07年04月08日
無料耐震診断について-2
前回の続きです。
某協同組合から提出された報告書を見ると、『精密耐震診断-耐震診断?』となっており、既存建物の現状での診断と改修(計画)後の診断及びその見積書が添付されていました。
精密診断となっていましたが、計算結果のみで計算式の数値や数値の根拠が不明なので、再度一から調査診断をすることになりました。
私がこの時点で驚いたのは、既存建物の初期診断のみが無料で行われていると思っていたのが、そうではなく、評価判定が危険ライン(評点が1.0未満)の場合は、耐震改修(計画)後の評価診断もしており、更に改修の見積書も提出されていることです。これら全て無料であり、依頼主にとっては、大変ありがたいことでしょう。
さて、当方の再診断結果で判ったことは、ホールダウン金物が必要以上に見込まれていた事です。
詳細は省きますが、耐震診断書を今までに見たことのある方はお分かりだと思いますので、下記に若干の補足説明をします。
1.改修前と改修後の精密診断表に明らかな矛盾がありました。
一つ目は、改修前の地盤は「やや悪い」であるのに、改修後は「良い地盤」となっています。
二つ目は、建物の老朽度が改修前は「老朽化している」であるのに、改修後は「健全」となっています。何れも、同書に添付されている「耐震改修のご提案について」の欄において、改修後に評点が1.0になるように地盤改良や基礎の新設更に同じく改修後に評点が1.0になるように建物の老朽度を改善させることが前提といった内容のコメントが記載されていました。しかし、具体的改修・改良方法等の提案がなく、見積書にもその記載がありません。
後に触れますが、この二点が評点1.0にしなければ、提案の耐震改修計画が意味を持たないことになっています。本当に、地盤改良や老朽度の改善が可能としての提案なのか、費用対効果を考えると疑問が残リます。
2.耐震化する壁補強には、大臣認定の耐震壁補強キット(セットもの)を使用しています。
ここの協同組合は、ある特定のメーカー製品を指定して使用しているとの事です。外付けホールダウン金物も同メーカー製品です。依頼主によると、このメーカーの某営業所には、この協同組合が同居しているとの事です。見積書によると耐震壁補強キットは30万円/ヶ所、ホールダウン金物は、15万円/ヶ所と計上されていました。もっと安い他社製品もあるのですが、市場原理が働かない仕組みのようです。
3.同上の耐震壁補強キットには、ホールダウン金物がセットされていますが、同じ壁面へさらに外付けホールダウン金物を取り付ける仕様(壁配置平面図)になっていました。この壁面柱脚部の必要引抜き力を求めると15KNでした。補強キットにセットされているホールダウン金物のみで24KN/本の耐力がありますから、外付けホールダウン金物は不要ということです。見積書を確認すると、仕様通りの本数が計上されていますので、問題でしょう。
元来、一柱脚部にホールダウン金物を2本も必要とする耐震壁配置計画はすべきでないし、壁倍率から想定してそのような引抜き力が必要となるとは思われません。
4.下記添付写真の「精密耐震診断表」を見て頂くと判りますが、上記1で触れたように、A項目の地盤・基礎、F項目の老朽度を除けば、D・E項目の筋違い・壁の割合の数値が0.1弱程度改善されただけです。0.1改善するのに見積書によると約150万円程の費用が掛かっています。
しかも、AとF項目を1.0に別途費用を掛けて改善しなければ総合評点で1.0以上の「一応安全です」の判定ラインには到達しません。
例えば、基礎のひび割れ補修をしたとしても、総合評点を求めると→0.7(A)X1.0(B・C)X1.017(D・E)X0.9(F)=0.64<1.0 の危険水域です。
5.私の判断では、この地域なら最初から地盤については、「良い地盤」と判定すればよかったと考えます。老朽度については、費用対効果を考えると老朽度を上げるのではなく、筋違い・壁の割合の項目でバランスのよい壁配置計画によって総合評点を高めるようすべきです。
いずれにしても、この様な診断報告書は、診断書と呼べるでしょうか。地盤・基礎と老朽度を棚上げにして、総合評点を1.0以上に辻褄合せしたに過ぎません。
依頼主の負担可能な改修工事費にするような、工事を請け負うことが目的の診断報告書ではないでしょうか。
6.報告書には、耐震技術認定者のコメント欄がA4版1枚分設けられていますが、白紙のままでした。
今回の事例から推測できることは、如何に現場調査が重要であるかということです。
前回に私は、診断調査員が耐震診断のエキスパートで有るか否かが大切ですと言いました。
マニュアルへ機械的にチェックを入れるのではなく、診断調査員の目視による考察が重要です。
数値に表れない部分を考慮判断し、居住性、施工性に配慮した最も有効に耐震補強が発揮できる耐震改修計画を依頼主に提案すべきではないでしょうか。
※左が既設現状、右が改修計画後の精密耐震診断表
ここも見てください。
↓
