07年07月31日
歩合給と時間外・深夜割増手当
事案は、「Xら4名は、タクシー業を営むY会社の乗務員として昭和62年2月28日まで勤務していたが、Xらの勤務体制は、労働時間を午前8時から翌日午前2時まで(そのうち2時間は休憩時間)とする隔日16時間勤務制であった。賃金は一律歩合制で、1ヶ月間の稼動によるタクシー料金の月間水揚高に一定の歩合を乗じた金額とされていた。しかし、Xらが労基法37条の時間外及び深夜労働を行った場合にはこれ以外の賃金は支給されておらず、右歩合給のうちで通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分とを判別することもできなかった。 Xらは、昭和60年6月1日から62年2月28日までの期間について時間外及び深夜の割増賃金が支払われていないとして、この期間のうち昭和61年12月から同62年2月までの3ヶ月間の勤務実績に基づき午前2時以降の時間外労働及び午後10時から翌日午前5時までの深夜労働に対する割増賃金等の支払を求めたもの」である。なお、Yは、右歩合給には時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分も含まれているから、右請求にかかる割増賃金は既に支払済みであると主張した。
これは、高知県観光事件であるが、最高裁(最判H6,6,13)は次のように判示した。
1 原審における当事者双方の主張からすれば、Xらの午前2時以後の就労についても、それがXらとYとの間の労働契約に基づく労務の提供として行われたものであること自体は、当事者間で争いのない事実となっていることが明らかである。したがって、この時間帯におけるXらの就労を、法的根拠を欠くもの、すなわち右の労働契約に基づくものではないとした原審の認定判断は、弁論主義に反するものであり、この違法は、判決に影響を及ぼすことが明らかなものというべきである。そうすると、原判決は、その余の論旨について判断するまでもなく、破棄を免れない。
2 本件請求期間にXらに支給された前記の歩合給の額が、Xらが時間外及び深夜の労働を行った場合においても増額されるものではなく、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分とを判別することもできないものであったことからして、この歩合給の支給によって、Xらに対して法37条の規定する時間外及び深夜の割増賃金が支払われたとすることは困難なものというべきであり、Yは、Xらに対し、本件請求期間におけるXらの時間外及び深夜の労働について、法37条及び労基法施行規則19条1項6号の規定に従って計算した額の割増賃金を支払う義務がある。
割増賃金を予め歩合給に組み込んで支給する場合には、歩合給の中で通常の賃金部分と割増賃金部分とが判別可能であることが要請されるでしょう。
メールによるご相談は、m-sgo@gaia.eonet.ne.jpまでお気軽にどうぞ(無料)。
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これは、高知県観光事件であるが、最高裁(最判H6,6,13)は次のように判示した。
1 原審における当事者双方の主張からすれば、Xらの午前2時以後の就労についても、それがXらとYとの間の労働契約に基づく労務の提供として行われたものであること自体は、当事者間で争いのない事実となっていることが明らかである。したがって、この時間帯におけるXらの就労を、法的根拠を欠くもの、すなわち右の労働契約に基づくものではないとした原審の認定判断は、弁論主義に反するものであり、この違法は、判決に影響を及ぼすことが明らかなものというべきである。そうすると、原判決は、その余の論旨について判断するまでもなく、破棄を免れない。
2 本件請求期間にXらに支給された前記の歩合給の額が、Xらが時間外及び深夜の労働を行った場合においても増額されるものではなく、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分とを判別することもできないものであったことからして、この歩合給の支給によって、Xらに対して法37条の規定する時間外及び深夜の割増賃金が支払われたとすることは困難なものというべきであり、Yは、Xらに対し、本件請求期間におけるXらの時間外及び深夜の労働について、法37条及び労基法施行規則19条1項6号の規定に従って計算した額の割増賃金を支払う義務がある。
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07年07月26日
火山灰の除去作業を命ずる業務命令の違法性
事案は、「Xは昭和60年当時、旧国鉄九州総局鹿児島自動車営業所の運輸管理係であり、Y1は同営業所長、Y2は同営業所主席助役であった。当時国鉄は職場規律の乱れを内外から指摘され、その是正を課題としており、Y1は鹿児島営業所の上級機関である九州地方自動車部の指示により、勤務時間中のワッペン・腕章や国鉄労働組合の組合員バッジの着用を禁止していた。また、Y1は自動車部から、取り外し命令に従わない職員に対しては本来の業務から外すことも指示されていた。なお、Xは、管理者に準ずる地位である補助運行管理者に指定される一方、国労の組合員でもあった。 昭和60年7月23日、Xが本件バッジを着用したまま補助運行管理者として点呼執行業務に従事しようとしたため、Y1はバッジの取外しを命じたが、Xはこれに従わなかった。そこでY1はXを点呼執行業務から外して、鹿児島自動車営業所構内に降り積もった桜島の噴火による火山灰を除去する作業に従事すべき旨の業務命令を発し、その後も8月にかけて計10回にわたり同様の経緯から右業務命令を発した。降灰除去作業に際しては、Yら管理職がXの作業状況を監視し、また他の職員がXに清涼飲料水を渡そうとしたところ、Y1がこれを制止する等のことがあった。 そこで、Xが、本件業務命令は不法行為にあたるとしてY1・Y2に対し各自50万円の損害賠償を請求したもの」である。
これは、旧国鉄鹿児島自動車営業所事件であるが、最高裁(最判H5,6,11)は次のように判示した。
前記の事実関係によると、降灰除去作業は、鹿児島営業所の職場環境を整備して、労務の円滑化、効率化を図るために必要な作業であり、また、その作業内容、作業方法等からしても、社会通念上相当な程度を超える過酷な業務に当たるものともいえず、これがXの労働契約上の義務の範囲内に含まれるものであることは、原判決も判示するとおりである。しかも、本件各業務命令は、Xが、Y1の取外し命令を無視して、本件バッジを着用したまま点呼執行業務に就くという違反行為を行おうとしたことから、自動車部からの指示に従ってXをその本来の業務から外すこととし、職場規律維持の上で支障が少ないものと考えられる屋外作業である降灰除去作業に従事させることとしたものであり、職場管理上やむを得ない措置ということができ、これが殊更にXに対して不利益を課するという違法、不当な目的でされたものであるとは認められない。なお、Yら管理職がXによる作業の状況を監視し、勤務中の他の職員がXに清涼飲料水を渡そうとするのを制止した等の行為も、その管理職としての職責等からして、特に違法あるいは不当視すべきものとも考えられない。そうすると、本件各業務命令を違法なものとすることは、到底困難なものといわなければならない。
本判決は、降灰除去作業はXの労働契約上の義務に含まれるとし、また、業務命令も違法ではないとしたものです。
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これは、旧国鉄鹿児島自動車営業所事件であるが、最高裁(最判H5,6,11)は次のように判示した。
前記の事実関係によると、降灰除去作業は、鹿児島営業所の職場環境を整備して、労務の円滑化、効率化を図るために必要な作業であり、また、その作業内容、作業方法等からしても、社会通念上相当な程度を超える過酷な業務に当たるものともいえず、これがXの労働契約上の義務の範囲内に含まれるものであることは、原判決も判示するとおりである。しかも、本件各業務命令は、Xが、Y1の取外し命令を無視して、本件バッジを着用したまま点呼執行業務に就くという違反行為を行おうとしたことから、自動車部からの指示に従ってXをその本来の業務から外すこととし、職場規律維持の上で支障が少ないものと考えられる屋外作業である降灰除去作業に従事させることとしたものであり、職場管理上やむを得ない措置ということができ、これが殊更にXに対して不利益を課するという違法、不当な目的でされたものであるとは認められない。なお、Yら管理職がXによる作業の状況を監視し、勤務中の他の職員がXに清涼飲料水を渡そうとするのを制止した等の行為も、その管理職としての職責等からして、特に違法あるいは不当視すべきものとも考えられない。そうすると、本件各業務命令を違法なものとすることは、到底困難なものといわなければならない。
本判決は、降灰除去作業はXの労働契約上の義務に含まれるとし、また、業務命令も違法ではないとしたものです。
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07年07月24日
労災保険法施行前の業務に起因する保険給付支給の可否
