税制改正により、復興法人特別税の10%加算はあったものの、全体として法人の所得に対する実効税率は引き下げられた。一方、個人の所得に関しては、給与所得控除の上限設定などが行われている。また、復興法人特別税については、3年間の導入であるが、復興特別所得税については、平成25年からの適用であるが、25年間の導入である。同じく、平成25年からの適用として、特定役員の退職所得に係る退職所得控除後の2分の1控除が廃止とされた。
こうした、法人税の減税と所得税の増税という社会変化のある中で、今回は、「医療法人成り」について、メリット・デメリットを挙げていきたいと思います。

●医療法人成りのメリット
(1)経営上
①社会的信用の高まり
家計と法人の資金の流れを明確に分けることにより、金融機関・諸官庁等からの社会的信用性が高まります。
②分院の開設・他の業務運営
個人医院では認められていない分院や老人ホーム等の他の業務運営が可能になります。
③事業承継が容易
個人の場合、親子間の承継であっても廃業・開業の手続が必要です。さらには、保健所(※1)・社会保険事務所(※2)・公共職業安定所・労働基準監督所・税務署(※3)・都道府県・市町村等に所定の手続をしなければなりません。法人の場合、所有と経営が分離しているため、理事長の交代によって事業の継続が行われます。
④社会保険診療報酬の源泉徴収
社会保険診療報酬の源泉徴収がなくなるので、資金繰りが比較的、楽になります。

(2)税務上
①法人税と所得税の税制の違いによる節税
個人事業者の場合、所得に対し最高税率40%(復興特別所得税(基準所得税額に対し)2.1%、住民税10%、事業税5%、合計 約55.84%)の税率が係るのに対し、医療法人(医院含む)の場合、800万円以下は、法人税18%(H23年12月改正15%)、800万円超は、30%(H23年12月改正25.5%)(復興特別法人税(基準法人税額に対し)10%、法人県民・市民税(県民税・市民税は法人税の4%・6%(※4))(基準法人税額に対し)3%、合計 約21.6%~36%)となります。
②所得の分散・退職金
個人事業者の場合、事業主は勿論、専従者への退職金を支給することはできません。さらに、専従者控除も一定の上限があります。医療法人の場合、院長への報酬が損金になることは勿論、個人の給与所得として控除を受けることが出来ます。また、職務に応じた適当な金額であれば、親族に対する報酬も損金とすることが出来ます。
④損失の繰越控除の長期化
個人事業者の場合、損失の繰越控除が3年間しか認められていませんが、医療法人の場合ですと、9年間も認められます。

●医療法人成りのデメリット
(1)医療法人の永続性
医療法人の解散は理事長の意思だけでは出来ず、都道府県知事等の許可が必要になります。また、理由もなく経営業の理由のみで医業法人を個人事業に戻すことは事実上認められていません。
(2)剰余金の配当の禁止
医療法人は非営利性から剰余金の処分として、配当を禁止しています。
(3)残余財産
医療法人を解散したときの財産は、理事長等の個人財産ではなく、国等の財産として処理されます。(平成19年4月以降に設立許可申請する医療法人が対象)
(4)計算書類等の作成等、事務手続き
毎期末に、事業報告書・財産目録等を提出する義務があり、また、これらの請求に対しては、誰であっても閲覧することが出来ます。
(5)社会保険への強制加入
医療法人の形態上、厚生年金への加入が義務付けられますので、支出という面ではデメリットになります。但し、雇用条件は改善される為、良い人材が集まる可能性はあります。よって、収入・損益の面ではメリットになる可能性があります。
(6)交際接待費の一部損金不算入
個人事業者の場合は、接待交際費に上限がありませんが、医療法人の場合は、600万円までの部分は10%を、600万円超の部分については、全額を損金不算入とします。


注脚)
※1.保健所に提出する「開設届」は、開設後10日以内。
※2.社会保険事務局に提出する「保険医療機関指定申請書」は、開設許可後申請。
※3.税務署に提出する「所得税の青色申告の承継申請書」は、開業した日から2
ヶ月以内。(1月1日~1月15日までは3月15日)
※4.市税の税率は、福岡市の場合です。


文責 医業部
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