http://blog.goo.ne.jp/amor1310/
某協同組合から提出された報告書を見ると、『精密耐震診断-耐震診断?』となっており、既存建物の現状での診断と改修(計画)後の診断及びその見積書が添付されていました。
精密診断となっていましたが、計算結果のみで計算式の数値や数値の根拠が不明なので、再度一から調査診断をすることになりました。
私がこの時点で驚いたのは、既存建物の初期診断のみが無料で行われていると思っていたのが、そうではなく、評価判定が危険ライン(評点が1.0未満)の場合は、耐震改修(計画)後の評価診断もしており、更に改修の見積書も提出されていることです。これら全て無料であり、依頼主にとっては、大変ありがたいことでしょう。
さて、当方の再診断結果で判ったことは、ホールダウン金物が必要以上に見込まれていた事です。
詳細は省きますが、耐震診断書を今までに見たことのある方はお分かりだと思いますので、下記に若干の補足説明をします。
1.改修前と改修後の精密診断表に明らかな矛盾がありました。
一つ目は、改修前の地盤は「やや悪い」であるのに、改修後は「良い地盤」となっています。
二つ目は、建物の老朽度が改修前は「老朽化している」であるのに、改修後は「健全」となっています。何れも、同書に添付されている「耐震改修のご提案について」の欄において、改修後に評点が1.0になるように地盤改良や基礎の新設更に同じく改修後に評点が1.0になるように建物の老朽度を改善させることが前提といった内容のコメントが記載されていました。しかし、具体的改修・改良方法等の提案がなく、見積書にもその記載がありません。
後に触れますが、この二点が評点1.0にしなければ、提案の耐震改修計画が意味を持たないことになっています。本当に、地盤改良や老朽度の改善が可能としての提案なのか、費用対効果を考えると疑問が残リます。
2.耐震化する壁補強には、大臣認定の耐震壁補強キット(セットもの)を使用しています。
ここの協同組合は、ある特定のメーカー製品を指定して使用しているとの事です。外付けホールダウン金物も同メーカー製品です。依頼主によると、このメーカーの某営業所には、この協同組合が同居しているとの事です。見積書によると耐震壁補強キットは30万円/ヶ所、ホールダウン金物は、15万円/ヶ所と計上されていました。もっと安い他社製品もあるのですが、市場原理が働かない仕組みのようです。
3.同上の耐震壁補強キットには、ホールダウン金物がセットされていますが、同じ壁面へさらに外付けホールダウン金物を取り付ける仕様(壁配置平面図)になっていました。この壁面柱脚部の必要引抜き力を求めると15KNでした。補強キットにセットされているホールダウン金物のみで24KN/本の耐力がありますから、外付けホールダウン金物は不要ということです。見積書を確認すると、仕様通りの本数が計上されていますので、問題でしょう。
元来、一柱脚部にホールダウン金物を2本も必要とする耐震壁配置計画はすべきでないし、壁倍率から想定してそのような引抜き力が必要となるとは思われません。
4.下記添付写真の「精密耐震診断表」を見て頂くと判りますが、上記1で触れたように、A項目の地盤・基礎、F項目の老朽度を除けば、D・E項目の筋違い・壁の割合の数値が0.1弱程度改善されただけです。0.1改善するのに見積書によると約150万円程の費用が掛かっています。
しかも、AとF項目を1.0に別途費用を掛けて改善しなければ総合評点で1.0以上の「一応安全です」の判定ラインには到達しません。
例えば、基礎のひび割れ補修をしたとしても、総合評点を求めると→0.7(A)X1.0(B・C)X1.017(D・E)X0.9(F)=0.64<1.0 の危険水域です。
5.私の判断では、この地域なら最初から地盤については、「良い地盤」と判定すればよかったと考えます。老朽度については、費用対効果を考えると老朽度を上げるのではなく、筋違い・壁の割合の項目でバランスのよい壁配置計画によって総合評点を高めるようすべきです。
いずれにしても、この様な診断報告書は、診断書と呼べるでしょうか。地盤・基礎と老朽度を棚上げにして、総合評点を1.0以上に辻褄合せしたに過ぎません。
依頼主の負担可能な改修工事費にするような、工事を請け負うことが目的の診断報告書ではないでしょうか。
6.報告書には、耐震技術認定者のコメント欄がA4版1枚分設けられていますが、白紙のままでした。
今回の事例から推測できることは、如何に現場調査が重要であるかということです。
前回に私は、診断調査員が耐震診断のエキスパートで有るか否かが大切ですと言いました。
マニュアルへ機械的にチェックを入れるのではなく、診断調査員の目視による考察が重要です。
数値に表れない部分を考慮判断し、居住性、施工性に配慮した最も有効に耐震補強が発揮できる耐震改修計画を依頼主に提案すべきではないでしょうか。
※左が既設現状、右が改修計画後の精密耐震診断表
ここも見てください。
↓
http://blog.goo.ne.jp/amor1310/