事案は、「亡きAらは、労基法及び労災保険法の施行日である1947年9月1日より前に約1年間ないし9年間、ベンジジンの製造業務に従事した。亡きAらの遺族Xらは、Y労基署長に対して、亡きAらが、ベンジジン製造業務に従事したことに起因して、その発病日が前記労基法・労災保険法施行日より1年半ないし25年を経た後である膀胱がん等にかかったとして、労災保険法に基づき、昭和51年に至り、それぞれ保険給付を請求した。しかし、Yは、労災保険法による保険給付の対象となるのは、同法の施行日以降に従事した業務に起因して発生した死傷病に限られるとして、保険給付の不支給決定をした。Xらは、本件不支給決定を不服として、審査請求、再審査請求をしたが、いずれも棄却されたので、本件不支給決定の取消を求める訴訟を提起したもの」である。
これは、和歌山ベンジジン事件であるが、最高裁(最判H5、2,16)は次のように判示した。
1 労働基準法による災害補償の対象となる疾病の範囲についてみるのに、同法は、広く、業務上の疾病を災害補償の対象とするものであり(同法75条ないし77条)、同法附則129条は、その文理からして、右の業務上の疾病のうち、同法施行前に疾病の結果が生じた場合における災害補償については、なお旧法の扶助に関する規定による旨を定め、右の場合のみを労働基準法による災害補償の対象外としているものと解されることにかんがみると、「労働基準法の右各規定は、同法の施行後に疾病の結果が生じた場合における災害補償については、その疾病が同法施行前の業務に起因するものであっても、なお同法による災害補償の対象としたものと解するのが相当である。」
2 「労働者災害補償保険法もまた、同法の施行後に疾病の結果が生じた場合については、それが同法施行前の業務に起因するものであってもなお同法による保険給付の対象とする趣旨」で、同法附則57条2項において、同法施行前に発生した業務上の疾病等に対する保険給付についてのみ、旧法によるべき旨を定めたものと解するのが相当である。
労災保険法施行から既に60年近く経った今では、本件のようなケースが出てくる可能性はほとんどないと思われるが、被害者救済という観点を重視した判決であった。
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1 労働基準法による災害補償の対象となる疾病の範囲についてみるのに、同法は、広く、業務上の疾病を災害補償の対象とするものであり(同法75条ないし77条)、同法附則129条は、その文理からして、右の業務上の疾病のうち、同法施行前に疾病の結果が生じた場合における災害補償については、なお旧法の扶助に関する規定による旨を定め、右の場合のみを労働基準法による災害補償の対象外としているものと解されることにかんがみると、「労働基準法の右各規定は、同法の施行後に疾病の結果が生じた場合における災害補償については、その疾病が同法施行前の業務に起因するものであっても、なお同法による災害補償の対象としたものと解するのが相当である。」
2 「労働者災害補償保険法もまた、同法の施行後に疾病の結果が生じた場合については、それが同法施行前の業務に起因するものであってもなお同法による保険給付の対象とする趣旨」で、同法附則57条2項において、同法施行前に発生した業務上の疾病等に対する保険給付についてのみ、旧法によるべき旨を定めたものと解するのが相当である。
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07年07月23日
年休取得と不利益取扱
事案は、「タクシー会社Yは、自動車の実働率を上げるために乗務員の出勤率を高めることを目的として、昭和40年頃から、ほぼ交番表(月ごとの勤務予定表)どおりに出勤した者に対して、皆勤手当を支給する制度を採用してきた。昭和63年及び平成元年にYが労働組合との間で締結した労働協約では、交番表に定められた労働日数及び労働時間を勤務した乗務員に対し、昭和63年度は1ヶ月3100円、平成元年度は同4100円の皆勤手当を支給するが、「公私傷病休又は欠勤」が1日のときは昭和63年度は1ヶ月1550円、平成元年度は同2050円を右手当から控除し、2日以上のときは支給しないこととした。 Yの従業員であるXは、昭和63年5月から平成元年10月にかけて、5回にわたり年休を取得したところ、Yは年休の取得は右労働協約所定の公私傷病休または欠勤に該当するとして、それぞれにつき皆勤手当を控除した。なお、この皆勤手当の額のXの給与月額に対する割合は、最大で1,85%であった。 本件は、右皆勤手当の控除に対して、Xがその支払いを請求したもの」である。
これは、沼津交通事件であるが、最高裁(最判H5、6,25)は次のように判示した。
1 労基法134条の規定からすれば、使用者が、従業員の出勤率の低下を防止する等の観点から、年次有給休暇の取得を何らかの経済的不利益と結びつける措置を採ることは、その経営上の合理性を是認できる場合であっても、できるだけ避けるべきであることはいうまでもないが、右の規定は、それ自体としては、使用者の努力義務を定めたものであって、労働者の年次有給休暇の取得を理由とする不利益取扱いの私法上の効果を否定するまでの効力を有するものとは解されない。また、右のような措置は、年次有給休暇を保障した労基法39条の精神に沿わない面を有することは否定できないものではあるが、その効力については、その趣旨、目的、労働者が失う経済的利益の程度、年次有給休暇の取得に対する事実上の抑止力の強弱等諸般の事情を総合して、年次有給休暇を取得する権利の行使を抑制し、ひいては同法が労働者に右権利を保障した趣旨を実質的に失わせるものと認められるものでない限り、公序に反して無効となるとすることはできないと解するのが相当である。
2 本件事実関係のもとでは、Y会社は、タクシー業者の経営は運賃収入に依存しているため自動車を効率的に運行させる必要性が大きく、交番表が作成された後に乗務員が年次有給休暇を取得した場合には代替要員の手配が困難となり、自動車の実働率が低下するという事態が生ずることから、このような形で年次有給休暇を取得することを避ける配慮をした乗務員については皆勤手当を支給することとしたものと解されるのであって、右措置は、年次有給休暇の取得を一般的に抑制する趣旨に出たものではないと見るのが相当であり、また、乗務員が年次有給休暇を取得したことにより控除される皆勤手当の額が相対的に大きいものではないことなどからして、この措置が乗務員の年次有給休暇の取得を事実上抑止する力は大きなものではなかったというべきである。
本判決は、附則134条は単に訓示規定に過ぎず、不利益取扱の判断については、別途に公序違反の問題として考察すべきであるという見解です。
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1 労基法134条の規定からすれば、使用者が、従業員の出勤率の低下を防止する等の観点から、年次有給休暇の取得を何らかの経済的不利益と結びつける措置を採ることは、その経営上の合理性を是認できる場合であっても、できるだけ避けるべきであることはいうまでもないが、右の規定は、それ自体としては、使用者の努力義務を定めたものであって、労働者の年次有給休暇の取得を理由とする不利益取扱いの私法上の効果を否定するまでの効力を有するものとは解されない。また、右のような措置は、年次有給休暇を保障した労基法39条の精神に沿わない面を有することは否定できないものではあるが、その効力については、その趣旨、目的、労働者が失う経済的利益の程度、年次有給休暇の取得に対する事実上の抑止力の強弱等諸般の事情を総合して、年次有給休暇を取得する権利の行使を抑制し、ひいては同法が労働者に右権利を保障した趣旨を実質的に失わせるものと認められるものでない限り、公序に反して無効となるとすることはできないと解するのが相当である。
2 本件事実関係のもとでは、Y会社は、タクシー業者の経営は運賃収入に依存しているため自動車を効率的に運行させる必要性が大きく、交番表が作成された後に乗務員が年次有給休暇を取得した場合には代替要員の手配が困難となり、自動車の実働率が低下するという事態が生ずることから、このような形で年次有給休暇を取得することを避ける配慮をした乗務員については皆勤手当を支給することとしたものと解されるのであって、右措置は、年次有給休暇の取得を一般的に抑制する趣旨に出たものではないと見るのが相当であり、また、乗務員が年次有給休暇を取得したことにより控除される皆勤手当の額が相対的に大きいものではないことなどからして、この措置が乗務員の年次有給休暇の取得を事実上抑止する力は大きなものではなかったというべきである。
本判決は、附則134条は単に訓示規定に過ぎず、不利益取扱の判断については、別途に公序違反の問題として考察すべきであるという見解です。
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07年07月20日
長期の時季指定に対する時季変更権の行使と使用者の裁量的判断
