1.『個別労働紛争解決マニュアル』

特定社会保険労務士制度ができてちょっと経ち、労使紛争解決の水準にバラツキが感じられるこの頃です。
弁護士のように、司法修習過程、イソ弁、弁護士会内研修と充実した養成過程が確立していないことが要因ですが、特定社会保険労務士においても強化養成する体制を組む必要があります。
まずイソ弁として就職できない弁護士の発生がいかに弁護士制度を揺るがしているかについて考えますと、当人は自由に活動することができる一方、弁護士の業務遂行水準を下げる惧れが出てくるわけです。弁護士なら当然、その人となりは別として、おおむね世間に求められる業務遂行能力が担保されているとはなかなか言えなくなるわけです。社会保険労務士はもともと同業を雇用するということが慣例ではないので、世間での信用は簡単には行っていないのはご承知の通りです。したがって、バラツキが問題なのです。弁護士のような長いロードはそれほど必要とも思われませんし、また後発の者は相当効率よくできますし、そのうえに労働問題だけの話です。特定社会保険労務士は裁判所のメニューについて早急に強化する必要があります。そういうことを言っていたら、監督署の相談員をされている方がこの本を貸してくれました。弁護士がいまさら読むようなものでもなく、特定社会保険労務士のために書いたような本といえます。絶版のようで増刷か改訂かを求めます。

2.集団的労働紛争解決
社会保険労務士会には色々自主研究会があります。社会保険労務士業務はゆりかごから墓場までですので、まずすることはないだろうとタカをくくっていた手続きをやはりすることになるものです。例えば、厚生年金や労災の遺族年金など。また、合同労組との関わり。その実質はご承知の通り、個別労使関係色の強い事案です。合同労組等も含めて労使関係を扱うのが人間労使関係自主研究会です。
社会保険労務士といえば会社顧問だから「使用者側」という認識が行渡っているかも知れませんが、なかなかそうでもありません。社会保険労務士の目的は健全な産業のためなのであって、労使セットでものを考えます。無論、紛争解決代理人となる場合はいずれかの側に立ちますし、それは争点上一致していないゾーンがあるから可能なわけです。税務と異なり、グレーゾーンは比較にならない程小さく、法律面の争いであればまず会社側は不利です。会社は法律を護るものでもない、護れない、無理な規定以外は護る…そんな状態を社会保険労務士は是正指導するのですが、ふと気づけば、メニューこそ違え、合同労組と共通点が多いわけです。無論似すぎると、敢えて顧問契約をする会社はありませんが。

3.精神障害による自殺の取扱いについて(平成11年9月14日付け 基発第545号)
《労働者災害補償保険法第12条の2の2第1項の「故意」については、昭和40
年7月31日付基発第901号「労働者災害補償保険法の一部を改正する法律の施
行について」により、結果の発生を意図した故意であると解釈してきたところであ
るが、このことに関し、精神障害を有するものが自殺した場合の取扱いについては
下記のとおりとするので、今後遺漏のないようされたい。》

故意にケガをして労災支給を受ける、あるいは遺族に生命保険金が下りるように自殺するとかなら、社会通念上合理的な規定であり、解釈である。しかし、遺族年金のためということがないなら、まして自分が死ぬという危険まで冒して(文章的におかしいが)故意に自殺するなんてことはありえないと考えるのが普通である。わざとケガして給付金を掠め取るとは全然次元が違う話である。裁判より労災認定が難しいという状態はやはりおかしい。裁判は時間と手間がかかるから行政段階で処理できるものは処理するというのが本来の姿であろう。ほとんどの事項はそうなのであるが、これは例外中の例外としてある。今日の事情において看視できる事項でなく、今回も前回に次ぐ見直しがなされたが、構成は変わっていない。理屈として替えようにも替えられないともみえるが、不幸である。