で減少し、従業員を一時帰休させる必要がある場合に、その間の休業手当を助成するもので、このメルマガでも2月号でご紹介しております。この助成金の申請ラッシュは今のところ収まる見込みはなく、むしろますます増える傾向にあります。
 もちろんこの助成金を利用することで、整理解雇を行わずに、事業継続が可能になるなら、それはそれで大いにメリットになることなのですが、ここまでの経過を見ておりますと、一部に懸念される傾向があることも分かってきました。現在ご利用中の企業も今後利用を検討されている企業も、以下のようなデメリットが生じる可能性があることを、ご理解いただければと思います。

 デメリットその1
 この助成金は、従業員を休業させてその間に休業手当を支払うものですが、基本的にその休業手当は休業1日に対し、平均賃金1日あたりの金額の60%以上を支払う必要があります。そして多くの中小企業は60%から80%程度で支給していることが多いのですが、いずれにしても従業員の給与は通常の給与額から減額されることになります。また現在は残業もほとんど行われていない現状から、その手取り額は相当程度下がるのです。つまり、会社には助成金が出ますが、従業員の給料は下がったままなのです。それが1,2ヶ月のことならまだ我慢も出来るかも知れませんが、相当期間経過した場合、モチベーションを維持できるかが心配です。人間というのは一旦獲得した収入の範囲で生活するリズムがついていますから、それがいきなり数万円減額されると、何かを切り詰めて生活する苦痛を伴います。毎日ビール1本飲めたものが、2日に1本になるように、ささになことでも生活レベルを落とすのはつらいものなのです。

 デメリットその2
 上記1と逆のケースもあります。つまり、100%補償しない限り確かに収入は減るのですが、一方で休んでいても給与補償される状態が続くことになります。世の中には額に汗して働いて、その労働対価として給料を受け取りたいという、健全な労働価値観をお持ちの方ばかりとは限りません。休んでいても給料がもらえるとなれば、またそれが慣性となる傾向が出てくるのです。休んで100%支給ならなおならです。よくあるケースですが、例えば腰痛や腱鞘炎で労災の休業請求をしていますと、いつまでも痛い痛いといって医師に証明を記載してもらい、働けるにもかかわらすいつまでも休業する従業員がいます。これと同様なことがおこり、働くモラルを下げる可能性があるということなのです。

 デメリットその3
 助成金は一種の麻薬だと思っています。これは経営者に見られる傾向なのですが、一旦助成金の甘美な味に満たされると、その後も助成金に依存しようとする経営姿勢が起こりやすいということなのです。確かに今回のように非常事態の場合は仕方ありませんし、その他の助成金でもせっかく政府が予算をつけて用意してくれている経済雇用対策を、正当に利用することを全否定しません。もともとこれらの原資には毎年経営者が収めている雇用保険料の中に、財源として組み込まれているものなのですから。しかし助成金はあくまでも不労収入です。上記2で延べた労働者が不労収入に頼る傾向が、経営者にも現れるのです。また助成金を受給するには当然その支給要件を満たす経営が必要なのですが、ひとたび甘美な収入が目の前に現れると、普段は良い経営者のはずが、品格を落とした経営者になってしまうことがあるのです。

 デメリットその4
 この助成金の対象になる休業者は基本的に雇用保険の被保険者です。しかし実際の現場では、雇用保険加入者だけとは限りません。しかし会社を休業にする場合、当然にこれらの被保険者でない人も、休業を検討することになりますが、休業手当の支払い義務はあっても、助成金の対象にはなりません。完全に持ち出しになるということです。また中小企業の場合、一定の重要人物には仕事の関係上、休業されられないことがあり、必然的にその他の軽易な業務に従事している人などに休業が偏ることがあります。つまり普通に働いて給料を得る人と、休んで給料を得る人が混在することになり、ここに軋轢が生じる素地があるのです。

 私は一刻も早く、こんな助成金を利用しなくてよいまともな社会が戻ってくることを節に希望しています。

文責 特定社会保険労務士 西村 聡
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