事案は、「Xは、Y会社(通信社)に勤務する記者であるが、昭和55年8月20日から9月20日まで休日等を含め約1ヶ月という長期かつ連続した期間につき、始期と終期を特定して年次有給休暇の時季指定をした。Xの上司である社会部長は、前半約2週間の休暇は認めるが、後半約2週間に属する勤務日については、事業の正常な運営を妨げるものとして時季変更権っを行使した。 Xはこれを無視し、原子力発電問題の取材等の目的で約1ヶ月間の欧州旅行に出発し、その間の勤務に就かなかった。Y会社は、時季変更権が行使された勤務日10日間について、業務命令に反して就業しなかったとの理由でXを譴責処分に処し、年末の賞与についてもこの欠勤を理由に約5万円を減じて支給した。 そこで、Xは、本件処分の無効確認と、賞与の一部不支給及び本件譴責処分がXに対する不法行為であるとして損害賠償の支払いを求めたもの」である。
これは、時事通信社事件であるが、最高裁(最判H4,6,23)は次のように判示した。
1 労働者が、使用者の業務計画、他の労働者の休暇予定等との事前の調整を経ることなく、始期と終期を特定して長期かつ連続の時季指定をした場合には、時季変更権の行使において、「右休暇が事業運営にどのような支障をもたらすか、右休暇の時期、期間につきどの程度の修正、変更を行うかに関し、使用者にある程度の裁量的判断が認められる。」 右判断は、労働者の年次有給休暇の権利を保障している労働基準法39条の趣旨に沿う、合理的のものであることを要し、使用者が労働者に休暇を取得させるための状況に応じた配慮を欠くなど不合理なものであってはならない。
2 記者クラブに単独配置されている通信社の社会部記者が、使用者との事前の調整を経ることなく、始期と終期を特定して休日等を含め約1ヶ月の長期かつ連続の年次有給休暇の時季指定をしたのに対し、使用者が右時季指定の後半部分について時季変更権を行使した場合において、当時社会部内において専門的知識を要する右記者の担当職務を支障なく代替し得る記者を長期に確保することが困難であり、また右単独配置は企業運営上のやむを得ない理由によるものであったなど判示の事情があるときは、右時季変更権の行使は適法である。
長期の時季指定に対する時季変更権の裁量的判断の合理性は、なお不明確なように思われます。
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1 労働者が、使用者の業務計画、他の労働者の休暇予定等との事前の調整を経ることなく、始期と終期を特定して長期かつ連続の時季指定をした場合には、時季変更権の行使において、「右休暇が事業運営にどのような支障をもたらすか、右休暇の時期、期間につきどの程度の修正、変更を行うかに関し、使用者にある程度の裁量的判断が認められる。」 右判断は、労働者の年次有給休暇の権利を保障している労働基準法39条の趣旨に沿う、合理的のものであることを要し、使用者が労働者に休暇を取得させるための状況に応じた配慮を欠くなど不合理なものであってはならない。
2 記者クラブに単独配置されている通信社の社会部記者が、使用者との事前の調整を経ることなく、始期と終期を特定して休日等を含め約1ヶ月の長期かつ連続の年次有給休暇の時季指定をしたのに対し、使用者が右時季指定の後半部分について時季変更権を行使した場合において、当時社会部内において専門的知識を要する右記者の担当職務を支障なく代替し得る記者を長期に確保することが困難であり、また右単独配置は企業運営上のやむを得ない理由によるものであったなど判示の事情があるときは、右時季変更権の行使は適法である。
長期の時季指定に対する時季変更権の裁量的判断の合理性は、なお不明確なように思われます。
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07年07月17日
賃金差別と労働組合法27条2項の「継続する行為」
事案は、「X社は、昭和53年7月8日、A労働組合と同年度の賃金改定に関する協定書に調印した。その後Xは、既に終えていた査定に基づき、4月に遡って差額を支給した。このことにつきAは、Xの右査定による基本給及び役職手当の支給上、組合員12名と非組合員との間に格差があり、この格差は組合員であることを理由とするものであるとして、昭和54年7月17日青森地労委Yに救済を申し立てた。 次いで、昭和54年7月15日、昭和54年度の賃金改定についての協定書に調印がなされ、4月に遡及して差額が支給された。このことについてAは、基本給及び職責手当において、組合員と非組合員との間に差別があるとし、昭和55年7月22日、是正を求めてYに救済を申し立てた。 さらに、Aは、昭和55年度の賃金改定に関しても、昭和55年10月2日、Yに対して同様の救済申し立てをした。 これらの救済申立に対してYは、第一事件と第二事件ともに、Aの主張をほぼ認め、救済命令を発した。Xは右二つの命令に対し、本件各救済申立は申立期間経過後に行われたこと、ほかを主張し、救済命令は違法であるとして取消訴訟に及んだもの」である。
*不当労働行為の労働委員会への救済申立は、行為の日(継続する行為にあってはその終了した日)から1年以内に行わなければならない(労組法27条2項)。
これは、紅屋商事事件であるが、最高裁(最判H3,6,4)は次のように判示した。
Xが毎年行っている昇給に関する考課査定は、その従業員の向後1年間における毎月の賃金額の基準となる評定値を定めるものであるところ、右のような考課査定において使用者が労働組合の組合員について組合員であることを理由として他の従業員より低く査定した場合、その賃金上の差別的取扱いの意図は、賃金の支払によって具体的に実現されるのであって、右査定とこれに基づく毎月の賃金の支払とは一体として一個の不当労働行為をなすものとみるべきである。そうすると、右査定に基づく賃金が支払われている限り不当労働行為は継続することになるから、右査定に基づく賃金上の差別的取扱いの是正を求める救済の申立てが右査定に基づく賃金の最後の支払の時から1年以内にされたときは、右救済の申立は、労働組合法27条2項の定める期間内にされたものとして適法というべきである。
査定と賃金支払とを一体のものとしてとらえ、査定に基づく賃金の最後の支払の時が「継続する行為」の終期だとしている点に注意が必要です。
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*不当労働行為の労働委員会への救済申立は、行為の日(継続する行為にあってはその終了した日)から1年以内に行わなければならない(労組法27条2項)。
これは、紅屋商事事件であるが、最高裁(最判H3,6,4)は次のように判示した。
Xが毎年行っている昇給に関する考課査定は、その従業員の向後1年間における毎月の賃金額の基準となる評定値を定めるものであるところ、右のような考課査定において使用者が労働組合の組合員について組合員であることを理由として他の従業員より低く査定した場合、その賃金上の差別的取扱いの意図は、賃金の支払によって具体的に実現されるのであって、右査定とこれに基づく毎月の賃金の支払とは一体として一個の不当労働行為をなすものとみるべきである。そうすると、右査定に基づく賃金が支払われている限り不当労働行為は継続することになるから、右査定に基づく賃金上の差別的取扱いの是正を求める救済の申立てが右査定に基づく賃金の最後の支払の時から1年以内にされたときは、右救済の申立は、労働組合法27条2項の定める期間内にされたものとして適法というべきである。
査定と賃金支払とを一体のものとしてとらえ、査定に基づく賃金の最後の支払の時が「継続する行為」の終期だとしている点に注意が必要です。
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07年07月14日
団体交渉拒否と確認の訴え
事案は、「X(旧国鉄)には、職員、家族などに対し無料で乗車することを認めるいわゆる鉄道乗車証制度が存在し、職員募集要領等においても職員の待遇としてそれを交付することが明示されていた。昭和57年7月の第二次臨時行政調査会の答申に基づいて、Xは右制度の見直しに入る動きをみせた。 これに対し、Y(国鉄労働組合)は乗車証制度の存続を求めて、昭和57年8月以来たびたびXに団体交渉を申し入れた。 しかし、Xは、乗車証問題は管理運営事項であり、公共企業体等労働関係法8条の団体交渉事項に該当しないことを理由に右申入れを拒否し、同年11月13日に右制度の改廃措置をとった。 そこでYは、乗車証制度は公労法8条の団体交渉事項に該当するとして、同事項についてXに団体交渉を行う義務があることの確認、および団交拒否の不法行為に基づく損害賠償を求めたもの」である。
これは、国鉄事件であるが、一審は、Yが右制度の改廃について団体交渉を求める法律上の地位にあることを確認したが、損害賠償についてはこれを棄却した。二審もこれを維持し、最高裁(最判H3,4,23)も次のように判示して、原審を是認した。
1 YからXに対し、本件各事項につき団体交渉を求め得る地位にあることの確認を求める本件訴えが、確認の利益を欠くものとはいえず、適法であるとした原審の判断は、正当として是認することができる。
2 本件各事項が公共企業体等労働関係法8条4号にいう「労働条件に関する事項」に該当し、団体交渉の対象となるべき事項であるとした原審の判断は、正当として是認することができる。
本判決は特に理由を示していないが、確認訴訟という形式で団体交渉の拒否に対する司法救済を、最高裁として初めて認めたものである。
