09年01月13日
現今の経済環境を踏まえた納税猶予のポイント
昨年12月、自由民主党の税制改正大綱が発表され、「自社株にかかる相続税の8割納税猶予」の概要がより詳細になりました。一般的な解説はネット等で散見されますので、注意すべきポイントに絞って解説したいと思います。
1.そもそも8割納税猶予で、猶予される納税額とは?
この制度を以て相続税全体の8割が納税猶予になると勘違いされている方もいらっしゃいますので、以下事例を使ってご説明します。現社長(被相続人)と3人の子供(相続人)がいるという場合です。この現社長の相続財産が10億円で、そのうち自社株の全部を現社長が保有しており、その価格を4.5億円であるとすると、本来納めるべき相続税は約3億2000万円となります。この事例において8割納税猶予を使った場合、3億2000万円のうち4500万円が納税猶予される計算(全体の約14%)になります。
「イメージより猶予額がずーっと少ない」と思われた方が多いのではないでしょうか。このような結果になる主な原因は、a.自社株の最大2/3までしか納税猶予の対象にならず、b.その2/3の株式の枠内で相続した相続税額しか対象にならないためです。
具体的な計算は少し難しいので、まず御社の顧問税理士に試算を依頼して、「実際にどの程度が納税猶予されるか」を把握されることが重要です。
2.小規模宅地等の特例との併用可能が明示
相続税の計算で有利になる「小規模宅地等の特例」と、納税猶予の併用が可能になるようです。これは、納税者(相続人)にとって有利な内容です。
3.贈与税の納税猶予が新設
これにより、「生前に贈与してその納税猶予を適用すれば問題解決!」と見る向きがありますが、贈与株式の全部が納税猶予の対象となるかは不明です。また、相続時に再度贈与税の納税猶予分を引き継ぐかを検討する必要があるため、これにより相続時の問題が解決するというわけではありません。
既に活用されている「農地等についての相続税、贈与税の納税猶予」も、基本的には今回の納税猶予と同様の考え方ですが、一般的に贈与税の納税猶予の方は殆ど使われていないようですので、実際に使われるケースは少ないのではないかと思われます。
4.納税猶予対象株式を、M&A等で売却した場合の取扱いについて
納税猶予の適用を受けて5年以内に自社株を売却すると、その猶予額は納税しなければなりませんが、それ以降に自社株を「一括して」売却した場合は、一定額の猶予税額が免除になります。ここでいう「免除になる一定額」とは、a.M&A等での売却価額、又はb.売却時の評価額のいずれか高い額(これをc.とします)が、納税猶予額(同d.)を下回るときの「d−c」の金額をいいます。経済環境が悪化している現状においては、免除が多く出る可能性がありますが、同時に今はM&A等が難しい状況でもあります。
5.では、納税猶予をどう使うか!
弊社は、「相続人や従業員の方々が安心納得する事業承継」を念頭に置きつつ、この新設された制度を「1つ増えた選択肢」と捉え、うまく使えるのであれば活用したいと考えています。ただ、この制度を活用する前に、今だからこそすべき対策がまだあります。具体的には、自社株の再評価等です。従業員50人超の会社の場合、現今の経済環境から、株価は一般的に前期よりガクッと下がっているのではないかと思われます。
業績の良い時と違い、本業が厳しい時期に相続のことは考えられないという方も多いと思いますが、これらの対策を着実に実行していき、最終的には納税猶予も使えるように準備しておくことが、現状における最良の使い方なのではないでしょうか。
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1.そもそも8割納税猶予で、猶予される納税額とは?
この制度を以て相続税全体の8割が納税猶予になると勘違いされている方もいらっしゃいますので、以下事例を使ってご説明します。現社長(被相続人)と3人の子供(相続人)がいるという場合です。この現社長の相続財産が10億円で、そのうち自社株の全部を現社長が保有しており、その価格を4.5億円であるとすると、本来納めるべき相続税は約3億2000万円となります。この事例において8割納税猶予を使った場合、3億2000万円のうち4500万円が納税猶予される計算(全体の約14%)になります。
「イメージより猶予額がずーっと少ない」と思われた方が多いのではないでしょうか。このような結果になる主な原因は、a.自社株の最大2/3までしか納税猶予の対象にならず、b.その2/3の株式の枠内で相続した相続税額しか対象にならないためです。
具体的な計算は少し難しいので、まず御社の顧問税理士に試算を依頼して、「実際にどの程度が納税猶予されるか」を把握されることが重要です。
2.小規模宅地等の特例との併用可能が明示
相続税の計算で有利になる「小規模宅地等の特例」と、納税猶予の併用が可能になるようです。これは、納税者(相続人)にとって有利な内容です。
3.贈与税の納税猶予が新設
これにより、「生前に贈与してその納税猶予を適用すれば問題解決!」と見る向きがありますが、贈与株式の全部が納税猶予の対象となるかは不明です。また、相続時に再度贈与税の納税猶予分を引き継ぐかを検討する必要があるため、これにより相続時の問題が解決するというわけではありません。
既に活用されている「農地等についての相続税、贈与税の納税猶予」も、基本的には今回の納税猶予と同様の考え方ですが、一般的に贈与税の納税猶予の方は殆ど使われていないようですので、実際に使われるケースは少ないのではないかと思われます。
4.納税猶予対象株式を、M&A等で売却した場合の取扱いについて
納税猶予の適用を受けて5年以内に自社株を売却すると、その猶予額は納税しなければなりませんが、それ以降に自社株を「一括して」売却した場合は、一定額の猶予税額が免除になります。ここでいう「免除になる一定額」とは、a.M&A等での売却価額、又はb.売却時の評価額のいずれか高い額(これをc.とします)が、納税猶予額(同d.)を下回るときの「d−c」の金額をいいます。経済環境が悪化している現状においては、免除が多く出る可能性がありますが、同時に今はM&A等が難しい状況でもあります。
5.では、納税猶予をどう使うか!
弊社は、「相続人や従業員の方々が安心納得する事業承継」を念頭に置きつつ、この新設された制度を「1つ増えた選択肢」と捉え、うまく使えるのであれば活用したいと考えています。ただ、この制度を活用する前に、今だからこそすべき対策がまだあります。具体的には、自社株の再評価等です。従業員50人超の会社の場合、現今の経済環境から、株価は一般的に前期よりガクッと下がっているのではないかと思われます。
業績の良い時と違い、本業が厳しい時期に相続のことは考えられないという方も多いと思いますが、これらの対策を着実に実行していき、最終的には納税猶予も使えるように準備しておくことが、現状における最良の使い方なのではないでしょうか。
文責 事業承継部
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