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これは、国鉄事件であるが、一審は、Yが右制度の改廃について団体交渉を求める法律上の地位にあることを確認したが、損害賠償についてはこれを棄却した。二審もこれを維持し、最高裁(最判H3,4,23)も次のように判示して、原審を是認した。
1 YからXに対し、本件各事項につき団体交渉を求め得る地位にあることの確認を求める本件訴えが、確認の利益を欠くものとはいえず、適法であるとした原審の判断は、正当として是認することができる。
2 本件各事項が公共企業体等労働関係法8条4号にいう「労働条件に関する事項」に該当し、団体交渉の対象となるべき事項であるとした原審の判断は、正当として是認することができる。
本判決は特に理由を示していないが、確認訴訟という形式で団体交渉の拒否に対する司法救済を、最高裁として初めて認めたものである。
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なお、当事務所は、年金記録問題無料相談所でありますから、年金のテーマの所をご覧下さい。
07年07月13日
年休指定後のストライキ決定と年休の成否
事案は、「Xは、国鉄改革にともない旧国鉄が名称変更されたYに雇用される職員であるが、本件当時、国鉄津田沼電車区運転検修係の職務に従事し、動労千葉津田沼支部執行委員であった。同電車区には、Xの所属する検修部門のほか列車乗務員部門等があったが、年次休暇の請求に対する時季変更権の行使・不行使は、電車区長が決定していたものであり、労働基準法36条の適用に当たっては、同電車区は一つの事業場として扱われてきた。 動労千葉は、国鉄民営化阻止等を目標に掲げ、当初の予定を前日に繰り上げて昭和60年11月28日正午から翌日29日正午まで24時間にわたり、津田沼電車区等を拠点として、旅客列車乗務員を対象とする指名ストライキを実施し、これにより、多数の旅客列車等が運休、遅延するなどの影響が生じた。 Xは、同月21日津田沼電車区長に対し、同月28日の午後半日の年休を請求していたが、動労千葉が29日に予定していたストライキを繰り上げて同月28日正午からとしたことを知ると、当局にただして年休の請求が事実上承認されていることを確認しながら、右請求をそのまま維持した上、同月28日午後は勤務しなかった。その間、Xは、津田沼電車区内で、組合員集会に参加し、スト決起集会では、シュプレヒコールの指揮をし、また、当局側に対する抗議行動に参加するなどして、右争議行為に積極的役割を果たした。 Yは、当日のXの欠勤を年休として取扱わず、賃金カットを行ったのに対し、Xが提訴したもの」である。
これは、国鉄津田沼電車区事件であるが、最高裁(最判H3,11,19)は次のように判示した。
上告人(X)は、前記争議行為に参加しその所属する事業場である津田沼電車区の正常な業務の運営を阻害する目的をもって、たまたま先にした年次休暇の請求を当局側が事実上承認しているのを幸い、この請求を維持し、職場を離脱したものであって、右のような職場離脱は、労働基準法の適用される事業場において業務を運営するための正常な勤務体制が存在することを前提としてその枠内で休暇を認めるという年次有給休暇の趣旨に反するというべく、本来の年次休暇権の行使とはいえないから、上告人の請求にかかる時季指定日に年次休暇は成立しないというべきである。以上と同趣旨に出たものと認められる原審の判断は、正当として是認することができる。
本件は、組合指令による争議目的利用のための年休取得の事案ではないことに注意する必要があります。年休自由利用の原則の限界を判示したものである。
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これは、国鉄津田沼電車区事件であるが、最高裁(最判H3,11,19)は次のように判示した。
上告人(X)は、前記争議行為に参加しその所属する事業場である津田沼電車区の正常な業務の運営を阻害する目的をもって、たまたま先にした年次休暇の請求を当局側が事実上承認しているのを幸い、この請求を維持し、職場を離脱したものであって、右のような職場離脱は、労働基準法の適用される事業場において業務を運営するための正常な勤務体制が存在することを前提としてその枠内で休暇を認めるという年次有給休暇の趣旨に反するというべく、本来の年次休暇権の行使とはいえないから、上告人の請求にかかる時季指定日に年次休暇は成立しないというべきである。以上と同趣旨に出たものと認められる原審の判断は、正当として是認することができる。
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07年07月12日
時間外労働義務を定めた就業規則の効力と労働者の義務
事案は、「Xは、Yの武蔵工場に勤務し、トランジスターの品質歩留りの向上を所管する部署に属していたが、昭和42年9月、上司から残業して手抜き作業をやり直すよう命じられたにもかかわらず、残業は労働者の権利であるなどと主張してこれを拒否した。 なお、Yの就業規則及びY武蔵工場とその労働者の過半数で組織するY武蔵工場労働組合(Xも加入している)の上部団体との間で締結された労働協約には、Yは、業務上の都合によりやむを得ない場合には組合との三六協定により1日8時間の実働時間を延長することがある旨定められていた。そして、Yと組合との間で、昭和42年1月、延長する事由7項目を定めた三六協定が締結され、所轄労働基準監督署長に届出られた。 Xは、昭和40年から42年にかけて3回懲戒処分を受けていたが、本件残業拒否に対する出勤停止処分後も反省の色が見えなかった。そのため、Yは、就業規則を適用してXに対し懲戒解雇の意思表示をした。 そこで、Xは、Yを相手方として雇用契約上の地位確認等の訴えを提起したもの」である。
これは、日立製作所事件であるが、最高裁(最判H3,11,28)は次のように判示した。
1 労働基準法(昭和62年改正前のもの)32条の労働時間を延長して労働させることにつき、使用者が、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合等と書面による協定(いわゆる三六協定)を締結し、これを所轄労働基準監督署長に届け出た場合において、使用者が当該事業場に適用される就業規則に当該三六協定の範囲内で一定の業務上の事由があれば労働契約に定める労働時間を延長して労働者を労働させることができる旨定めているときは、「当該就業規則の規定の内容が合理的なものである限り」、それが具体的労働契約の内容をなすから、右就業規則の規定の適用を受ける労働者は、その定めるところに従い、労働契約に定める労働時間を超えて労働をする義務を負うものと解するを相当とする。
2 本件の場合、時間外労働の具体的内容は三六協定に定められているが、同協定は、その時間を限定し、かつ、所定の事由を必要としているのであるから、結局就業規則の規定は合理的である。3項目はいささか概括的、網羅的ではあるが、企業が需給関係に即応した生産計画を適正且つ円滑に実施する必要性は同法36条の予定するところであり、これらが相当性を欠くとは言えない。懲戒解雇は正当である。
就業規則の内容の「合理性」があれば、これに反対する労働者をも拘束するというのが、判例の流れです。
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これは、日立製作所事件であるが、最高裁(最判H3,11,28)は次のように判示した。
1 労働基準法(昭和62年改正前のもの)32条の労働時間を延長して労働させることにつき、使用者が、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合等と書面による協定(いわゆる三六協定)を締結し、これを所轄労働基準監督署長に届け出た場合において、使用者が当該事業場に適用される就業規則に当該三六協定の範囲内で一定の業務上の事由があれば労働契約に定める労働時間を延長して労働者を労働させることができる旨定めているときは、「当該就業規則の規定の内容が合理的なものである限り」、それが具体的労働契約の内容をなすから、右就業規則の規定の適用を受ける労働者は、その定めるところに従い、労働契約に定める労働時間を超えて労働をする義務を負うものと解するを相当とする。
2 本件の場合、時間外労働の具体的内容は三六協定に定められているが、同協定は、その時間を限定し、かつ、所定の事由を必要としているのであるから、結局就業規則の規定は合理的である。3項目はいささか概括的、網羅的ではあるが、企業が需給関係に即応した生産計画を適正且つ円滑に実施する必要性は同法36条の予定するところであり、これらが相当性を欠くとは言えない。懲戒解雇は正当である。
就業規則の内容の「合理性」があれば、これに反対する労働者をも拘束するというのが、判例の流れです。
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07年07月11日
チェンソー業務と安全配慮義務
事案は、「国有林における木材や雑木の伐採作業にかかわる重筋労働の軽減や効率化を目的として昭和32年からチェンソーやブッシュクリーナーの本格的な導入が始められた。ところが、これらを使用した作業員の中から手指の蒼白やしびれを訴える者が昭和35年頃から生じはじめ、俗称「白ろう病」と呼ばれる振動障害が問題となり、昭和40年には労働省により職業病に、41年には人事院により公務災害として認定されるに至る。Xら12名は高知営林局内の営林署で長期間勤務したのち退職したが、退職の前後に振動障害の公務災害認定を受けている。Xらはこのような振動障害の発症につき、国Yに対して安全配慮義務違反等を理由とする損害賠償を求めたもの」である。
これは、林野庁高知営林局事件であるが、最高裁(最判H2,4,20)は次のように判示した。
1 昭和40年までは振動障害に関する医学的知見は、削岩機、鋲打機等に関するものがほとんどであって、同年に至ってはじめて、チェンソー等の使用による振動障害を予見し得るに至ったというべきである。したがって、昭和40年前は、右のようにチェンソー等使用による振動障害発症の予見可能性が否定される以上、予見可能性を前提とする結果回避義務を問題にする余地はなく、右時点前はYの安全配慮義務違反を問う事はできない。
2 昭和40年に右予見可能性が生じたことを前提に、林野庁の行った施策等についてみるに、振動障害発症回避のための的確な実施可能な具体的施策を策定しうる状況にない時期に、林野庁としては振動障害発症の結果を回避するための相当な措置を講じてきたものということができ、これ以上の措置をとることを求めることは難きを強いるものというべきであるから、振動障害発症の結果回避義務の点においてYに安全配慮義務違反があるとはいえないというべきである。
3 敷衍するに、社会、経済の進歩発展のため必要性、有益性が認められるがあるいは危険の可能性を内包するかもしれない機械器具については、その使用を禁止するのではなく、その使用を前提として、その使用から生ずる危険、損害の発生の有無に留意し、その発生を防止するための相当の手段方法を講ずることが要請されているというべきであるが、社会通念に照らし相当と評価される措置を講じたにもかかわらずなおかつ損害の発生をみるに至った場合には、結果回避義務に欠けるものとはいえないというべきである。
予見可能性を肯定する時期が若干遅いような気がするが、本判決は、従来の労災補償の上に重畳的に損害賠償をも認めるという方向を否定するものではないことに留意する必要があります。
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これは、林野庁高知営林局事件であるが、最高裁(最判H2,4,20)は次のように判示した。
1 昭和40年までは振動障害に関する医学的知見は、削岩機、鋲打機等に関するものがほとんどであって、同年に至ってはじめて、チェンソー等の使用による振動障害を予見し得るに至ったというべきである。したがって、昭和40年前は、右のようにチェンソー等使用による振動障害発症の予見可能性が否定される以上、予見可能性を前提とする結果回避義務を問題にする余地はなく、右時点前はYの安全配慮義務違反を問う事はできない。
2 昭和40年に右予見可能性が生じたことを前提に、林野庁の行った施策等についてみるに、振動障害発症回避のための的確な実施可能な具体的施策を策定しうる状況にない時期に、林野庁としては振動障害発症の結果を回避するための相当な措置を講じてきたものということができ、これ以上の措置をとることを求めることは難きを強いるものというべきであるから、振動障害発症の結果回避義務の点においてYに安全配慮義務違反があるとはいえないというべきである。
3 敷衍するに、社会、経済の進歩発展のため必要性、有益性が認められるがあるいは危険の可能性を内包するかもしれない機械器具については、その使用を禁止するのではなく、その使用を前提として、その使用から生ずる危険、損害の発生の有無に留意し、その発生を防止するための相当の手段方法を講ずることが要請されているというべきであるが、社会通念に照らし相当と評価される措置を講じたにもかかわらずなおかつ損害の発生をみるに至った場合には、結果回避義務に欠けるものとはいえないというべきである。
予見可能性を肯定する時期が若干遅いような気がするが、本判決は、従来の労災補償の上に重畳的に損害賠償をも認めるという方向を否定するものではないことに留意する必要があります。
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07年07月10日
ポスト・ノーティス命令と憲法19条
事案は、「補助参加人らは、Yに対し、Xを被申立人として不当労働行為救済の申立をしたところ、Yは、Xが不誠実な団体交渉等によって補助参加人分会の組合員に対する夏季一時金の支給を遅滞させたこと等を認定し、これを不当労働行為に該当すると判断し、救済命令を発した。その中で、誓約書という題の下に、「当社団が行った次の行為は、神奈川県地方労働委員会により不当労働行為と認定されました。当社団は、ここに深く反省するとともに今後、再びかかる行為を繰り返さないことを誓約します。・・・・・・・・」との文言を縦1メートル、横2メートルの白色木板に墨書し、これをX経営の病院の建物入口附近に掲示するよう命ずる(ポスト・ノーティス命令)という内容があった。Xは、本件ポスト・ノーティス命令は謝罪広告を命ずるものであり、原状回復という不当労働行為の救済の目的に反し、当事者以外の第三者にその内容を公表し、かつXの意思の反してその掲示を強要するもので、救済内容として不要かつ行き過ぎたものであるとして、救済命令の取消を求めたもの」である。
これは、医療法人社団・亮正会事件であるが、最高裁(最判H2、3,6)は次のように判示した。
本件ポスト・ノーティス命令が、労働委員会によってXの行為が不当労働行為と認定されたことを関係者に周知徹底させ、同種行為の再発を抑制しようとする趣旨のものであることは明らかである。右掲示文には「深く反省する」、「誓約します」などの文言が用いられているが、同種行為を繰り返さない旨の約束文言を強調する意味を有するにすぎないものであり、Xに対し反省等の意思表明を要求することは、右命令の本旨とするところではないと解される。してみると、右命令はXに対し反省等の意思表明を強制するものであるとの見解を前提とする憲法19条違反の主張は、その前提を欠くというべきである。また、本件ポスト・ノーティス命令が、Yに認められた裁量権の範囲を逸脱したものともいえない。
この判決は、最高裁が初めて、ポスト・ノーティス命令は思想及び良心の自由を保障した憲法19条に違反しないと判示したものです。
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これは、医療法人社団・亮正会事件であるが、最高裁(最判H2、3,6)は次のように判示した。
本件ポスト・ノーティス命令が、労働委員会によってXの行為が不当労働行為と認定されたことを関係者に周知徹底させ、同種行為の再発を抑制しようとする趣旨のものであることは明らかである。右掲示文には「深く反省する」、「誓約します」などの文言が用いられているが、同種行為を繰り返さない旨の約束文言を強調する意味を有するにすぎないものであり、Xに対し反省等の意思表明を要求することは、右命令の本旨とするところではないと解される。してみると、右命令はXに対し反省等の意思表明を強制するものであるとの見解を前提とする憲法19条違反の主張は、その前提を欠くというべきである。また、本件ポスト・ノーティス命令が、Yに認められた裁量権の範囲を逸脱したものともいえない。
この判決は、最高裁が初めて、ポスト・ノーティス命令は思想及び良心の自由を保障した憲法19条に違反しないと判示したものです。
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07年07月09日
年金記録問題無料相談所
大阪府社会保険労務士会のお願いにより、国民の皆さんの不信と不安をできるだけ早期に解消すべく、当事務所は、「年金加入記録」の照会に限って、無料相談を承ることになりました。
当事務所で、「年金加入記録照会票」を記載して頂くだけで、後日、大阪社会保険事務局から「回答書」が送られてきます。
(流れ)
(1)まず、相談者が当事務所に、「年金加入記録照会」を依頼します。
(2)次に、当事務所が大阪府社会保険労務士会に、「年金加入記録照会票」をFAXします。
(3)大阪府社会保険労務士会は大阪社会保険事務局に、「年金加入記録照会票」の処理を依頼します。
(4)大阪社会保険事務局は、相談者に対し、「年金加入記録照会票」の回答通知をします。
*「回答書」については、1ヶ月程度の日数が必要とされることが予想されますので、早急な回答が必要とされる方は、最寄の社会保険事務所又は年金相談センターへ行かれることをお勧めします。
*まずは、お気軽にご連絡下さい。
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07年07月07日
欠陥住宅と不法行為責任の成立範囲
6日、欠陥住宅の購入者が、直接契約関係のない設計・施工者に対してどの程度まで賠償責任を問えるかが争われた訴訟の上告審判決があった。
マンション購入者は、設計・施工者とは直接の契約関係にないため、建築工事や売買契約に伴う瑕疵担保責任を問うことができない。そのため、民法709条の不法行為責任を問うていたのである。
欠陥住宅の売主は、買主に対し賠償責任を負うが、施工者の賠償責任は、「重大な欠陥がある場合」にだけ認める裁判例が多かった。
実際、2審も、「欠陥の程度・内容が重大で、社会的に危険な建物など違法性が強い場合」にのみ不法行為になるとして、原告が主張したバルコニーの手すりのぐらつきや壁のひび割れなどは該当しないとしていた。
これに対して、最高裁第2小法廷は、「利用者や隣人、通行人の生命・身体・財産を危険にさらすことがない状態を、建物としての基本的な安全性と定義した上で、建物に携わる設計・施工者にはこの安全性を欠かさぬように配慮すべき注意義務があり、この注意義務を怠り、居住者の生命・身体が侵害された場合は、欠陥の存在を知って買い受けたなどの特段の事情がない限り、不法行為による損害賠償責任を負う」と判示した。
すなわち、基礎や構造に関わるような重大な欠陥でなくても、転落事故につながるバルコニーの手すりの欠陥のように、「建物としての基本的な安全性を損なう欠陥がある場合」には、設計・施工者も購入者に対して不法行為による損害賠償責任を負うとしたのです。
売主が財政破綻をきたしている場合などには、購入者の保護につながっていくでしょう。
マンション購入者は、設計・施工者とは直接の契約関係にないため、建築工事や売買契約に伴う瑕疵担保責任を問うことができない。そのため、民法709条の不法行為責任を問うていたのである。
欠陥住宅の売主は、買主に対し賠償責任を負うが、施工者の賠償責任は、「重大な欠陥がある場合」にだけ認める裁判例が多かった。
実際、2審も、「欠陥の程度・内容が重大で、社会的に危険な建物など違法性が強い場合」にのみ不法行為になるとして、原告が主張したバルコニーの手すりのぐらつきや壁のひび割れなどは該当しないとしていた。
これに対して、最高裁第2小法廷は、「利用者や隣人、通行人の生命・身体・財産を危険にさらすことがない状態を、建物としての基本的な安全性と定義した上で、建物に携わる設計・施工者にはこの安全性を欠かさぬように配慮すべき注意義務があり、この注意義務を怠り、居住者の生命・身体が侵害された場合は、欠陥の存在を知って買い受けたなどの特段の事情がない限り、不法行為による損害賠償責任を負う」と判示した。
すなわち、基礎や構造に関わるような重大な欠陥でなくても、転落事故につながるバルコニーの手すりの欠陥のように、「建物としての基本的な安全性を損なう欠陥がある場合」には、設計・施工者も購入者に対して不法行為による損害賠償責任を負うとしたのです。
売主が財政破綻をきたしている場合などには、購入者の保護につながっていくでしょう。
07年07月06日
チェック・オフの廃止と支配介入
事案(チェック・オフに関する部分のみ)は、「Xは、本件病院を含む医療機関等を設置して社会福祉事業を行うものである。病院には、Xの従業員が組織するZ組合の支部組合Z’と訴外A組合がある。Z及びZ’組合は都労委にX及び病院を被申立人として、病院がZ’組合ないし組合員に対してチェック・オフの中止が支配介入に該当するとする不当労働行為救済の申立をした。 都労委は支配介入を認め、中労委もこれを維持したので、X及び病院が中労委(Y)を相手として再審査棄却命令の取消を求める行政訴訟を提起したもの」である。
(注) チェック・オフとは、通常、使用者が労働者の賃金から組合費を天引して、それらを一括して組合に交付することをいい、法的には、労働組合と組合員とが使用者に対し組合費の取立てと弁済を委任し、使用者がこれを履行することと解されています。
これは、済生会事件であるが、最高裁(最判H元、12,11)は次のように判示した。
1 労基法24条1項本文は、賃金はその全額を労働者に支払わなければならないとしているが、その趣旨は、労働者の賃金はその生活を支える重要な財源で日常必要とするものであるから、これを労働者に確実に受領させ、その生活に不安のないようにすることが労働政策の上から極めて必要なことである、というにある・・・・・。これを受けて、同項但書は、(ア)当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者が使用者との間で賃金の一部を控除して支払うことに合意し、かつ、(イ)これを書面による協定とした場合に限り、労働者の保護に欠けるところはないとして、同項本文違反が成立しないこととした。しかして、いわゆるチェック・オフも労働者の賃金の一部を控除するものにほかならないから、同項但書の要件を具備しない限り、これをすることができないことは当然である。たしかに、原審のいうようにチェック・オフは労働組合の団結を維持、強化するものであるが、その組合員すなわち労働者自体は賃金の一部を控除されてその支払いを受けるのであるから、チェック・オフをする場合には右の(ア)(イ)の要件を具備する必要がないということはできない。
2 本件の場合、チェック・オフを中止した頃、Z’組合が病院の従業員の過半数で組織されていたといえるかどうかは極めて疑わしいといわなければならないし、また、本件チェック・オフは、過去15年余にわたってされたものであるが、これにつき書面による協定がなかったことも原審の適法に確定するところである。そうすると、本件チェック・オフの中止が労基法24条1項違反を解消するものであることは明らかであるところ、これに加えて、病院が・・・・・・・・・チェック・オフをすべき組合員(従業員)を特定することが困難である(これが特定されればチェック・オフをすることにやぶさかではない)として本件チェック・オフを中止したこと、及び病院が実際に・・・チェック・オフ協定案を提示したこと等を併せ考えると、本件チェック・オフの中止は、病院・・・・・・・の不当労働行為意思に基づくものともいえず、結局、不当労働行為に該当しないというべきである。
判旨は、(ア)(イ)の形式的判断で処理していますが、そもそもチェック・オフに労基法24条1項但書が適用されるのかという問題があります。
メールによるご相談は、m-sgo@gaia.eonet.ne.jpまでお気軽にどうぞ(無料)。
(注) チェック・オフとは、通常、使用者が労働者の賃金から組合費を天引して、それらを一括して組合に交付することをいい、法的には、労働組合と組合員とが使用者に対し組合費の取立てと弁済を委任し、使用者がこれを履行することと解されています。
これは、済生会事件であるが、最高裁(最判H元、12,11)は次のように判示した。
1 労基法24条1項本文は、賃金はその全額を労働者に支払わなければならないとしているが、その趣旨は、労働者の賃金はその生活を支える重要な財源で日常必要とするものであるから、これを労働者に確実に受領させ、その生活に不安のないようにすることが労働政策の上から極めて必要なことである、というにある・・・・・。これを受けて、同項但書は、(ア)当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者が使用者との間で賃金の一部を控除して支払うことに合意し、かつ、(イ)これを書面による協定とした場合に限り、労働者の保護に欠けるところはないとして、同項本文違反が成立しないこととした。しかして、いわゆるチェック・オフも労働者の賃金の一部を控除するものにほかならないから、同項但書の要件を具備しない限り、これをすることができないことは当然である。たしかに、原審のいうようにチェック・オフは労働組合の団結を維持、強化するものであるが、その組合員すなわち労働者自体は賃金の一部を控除されてその支払いを受けるのであるから、チェック・オフをする場合には右の(ア)(イ)の要件を具備する必要がないということはできない。
2 本件の場合、チェック・オフを中止した頃、Z’組合が病院の従業員の過半数で組織されていたといえるかどうかは極めて疑わしいといわなければならないし、また、本件チェック・オフは、過去15年余にわたってされたものであるが、これにつき書面による協定がなかったことも原審の適法に確定するところである。そうすると、本件チェック・オフの中止が労基法24条1項違反を解消するものであることは明らかであるところ、これに加えて、病院が・・・・・・・・・チェック・オフをすべき組合員(従業員)を特定することが困難である(これが特定されればチェック・オフをすることにやぶさかではない)として本件チェック・オフを中止したこと、及び病院が実際に・・・チェック・オフ協定案を提示したこと等を併せ考えると、本件チェック・オフの中止は、病院・・・・・・・の不当労働行為意思に基づくものともいえず、結局、不当労働行為に該当しないというべきである。
判旨は、(ア)(イ)の形式的判断で処理していますが、そもそもチェック・オフに労基法24条1項但書が適用されるのかという問題があります。
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07年07月05日
脱退・別組合への加入とユニオン・ショップ協定の効力
事案は、「X会社は、参加人全港湾労働組合X分会(以下、参加人組合という)との間で、「X会社に所属する海上コンテナトレーラー運転手は、すべて参加人組合の組合員でなければならない。X会社は、X会社に所属する海上コンテナトレーラー運転手で、参加人組合に加入しない者及び参加人組合を除名された者を解雇する。」旨のユニオン・ショップ協定を締結していた。 Xに勤務する海上コンテナトレーラー運転手のYらは、参加人組合に脱退届を提出して同組合を脱退し、即刻、全日本運輸一般労働組合神戸支部に加入するとともに、同X分会を結成し、その旨をXに通告した。参加人組合は、同日、Xに対し、ユニオン・ショップ協定に基づくYらの解雇を要求し、Xは、右協定に基づきYらを解雇した。 そこで、Yらは、ユニオン・ショップ協定締結組合を脱退した直後に他組合に加入した場合には協定の効力は及ばないとして、右解雇の無効確認と賃金支払いを求めて訴えを提起したもの」である。
これは、三井倉庫港運事件であるが、最高裁(最判H元、12,14)は次のように判示した。
1 ユニオン・ショップ協定は、労働者が労働組合の組合員たる資格を取得せず又はこれを失った場合に、使用者をして当該労働者との雇用関係を終了させることにより間接的に労働組合の組織の拡大強化を図ろうとするものであるが、他方、労働者には、自らの団結権を行使するため労働組合を選択する自由があり、また、ユニオン・ショップ協定を締結している労働組合の団結権と同様、同協定を締結していない他の労働組合の団結権も等しく尊重されるべきであるから、ユニオン・ショップ協定によって、労働者に対し、解雇の威嚇の下に特定の労働組合への加入を強制することは、それが労働者の組合選択の自由及び他の労働組合の団結権を侵害する場合には許されないというべきである。
2 したがって、ユニオン・ショップ協定のうち、締結組合以外の他の労働組合に加入している者及び締結組合から脱退し又は除名されたが、他の労働組合に加入し又は新たな労働組合を結成した者について使用者の解雇義務を定める部分は、右の観点からして、民法90条の規定によりこれを無効と解すべきである。そうすると、使用者が、ユニオン・ショップ協定に基づき、このような労働者に対してした解雇は、同協定に基づく解雇義務が生じていないのにされたものであるから、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当なものとして是認することはできず、他に解雇の合理性を裏付ける特段の事由がない限り、解雇権の濫用として無効であるといわざるをえない。
労働者の組合選択の自由と他の労働組合の団結権を尊重して、ユニオン・ショップ協定の限界を判示したものといえる。
メールによるご相談は、m-sgo@gaia.eonet.ne.jpまでお気軽にどうぞ(無料)。
これは、三井倉庫港運事件であるが、最高裁(最判H元、12,14)は次のように判示した。
1 ユニオン・ショップ協定は、労働者が労働組合の組合員たる資格を取得せず又はこれを失った場合に、使用者をして当該労働者との雇用関係を終了させることにより間接的に労働組合の組織の拡大強化を図ろうとするものであるが、他方、労働者には、自らの団結権を行使するため労働組合を選択する自由があり、また、ユニオン・ショップ協定を締結している労働組合の団結権と同様、同協定を締結していない他の労働組合の団結権も等しく尊重されるべきであるから、ユニオン・ショップ協定によって、労働者に対し、解雇の威嚇の下に特定の労働組合への加入を強制することは、それが労働者の組合選択の自由及び他の労働組合の団結権を侵害する場合には許されないというべきである。
2 したがって、ユニオン・ショップ協定のうち、締結組合以外の他の労働組合に加入している者及び締結組合から脱退し又は除名されたが、他の労働組合に加入し又は新たな労働組合を結成した者について使用者の解雇義務を定める部分は、右の観点からして、民法90条の規定によりこれを無効と解すべきである。そうすると、使用者が、ユニオン・ショップ協定に基づき、このような労働者に対してした解雇は、同協定に基づく解雇義務が生じていないのにされたものであるから、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当なものとして是認することはできず、他に解雇の合理性を裏付ける特段の事由がない限り、解雇権の濫用として無効であるといわざるをえない。
労働者の組合選択の自由と他の労働組合の団結権を尊重して、ユニオン・ショップ協定の限界を判示したものといえる。
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07年07月04日
外国人実習生で人件費を節減してどうするの
厚生労働省は、3日までに、外国人研修・技能実習制度で実習生を受け入れている事業所に対する監督指導結果をまとめた。
06年に労働基準法や労働安全衛生法などへの違反件数は、前年比約65%増の1209件に上り、実習生が低コストの労働者として酷使されている実態が浮き彫りになった。
06年は、調査件数自体が1633件と80%増加した。これは、申告制度に対する問題意識の高まりで、法違反に関する報告が多かったためと考えられる。また、実習生の数も約4万人と3割近く増えている。
違反内容は、労働協定を結ばずに残業などをさせるケースが573件で1位、次いで、残業代の不払い・減額が499件、賃金不払いが355件と続く。
確か、アメリカの担当者だったと思うけど、日本の外国人研修・実習制度は見直すのではなく、廃止すべきであるという趣旨のことを述べていた。
諸外国に、「研修」「実習」に名を借りた労働力搾取とみられても仕方がないのではないか。
すばらしい伝統と文化を有するわが国で、このようなことが行われていることは、恥ずかしい限りである。
06年に労働基準法や労働安全衛生法などへの違反件数は、前年比約65%増の1209件に上り、実習生が低コストの労働者として酷使されている実態が浮き彫りになった。
06年は、調査件数自体が1633件と80%増加した。これは、申告制度に対する問題意識の高まりで、法違反に関する報告が多かったためと考えられる。また、実習生の数も約4万人と3割近く増えている。
違反内容は、労働協定を結ばずに残業などをさせるケースが573件で1位、次いで、残業代の不払い・減額が499件、賃金不払いが355件と続く。
確か、アメリカの担当者だったと思うけど、日本の外国人研修・実習制度は見直すのではなく、廃止すべきであるという趣旨のことを述べていた。
諸外国に、「研修」「実習」に名を借りた労働力搾取とみられても仕方がないのではないか。
すばらしい伝統と文化を有するわが国で、このようなことが行われていることは、恥ずかしい限りである。
07年07月03日
代替勤務者の確保と時季変更権の適法な行使
事案は、「Xは、テレビ中継回線の運用・保全等を行うYの職員である。昭和53年9月11日、第一整備課に勤務するXは、同月16日(土)につき年次休暇の時季指定をしたが、同課課長は業務に支障が生ずるとして時季変更権を行使した。しかし、Xは当日欠務したため、Yはこれを欠勤として扱い懲戒(戒告)処分に処するとともに、賃金カットを行った。これに対して、Xが右懲戒処分の無効確認、未払い賃金と付加金の支払、ならびに右違法な処分に対する損害賠償を求めたもの」である。 なお、第一整備課の業務運営には最低2名の人員を配置することが必要であり、この2名しか配置されていない土曜日に一般職員が年次休暇を取ったため要員不足を生じたとしても、従前の労使間交渉の経過から、週休予定者に対し勤務割を変更して出勤が命じられることはありえず、当該欠務の補充の責任は全て管理者側にあるという認識が労使間に定着していた。そこで、Yは、こうした場合に備えて、管理者2名を隔週交替で半日勤務させることによって欠務の補充に当てることとしていた。ところが、Xが時季指定をした日は、過激派集団による成田空港開港反対百日闘争の最終日が間近に迫り、無差別的破壊活動が行われる可能性があったため、Yは管理者による特別保守体制を取ることを余儀なくされており、管理者による欠務補充の方法はできない状況にあった。こうした経過から、課長は、右時季指定に対し勤務割を変更して代替勤務者を確保することは考慮しなかった。
これは、電電公社関東電気通信局事件であるが、最高裁(最判H元、7,4)は、次のように判示した。
1 時季変更権行使の要件である「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するか否かの判断において、代替勤務者確保の難易は、その判断の一要素であって、特に、勤務割による勤務体制がとられている事業場の場合には、重要な判断要素であるというべきである。こうした事業場において労働者が時季指定した場合に、「使用者としての通常の配慮をすれば代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能な状況にあると認められるにもかかわらず、使用者がそのための配慮をしなかった結果、代替勤務者が配置されなかったときは、必要配置人員を欠くことをもって事業の正常な運営を妨げる場合に当たるということはできない」と解するのが相当である。
2 使用者としての通常の配慮をすれば、代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能な状況であったか否かについては、(1)当該事業場において、年次休暇の時季指定に伴う勤務割の変更が、どのような方法により、どの程度行われていたか、(2)年次休暇の時季指定に対し使用者が従前どのような対応の仕方をしてきたか、(3)当該労働者の作業の内容、性質、欠務補充要員の作業の繁閑などからみて、他の者による代替勤務が可能であったか、また、(4)当該年次休暇の時季指定が、使用者が代替勤務者を確保しうるだけの時間的余裕のある時期にされたものであるか、更には、(5)当該事業場において週休制がどのように運用されてきたかなどの諸点を考慮して判断されるべきである。「右の諸点に照らし、使用者が通常の配慮をしたとしても代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能な状況になかったと判断しうる場合には、使用者において代替勤務者を確保するための配慮をしたとみうる何らかの具体的行為をしなかったとしても、そのことにより、使用者がした時季変更権の行使が違法となることはない。」
3 本件の事実関係においてこれをみると、Xの時季指定日に休暇を与えると最低配置人員を欠くことになること、一般職員の週休予定日に勤務割変更のうえ出勤が命じられることはおよそありえないとの認識が労使間に定着していたこと、さらには当時は異常事態にあり管理者による欠務補充も困難であったこと、などの諸点から、「使用者としての通常の配慮をしたとしても代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能な状況にはなかった」ものと判断するのが相当である。
このようにして時季変更権の行使を適法としたものであるが、年休時季指定自由の原則からすれば、当時は異常事態にあり管理者による欠務補充が困難であった点が重視されるべきで、極めて例外的なケースと解するべきである。
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これは、電電公社関東電気通信局事件であるが、最高裁(最判H元、7,4)は、次のように判示した。
1 時季変更権行使の要件である「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するか否かの判断において、代替勤務者確保の難易は、その判断の一要素であって、特に、勤務割による勤務体制がとられている事業場の場合には、重要な判断要素であるというべきである。こうした事業場において労働者が時季指定した場合に、「使用者としての通常の配慮をすれば代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能な状況にあると認められるにもかかわらず、使用者がそのための配慮をしなかった結果、代替勤務者が配置されなかったときは、必要配置人員を欠くことをもって事業の正常な運営を妨げる場合に当たるということはできない」と解するのが相当である。
2 使用者としての通常の配慮をすれば、代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能な状況であったか否かについては、(1)当該事業場において、年次休暇の時季指定に伴う勤務割の変更が、どのような方法により、どの程度行われていたか、(2)年次休暇の時季指定に対し使用者が従前どのような対応の仕方をしてきたか、(3)当該労働者の作業の内容、性質、欠務補充要員の作業の繁閑などからみて、他の者による代替勤務が可能であったか、また、(4)当該年次休暇の時季指定が、使用者が代替勤務者を確保しうるだけの時間的余裕のある時期にされたものであるか、更には、(5)当該事業場において週休制がどのように運用されてきたかなどの諸点を考慮して判断されるべきである。「右の諸点に照らし、使用者が通常の配慮をしたとしても代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能な状況になかったと判断しうる場合には、使用者において代替勤務者を確保するための配慮をしたとみうる何らかの具体的行為をしなかったとしても、そのことにより、使用者がした時季変更権の行使が違法となることはない。」
3 本件の事実関係においてこれをみると、Xの時季指定日に休暇を与えると最低配置人員を欠くことになること、一般職員の週休予定日に勤務割変更のうえ出勤が命じられることはおよそありえないとの認識が労使間に定着していたこと、さらには当時は異常事態にあり管理者による欠務補充も困難であったこと、などの諸点から、「使用者としての通常の配慮をしたとしても代替勤務者を確保して勤務割を変更することが客観的に可能な状況にはなかった」ものと判断するのが相当である。
このようにして時季変更権の行使を適法としたものであるが、年休時季指定自由の原則からすれば、当時は異常事態にあり管理者による欠務補充が困難であった点が重視されるべきで、極めて例外的なケースと解するべきである。
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07年07月02日
組合の企業施設利用拒否は不当労働行為か
事案は、「Y会社は、都内大田区池上の本社工場のほか、川崎等に工場を有する従業員約1300人の株式会社であり、電機労連傘下の企業内組合があった。会社は、組合が毎回出す工場食堂使用許可願は拒否していたが、某日組合副執行委員長で川崎工場勤務のAは、社外での電機労連幹事会議に有給休暇をとって出席後、許可なく川崎工場食堂で開催予定の合同集会に出席するため、会社の入構拒否を無視して川崎工場に立ち入った。会社は、Aに対し、川崎工場内従業員食堂における組合集会に参加したことは服務規律違反であるから今後規律を乱すことのないよう警告する旨の文書を交付した。組合が地労委に救済申立。X地労委は、会社の食堂使用拒否を労組法7条3号違反、Aへの警告を同1号・3号違反として救済命令を発した。その取消を求めて会社が行政訴訟を提起したもの」である。
これは、池上通信機事件であるが、最高裁(最判S63,7,19)は、原審の判断を無修正で支持した。原審の判旨は次のとおりである。
1 本来企業施設は企業がその企業目的を達成するためのものであって、労働組合又は組合員であるからといって、使用者の許諾なしに当然に企業施設を利用する権限を有するものではないし、使用者において労働組合又は組合員が組合活動のため企業施設を使用するのを受忍すべき義務を負うというものではないことはいうまでもなく、このことは、当該組合がいわゆる企業内組合であって、労働組合又は組合員において企業施設を組合活動のために使用する必要性がいかに大であっても、いささかも変わるところがない。
2 このように解すべきことは、労働組合法が使用者の労働組合に対する経費援助等を不当労働行為として禁止し、ただ最小限の広さの事務所の供与等を例外的に許容しているに過ぎない(同法7条3号)ところの法の趣旨に適合する当然のことである。労働組合又は組合員による企業施設の利用関係は、この点において、企業が労働安全衛生法70条の規定に基づいて労働者の体育活動、レクリェーションその他の活動のために企業施設の使用を認める場合とは、基本的に性格を異にするものといわなければならない。
3 そして、使用者は、企業目的に適合するように従業員の企業施設の利用を職務規律として確立する一方、企業目的の達成に支障を生じさせ秩序を乱す従業員の企業施設使用行為を禁止又は制限しあるいは違反者を就業規則等違反を理由として懲戒処分に付するなどにより、企業目的にそわない施設使用を企業秩序違背として規制し排除することができるのはいうまでもないところである。
この判例は、会社の施設管理権と企業秩序を重視した判断になっています。
メールによるご相談は、m-sgo@gaia.eonet.ne.jpまでお気軽にどうぞ(無料)。
これは、池上通信機事件であるが、最高裁(最判S63,7,19)は、原審の判断を無修正で支持した。原審の判旨は次のとおりである。
1 本来企業施設は企業がその企業目的を達成するためのものであって、労働組合又は組合員であるからといって、使用者の許諾なしに当然に企業施設を利用する権限を有するものではないし、使用者において労働組合又は組合員が組合活動のため企業施設を使用するのを受忍すべき義務を負うというものではないことはいうまでもなく、このことは、当該組合がいわゆる企業内組合であって、労働組合又は組合員において企業施設を組合活動のために使用する必要性がいかに大であっても、いささかも変わるところがない。
2 このように解すべきことは、労働組合法が使用者の労働組合に対する経費援助等を不当労働行為として禁止し、ただ最小限の広さの事務所の供与等を例外的に許容しているに過ぎない(同法7条3号)ところの法の趣旨に適合する当然のことである。労働組合又は組合員による企業施設の利用関係は、この点において、企業が労働安全衛生法70条の規定に基づいて労働者の体育活動、レクリェーションその他の活動のために企業施設の使用を認める場合とは、基本的に性格を異にするものといわなければならない。
3 そして、使用者は、企業目的に適合するように従業員の企業施設の利用を職務規律として確立する一方、企業目的の達成に支障を生じさせ秩序を乱す従業員の企業施設使用行為を禁止又は制限しあるいは違反者を就業規則等違反を理由として懲戒処分に付するなどにより、企業目的にそわない施設使用を企業秩序違背として規制し排除することができるのはいうまでもないところである。
この判例は、会社の施設管理権と企業秩序を重視した判断になっています。
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